平野啓一郎のレビュー一覧
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第三者の目を通して冷静に描く主人公二人の描写がリアリティーに溢れ、本当に現実の事件として起こっているのではないかと思うほど。
平凡な中学校教師<吉田希美子>は、とあるきっかけで出会い系サイトを介し、一人の男性<方原盈>と出会う。<ミッキー>というニックネームを名乗っている間は、現実の地味な<吉田希美子>とは切り離され、大胆に振舞えた。
インターネット上、特に自分を知るものがいないとき、人は奔放に自分を表現できる。現実社会での「自分」、例えばSNSの中での「自分」。もちろん両者とも「自分」である。
「本当の自分」とは一体何なのか、少し立ち止まって考えてみるいいきっかけになる一作だと思う。
文体は、取り扱うテーマに合わせてか平易で読みやすく、しかしその表現は逐一的確なもので読ませる作品になっている。
平野氏にとっては軽い挑戦だったのではないだろうか。
何かとエロスの部分だけが取り沙汰されているようだが、平野氏の描くエロスはこのように陳腐なものではないと期待して★★★★☆ -
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ネタバレ自分が日頃から疑問に思っていることや、うすうす感じ始めていることが明文化されており、「あ。やっぱりそうか。」と思えた。
(本という媒体がなくならないことに関して)梅田 一覧性とか携帯性とか、やっぱりコンテンツ自身ではなくパッケージ性が重視されているということですよね。
(グーグルはダークサイド的なものを嫌悪しているのに、中国の検閲を受けたり、アメリカ政府の介入を認めていることについて)梅田 情報を広くあまねく皆に利用可能にするというビジョンを、世の中との軋轢を最小化しつつできる限り実現していくという、プラクティカルな考え方だと思います。
(ハッカー・エシックスについて)梅田 プログラマーという新しい職業に携わる人たちが共有する倫理観とでもいうべきものですね。プログラマーとしての創造性に誇りを持ち、好きなことへの没頭を是とし、報酬より賞賛を大切にし、情報の共有をものすごく重要なことと考える、そしてやや反権威的、というような考え方の組み合わせというか、ある種の気概のようなものです。 -
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純文学というのは、とっつきにくくてどうも苦手です。
「清水」「追憶」は、どうしても読めませんでした。
「清水」は、阿部公房のような、いわゆるシュールレアリズムというものでしょうか?
文庫版を電車の中で読んでたら疲れてしまいました。
「追憶」も同じく。実験的すぎて、頭に入ってこなかった。
こういう類の作品は、静かなところで落ち着いて読まなければならないな、と思いました。
「高瀬川」「氷塊」は、見事です。
丁寧な心象描写にぐいぐいと引き込まれていきます。
特に「氷塊」に出てくる少年の思春期らしい、真っ直ぐで繊細な感情は、読んでるこちらにもひしひしと伝わってきて、身を切られる思いでした。
収録4編とも、すべて毛色の違う、盛りだくさんな一冊でした。読み応えは十分あります! -
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「WEB進化論」の梅田さんと75年生まれの作家・平野さんの対談集。ネット世界にどっぷりつかり、自在に泳ぎまくる梅田さんと、そういう世界になんだかんだで懐疑的で否定的な意見を出してくる平野さんが、超平行線上でガチンコ勝負。初めのうちはどちらかと言えば平野さんよりだったけど、後半は梅田さんの意見の方が納得できたかなあ・・・。まあ、どっちも少々極端なんですが(^^;ま、この本の趣旨は『どっちに賛同』というよりは、『じゃあ自分はどう思う?』ってのを考えさせることみたいですが。読んでる間中、「自分の頭を使って考えろ」と繰り返し言われていた気がします。印象的だったのは、平野さんは紙の本がなくなることに危惧してるのに、梅田さんは「なくならない」とほぼ断言しているところ。本の価値は文章そのものではない、という意見にはちょっとびっくり。他にも「地方ほどネット革命の恩恵をうけている」「情報は量をあびると質に転化する」などなるほどなと思う言葉も沢山ありました。納得できる部分もあるし、反論したい部分もあるし、確かにそうだけど心情的に納得したくない部分もあったり。超楽観論とあがき系懐疑の狭間で自分の立ち位置を考えてみる。ネットはリアルを越えるのかな。とゆうかネットとリアルを分ける事自体が前近代的になっていっちゃうのかな。
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ある友人と知り合った頃、死刑制度についての話題がチラッと出た時に自分は何か言えるほど考えたことがないなと思い、本を購入したが積んでいた。死刑制度がテーマの書籍を購入したのは初めてだと思う。
本を読む前の時点で、私はどちらかというと日本の死刑制度存置派の立場を取っている。その理由は自分と同じ社会に生きる人間がやったとは信じられないほど残虐で凶悪な犯罪があったことを知り、その内容の凄惨さに怒りが湧くから。その犯人たちはもう「人間」ではないので人権なんてないし、社会に戻ってほしくないし「人間」として刑務所に入っていることすら生ぬるいと思うから。
犯罪被害者やその遺族でもないのにここまでの怒りを持つ私はどうすれば死刑制度廃止派の意見を飲み込めるだろうと思ったが「「人間の業」とは思えないようなことをしてしまうのが人間です。歴史を見れば、そういう事例は枚挙に暇がありません。人間とは、そういう存在であるにもかかわらず、私たちは「人権」という概念にたどり着いたのです」という文章を読み、拳を下ろすしかなかった。
命を尊重し人を殺さない共同体であるという原則を維持するべきであることや、犯罪者の背景にある生育環境の問題等をフォローできなかった社会の責任ではないかという点は理解できても、この怒りや恐怖の感情はどこにやればいいんだろうと飲み込むのが難しかった。
犯罪被害者のケアについては全く気にしたことがないテーマだったので、新たな視点をもらったように思う。
あと、「死刑制度が存在せず、最高刑が例えば終身刑であれば、必ずしも死刑を望まないという人もいるのでは」という指摘はその通りかもしれないと思った。 -
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盛りだくさんな小説だった。途中から物語として面白くなったけれど、夢中になって読んだ、という感じではない。
主人公の朔也がとても理性的で、こんなに自分の感情や周囲の世界を分析しながら生きている人っているのかな、と少し思った。読んでいるうちに、朔也が考えているというより、朔也を通して作者が世界を分析しているようにも感じた。
私は小説から何かを「教えて」もらいたいわけではないのだと思う。作者が切り取った世界を差し出してくれて、そこに自分で入って、自分なりに何かを発見した気持ちになりたい。
この小説は、世界を見せるだけでなく、その見方や捉え方、さらには示唆までかなり見せてくれる。とてもよく考える人なんだろうなと思うし、興味深い。でも、ときどき「そこから先は自分で考えさせて」とも思った。
『本心』を読んで、自分が小説に何を求めているのかが少しわかった気がした。
【映画鑑賞後・追記】
映画も鑑賞。原作はやや説明的で理屈っぽく、いろいろなテーマを詰め込みすぎていると感じたが、それでも話についてはいけた。一方、映画はその説明を削りながら、人物やエピソードは次々と登場するので、かなり唐突に感じる場面が多かった。特に終盤になってイフィーが登場したときには、「ここからこの話をやるの?」と思ってしまった。原作未読だったら、私はどこまで理解できただろう。
ただ、映画を見て本当によかったと思ったのは池松壮亮。感情を表情や声で「演じて見せる」のではなく、内側で感情が動いた結果として、頬が震えたり、目に涙がたまったり、顔が赤らんだりする。そんな身体の変化そのものが演技になっているように見えた。感情の動きは大きいのに、芝居が決して地面から浮かない。うまい俳優とはこういう人なのか、と改めて思った。
映画そのものにはかなり物足りなさも残ったけれど、池松壮亮の演技を見られたという意味では、見てよかった。