平野啓一郎のレビュー一覧
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京都で崇と会ったあと、良介は猟奇的な殺人事件に巻き込まれてしまいます。さらに警察は、良介とのあいだに心理的な確執のあった崇が犯人ではないかと疑いをいだくことになります。警察の取り調べとマスコミの報道に加えて、家族や親しい人びととの関係が激しく揺さぶられた崇は、理知的な振る舞いによって接点を結んでいた現実との関係にヒビが生まれ、追いつめられます。
その後、友哉が安由実を殺害する事件によって、崇への疑いは晴れますが、事件は「悪魔」による無差別テロへにつながっていくことになります。
上巻とは打って変わってスピーディな物語の展開になり、一気に読んでしまいました。ただ、現代の社会のあり方のほうに焦点が絞られて、上巻で準備されたさまざまな展開の可能性が多少狭められてしまったような印象もあります。とはいえ、これも現実と物語が距離をうしなって接合してしまう問題に、小説のほうからアプローチを仕掛ける試みとして受け取るべきなのかもしれません。 -
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デビュー以来、さまざまな手法で文学の可能性を追求してきた著者が、ミステリふうのストーリー構成によって、「現代社会」と「物語」の関係をテーマにした、長編小説です。
30歳の沢野良介は、妻の佳枝と幼い息子の良太をともなって実家に帰省し、兄の沢野崇と会うことになります。良介は、幼いころから優秀だった兄を尊敬しながらも、同時に複雑な思いをいだいており、そんな心のうちを「すぅのつぶやき」というサイトに書き記していました。ところが、佳枝が偶然そのサイトに気づき、彼の悩みについて崇に相談をもちかけます。その後、サイトに「666」というハンドル・ネームで書き込みがなされるようになり、佳枝はそれが崇の書き込みだと思うようになります。
一方、中学2年生の北崎友哉は、久賀安由実という女子生徒に、ひそかな想いを寄せていました。ところが、安由実が広畑純也という男子生徒と交際し、関係をもったことがうわさになります。友哉のゆがんだ愛は、彼女をネット上でさらし者にし、傷つける方向に突き進んでいきます。ところが、そんな彼の振る舞いが純也に知られることになり、制裁を加えられた友哉は、胸のうちにくすぶる恨みに駆られて、ネット上で知り合った「悪魔」という人物に接触することになります。
崇の衒学的な語りに翻弄されてしまいますが、あるいはこれも今後のストーリー・ラインに絡んでくることになるのでしょうか。そこかしこに、著者が『私とは何か―「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)で語っている思想が認められることもあって、どのようにこれらの道具立てが活用されることになるのか、続きが気になります。 -
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ハッとさせられる言い回しが多い。
特に印象的だった下り。
「現代では、冗談でもなんでもなく、悪は健康の欠如にすぎなくなっている。古の偉大な宗教家が悪の問題のつもりで扱っていた人間が、実は脳に気質的な障害を抱えた病人だったと知ったり、
生育史に重大な問題を抱えた行為障害者だったと知ったら、愕然とするだろうね。篠原も、鳥取の少年も、悪ではけしてない。ただ、健康でなかったというだけだ」
罪と罰はすでに古くなってしまった。
罪は誰のものでもなくなってしまった。そんな時代に生きている。
神は死んだ。
そしてたぶん、罪も殉死したのだろう。
この作品では、連続殺人犯をとおして、倫理というものの限界を突き詰めていた。
わたしの思う、ひとつの完成形がそこにあった。
倫理も、権利も、けして当たり前のものではない。
時代の流れとともに、『裁かれるべき悪人』は『治療すべき病人』になり、
古来、善悪の問題として捉えられていたものは健康の問題となった。
一歩踏み出してしまったか否か、それだけが分かれ道でいいのだろうか。善性の欠如ではなく、健康の欠如として。
行動が、「健康」か「病気」かを決める。
また、犯罪を犯すことでその病気であると認定される精神疾患すらあるという。
「病気だから罪を犯す」なのか、「罪を犯したから病気」なのかーー。
文章がとてもきれいで、様々な問題提起をしている素晴らしい作品です。 -
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今まで自分が考えていたことを正確に言葉で表現してくれていて、すごくスッキリした。
自分の行動は全て自由で自分自身が決断しているのだと思われがちだが、実は周りの価値観や環境によって行動が制限されている事実を認識しておかなければいけない。
この「〇〇しなければいけない」という表現自体も誰にとってどういう結果にとって〇〇しなければいけないのか、定義されていない。
こうやって設定を曖昧にして、自分に関係しているのではないかと思わせることも、人の行動を制限している。
自由と制限は表裏一体で、どちらかが大きくなれば、もう一方は小さくなる。そのバランスを認識しながら自分たちが、世の中がどの方向に進んでいきたいのかを考えることが大切なのだと感じた。 -
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ネタバレ深い心の闇。暗く渦巻く謎。
未成年者の犯罪。ネットを介した脅威。警察の横暴。
現実にありそうな恐怖。
それらを奥深く描いている作品。
犯人は主人公??と思わせるストーリー。ラストは辛いものでした。
難しい会話が続き、主人公・崇の言葉を理解していないところもあると思う。登場人物の心の声が痛い。
犯罪物の声は理解を絶する。殺人に快楽を覚える闇は、常人では理解できないが、そこをえぐるように描いているのが、ますます恐怖というか気味悪い人物像を想像していきました。
ラストは本当に痛い。悲しいとか、簡単な言葉では表現できません。
胸の奥に真っ黒なインクをこぼしたみたい。それが浸透してしまわないように……。そんな作品です。 -
購入済み
大人の恋愛小説
ピースの又吉さんイチオシの小説ということで購入した一冊。
この本のキーワードを自分なりに5つ挙げるとしたら、すれちがい、嫉妬、過去と未来、後悔、葛藤。
イラク情勢やリーマンショックからの経済破綻や大規模災害などの世界的なテーマを絡ませ、その時代的な流れと共に愛し合う二人の主人公の恋愛を描いた作品。専門的な知識がなく難解な部分も多いが人間関係の部分に関しては話が分かりやすいので特に問題なく読めた。
嫉妬により二人の恋愛関係を破滅させる人物、婚約者であった人物の泣きつきなどなかなかワクワクさせる展開も多く、主人公に感情移入できる要素満点な面白い話だった。THE文学といったかんじの文章でそこだけ少しとっかかりづらかった。
もっと色んな小説を読んで読書感を鍛えようと思わせる作品でもありました。 -
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ネタバレ上巻ではややもたついていたストーリー展開が,サンド夫人の娘のソランジュがクレサンジュと結婚するあたりから加速し,ドラクロアが自ら描いたリュクサンブール宮の天井画を観て自ら驚愕するところまで.
徐々に病に冒されていくショパンの影が薄くなってゆき,話の着地点がどこなのかが見えなくなってきた.第2部が楽しみだ.
この小説を読んでいて見事だと思うのは,登場人物が会話を,特に親しい友人と,交わす場面における思考の流れ,飛躍の描写である.
ドラクロアは,例の自由の女神の絵の印象が強いのだが,リュクサンブール宮の天井画はすごく観たくなった.ショパンももっとちゃんと聴いてみようかしらん. -
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平野啓一郎さんが「葬送」後に著した短編集。
当時平野さんは28歳。ご自身の言葉によると
「作家としての挑戦」であり
「男と女の性的な関係に取り組んだ」作品集。
男女の性行為を細かに描いた「高瀬川」
不倫に悩む女性と
実母を求める少年の妄想が交差する「氷解」
の2作のみならず
難解な「清水」と「追憶」にも
確かに、若さが迸るにおいがする。
「高瀬川」には 男女間のズレの
居心地の悪さが見事に描かれている。
セックスという最も密なコミュニケーションを経ても
ラブホテルの作為的で冷笑的な空気がそうさせるのか
二人の距離は濃厚になっていく。
そんな一夜を「ペットボトル」に詰め込み
時間という川に流してしまう男の残酷さ。
「氷解」では 喫茶店のガラスを隔てて
女性と少年が視線を交わす。
その瞬間に勘違いが生まれる。
二人の妄想が膨張し破裂する過程がスリリングだ。
不倫に悩む女性の心情も実にリアルに描かれている。
余談だが、女性が思っているように
「好きと言わないのが不倫」、である。
もしも既婚者が「好き」と言えば
新たな意味と時間が生まれてしまい
同時にそれを収束させる責任も生じる。
既婚者の皆さん、
不用意な発言にはご注意ください。
この作品とは関係ないけど(^.^) -
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短編集だが、色々な手法を凝らしている。
これまでに味わったことのない短編集。
「鏡」「女の部屋」「母と子」は特に驚いた。
文学には程遠い自分が一番気に入ったのが「フェカンにて」
この短編の主役は、平野啓一郎先生ごい本人にとても近い。
私はご本人であろうと思い込んで読んでいた。
先生の作品である「葬送」にも触れられ、
私が先日読んで、どう読むべきか酷く迷っていたドフトエフスキーの
罪と罰にも触れていた。とても興味深い。
当たり前だが、私の軟弱な「あぁ面白かった。」という感想とは
かけ離れている。
読み方のレベルが違いすぎて溜息しか出てこない・・・。
この本を読んで、何故かもう一度平野啓一郎先生の「決壊」を読まなくては!と思った。そろそろ再読してもいい頃なのかもしれない。