森博嗣のレビュー一覧
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「周辺というのは、近くという意味じゃありませんか?」
「地球の周辺にある衛星といえば?」
「月です」
「三十八万キロも離れているのに、周辺じゃないですか。だったら、地球上のどこでもロンドンの周辺になりませんか。嘘ではないでしょう?」
「あの辛い体験を彼女はすっかり忘れることができたって言うだろ」
「それ、忘れてないでしょう? 忘れたなら、辛いなんてわからないじゃん」
「あ、変だな。そうだよなぁ。忘れることができたなんて言うのは、つまり忘れてないからだよな」
「僕、思うんですけど、小説って、読んで何かを得たり、読んで心に残すものなんでしょうか? それって、教科書とか聖書みたいですね。」
『 -
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森さんのシリーズ外の小説です。
タイトルと最初の数ページから受けた印象は、「少年と不思議なおじさんとの出会い、ちょっと不思議な事件、ひと夏の冒険と心温まる思い出」みたいなものだったんですが、読み進めてみると、心温まる話ではなかったです。
子ども目線から見た誘拐事件で、文章からライトな印象を受けてしまうけど、実は全然ライトじゃなかったです。
新太くんはかなりマセガキな感じでしたが、たぶん私も子どもの頃大人に対してこう思ってたことあったなーっていうことも結構ありました。
文章は新太くんの日記ということになってるので、あれ?そういえばあれって結局なんだったんだろう?っていうところもありました。
最 -
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ネタバレこの本とよく似たタイトルで、著者の「常識にとらわれない100の講義」という本があり読みました。タイトル・構成・コンセプトは、全く前回と同じだとバレバレですが、どうしても手に取り読んでしまいます。モノの見方の視点が、一般解とは違っていて面白い。面白いという感覚を持つのは、「私自身もそう考えたりすることがある」が、そこまで堂々と意見を表に出してくれてると嬉しいという感覚かもしれない。だから面白いというより共感なのかもしれない。著者の考え方の中心は「合理性と抽象性」だと思います。一見すると矛盾する2つの考え方ですが、これが両立しているところが不思議な思考の世界を創っているとも思えます。
29番目の講 -
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「札幌かぁ…あそこはもう日本じゃないでしょう?」
「そうでもないと思うよ」
「だって、梅雨もないって言わない?」
「ゴキブリもいないって」
「あとほら、豚骨ラーメンもないらしいよ。早く独立すればいいのにね。沖縄みたいにさ」
「沖縄も日本だよ」
「あほら、一粒でレモン三十個分とかってキャンディあるでしょう?」
「あるかな」
「私、スーパでレモンを見るたびに、これってキャンディの三十分の一か、栄養ないなあって思うもの」
『「面倒だよね。僕が口でプロットを話すから、君が書いたらどうかな」水柿君はこのあと、「君なら、毎日、暇でしょう?」という言葉を呑み込むのである。このようにして毎日呑み込んだ言葉 -
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森博嗣作品をコンプリートしていないと、この本の価値はわからんのだなあ。ここまでのシリーズ、短編を全部読んでいた僕でさえ、森さんの時空のトラップを忘れていた。
刀乃津診療所の怪 は、本当に懐かしかった。Vシリーズと四季シリーズを読み終えて、以前の作品を再読したい、いやしなくてはと思いながらも先へ進んでいたけれど、こんなところで2人に出会えるとは!れんくんとしこさん!
ライ麦畑で増幅して では保呂草さん。うーん、たまらん!
率直な感想が浮かんだ。そう、人ってこんな複層構造で人生を送っているんだよね。
普通の小説なら、そこに出てくる閉じられた人間関係で完結していて、たいした空間の広 -
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気づいたら私の書架は文字通り「森だくさん」になっている。
見えているものに惑わされる…とは、見えてもいないものを見えているように錯覚させられてしまうことだろうか。ならば責任は惑わされる人間の方にある。今回の作品には論理矛盾など起こりそうもないくらい明快な事実だけが並んでいながら、事件に利害関係を持つ一人の人間のわずかな工作で、ほとんどの人間が見えているものの本質を信じようとしなくなり、自分たちが見てもいないものを事実だと信じ込んだ。
理性的な言動とか、理知的な判断などというものは、それを常時可能にする脳細胞が存在していて、その持ち主にしかできないことなのだと知った。
萌絵はおそらく未成熟