柴田元幸のレビュー一覧

  • ガラスの街(新潮文庫)

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    ニューヨークに暮らすダニエル・クインは、かつて探偵小説で名を馳せた作家だった。しかし今では、世間を驚かせるような作品を書く気力もなく、匿名でミステリーを書いて生計を立てている。そんなクインの元にある日、助けを求める電話がかかってくる。「探偵のポール・オースター氏に事件を解決してほしい」という依頼だ。しかし、ポール・オースターなる人物には全く心当たりがない。間違い電話だと思って切ってしまうが、その後も何度も同じ電話がかかってくる。仕方なくクインはポール・オースターという探偵のふりをして、電話の主に会うことにする。

    待ち合わせ場所でクインを迎えたのは、ヴァージニアという女性だった。彼女は依頼人の

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    2024年01月22日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    四半世紀前とはいえ
    様々なルーツ、嗜好、職業や考え方をもつ
    アメリカの、リアルな、普通のひと達の描写がとても魅力的でした。
    名前削除、のバッサリ感や
    オーロラのご主人のイッてる感じにも笑える。
    こういう、笑ってる場合じゃない場面で楽しませるのがエンターテイナーですね。

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    2024年01月20日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    ネタバレ

    ニューヨーク三部作の一作目。
    ポール・オースターに間違われた作家クインが、他人に成り代わり探偵の真似事を始める。
    自分がクインであるという事実が、気が付かないうちに次第に薄れていく。肌身はなさず持っていた赤いノートだけが証拠に。まさか、こんなに儚い話だとは思わなかった。
    オースターの文だから?それとも柴田さんの訳だから?流れるような文体が心地良かった。

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    2024年01月13日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    2つの世界線に生きるオースターさんの邂逅で笑った。ドン・キホーテ自演説を解説し始めた時はなんでわざわざここでそんなことにページ割くんだと思ったけど、最後まで読むとその意味がなんとなくわかった、気がした。
    序盤のピーター・スティルマンの独白がだいぶ狂っていた。

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    2024年09月06日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    あるひとが、そのひと自身であること。
    それは本人がしっかり把握している限り問題にならないのかもしれない。
    が、本人の把握がゆらげば、あっという間に何者かはわからなくなってしまう。
    いや、何当たり前のこと言ってるんだ、と言われそうだが。
    この小説を読むと、このことを考えさせられるのだ。

    主人公のダニエル・クインの視点から語られるこの物語。
    詩人としての活動をやめ、今は探偵小説を書いて、そこそこの評価を得ている。
    ある日、彼のところに、仕事を依頼する間違い電話がかかってくる。
    相手の女性は彼を私立探偵「ポール・オースター」と思っており、義父スティルマンを尾行してほしいと依頼する。
    最初は人違いと

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    2023年12月03日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    ブルックリン・フォーリーズ訳すとニューヨークブルックリンの愚行。オースターの本は始めて読んだ。450頁ほどの本だけど最初本の世界に入っていくのは難儀でした。
    60過ぎて癌を患い、離婚して昔住んだ町ブルックリンでひとり余生を隠居しようとした町での、様々な人たちとの遭遇で色々な経験をしていく主人公を描いている、中高年の本です。

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    2023年10月10日
  • ガリバー旅行記

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    ネタバレ

    期待通りの面白さ!
    旅行記なので物語というより、不思議な国に行った記録のような書き方。当時の習慣や歴史的背景の知識について、ページの端っこに補足があるのがうれしい。それも事細かではなくて、知ってると面白くなる程度の軽い内容で書かれているのでストーリーを読むときの邪魔にはならない。

    当時の常識なので今さら批判しても仕方ないけれど、妻の社会的地位は圧倒的に夫より低かったんだなあと分かる。好きな時にフラッと妻子を置き去りにして数年間旅行にでかけて、帰ってきても再会を喜ぶどころか頭がおかしくなってる旦那を、それでも献身的に出迎えないと生きていけない妻。金持ちの旦那でお金には不自由してないみたいだから

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    2023年09月27日
  • 舞踏会へ向かう三人の農夫 下

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    下巻に入り、読み方をつかんできたこともあってだいぶ物語を楽しめるスキーマが頭の中にできる。
    展開的にも、結末へ向けてぐっと動いていくところなのでどの章にも躍動感が出てくる。
    ただ、それでもやっぱりものすごい読み応え。この物語は、この写真を偶然デトロイトで見かけた「私」、写真の中に写る農夫たち、理系の雑誌編集者であるメイズの視点でそれぞれ語られつつ、彼らの物語が一つの場所で交差し、そしてそのときに解説で論じられるところの「20世紀全体」の輪郭がくっきりと浮かび上がるという形式になっている。
    とりわけ「私」が語る認識論にも似た写真論は、少なくとも私には再読必至。一度読んだだけではその半分も理解でき

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    2023年08月03日
  • 舞踏会へ向かう三人の農夫 上

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    ボストンへ移動する途中、乗り換えのために下車したデトロイトで出会った一枚の写真。そこに写った3人の若者を見たところから始まる壮大な思索。

    なんと言えばいいのだろうか。物語(そもそも物語なのか、これは)に登場する人物を、圧倒的な量の歴史的事実の中に編み込んでいくことで、何が虚で何が実なのかがわからなくなる。
    読むのにかなり苦労はする。箴言のオマージュなども多用されているが、もとを知らないのでなんのことかピンとこなかったり、理解できない部分も多々ある。
    それでも随所に見られる皮肉的な記述が面白く、彼の膨大な知識に溺れながらも読み進めることができる。

    上巻が終わって、ようやく読み方がつかめてきた

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    2023年07月24日
  • 翻訳夜話2 サリンジャー戦記

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    訳本の方はまだ読んでなく、旧約ももう長いこと読んでいなかったが、楽しく読めた。
    解釈の違いで翻訳に色を出したりすることを知らなかったので、村上春樹の考察するキャッチャーの話も楽しめたし、また、村上春樹の小説はほぼ読んだことないので、村上春樹の思考の一端が垣間見えたようで新鮮だった。

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    2023年07月14日
  • ハックルベリー・フィンの冒けん

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    じつに伸びやかな冒険譚なのであるが、「しゅくえん」の話みたいに南北戦争前のアメリカ中西部の厳しさも多々あり、ハックの良心についての悩みも読みごたえがある。

    挿絵がたくさん入っているのも、終盤のともすると蛇足っぽいあたりも、なんだか昔の本という感じがして好き。

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    2023年07月01日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    最初から最後まで現在形でのみ書かれており、主人公であるブルーの心理状態を想像しやすかった。そして内容にのめりこめた。

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    2023年05月14日
  • 雲

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    久しぶりの海外文学。ふらりと訪れた古本屋で「黒曜石雲」という1冊の本に出会う主人公。その本にはかつて数ヶ月だけ暮らしていた村で発生した奇妙な現象が記されていた。「ダンケアン」というその村を思い起こした主人公はこれまでの数奇な人生を振り返っていく。というのがストーリーの基本軸。そこから彼が体験する様々な奇譚を回想とともに読んでいく。これがめちゃくちゃ面白く数ページのエピソードで1つの短編を読んでいるような味わいがある。ラストの不穏な空気も合わさって非常に楽しい読書体験となった。

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    2023年02月24日
  • 舞踏会へ向かう三人の農夫 上

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    現代アメリカ文学の作家、リチャード・パワーズのデビュー作。

    最も信頼できる翻訳家、柴田先生が翻訳を担当され、そして私が近年に最も愛好するSF・ミステリー作家の小川哲が解説を書いているという点で手に取ったのだが、極めて奇妙で構築された現代小説であった。

    この本は表紙にある3人の農夫を写した1枚の写真から始まる。時代は1914年、場所はプロイセン。そう、第一次世界大戦の前夜とも言える時代である。

    ”20世紀の始まりは1914年である”というのは、近現代の歴史研究における一つのテーゼとされている。このたった1枚の写真から、著者の途方もない文学的想像力によって幕を開け放たられた20世紀の物語が描

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    2023年02月18日
  • 舞踏会へ向かう三人の農夫 下

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    現代アメリカ文学の作家、リチャード・パワーズのデビュー作。

    最も信頼できる翻訳家、柴田先生が翻訳を担当され、そして私が近年に最も愛好するSF・ミステリー作家の小川哲が解説を書いているという点で手に取ったのだが、極めて奇妙で構築された現代小説であった。

    この本は表紙にある3人の農夫を写した1枚の写真から始まる。時代は1914年、場所はプロイセン。そう、第一次世界大戦の前夜とも言える時代である。

    ”20世紀の始まりは1914年である”というのは、近現代の歴史研究における一つのテーゼとされている。このたった1枚の写真から、著者の途方もない文学的想像力によって幕を開け放たられた20世紀の物語が描

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    2023年02月18日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    ブルックリンで晩年を過ごそうと引っ越してきた、失意の男性。だけど…?
    ユーモラスに、成り行きが描かれます。

    60歳のネイサンは癌にかかって会社を辞め、妻とは離婚。娘とはうまくいかず、親戚ともほぼ音信不通。
    いくらか思い出があるブルックリンを終の棲家に選び、自分のこれまでの愚行を書き記して過ごそうか、などと考えていました。
    街の古本屋で、甥のトムにばったり再会。これが親族では一番気が合う甥だった。
    トムから繋がってご縁が転がっていき、トムの妹や娘や母、古本屋の主人など、思わぬ出会いと楽しみが増えていくのです。
    やや上手く行き過ぎ?だったり、中年?男の身勝手さが垣間見えたり、というところも、ユー

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    2024年01月22日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    思っていたよりずっと面白かった。
    もちろん例外はあるにせよ、私は「いろいろなことが起こりすぎる小説」があまり好きではないが、この小説は色々なことが起こりすぎるにも関わらず好きだと思った。
    多分徐々に狂気の方向に傾いていく描写が良かったのと、自分という存在がリアルでなくなっていくことへの内省の描写がよかったからだとおもう。
    クンデラの存在の耐えられない軽さっぽい雰囲気を感じる箇所もあった。
    あと柴田元幸、大変訳がうまい気がする。
    ピーター・スティルマンのおかしな独白など、大変面白く読んだ。

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    2023年01月22日
  • 写字室の旅/闇の中の男(新潮文庫)

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    写字室の旅。
    そんなにおもしろいとは思えなかった。いろんなふうに考えられる、奇妙な話で、評価しづらい。

    闇の中の男。
    こちらは割とよかった。映画のようだ。
    小津安二郎の東京物語を絶賛する数ページがあり、小説としてのおもしろさとは別かもしれないが、非常に興味深かった。ポール・オースター本人が言ってるように思えたから。

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    2023年01月17日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    魅力的でカラフルな人物たちが登場する。語り手がいるが、群像劇と言ってしまってもいいかもしれない。
    特に楽しみもなく暇をつぶしながら老後を過ごすつもりだった高齢男性が、甥に久しぶりに再開したことをきっかけに突如人間関係が広がり、さまざまな事件が起こり、考え方がポジティブに切り替わっていく。まあ、楽しみながら読める。
    フォリーズ(Follies)とは「愚行」という意味で、たしかに登場人物は愚かなことばかりしているように見えるが、愚かな行為は悪いことというわけではないよね。
    多様性に肯定的だが、唯一カルト宗教に関しては強い否定的な書き方をしている。

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    2022年12月19日
  • 翻訳夜話2 サリンジャー戦記

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    キャッチャーに惹かれる理由がなんとなくわかる対話だった。結局のところ、寂しさとか孤独があるから共感できるんだろうし、あれほどタラタラ文句言う本もそうそうない気がするから言いたいこと言ってくれたみたいな感じがあってスッキリするのかもしれない。

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    2022年11月23日