柴田元幸のレビュー一覧
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【写字室の旅】
オチがよかった。あと数ページだけどどうやって物語が終わるんだろうって思ってたところでのそういうことか、と分かった時は快感だった。
オースターが今まで書いてきた作品の登場人物たちが沢山出てきて、それぞれの作品を思い出しながら楽しく読めた。オースターはそんなつもりで書いてないかもしれないけど、ファンからしたら最早ファンサービスだと思う。
物語の登場人物が自我を持ったらという題材は色んなところで見るけど、物語を世に生み出すことの責任や畏怖のようなものを感じた。
【闇の中の男】
前半の写字室の旅と同じく物語を作ることについてのお話。
こちらは前半とは違い、作り出された物語の中の人物の方に感情移入して読んでいたから、その物語の終わり方には驚いた。
前半で物語を生み出すことの恐ろしさや責任を感じた後にこの作品を読むことになるので、それでも結局物語は物語で、どんな結末になろうとも現実世界での生活は続くし、そこにフィクションの人物は介入できない虚しさみたいなものを感じた。
もしも写字室の旅と闇の中の男の掲載順が逆だったら全然違う読書体験になったと思う。
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Posted by ブクログ
アメリカの近代作家オースターのニューヨーク三部作、鍵のかかった部屋と幽霊たち、とで3冊。
話的には繋がってはいないけれど、3冊に共通するのは、ニューヨークという現実の世界の中で感じる非現実感。読み進むと、幻想的な迷路にはまってしまったような感覚に陥ります。
どの話も推理小説のようであって推理小説ではありません。主人公は、誰かを探す、観察する、探偵、という体裁をとりながら、ひたすらある人を追ってニューヨークブルックリンの街を徘徊します。
相手を知ろうとすればするほど他人とは何かと考え始め、他者の不確かさが深まり、延いては自分と他者との境界はあるのか、自分とは何か、となります。
結論もなければ謎の解明もありませんが、3冊を通して読んだ時に、3冊の中に隠れた言葉の巧みな関連性、積みあがった言葉が消えていく感覚、最終的に自分と他者の境界が消失する、という不思議な感覚を体験することができます。
とても不思議な世界観。 -
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どこかでグッと掴まれるとか、起承転結がバッチリあるとか、あんまりそういう感じじゃないんだけど(ずっとちょっと変で悲しい話)、なーんか飽きずに楽しく読めて不思議。
MSフォッグ(と彼女のキティ)、フォッグとエフィング(目の見えない偏屈なじいさん)、エフィングの過去、フォッグとバーバー、バーバーの本の内容、みたいにそれぞれまあまあちゃんとした(どちらかというと重くて悲しい)話がたくさん出てきた。
でもなんからみんな好き。
特に最初のフォッグの、お金無いのにその中で謎にやりくりしようと頑張るところがなんか好き。叔父さんの残した本を読みまくって、売って、何もなくなったら公園で生きて…私も助けに行く親友とキティに加わりたかったな笑
人生の偶然性には本当にびっくりするよな!! -
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学ぶことがとても多い読書であった。
ページが進むにつれて、悲しい出来事が起きていき、読んでいるとこちらまで鬱っぽくなる時があった。けれども必ず章の最後の方に。人生において糧となり指標となってくれるような言葉が綴られていて。それを見つけるために頑張って読んでいた気がする。
神は果たしてどのような意図で肩をすくめたのか?
自らのちょっとした、あちゃーやってもた、ごめん!というべき策士的失敗にか。それとも、良きことを重ねていれば必ず神は報いてくれる、という人間の思い込みにか。そもそも神はいるのか?
でも
神はいないかもだが、生は必ずそこにある。死もまた確実にそこにあり、生と死は一体である。
自ら選んだ道があるのと同時に、選ばなかった道もまた同時期にそこにある。
そして、この本のカラクリが素晴らしい!
最初の方に分かるカラクリ、最後の最後で分かるカラクリ。本当にオースターの言う通り、これやった人いなかったよなぁ
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作品紹介・あらすじ
「俱楽部を作るんだよ。レコードをじっくり、
綿密に聴くことだけを目的にした俱楽部を。
いわば鑑識的に、いっさいの邪魔を排して聴くんだ」
月曜の夜、パブの小部屋に3枚のレコード盤を持ち寄り、厳格なルールのもとにただ黙って聴く──ストイックな倶楽部は順調に育っていくかに見えたが、やがてライバルが出現し、分裂の危機に揺さぶられる……トマス・ピンチョンがデビュー作を賞賛、イギリスならではの乾いたユーモアの名手が送る現代社会の寓話。
作中には60年代以降のロック、ポップスのタイトルが無数に登場するが、ミュージシャンやバンド名はいっさいナシ。そんな意地の悪い小説だが、作者本人が“The Official Forensic Records Society Playlist by Magnus Mills”と題したプレイリストをSpotifyで公開中!
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パブの奥にある部屋で、各自が持ち寄ったレコード(シングルに限る)をコメントも感想も一切なしにただただ聴く。何か感想を言ったり、蘊蓄を垂れたり、ワイワイガヤガヤと曲について語り合うことは一切禁じられている。これが本書の舞台になっている鑑識レコード倶楽部のルール。持ち寄られるレコードはロック関係が多く、本書の語り手は1枚のレコードを選ぶのにかなり逡巡する。それだけ真剣な倶楽部なのだけれど、このルールに息苦しさを感じ、反旗を翻そうとするメンバーも出現。また対抗するような倶楽部(これが新興宗教みたいになっていく)も登場。といった展開が描かれている。
レコードに関する小説、ということで、僕は音楽、特にロックをベースに話が進むのかと思っていたのだけれど、そうではなかった。もちろん、小説内には様々な楽曲が登場するが、歌詞の内容は記されているけれど、それが誰の何という曲なのか、という表記はほとんどなし。あとがきで柴田元幸さん調べによるリストがあるので、それを参考にすれば判明はするのだけれど。ちなみに僕は上の「作品紹介・あらすじ」で紹介されているSpotifyのプレイリストを聴きながら読み進めていった。ちなみにSpotifyのプレイリストには再生不可な楽曲を含めて148曲が登録されている。
音楽、特にロックに関する小説かと思って買ったのに、そうではなかったので、では面白くなかったのか、というとこれがとても面白かった。章立ても登場人物の詳細な描写も、気の利いた比喩もまったくなし。レコードを聴いて、独裁的なリーダーに反発し、語り手に反抗的な女性バーメイドがいて、敵対する倶楽部が登場し、それでも最後は落ち着くところに落ち着く、そんな感じ。シンプルに物事が語られ、語り手の心情の変化や苦悩、葛藤なども冷めた調子で表現されている。それなのに、どうしてこんなに面白いのだろう、と疑問に思うくらいに面白く読み進められた。
最後に。もし僕がこの「鑑識レコード倶楽部」に参加しませんか、と誘われたら、「月に1回なら」と答えると思う。月に1回くらいなら、ものすごく真剣に、それこそ1枚のレコードを選ぶのに大変な思いをしてもいいかな、と思う。でもやはりレコード(音楽)は肩ひじ張らずに気軽に聴きたいし、その曲に対してああだ、こうだと蘊蓄や感想を語り合いたいと思う。 -
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芥川龍之介が選んだ英米怪異・幻想文学のアンソロジー。芥川龍之介が英文学者を志していたとは知らなかった。収録作品はオスカー・ワイルドやエドガー・アラン・ポーなど有名作家もいるが、知らない作家も多いので簡単なプロフィール紹介があるのが嬉しい。
好きな作品:
・月明かりの道(アンブローズ・ビアス):「藪の中」に影響を与えた作品。事件関係者たちの告白で構成されている。
・A・V・レイダー(マックス・ビアボーム):英国紳士二人の話。オチが意外だった。
・大都会で(ベンジャミン・ローゼンブラッド):わずか4ページの作品だけど、大都会の冷たさと人間心理の醜さにゾッとした。
・ささやかな忠義の行い(アクメッド・アブダラー):殺人から始まる犯罪小説。ブラックな味。 -
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不格好で、不器用にもがく滑稽な姿。
主人公の青年期が見事に描かれています。
「ムーン・パレス」 ポール・オースター著
若い頃、何冊も同じ著者の本を読んだのですが強く印象に残ったのはこちらの一冊でした。
今年に入ってニュースで著者の訃報を受けました。その夜から3日間でこの小説を再読しました。
物語の前半は、主人公がとにかく極限状態に落ちていく様子、
後半はそこから回復して、自分のルーツを探すという設定です。
後半からの話はちょっと奇想天外で、ここが面白い!という方々が多々ですね。
私は、主人公マーコがどんどん落ちて彷徨うところが、この作品の一番の魅力だと思っています。
この主人公の精神状態がそのまま、つたないのに心を打つ、青春時代に重なるように思えて。
前半の主人公は、とにかく不様に、貧困状態に落ちていきます。
ただただ流されて落ちていくマーコに
何をしてるの!とハラハラしながら突っ込みをいれるんですけど、けれどその心理描写が、著者の語り口があまりにも素晴らしくて、ああ、わかると共感さえしてしまうほど。
「青春」って、青い春って表記するんですね。
長い冬を終え、草木が芽生える希望に満ちた季節でありながら、夜は暗く、寒い。
若さの持つ、無茶ぶり、ひたむきさ、希望に幻想、混沌、いろんなことが胸を打ちます。
ニューヨークのどこか都会的な軽さと洒落た雰囲気の感じられる文体もよいですよ。