柴田元幸のレビュー一覧

  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    喪失から始まり喪失で終わった。人生は喪失の連続だ。同じ場所に留まり続けることはできないし、自分の意思とは関係なく街の風景は変わっていく。歳をとるにつれてどんどん話のできる人は死んでいく。このような喪失とどのように向き合って生きていけばいいのだろうか。自分だったらどうなってしまうのだろうと考えながら読んでいた。

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    2025年06月12日
  • 4 3 2 1

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    1960年代を中心としたアメリカ、激動の時代のクロニクル。パワフルかつ繊細。変奏曲のように同じ主題が違う展開を生み出す。これまで自分が教科書やニュース、別の作品で見聞きした歴史的事件が現れて登場人物がどのように関わっていくのかを辿るのも一興。最後に一定の種明かしがあるのが優しみ。作品の長さは読書の楽しみの長さ。

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    2025年05月31日
  • 芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚

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    芥川龍之介が、当時の「現代」英米文学を選んでまとめ、旧制高校で英語の副読本として使われるよう編纂したアンソロジー

    あの芥川が選んだ小説・エッセイたちということで、少々ダークな雰囲気が漂いつつも、ユーモア・諧謔・寓意が随所に散りばめられた質の高い短編集になっている

    彼の作品のモデルになったと思われるような作品も収録されていたりと、芥川ファンが読んでも楽しめるものだと思う
    何せ、各作品の扉裏に芥川研究者で本書の編者でもある澤西佑典氏の解説が附されているため、それぞれを芥川の感想と一緒に読めたり、文学史の一時点に位置づけながら読めるというのが良かった

    日本でも知られる著名な作家と同時期に生きて

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    2025年05月16日
  • 4 3 2 1

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    買ってから5ヶ月寝かせていたけれどもGWに意を決して読み始め、2週間かけて読み終わりました。

    とにかくすごい作品としか言いようがない(語彙力)。
    今になってポール・オースターで好きな作品ベスト3に入るものを読むことになるとは思わなかった。

    解説や帯にも書かれているけれども文字どおりオースター文学の集大成でした。

    オースターが生まれた1947年から1970年代にかけてのNYにおける野球チーム、バスケットボール、ベトナム戦争と反戦運動、公民権運動、文学や音楽、大学生と学生運動、アメリカ政治などオースターが何度も題材にしてきたテーマや、人にはコントロールできない

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    2025年05月15日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    ネタバレ

    熟年離婚の後に死に場所を探してブルックリンへと帰ってきた老人が甥のトムとの再会を機に、冒険に詐欺に逃避行の手助けと家族を取り巻く人生最後のドタバタ騒ぎに巻き込まれる物語。オースターの作品の中で恐らく最も読みやすいコメディタッチのストーリーであり、相変わらずその「語り」の巧さに敬服してしまう。

    登場人物に対しての作者の「まなざし」に非常に温かみがあり、たとえば主人公のネイサンは切れ者で老人特有の知恵と落ち着きがあるが、行きつけのダイナーにいる女性店員にデレデレしたりと、いくつになっても男であることの愚かさが描かれているわけだが、それが決して否定的でなく、至ってフラットに描かれている。さりとて肯

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    2025年05月15日
  • トム・ソーヤーの冒険

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    ハンカチを持ってる奴は気に食わないとか、気になる子が近くにいると大きな声でアピールしてしまうとか、国も時代も違うのに共感できるのが名作たる所以なのかな。所々で懐かしい匂いがして、子ども向けの内容でありつつも、大人の私も楽しく読めた。ハックルベリィフィンのほうはもっとメッセージ性があるようなので、そちらもぜひ読みたい。

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    2025年05月10日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    ある日、ミステリ作家のクインのもとに間違い電話がかかってきた。電話の向こうの人が発した第一声は、「ポール・オースターですか?」。私立探偵のポール・オースターとやらをクインは知らなかったが、常々ミステリを執筆するとき探偵になってみたかったため、その私立探偵のふりをすることにした。そこから不思議な依頼をうけ、歯車が狂い出してゆく。みなさんも知っている通り、ポール・オースターはこの本の作者の名前でもある。私好みのメタ・フィクションの香りがするぞ……。ページをめくる手が止まらず、秀逸な展開に唸った。

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    2025年05月04日
  • 4 3 2 1

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    一ヶ月半をかけてようやく読み切りました!
    ネタバレになってしまうため内容はあまり詳しく言えませんが、一章の途中から違和感を覚え、二章を読み始めると「これってまさか...」と慄き、さらに読み進めて、この本の構造そのものに気づいたとき「とんでもない本に手を出してしまった...」とかなり驚愕しました。
    しかしこの構造自体が今まで人生の可能性について、あり得たかもしれない出来事や人にはコントロールしようのない偶然を何度も題材にしてきたポール・オースターならではであると思いました。まさしく集大成の作品です。

    一滴の水滴が水面に落ちて波紋がゆっくり広がっていくように、少年の頃のある人との出会いが考えの礎

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    2025年03月28日
  • ガリバー旅行記

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    今ではガリバー旅行記といえば「ラピュタ」、次に「ヤフー」だが、以前はガリバー旅行記といえば小人の国リリパットだった。読み返してみても、最初のエピソードであるリリパットが面白いので、ぐいぐい引き寄せられる感がある。設定の突拍子のなさに加えて、お下品描写も厭わずなノリの良さで飽きがこない。

    興味深いのは、形式上は報告書という建前になっているからか、直接話法の言い回しがほぼ見当たらないことだ。これはどういうことだろう。異国の人々との風変わりな会話を活写することは敢えて避けたのだろうか。

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    2025年03月25日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    ネタバレ

    ポストモダニズムがどうとか、巻末にあった文章のようなことは難しくてわからない。作家たちの歴史を学ぶ必要がある。
    ただ単純に、読んで、構造的な面白さが印象深かった。前衛アートのように構造を楽しむものなのかな、と思った。
    主人公たる探偵ブルーは、ホワイトに「ブラックという男を監視してほしい」と依頼される。しかしブラックは日がな一日机に向かっていて、外出は散歩程度のものだ。依頼の意図も知らないブルーは焦れて、飽き、やがてホワイトとブラックについて物語を妄想したり、自己について深く考え込んだりする。ついにブラックと接触したブルーは、ブラックもまた誰かを監視するよう依頼された探偵だと知る。

    監視する者

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    2025年02月01日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    鍵はウォールデンである。
    ある男を監視する主人公は、男の買ったソローの森の生活を読もうとして挫折する。
    ゆっくりと読む、それが主人公の陥った袋小路を打開する唯一の手段。
    しかし、その機会を失った事で、停滞していた監視は、主人公を傍観者の立ち位置から巻き込む形で、監視される男へと、一種、予定調和の様に集約していく。
    ゆっくり読むべきは、我々読者だったのか?
    この転換は、小説の丁度ど真ん中でピッタリと折り返す様に起き、計算された構成を味わえます。

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    2025年01月22日
  • インヴィジブル

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    2009年刊行の当作品、表題の示す通り、まさに不可視~Invisibule!!

    作品中の部分が実は手記の引用であったり、ある箇所が本人が他者の語りを組み立てなおしたものであったり。。。真相を掴もうとするほどに、霧が濃くなっていく。
    1960年代後半のコロンビア大学  2人の男が出会った。とある出来事から繰り広げられていく情景がずんずん不可視的 invisibule 化していく。
    流れに戸惑い、流され、宙に放り出されて迷子になって行くのは私だけじゃないだろう。

    文学志望の美青年 アダムは暴力と禁断の愛の時間を経て 仏へ、カリブの島へと各地へ流れていく。
    その時間は春夏秋と手記の形でつdられて

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    2025年01月14日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    ネタバレ

    物語の中に著者が出てくるメタ要素がある中で、同じくメタ要素のあるドン=キホーテをとりあげるというユーモアさもありつつ、妻と息子を失った主人公の虚無感ゆえの自己の抽象化と、そこから起こる探偵物語のような展開に惹き込まれる。

    どうなっていくんだろうと没入するほど、奇妙に歪められた世界を見ることになった。
    結論から言うと解決はされていない。
    俎上に載せられた問題は何もわからないまま、物語の幕は閉じる。
    真実の物語なのだから、常に答えが用意されているとは限らないよね、という感じなのか。
    それでも、面白い。

    個人的な読字体験として、プルーストとイカ〜読字は脳をどのように変えるか〜を併読していて、文字

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    2024年12月15日
  • 4 3 2 1

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    ネタバレ

    やー、面白かったなー!!分厚くしかも二段組で、嬉しくこの世界に浸った。

    注:何をどう書こうが読み進む面白さを削いでしまってはいけないので、未読の方はここから先を読まないでください。


    最初の1.1、1.2で、むむむ?と思いながら読んでいたのが、1.3あたりから、もしかしてこれってそういうこと?!と急に霧が晴れてきて、すごい構成だなーとぐいぐい来た。どういうことかは読んで知るのが吉。ラストも素晴らしい。余談ですが、そういえばポール・オースターはコロンビア大学なんだね。まさに『いちご白書』の渦中の人だったんだ?

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    2024年12月15日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    探偵小説のようでそうでもない
    ひとりの男の「間違い電話から始まった」
    物語
    「ニューヨークは尽きることのない空間、無限の歩みから成る一個の迷路」
    やっぱり気になる
    読み終えたあともっと
    気になる
    ゼロは始まりか否か

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    2024年12月08日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    奇妙な依頼を受ける私立探偵
    ただ、見張り続けるだけ
    何かおこるわけでもなく
    次第におかしな思考になり
    おかしな行動をとる
    いったいなんなの!
    と、読む側もおかしくなる
    が、なんだか気になって気になって
    一気に読まずにはいられない
    読みおわっても
    気になって仕方がない

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    2024年12月07日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    柴田元幸さんを知ってから
    ポール.オースターを知りました
    そしてやっとこの有名な作品を読むことができました
    なんともせつない青春小説
    月が常にそばにいて
    絶望と、偶然と、運命と、に振り回される
    「太陽は過去であり、地球は現在であり、月は未来である」ムーンパレスで出会ったこの言葉が
    自らの家系を知り、未来を暗示していく

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    2024年12月07日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    10年ぶりくらいに再読。フォッグがユタ州の荒野をもっとずっと彷徨ってるイメージだったけど、実際には数ページだった。
    世界との繋がりが完全に絶たれたと思っても、意外なところに繋がりは残っている。世界は偶然が支配している。終わったと思ったところから始まる。どんな絶望的な状況でも、世界は自分と関係なしに回り続ける。
    「僕はただ歩きつづければよいのだ。歩きつづけることによって、僕自身をあとに残してきたことを知り、もはや自分がかつての自分でないことを知るのだ。」

    キティが魅力的すぎる。

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    2024年12月03日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    ネタバレ

    最高。これがロマンチック。

    ムーンパレスという名前のままに、何度も月に関するものが出てくる。叔父さんが「金がないからこれ以外送れないんだよ」と送ってくれた1000弱の本とそれを包むダンボールを家具にするという発想。叔父さんが亡くなりそのダンボールを本を読み売ることで悲しみと同時に消費し、叔父さんの本来の「役に立てる」を実行する。売る本もなくなってからは路上生活をするようになりその中でキティと出会い親友とキティに救われる。

    次に盲目で車椅子に乗った気の狂った振りをする変わり者のおじいさんエフィングのところで働くことになる。エフィングが急に死を悟り、エフィングの隠された壮絶な物語が開けて行く。

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    2024年11月23日
  • ユリイカ 2015年3月臨時増刊号 総特集 150年目の『不思議の国のアリス』

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    理想化された「少女」としてのアリス。
    ロリータ・ファッションなど、少女主体のガーリー・カルチャーにも派生。

    ディズニーアニメ、実写映画、演劇など、さまざまな翻案(アダプテーション)にも言及。

    英国文学、児童文学、言葉遊び、ナンセンス、数学者で論理学者のドジソン教授、当時の写真技術、鉛中毒の帽子屋……などなど、様々な角度から論じられる「アリス」の魅力について。

    表紙イラストはヒグチユウコ。

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    2024年11月02日