あらすじ
芥川が選んだ「新らしい英米の文芸」は,まさに当時の「世界文学」最前線であった.旧制高校の英語副読本として編まれたアンソロジー八巻より,二二の短篇・エッセイを精選.ポーやビアス,スティーヴンソンから初邦訳の作家まで,芥川自身の作品にもつながる〈怪異・幻想〉の世界を,豪華訳者陣による翻訳で堪能する.
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
大正13~14年にかけて芥川龍之介が編んだ、
旧制高校の英語の副読本全8巻51篇は、
当時の現代文学が選ばれていた。
その作品の中から怪異・幻想譚22篇を抽出し、
豪華な訳者陣によって翻訳されたアンソロジー。
・はじめに――柴田元幸
I The Modern Series of English Literatureより
II 芥川龍之介作品より
・おわりに――澤西祐典
附 芥川龍之介による全巻の序文と収録作品一覧
22の作品は怪異と幻想小説の他、エッセイ、民話、
童話調、戯曲、リアリズム作風も選ばれている。
ヴィクトリア朝時代の名残りに世紀末の頽廃、
アイルランド文芸復興運動、第一次世界大戦の影響、
ロマン・ロワールのの先駆など。そしてそれらは、
当時の短編小説の名手たちによる作品群。
オスカー・ワイルド、ダンセイニ卿、E・A・ポー、
R・L・スティーブンソン、アンブローズ・ビアス、
M・R・ジェイムズ、サミュエル・バトラー、H・G・ウェルズ、
アルジャーノン・ブラックウッド、W・B・イェーツなどの
著名作家に日本では無名の作家たち。既読もあるが、
多くは初邦訳という瑞々しさと芥川の怪奇趣味が窺える。
また、芥川の作品への影響を与えたものもある。
特に気に入ったのは、
ブランダー・マシューズ「張りあう幽霊」
H・G・ウェルズ「林檎」
アルジャーノン・ブラックウッド「スランバブル嬢と閉所恐怖症」
ステイシー・オーモニエ「ウィチ通りはどこにあった」
そして芥川翻訳のW・B・イェーツ「春の心臓」
芥川作品の「馬の脚」
芥川の英米文学への深い読解力を計り知り得る作品群が
大いに愉しめて、満足です。
出来れば全8巻を和訳して欲しいです。
キプリング、ギッシング、ハーディ、バーナード・ショー、
チェスタートン、O・ヘンリー、E・F・ベンソンなどの
作品も読んでみたいです。
Posted by ブクログ
芥川龍之介が1924~25年(大正13~14年)にかけて旧制高校生の英語学習用に編集した英米文学のアンソロジー
"The Modern Series of English Literature" 全8巻51編から22編を精選して、澤西祐典氏と柴田元幸氏他10名が日本語訳をした。
まず芥川にこういう「学習教材」のような作品があるということを知らなかった。古今東西の文学に精通している芥川のセレクションであるから、間違いはない。
また、それらを精鋭の翻訳者による現代の日本語で読めることが素晴らしいではないか。2018年に単行本が出ていた(不覚にもチェックしていなかった!)が、今回の文庫化は大変うれしい。
いまから100年ほど前の英米モダン文学アンソロジーであるが、芥川の好みが色濃く反映していて、まずは日本語のタイトルからわかるように怪奇・幻想を扱った作品が多い。ポーやビアス、ワイルド、ウェルズなど絶対に外せない大御所が入っているのはもちろん、ステイシー・オーモニエやアクメッド・アブダラーなど(自分は)聞いたこともない作家の名作も選ばれている。
以下いくつか印象に残った作品についての感想と引用。
ポーの「天邪鬼」は先送りと遅延の不幸についてのエッセイだ。時間に支配された近代人のこうした「不幸」は、20世紀のカフカのテーマにもつながっている。
ブランダー・マシューズの「張り合う幽霊」は、幽霊譚ではありながら、読者を怖がらせるのではなく楽しませる趣のユーモア小説。ここで結末を言ったらネタバレになってしまうので言わないが、笑ってしまうこと間違いなしである。
セント・ジョン・G・アーヴィンの「劇評家たち」は短い風刺劇であるが、当時の劇評家たちをうまく皮肉っていて痛快である。
サミュエル・バトラー「機械時代のダーウィン」は、現代に直接通じる真理を突いている。「時代が下るにつれ、人類は自らが機械よりも劣等の種となったことを覚るでありましょう。力で劣り、みずからをみずからで律するという倫理的特質においても劣る人類は、誰よりも善にして賢なる人といえどもおよそ及びもつかぬ宝鑑として機械を敬し奉ることになるでしょう。有害な激情も、嫉妬も、強欲も、はたまた不純な欲望も、光輝に満ちたこれらの生き物の穏当なる力を妨げることはありません。機械は罪や恥や悲しみとも無縁です。その精神は永遠の平静を保ち、欲を知らぬ魂の充足に守られているがゆえに、後悔にかき乱されることがないのであります。野心に苦しめられることもない。他者から感謝されずとも、一瞬たりとて不安になりはしない。良心の呵責、いつまでもかなわぬ希望、疎外の苦痛、統治者の傲慢、名もなき人々の忍耐の徳に報いない世間の冷たさ――そうしたものは、機械たちにはまったく知られぬままでありましょう。」(pp.224~225) 上の引用内の「機械」を「AI」という言葉に置き換えてみるなら、バトラーの言説がそのまま現代にも通用することがわかる。
アルジャーノン・ブラックウッドは、アーサー・マッケン、M・R・ジェイムズと並んでイギリス怪奇小説の三大巨匠と言われる大家だが、ここに収められた「スランバブル嬢と閉所恐怖症」もまた現代の神経症を予告するような作品である。スランバブルという、一年に一度の旅行をこの上ない楽しみとしている初老の独身者が出くわした災難。恐怖小説を読む愉しみを存分に引き出してくれる。
オーモニエの「ウィチ通りはどこにあった?」は、怪異・幻想とはちょっと違うユーモア小説(人間の思い込みという「幻想」を描いたともいえるが)。これもまた現代の「分断社会」に対する風刺になりえる。
ドロシー・イーストン「刈取り機」も怪異・幻想譚というよりはプロレタリア文学に近いものではないだろうか。芥川の現役時代の日本でも勢力を増していた労働者の文学だ。
アクメッド・アブダラーの「ささやかな忠義の行い」は、このアンソロジーの中でも一二を争って惹き込まれた作品。作者は経歴不詳のアフガニスタン生まれのアメリカ作家らしいが、中国系移民のノワールな世界を描いて迫真的である。これも怪異・幻想というよりは「リアリズム」だろう。
最後に特別編的に付け加えられた芥川作品の「馬の脚」も面白かった。
芥川ファンにも、怪奇幻想小説好きにも、また英米の小説愛好家にも、願ってもないinterestingかつexcitingなアンソロジーが(再)登場した!
Posted by ブクログ
芥川龍之介が、当時の「現代」英米文学を選んでまとめ、旧制高校で英語の副読本として使われるよう編纂したアンソロジー
あの芥川が選んだ小説・エッセイたちということで、少々ダークな雰囲気が漂いつつも、ユーモア・諧謔・寓意が随所に散りばめられた質の高い短編集になっている
彼の作品のモデルになったと思われるような作品も収録されていたりと、芥川ファンが読んでも楽しめるものだと思う
何せ、各作品の扉裏に芥川研究者で本書の編者でもある澤西佑典氏の解説が附されているため、それぞれを芥川の感想と一緒に読めたり、文学史の一時点に位置づけながら読めるというのが良かった
日本でも知られる著名な作家と同時期に生きていた芥川ならではの読み方を知れたり、当時の文学の流行りを知ることが出来たのも面白かった
全篇通して高品質を保ちつつ芥川個人とも絡めて読むことが出来たから、非常に満足度高かった
「英米の文芸の大通りをちょっと振り返って見ることは同時に又世紀末の風に吹かれた世界の文芸の大通りを髣髴することになるかも知れない。」
好きだったやつ
・追い剥ぎ/ダンセイニ卿
・天邪鬼/エドガー・アラン・ポー
・マークハイム/R・L・スティーヴンソン
・月明かりの道/アンブローズ・ビアス
・張り合う幽霊/ブランダー・マシューズ
・A・V・レイダー/マックス・ビアボーム
・白大隊/フランシス・ギルクリスト・ウッド
・残り一周/E・M・グッドマン
・特別人員/ハリソン・ローズ
・ささやかな忠義の行い/アクメッド・アブダラー
Posted by ブクログ
少し前にTwitterで見た、巨人殺しの主人公が小屋を訪ねるとめちゃくちゃデカいババアがいて「今度はおまえの番だ」と棘が生えたグローブをつけて殴りかかってくる話が『ショーニーン』(レディ・グレゴリー作)だった。おっ、これかぁ、と感動した。
なんか好きだなと感じたのがスティーブンソンの『マークハイム』で、殺人犯の主人公が悪魔的な囁きをする謎の男に誘惑されるが自首する、という話で、要は悪魔の誘惑的な話なのだろうけど、短編だからこそうまくまとまっている話だなと感じた。
Posted by ブクログ
芥川龍之介が選んだ英米怪異・幻想文学のアンソロジー。芥川龍之介が英文学者を志していたとは知らなかった。収録作品はオスカー・ワイルドやエドガー・アラン・ポーなど有名作家もいるが、知らない作家も多いので簡単なプロフィール紹介があるのが嬉しい。
好きな作品:
・月明かりの道(アンブローズ・ビアス):「藪の中」に影響を与えた作品。事件関係者たちの告白で構成されている。
・A・V・レイダー(マックス・ビアボーム):英国紳士二人の話。オチが意外だった。
・大都会で(ベンジャミン・ローゼンブラッド):わずか4ページの作品だけど、大都会の冷たさと人間心理の醜さにゾッとした。
・ささやかな忠義の行い(アクメッド・アブダラー):殺人から始まる犯罪小説。ブラックな味。