柴田元幸のレビュー一覧

  • ガラスの街(新潮文庫)

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    ポール・オースターの小説はいつも破滅的で諦観していてある程度一貫性が無く、実際に起こる出来事ではなく物語は人の脳内で進むので、現実逃避に効く。
    radioheadの小説版って感じ。

    本書はオースターの中では比較的理路整然としてビギナー向けといった印象。

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    2024年10月15日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    非常に起伏に富んだ鮮やかなストーリー展開で一気に読ませる力がある。所々に出てくる現実の出来事への評価を含めて政治的にも旗幟鮮明であり、「多様性とその敵」とばかりに定義される善悪の構図は、寛容がベースとなる本書の筋書きの中では怒と憎悪の感情が顕になる貴重なアクセントでもある。
    小説の舞台から四半世紀、出版から20年が経過した現在から見ると、ポリティカル・コレクトネスが高らかに歌い上げられている光景には当時の熱気と未完の革命への期待感のようなものが感じられる。その明るさが、結末部分に迫る非常に暗い影と対照的に浮かび上がる仕掛けには思わず唸らされた。

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    2024年10月05日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    あとわずかで60歳のネイサン。
    妻イーディスとの結婚生活は破綻し、娘のレイチェルともうまくいかない。
    そこへガンにかかり、治療はなされ小康状態になってはいるが、仕事も失った。
    死までの時間を過ごすため、幼少期を過ごしたニューヨークのブルックリンに移り住むところから物語が始まる。

    こちらとてキラキラした物語を期待しているわけじゃない。
    それでも、序盤からこんなんでついていけるか不安になってくる。
    が、そんな不安は次第に払拭される。
    その後のネイサンの人生は、実に魅力的なものになっていくからだ。

    それには、やはりネイサンのキャラクターが大きな要素になっているのかな、と思う。
    彼は自分の人生を振

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    2024年10月06日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    ネタバレ

    結末はあっけなく、とても不明瞭なものだった。
    なのになぜこんなに満ち足りた読後感なのだろうか。

    結末に至るまでの空想にふける時間がとても濃密で、思考するブルーを観測することを楽しんでいたからだ。
    そしてブルーと同じくブラックとホワイトについて推理をする。文章から得られる情報を整理し余白に想い馳せることを繰り返す状態はブルーと同じ感覚だったし、ブルーが様々な変装でブラックに近づく場面でブラックが発した「幽霊たち」の状態そのものだろう。
    ブルーと意識が近くなるにつれて、ブラックに少しでも動きがあると嬉しくなったりしていた。

    ホワイト(ブラック)が書いた物語がブルーのことだとすれば、その正体はオ

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    2024年08月26日
  • デカルトからベイトソンへ――世界の再魔術化

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    私の大学生活でこの本を何度読み返したか分からない。タイトルの「再魔術化」という表現は、マックス・ウェーバーがかつて「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の中で、近代化によって以前のアニミズム的思考が薄れてしまった状況を表した「脱魔術化」との対比表現である。しかし重要なことは、両者は対立的ではないということだ。なぜなら、「再魔術化」は、近代のデカルト的思考を否定しているわけではなく、むしろそれとアニミズム的思考との統合を目指しているからだ。そして、この統合に取り組んだのがグレゴリー・ベイトソンである。本書でもベイトソンの理論が簡潔にまとめてあるが、彼の代表作である「精神と生態学」「精神と

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    2024年08月02日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    人生で何度も読みたくなる本。

    高校生の頃、吉祥寺のヴィレッジバンガードで購入した。
    ポップでお勧めされなければ手に取ることさえしなかっただろう。

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    2024年08月01日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    何か起こりそうでなかなか起こらないし、読んでいるうちに主人公と自分がひとつになって一体この主人公は今何をしてて本来は何を成し遂げなければならないのか、主人公が誰かを見ているのか、逆に誰かが主人公を見ているのか、そもそも主人公は誰なのか分からなくなってくる。
    最終的にはハッピーエンドとはいかずともトゥルーエンドくらいにはなったんじゃないかと個人的には思う。失ったものは大きいけど。物語からの脱出成功。

    オースター自身の書くことへの不安感が表現されていると思う。三部作の二作目から読んでしまったので残りの作品も近々読んでみたい。

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    2024年07月27日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    主人公のフォッグはハードな人生を送っている。様々な人との出会いがあって成長と挫折を繰り返す彼の姿に勇気をもらえた。
    とても魅力的な主人公だった。
    そしてストーリーの緩急が素晴らしい。
    作者の才能をひしひし感じながら読み進めることが出来て、とても良い読書時間だった。
    最近読んだ小説の中でいちばんお気に入り!

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    2024年07月31日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    面白くてたまらなくて、
    がっしがしに読み進めた!

    これまで読んだポール・オースターは、
    もっと複雑で、言葉の迷宮に入り込み、
    冷たさや悲観的な部分があるからこそだった気がするが、
    とてもあたたかくて、優しくて、
    楽観的で、希望がある。
    もちろん人生なので悲痛な痛みや別れはあるのだけれど。

    街角で巡り合う人々や、
    家族の繋がりの中で、
    名もなき人々の物語が照らし出されてきたからこそ、
    ラストの2段落に、
    はっと息を呑むのだった。

    すべての人々に、
    他にはない特別な物語があったのだということを、
    ブルックリンへの愛を込めて、
    ポール・オースターは全力で言いたかったのだな。

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    2024年06月20日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    初のオースターは大変素晴らしい時間になった。
    とにかく物語の展開が凄まじく一気に読んだ。流浪の青春を描きながら家族の話に帰結する巧みさに加え、人間の悪よりも善に光を当てるスタンスが心地よい。

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    2024年06月18日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    しかるべき時間に間違った場所にいて、然るべき場所に間違った時間にいる。
    それぞれの人生とつながり。
    引き込まれたあとは一気読みのすごい作品。

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    2024年06月03日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    還暦目前、自身の身の錆で離婚をすることになり、さらには肺ガンにもかかり、残りの余生は静かに暮らしたいと故郷であるブルックリンに一人戻ってきたネイサン。
    幸いガンは予後が良いようで、もうしばらく人生を楽しめるというなか、新生活を始めるやいなやわきおこる数々の騒動。
    騒動の中で登場するネイサンの甥であるトム、トムが働く古書店の(怪しげな)主人のハリー、通りすがりに出会った完璧に美しい母親(PBM)ナンシー、トムとネイサンのもとに突然現れた少女ルーシー。
    その他、ネイサンが行動する範囲で現れる数々の人々を群像劇的に描いていく。

    騒動がおこり、それが収束していくなかで変わり、そして深まっていく人間関

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    2024年06月01日
  • 舞踏会へ向かう三人の農夫 上

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    隅から隅まで溢さず読んだとは決して言えないけど、本当に面白かった。
    パワーズは元々ゴリゴリの理系だったけど、知識によって世界を理解するのに限界を感じて文転し、小説の中でいろんな実験をするようになったと聞いた。(ニュアンスで理解)
    その経歴の通り、膨大な知識や事実をベースにしながらも大胆に物語を繋いでいて、その想像力に感動し好きになってしまった。
    ただどの他作品も大ボリュームの大作だから、読み始める勇気が一生出ない、、

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    2024年05月28日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    オースターと言えば抗えない偶然の連続によって自分を失くしていく物語という印象だったけど、この話は偶然の連続によって自分を取り戻していく物語だった。出てくる登場人物が揃いも揃って問題を抱えていて、更に打ちのめされるような展開もあるのだけど、訳者あとがきにもあるようにオースターにしては楽天的でポジティブな話なんだけど、あのラストをどう解釈すれば良いのかちょっとまだ消化できていない。そこも含め、今まで呼んだオースターの小説の中で一番好きかもしれない。

    カフカの人形のくだりが特に印象的

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    2024年05月21日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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     突然のポール・オースターの訃報を聞き、長年積読状態だった本書を手に取りました。難解と思い込み本棚で眠っていましたが、オースターってこんなに面白かった?と思わせる小説。10ページ弱のエピソードが怒涛に展開してとても読みやすい。「アメリカ文学」って高尚に構えるのではなく、日本の小説ではないアメリカ的な「物語」を読んでいる、引き込まれて行く感覚。
     結局、人は一人では生きられない。誰かとの繋がりを求めている。オースターの小説の登場人物は、高度資本主義かつ大量消費社会に馴染めないインテリの男が多い。本書もしかり。人間は愚かな生き物だけれども、だからこそ魅力的でもあり愛すべき存在。
     もちろん読みやす

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    2024年05月13日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    誰かのおすすめ本で紹介されていて
    気になって購入後、積読したままにしてたら
    何に惹かれて買ったか、どんな内容か
    さっぱり忘れてしまってた

    わたしの最近の傾向でSFだったかなーと
    思いながら読み進めたが、物語である。

    僕の視点で話はすすむ
    むむむ、最後まで読み切れるかなー
    と不安になりつつ、読み進める

    50ページも過ぎた頃からか
    どんどん引き込まれていく
    彼の中に。
    小説って、また読もうと思うものはなかなかない
    一回読んで、あーよかった、面白かったと

    でも、最後まで、ワクワクもするし
    人生についてすごく考えさせられる
    アメリカ文学って、結構文化的なことを
    知った上じゃないと楽しめないのが

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    2024年04月08日
  • 翻訳夜話

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     残念ながら柴田先生の講義を受ける機会に恵まれませんでしたが、翻訳者としての意見を本書で知ることができ、嬉しいです。翻訳について村上派か柴田派か、と聞かれれば、私は柴田先生を選びます。
     大学にて翻訳理論、英文学翻訳、米文学翻訳の授業を受講していたのですが、各先生と柴田先生は、翻訳者の立ち位置について似たことを仰っていました。
     改めて「翻訳者とは」を勉強した気持ちです。

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    2024年02月25日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    お気に入りの本になった!
    波瀾万丈あるけど、喜劇的な要素が多く、悲しいシーンでも文章にユーモアがあり面白いから楽しく読めた。
    主人公ネイサンは基本的には他の登場人物たちを手助けするような立ち回りだったけど本人もしっかり作中で成長していて、人生の明るい部分を思い出させてくれるかのようなお話だと思った。
    ポールオースターを読んだのは冬の日誌/内面からの報告書に次いで2回目。なのでまだ多くを語れる立場ではないけどこの人の書く文章や感性が好きだなと思う。

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    2024年02月23日
  • 冬の日誌/内面からの報告書(新潮文庫)

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    自分の人生を肉体と精神のそれぞれの側面から振り返った本。
    ただの自叙伝ではなく、構成がかなりユニークで面白いと思った。時系列順に並んでなかったり、各章でアプローチ方法が全然違ったりなど。あんまり詳しく書くとネタバレになってしまうけど、私は本を書く人間ではないのに思わずこういう書き方もあるんだって感嘆するようなものだった。
    全く違う国と時代と性別に生まれた人だから、情景を上手くイメージできないこともあったけど、それでも筆者の人生を一緒に辿るのが楽しかった。

    恥ずかしながらポール・オースターのことは知らなくてこの本をたまたま書店で目についたからなんとなく買っただけなんだけど、文章がとにかく面白く

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    2024年02月13日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    何かに導かれるようにして出会ったこの作品は、私にとって今のところ唯一、心の底からおもしろいと感じた翻訳小説である。
    個人的に古典的な翻訳小説で難しいのは、断片的には面白いのに特に章立てがないためストーリーの繋がりが理解できないところだったけれど、「ムーン・パレス」は、それにもかかわらず最初から最後まで夢中で駆け抜けた。まさに青春小説の傑作。本棚に大事にしまって、何年後かにまたそのページを開きたい。

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    2024年02月11日