柴田元幸のレビュー一覧
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グレゴリー・ベイトソンの偉業と著者モリス・バーマンの作家性が見事に融合された、まさに感動巨編!
同著者の『神経症的な美しさ アウトサイダーがみた日本』も素晴らしい本でしたが、この本も後半に行くにつれてぐいぐい引き込まれていく、吸引力の凄まじい一冊です。付箋を貼る手が止まらず・・・。
そして、著者モリス・バーマンの深い見識に加え、訳者柴田元幸さんの丁寧な日本語もまた素晴らしいのです。
デカルトの二元論を批判的に見ながら、グレゴリー・ベイトソンの全体論を理解する本としても最適な一冊。ベイトソンは、まだその著作に触れたことはありませんが、ずっと気になっていた人物。捉えるのが難しい〈精神〉の存在 -
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一冊をひとりで翻訳する、それは孤独な作業。道をひとりぽっちで歩いてゆかねばならない。本書はその旅のおともになる。弱気になった時に読み返すと、少しだけ元気をもらえる。
3つのフォーラム――1996年東大駒場、1999年翻訳学校、2000年若い翻訳家6人と――を収める。若い翻訳者のなかには、25年前の岸本佐知子や都甲幸治もいる。
カーヴァーとオースターの短篇を村上・柴田がそれぞれ訳している、その比較が興味深い。もともと波長が合うためか、ふたりの訳文がそんなに違っていないような印象も受ける。
村上も柴田も勢いがあるのががいい。まだふたりとも、ほぼほぼの40代だもん。 -
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なんということか、ついにこの大作を読み終えてしまった!深夜2時半の読後とにかく感想を新鮮なうちにおさめたい!
まず、本屋さんで手に取ったその時の重みと期待は忘れられず、読み進めるほどに考えが深まるこの経験はとても貴重だった。今この時代に20代で、主に60年代波乱の時期を書いたこの作品を読めたこと、著者のポールオースターには感謝しかありません。なんたる贈り物。
10代後半から20代へと差し掛かる時期に、いつどこでだれがどのようなことをしたのか、自分自身の出来事、社会の出来事、全ての要素が織り込まれて人は成長していくのだなと、俯瞰的に人生を眺めるに至りました。今現在の私に深く深く突き刺さってきま -
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クインの失われた息子と妻の話は最後まで語られない。その説明の不在こそトラウマの証拠だろう。
ピーターとヴァージニアは、おそらく彼の失われた家族を暗喩している。
ダニエル・クインのイニシャルが、ドン・キホーテと同じであるように、これは狂人、あるいは狂人に見える人の物語であり、孤独に陥っていく「浮浪者」あるいは「狂人」の内面を描いた物語だろう。
最初は、ピーターの父である教授がそのように見える。しかし次第にクイン自身がそれと同じ境地に陥っていくのである。
教授と同じ顔をした(立派なみなりをした)別の人間は、おそらくそうではなかった別の人生を生きる自分の暗喩である。クインにとってのオースターも同じ -
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大正13~14年にかけて芥川龍之介が編んだ、
旧制高校の英語の副読本全8巻51篇は、
当時の現代文学が選ばれていた。
その作品の中から怪異・幻想譚22篇を抽出し、
豪華な訳者陣によって翻訳されたアンソロジー。
・はじめに――柴田元幸
I The Modern Series of English Literatureより
II 芥川龍之介作品より
・おわりに――澤西祐典
附 芥川龍之介による全巻の序文と収録作品一覧
22の作品は怪異と幻想小説の他、エッセイ、民話、
童話調、戯曲、リアリズム作風も選ばれている。
ヴィクトリア朝時代の名残りに世紀末の頽廃、
アイルランド文芸復興運動、第一次世界大戦 -
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探偵ブルーはホワイトから、ブラックを見張ってほしいという依頼を受ける。
ブルーはブラックの真向かいの部屋に住み観察を始めるが、彼の行動はといえば、何か書きものをしているか、散歩しているかのどちらか。
事件らしい事件も起こらず、ただブラックを見張り続けるほか何もすることのない日々に、ブルーはじりじりと焦燥感を募らせる。
無機質なニューヨークの街の中で、物語は色彩を失っていく――。
『書くというのは孤独な作業だ。それは生活をおおいつくしてしまう。ある意味で、作家には自分の人生がないとも言える。そこにいるときでも、本当はそこにいないんだ。』
『また幽霊ですね。』
『その通り。』
『何だか神秘的だ。 -
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サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を村上春樹さんが翻訳していること、併読している『ギンガムチェックと塩漬けライム』(鴻巣友季子著)で初めて知りました。そして、本書に辿り着きました。
村上さん、『キャッチャー』(『ライ麦畑』)を大絶賛でした。翻訳という大変なお仕事をするのですから、当然といえば当然ですが。『キャッチャー』(『ライ麦畑』)を読んだら、(どちらかでも)本書は必読だと個人的に思います。
村上さんの翻訳を巡っての柴田さんとのお話は、とにかくおもしろい! 野崎訳『ライ麦畑でつかまえて』を読み、ちょっと理解が難しいところが、こんがらがった糸がほどけたように分かり、すっきりしまし -
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芥川龍之介が1924~25年(大正13~14年)にかけて旧制高校生の英語学習用に編集した英米文学のアンソロジー
"The Modern Series of English Literature" 全8巻51編から22編を精選して、澤西祐典氏と柴田元幸氏他10名が日本語訳をした。
まず芥川にこういう「学習教材」のような作品があるということを知らなかった。古今東西の文学に精通している芥川のセレクションであるから、間違いはない。
また、それらを精鋭の翻訳者による現代の日本語で読めることが素晴らしいではないか。2018年に単行本が出ていた(不覚にもチェックしていなかった!)が、