柴田元幸のレビュー一覧
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映画「ライ麦畑の反逆児」がおもしろく、サリンジャー関連でそういえばこの本持ってたと思い出して再読。(初読のとき感想書いたかな?と思って本棚内検索したら、わたしは2007年から感想書きはじめていたようで、2003年出版のこの本は出てこなかった)。
最初に村上春樹氏による「キャッチャー・イン・ザ・ライ」訳者解説を読んだら、「ライ麦畑の反逆者」のストーリーがよりよくわかって、さらに細部が補完される感じですごくよかった。村上氏は、サリンジャーは戦争体験がショッキングすぎて小説にすることができず、「キャッチャー~」は書かれることのなかった彼の個人的な「戦争小説」かもしれない、ということを書いていた。
で、結局全部再読してしまい、村上氏と翻訳家の柴田元幸氏の対談も隅から隅までおもしろかったんだけど、特に印象に残ったのは、「キャッチャー~」が読み継がれているのは、イノセンスを礼賛しているからではなくて、『人々が巨大なシステムを前にしたときの恐怖や、苛立ちや、絶望感や、無力感や、焦りのようなものを自然に呑み込み、ユーモアをもって優しく受け入れてくれるから』というところとか。あと、『イノセンスに代わるものは必ずあります。たとえばそれは愛情です。広義な意味での愛情。』というところとか。
あと、柴田先生が「キャッチャー~」をアメリカ文学史のなかに位置づけるために書いた「Call me Holden」もすごくおもしろくてためになり、「アメリカの息子」とか「ハックルベリーフィンの冒険」はやっぱり読まないといけないかも、と今さらながら思った。 -
Posted by ブクログ
『ブルックリン・フォリーズ』を読んでポール・オースターにハマり、『ガラスの街』、『幽霊たち』、『鍵のかかった部屋』とニューヨーク三部作を読んで、一作飛ばしてオースター5作目となる本作を読んだ。
ニューヨーク三部作のようなメタ的な作品ではなく、程よくエンタメしていてどちらかといえば『ブルックリン・フォリーズ』に近いが、人間ドラマには全く収まっていない。登場人物が少ない分、主人公の内面がフォーカスされ、極限的な状況と強烈な人物の洪水によって現実離れした魔術的な魅力を持った作品となっている。
物語の前半は、全てを失った天涯孤独の青年が友人や恋人など周りの人たちの力も借りながら自分のアイデンティティを取り戻していく人間ドラマなのだけれど、落ちぶれ方が極端過ぎて逆に面白い。そして天使のようなキティ・ウーに出会い、悪魔のような老人エフィングに出会う。キャラクターはいずれも魅力的でウィットとアイロニーに富んでいて読んでいて飽きさせない。そして象徴的に繰り返し出現する「月」。
後半になると物語はさらに加速し混迷を極めていく。まさに人生の不条理さが凝縮されていて、極端過ぎるほどに喜劇と悲劇が何度も何度も繰り返される。場面が変わるごとに新たな世界が描かれて、いくつもの短編小説を読んでいるようだが、全てが見事に繋がり、関係し合いながら物語に深みを与えていく展開は、読む人によって様々なテーマやメッセージを受け取ることができる。ポール・オースターが目指したのは読者によって完成される小説らしいが、まさにそうなっている。
かと言って複雑な難しい話では全くない。物語は過酷だが全体的にはとても読みやすい文章で、外で読んでると笑いを堪えるのが大変なくらい笑えるシーンも多い。難しいことは言わずにテーマも明快で、読後感は疲労感とともにスッキリとした前向きな気持ちになる稀有な小説だ。著者も本作をコメディだと評している。この作品をコメディと言うところにポール・オースターの凄みとアメリカという国の懐の深さを感じる。本書のエピグラフはジュール・ベルヌの「何ものもアメリカ人を驚かせることはできない」である。
他にも凄いと思うところはたくさんあるけれど、並べてもしょうがない気がする。何より素晴らしいのは、全体を通して物語が活き活きとしているのだ(今の自分の気分と合っているのもあるかもしれないけど)。なんだか読み終わるのが惜しいくらい好きな小説だった。登場人物全てが無様で愛おしい。そう、無様さこそ人間の魅力なのだと優しく教えてくれる。人生の残酷さに立ち向かう人間愛に満ち溢れている。
本作で五作品読んだが、読むたびにポール・オースターが好きになる。書き方も巧いなぁと思う。技術的なことは分からないけど、さらっと描いてくれる。それに多作なので他の小説もまだまだたくさんある。幸せなことだ。 -
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ネタバレ児童書から哲学までの多ジャンル、古代から現代までの作者別書評。本の紹介のほか、次に読むべき本も紹介。
浩瀚すぎてカラー刷大型本で枕にするにも大きすぎ。翻訳された本のうち2割弱は既読だが、死ぬまでに読む本が見つかった。
・ベスト&ブライテスト→輝ける嘘
・異星の客→猫のゆりかご
・ブルックリン横丁
・精霊たちの家
・真空ダイヤグラム
・高慢と偏見、高慢と偏見、そして殺人
・バーブル・ナーマ ムガル帝国創設者の回想録
・2666年 R.ボラーニョ
・地中海 ブローデル
・抱擁 A.S.バイアット
・大いなる眠り チャンドラー
・彼らの最良の時 チャーチル
・ノヴァ S.R.ディレニ
・薔薇の名前 エーコ
・ジャマイカの烈風 R.ヒューズ
・神々の鎮目意識の誕生と文明の興亡 J.ジェイソン
・魔の山 マン
・ブリューメール18日 マルクス
・令嬢ジェシカの反逆 J.ミッドフォード
・愛の追跡 N.ミッドフォード
・ドクトル・ジバゴ パステルナーク
・真夜中の子供たち ラシュディ
・三つの金の鍵 ピーター・シス
・マチルダは小さな大天才 ダール
・マイロのふしぎな冒険 N.ジャスター
・ユリシーズ ジョイス -
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Twitterで見かけて面白そうだったので書店で購入。
英米作家の短編&エッセイ22作品+芥川の翻訳と短編が2作品。シリアスとコメディが混ざり合いとても良い。
「張り合う幽霊」が一番好き!!
←本人に憑いている幽霊とお屋敷に憑いている幽霊がケンカしちゃうお話。オチも可愛くて大好き。著者ブランダー・マシューズの小説が邦訳されているのはこれが初めてらしい。世界には私が好きなタイプのお話がたくさんあるんだろうなぁ。
あとは機械の進化を描く「機械時代のダーウィン」や→
ウィチ通りの場所で議論になり殺人に発展してしまう「ウィチ通りはどこにあった」、ロマン・ノワールの先駆け的作品らしい「ささやかな忠義の行い」なんかも楽しい。
ラストに載っている芥川龍之介氏の「馬の脚」も大人のお伽話としてとても楽しい。
こういう本に出会えるからTwitterはやめられない。 -
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読み終わった!なんじゃこりゃ。世にも奇妙な物語。整理するために感想を書く。
ポール・オースター名義の一作目『ガラスの街』に続いて二作目。
私立探偵のブルーは、ホワイトからの依頼で向かいの部屋からブラックの監視をする。ブラックは毎日本を読み、何かを書くだけの変わらない日常を続けている。それでも報告書を毎週送り続けるブルーだったが、だんだんと変化を欲する衝動と空想が拡がっていく。
またしても探偵小説風の始まり方で、前作『ガラスの街』と似たところもあるが、本作はさらに内省的で透明度も増している。前作の偏執な妄想を更に推し進めたような(まさに幽霊のような)掴みどころのない小説だった。それこそが狙いであると思う。
出版社も不安があったのか、あとがきには訳者の柴田元幸に加え、小説家の伊井直行、文芸評論家の三浦雅士の豪華三名が並んでいる。
しかし、あまり構える必要はない。難解な文章では全くない。語り口は心地よいのであまりストーリーを追おうとせずに、騙し絵を眺めるようにまずは楽しむのが正しい姿勢だと思う。ポール・オースターのユーモアは決して大きな声ではないが、耳を傾ける人を笑わせてくれる。
さて問題のストーリーだが、解釈は無限にできそうだ。オースター自身も、読者が楽しむための余白のある小説が好きだと語っている。
主人公のブルーは探偵としてブラックを見張っているうちに、自らの妄想に囚われていく。出来事は疑念を呼び、謎は晴らされることはない。更には疑念が現実を捻じ曲げるという逆転現象が起こる。
エッシャーの騙し絵に、二組のペンを持った手が、お互いを描きあっているというウロボロス的構図の絵がある。まさに本作ではブルーとブラックは循環構造となっている。
更に虚構と現実は「合わせ鏡」のように反射し合い、奥に行くにつれて像が濁り歪められ、幽霊のように朧げな存在となっていく。どちらかが去れば、どちらも居なくなる。
その歪み方の素晴らしさ。何よりもやはり文章が良い!上手いというより、味わい深い。ポール・オースターの派手さはないがドライブしながらじわじわ効いてくる文章は、好きな人は凄くハマるタイプな気がする。たまらん。
本作は前作『ガラスの街』のアイデアを更に推し進めたかなり野心的な作品で、そのうえで成功させているのは本当に素晴らしい。たまらん! -
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60歳を前に終の住処として生まれ故郷のブルックリンに帰ってきた男が偶然に行方知れずの甥に出会い、彼の人生は新たな展開を見せる。
ポール・オースターは初めて読んだが、思っていたより(良い意味で)馬鹿馬鹿しくて愉快。
しかし後半になってくると、これでもかと巻き起こる予期せぬ出来事に手が止まらず、一気に読み終えてしまった。小説はこんなこともできるのか。文章は軽快で読みやすくずっと楽しいし、重い話もありながらも温かい気持ちにさせてくれるので万人にお勧めできる名作。
群像劇でありながら終始主人公のネイサンの目線で語られるが、章で話がまとまっていて短編集のようで飽きさせない。何よりユーモアのセンスとリズムが心地よい。あとがきによると、オースターの作品のなかでも喜劇的な作品らしい。他の作品も気になる。
ゆるく書いてるように見せてるが、これだけユーモアを織り込むのは大変だったろうなと思う。幸せな読書体験でした。 -
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ニューヨークに住む若き探偵ブルーはとある人物の監視を依頼される。監視対象は毎日部屋で物を書いて過ごしている男で、いっこうに正体が判明しないのだが…という探偵小説風な始まり方をする観念的な物語。文章を書くということと書かれた文章を読むということ、あるいはシニフィアンとシニフィエ、書物・文章・作家・作品にまつわる抽象的な思索がそのままドライかつ叙情的な物語になっている。相変わらず腹が立つほど都会的でかっこいい。
ブルーがブラックを監視する様子は淡々としている一方で、合間合間にはさみこまれる思い出や、作家たちのエピソードがやたらと濃い。ホイットマンの脳みそとおまるの話やブルーと父親の思い出などがブルーとブラックの無味感想な生活にはめこまれて、宝石のように光っていた。それらが書かれた内容であり、ブルーたちは印刷された文字そのものなんだろうか。ただ、黄昏時の道端で、変装したブルーとブラックが仲良く座って語り合う場面だけは不思議と古い写真のように心に残る。ポール・オースター作品には大抵こうした強烈に視覚的な場面がある。
最後の暴力は男性小説家の手癖のように感じ、やや着いてゆけなかったが、もしかして文字や書物という死んだ物から生きた想像力を解き放つということなのか。だとするとかなりメタな物語だ。
ところでソローの『森の生活』はアメリカ人ですら挫折しやすいというのは少しホッとしたし、ブルーのつっこみも良かった。自分も正味2回くらい挫折しており、まだいちども最後まで読んだことがない。ブラックがブルーを必要とし、待っていたように、『森の生活』も我が本棚の奥で読まれるのを待っているのかもしれない。 -
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割と忙しく、寝る前にちみちみと読んでいたら上下で1か月くらいかかった。
個性的で何を問うても自分の意見を言わず、歴史的な事実や格言のみを返す、そして謎の深刻な病気を患う父。
そしてその奇妙な父に振り回される家族。家族ゆえに放っておけない面倒さ、窮屈さ、心配、そして愛情。
様々な感情が浮沈しつつ明らかになっていく父の秘密。
ゲーム理論の一角をなす難題、囚人のジレンマを底に敷き、そのフレームで家族が人間関係が戦争が描かれる。
パワーズらしい博覧強記。
パワーズらしい隠喩の跋扈。
妄想的記述と圧倒的抽象度。
読みにくさ全開にもかかわらず最後は胸を刺す家族の愛の物語。
泣いてしまった。
パワーズの描く愛は癖になる。
最近のパワーズは読みやすくエモいんだけど、私はこの初期の圧倒的読みにくさの中のエモいパワーズがたまらなく好きだ。いい読書体験だった。傑作。