柴田元幸のレビュー一覧
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1940年代前半のアメリカ史におけるifを描いた、歴史改変小説と言える作品。F.ローズヴェルトやリンドバーグといった実在の人物たちに、フィクションとして新たな役割が与えられ、彼らの行動が「あり得たかもしれない」歴史となるように巧みな計算のもと物語が作られている。(巻末には彼らの実際の年譜も収録されていて、物語との違いを見比べるのも興味深い。)
その中で何より引き込まれるのは、ユダヤ人迫害の中で翻弄されるロス一家の姿である。小説は少年ロスの視点で語られていて、平穏だった彼らの日常がいとも簡単に崩れ去る様が描かれる。政治的な対立が家族の間に亀裂を生み、やがて自分たちが差別や迫害の対象となっていくこ -
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作品紹介・あらすじ
ここではない、どこかから電話が鳴る。ポール・オースター最後の長篇小説。S・T・バウムガートナーは九年前に先立った妻アンナの不在を今も受け容れられずにいる。書斎で彼女のタイプ原稿を読み耽り、物忘れがひどいなか、ルーツの地ウクライナを旅したときの摩訶不思議な出来事を書き残す。そんな彼に恩寵が……来るべき日を意識していたとしか思えない、オースター作品のエッセンスが宿る名作
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ポール・オースターの遺作。
本当は「4321」を読んでから本書に取り掛かろうとしたのだけれど、「4321」の分厚さに慄いてしまい、半分以下の分量の本書に手を付けた次第。
主人公は、哲学者で大 -
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状況説明の少なさ、心理描写の過剰さ等、オースター作品の、個人の鬱屈した思考の渦に深く沈み込んでいく感じが、どうにも肌に合って仕方がない。
なんで小説なんて読むのかって、こん時くらい思考の海溝に沈み込んで、1人静かに暮らしたいからじゃないですか。(ミスチルの「深海」のジャケットみたいなイメージ。)
オースターの小説では、メインのストーリーと無関係に思える、サブの人物の思考や過去のエピソード、たまたま見た映画の話などが急に執拗に深く長々と描かれて、また急に場面が戻ったりする。
後であの伏線が回収された!となる事もあるし、あまりならない事もある。
それは人生のように「そんなものだ」とも思うし、
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『ペンを手に、キェルケゴールの一連の筆名を論じた著書の第三章の一文を途中まで書いたところで、文を終えるにはある本を引用する必要があり、その本を昨夜寝る前リビングルームに置いてきたことに思いあたる。取りに行こうと階段を降りていく最中、今朝十時に妹に電話する約束をしたことに今度は思いあたり、もうほぼ十時なので、本を取りにリビングルームへ行く前にキッチンに行って電話をかけることにする。ところがキッチンに入っていくと、鋭い、刺すような匂いがして彼は思わず立ち止まる』
思わずニコルソン・ベイカーの「中二階」を思い出してしまうような書き出しのポール・オースターの遺作は、予約の順番待ちで長く待たされること -
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「孤独の発明」は別として。ニューヨーク三部作を「孤独」というテーマで括るにはこの作品で。狭い世界で、登場人物の少ないところがうってつけかもしれない。
オースターの著作を発見したのは「孤独の発明」だった、それからは底に流れるテーマを読み続けてきたが、著作順でなく、この「幽霊たち」を自分なりに初期作品の区切りとして最後に持ってきたことを、自分で誉めたい気分になった。これはどの作品にも流れている「孤独」というテーマの究極の姿を著したものだと感じたからで。
解説で伊井直行さんは、
三部作はそれぞれ単独で読んでもなんら支障のない作品群なのだが、他の二編をあわせて読むと、一作だけ読んだときとは随分印象 -
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オースターのニューヨーク三部作。これら初期の作品で常に見られる孤独感を、ここでは作家である一人の男に負わせている。彼は自分の影に生きて消えたのか。
「ガラスの街」はニューヨーク三部作の第一作で、「孤独の発明」「鍵のかかった部屋」「ムーン・パレス」「偶然の音楽」「幻影の書」と読んできて初期の作品を二冊残してしまっていた。中篇であり初期に書かれたもので、「孤独の発明」が次の作品にどういう形で書きつがれたかにとても興味があった。
ただ既読の5冊の中には、共通する実態の掴みにくい孤独感が相変わらず座り込んでいる、だが表現法は似ているが、それをシーンに置き換えて明晰で分かりやすい内容になっている。
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ネタバレマイルズ・ヘラーを中心人物に置きながらもブルックリンサンセット・パークの廃屋に共に住むビング、エレン、アリスをはじめ、マイルズの父親のモリスに視点人物を移しながら語っていく構成は群像劇のようで個を描く著者の作品の中では珍しい語り口だと思った。
読み終わった時は著者の作品のなかでは比較的地味な作品だと感じたが、リーマン・ショックによる住む家を失った人々や経済危機に直面している様子が読み取れ、細部を読んでいくと現代アメリカの悲哀や疲弊感のようなものが描かれており、登場人物のドラマ性だけに収まらない主題を持つ作品だと思った。
リーマン・ショックを背景に作品で語られる三人のメジャーリーガーの訃報と -
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大大大好き
荒唐無稽なフィクションに人が心を惹かれるのは私たちの想像力と感情を拡張してくれるからである。どんな小説かと言われると「自分探し」の物語だし、ありもしないあの夏の記憶である。
臆病と傲慢のグロテスクな化合物
長い不器用な沈黙と度しがたい騒々しさを交互に繰り返していた
沈思黙考 千思万考
ジュリアンバーバーがいかに優れた芸術家だったとしても、
その作品が、トマスエフィングがすでに僕に与えてくれた作品に匹敵することはありえない。
それはエフィングの言葉から僕が夢見た作品であり、それゆえに完璧にして無限、現実を現実以上に正しく表象しているのだ。
目を閉じている限り、僕はそれを -
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グレゴリー・ベイトソンの偉業と著者モリス・バーマンの作家性が見事に融合された、まさに感動巨編!
同著者の『神経症的な美しさ アウトサイダーがみた日本』も素晴らしい本でしたが、この本も後半に行くにつれてぐいぐい引き込まれていく、吸引力の凄まじい一冊です。付箋を貼る手が止まらず・・・。
そして、著者モリス・バーマンの深い見識に加え、訳者柴田元幸さんの丁寧な日本語もまた素晴らしいのです。
デカルトの二元論を批判的に見ながら、グレゴリー・ベイトソンの全体論を理解する本としても最適な一冊。ベイトソンは、まだその著作に触れたことはありませんが、ずっと気になっていた人物。捉えるのが難しい〈精神〉の存在