【感想・ネタバレ】幽霊たち(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー……。'80年代アメリカ文学の代表的作品!(解説・伊井直行/三浦雅士)

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Posted by ブクログ

探偵ブルーはホワイトから、ブラックを見張ってほしいという依頼を受ける。
ブルーはブラックの真向かいの部屋に住み観察を始めるが、彼の行動はといえば、何か書きものをしているか、散歩しているかのどちらか。
事件らしい事件も起こらず、ただブラックを見張り続けるほか何もすることのない日々に、ブルーはじりじりと焦燥感を募らせる。
無機質なニューヨークの街の中で、物語は色彩を失っていく――。

『書くというのは孤独な作業だ。それは生活をおおいつくしてしまう。ある意味で、作家には自分の人生がないとも言える。そこにいるときでも、本当はそこにいないんだ。』
『また幽霊ですね。』
『その通り。』
『何だか神秘的だ。』(引用)

書くということとアイデンティティをテーマに据えた、煙に巻かれるようなお話。
柴田元幸氏の訳が大変素晴らしく、何度も読み返したい。

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2025年08月16日

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ネタバレ

ポストモダニズムがどうとか、巻末にあった文章のようなことは難しくてわからない。作家たちの歴史を学ぶ必要がある。
ただ単純に、読んで、構造的な面白さが印象深かった。前衛アートのように構造を楽しむものなのかな、と思った。
主人公たる探偵ブルーは、ホワイトに「ブラックという男を監視してほしい」と依頼される。しかしブラックは日がな一日机に向かっていて、外出は散歩程度のものだ。依頼の意図も知らないブルーは焦れて、飽き、やがてホワイトとブラックについて物語を妄想したり、自己について深く考え込んだりする。ついにブラックと接触したブルーは、ブラックもまた誰かを監視するよう依頼された探偵だと知る。

監視する者と監視される者という立場があって、そして監視される者は監視する者でもある。この多層構造が面白い。読みながらここで「読者である私もまた、ブルーを監視している」と気づいた。そして私もまたブルーの小さな考えや変化について想像したり自分を顧みたりするのだ。
この本は章立てがなく、初めから終わりまでずっと続いていく。その作りも面白かった。それに登場人物の名前に個性がないから、私の頭の中の彼らはほとんど同じ顔だ。そういう奇妙さが楽しかった。
あとがき等を読むに、現在形で書くなど、原語では文章の作りも工夫してあるようだ。そのあたりは英語が苦手な自分としてはわからないので勿体無い。それにこれはニューヨーク三部作の2冊目らしく、他を読むと受け取り方が少し変わるらしい。機会があれば読んでみたい。

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2025年02月01日

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鍵はウォールデンである。
ある男を監視する主人公は、男の買ったソローの森の生活を読もうとして挫折する。
ゆっくりと読む、それが主人公の陥った袋小路を打開する唯一の手段。
しかし、その機会を失った事で、停滞していた監視は、主人公を傍観者の立ち位置から巻き込む形で、監視される男へと、一種、予定調和の様に集約していく。
ゆっくり読むべきは、我々読者だったのか?
この転換は、小説の丁度ど真ん中でピッタリと折り返す様に起き、計算された構成を味わえます。

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2025年01月22日

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奇妙な依頼を受ける私立探偵
ただ、見張り続けるだけ
何かおこるわけでもなく
次第におかしな思考になり
おかしな行動をとる
いったいなんなの!
と、読む側もおかしくなる
が、なんだか気になって気になって
一気に読まずにはいられない
読みおわっても
気になって仕方がない

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2024年12月07日

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ネタバレ

結末はあっけなく、とても不明瞭なものだった。
なのになぜこんなに満ち足りた読後感なのだろうか。

結末に至るまでの空想にふける時間がとても濃密で、思考するブルーを観測することを楽しんでいたからだ。
そしてブルーと同じくブラックとホワイトについて推理をする。文章から得られる情報を整理し余白に想い馳せることを繰り返す状態はブルーと同じ感覚だったし、ブルーが様々な変装でブラックに近づく場面でブラックが発した「幽霊たち」の状態そのものだろう。
ブルーと意識が近くなるにつれて、ブラックに少しでも動きがあると嬉しくなったりしていた。

ホワイト(ブラック)が書いた物語がブルーのことだとすれば、その正体はオースターだと仮定することもできる。そしてブルーは誰にもわからない場所へと向かう。ブルーもまた、我々自身と仮定することができるだろう。行き先は、誰にもわからない。

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2024年08月26日

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何か起こりそうでなかなか起こらないし、読んでいるうちに主人公と自分がひとつになって一体この主人公は今何をしてて本来は何を成し遂げなければならないのか、主人公が誰かを見ているのか、逆に誰かが主人公を見ているのか、そもそも主人公は誰なのか分からなくなってくる。
最終的にはハッピーエンドとはいかずともトゥルーエンドくらいにはなったんじゃないかと個人的には思う。失ったものは大きいけど。物語からの脱出成功。

オースター自身の書くことへの不安感が表現されていると思う。三部作の二作目から読んでしまったので残りの作品も近々読んでみたい。

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2024年07月27日

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そろそろ事件が動く頃だろうと期待するたび肩透かしを食らいながら読み進めていって、最後数ページでようやく自分がこれまで読んできた物語の正体がわかった。アハ体験かよ。

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2024年01月07日

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衝撃。
あらすじとしては単調なのに面白く読み進められる。奇妙な世界観。
自己、考えること、書くこと、見ること、幽霊たち、たくさん考えさせられる。

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2023年04月08日

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作者の意図は、小説を書くことを見ること。その人間離れした奇妙さを言語化すること。しかし、見ることは、書くことと独立はしていない。クールに見ることは出来ないのだ。見るものは読んでしまう、そこに自分自身を。関与しすぎるものに、自己を見失わせる。

これはメタ小説だ。

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2022年06月16日

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軽易な物語ではない。
張り込みをする探偵が相手を知る度に自分とその居場所に迷い込む。
語りの主観と客観が行き来する進行に読者も迷い込む。
私とは誰なのか。彼は私なのか。
個の存在に社会が付き纏う...
その旨を暗に示唆する解釈を孕んでいるのか。

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2021年11月01日

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最後の最後で爆発する「ブルー」の怒りが凄まじい。
きっちり落とし前をつけて新しい世界へ去っていく。なかなか爽快です。
それにしても、行動範囲が限れた主要人物たった3人による駆け引き、よくこんな設定を考えたものだと感心した。

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2025年05月14日

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シンプルに読みやすい。
相手を見張るだけ、という単調な設定だからこそ、自己との対話を通して疑心暗鬼に陥っていく展開がとても良い

ミステリーの展開がワクワクするので読み終わりのスッキリ感がありつつも、他者を通して自己の存在を確認するというテーマが最後に残されて、行為と行為による影響が人間を人間たらしめていると改めて考えさせられた

あと海外小説、映画あるあるで名前覚えにくくて発生するノイズがなかったのが地味に助かった

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2025年03月15日

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ブルーに課せられたのは、ただ机に向かって書き物をするだけのブラックを見張ること。
そのうち、自我が融解してブラックと融合したかのような奇妙な感覚に陥る。
ブラックはブルーの合わせ鏡でもある。
ブルーの視点を通して、わたしたちもブラックを知り、ブルーを知る。
ブラックにとってもブルーの存在は同じようなもので、だからこそブラックはブルーを殺せなかったのだろうし、そこで怒りに任せてブラックを殺してしまうブルーには狂気すら感じる。
その後、ブルーが正常に戻れることはあるのだろうか。ブラックを失って。

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2025年01月06日

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2024年に亡くなったアメリカの作家、
ポール・オースターが描く、私立探偵の物語。

登場人物は、(実在の人物等を除いて)全てが色の名前で、奇妙な展開や駆け引きに夢中になりました。

ページ数も130ページ程度と非常に短いので、1日で一気読みでき、2024年の年納め小説とさせていただきました。

は、ニューヨーク3部作の第2作目とのことで、
話は繋がってないらしいものの、1作目のガラスの街から読むのもアリだったかもと思いました。

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2025年01月06日

Posted by ブクログ

ニューヨーク3部作~「ガラスの街」「鍵のかかった部屋」「幽霊たち)
1985年~1986年に執筆されたこの傑作揃いは、全く、互いに関連するものはない。
なのに、読書中、読後感が同じ匂い、感触に包まれる。

どれも読んだのは20年余前、仕事の合間に読んだ事もあり、あんまり記憶に残らなかった。
年齢もあるのか・・と今回、まずこの本を再読してみて感じた。

共通するモチーフは「孤独」そして無色ではないとしても没個性的「存在の」人物・・ブルー・ブラック、ホワイト、レッド、ヴァイオレット・・・
ブルーがブラックの指示に従い、歩き走り行動して‥現実と虚構のはざまが薄れ消えていく感覚がこちらにも伝わってくる。

オースター作品は「誰も死なない、何も起こらない」のが特徴と言われるとはいえ、ブルーは探偵・・まさに「サスペンス的カフカ調」展開作品だ。

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2024年09月17日

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誰が誰を見張っていて、見張り続けていると、見張られているのは自分なのかもしれないと思い出して、そうすると、見張っている男の正体が知りたくなって、後をつけていくとそこにいたのは、ジョン・マルコビッチだった。という話。じゃない。

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2024年07月06日

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最初から最後まで現在形でのみ書かれており、主人公であるブルーの心理状態を想像しやすかった。そして内容にのめりこめた。

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2023年05月14日

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事件らしい事件は最後まで全く起こらない。主観と客観がグチャグチャしててブルーとブラックがだんだん一体化していくような不思議な感覚になった。

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2022年08月04日

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 『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』の三つがオースターの「ニューヨーク三部作」と呼ばれているそうだが、何も知らずに二番目の『幽霊たち』を最初に読んでしまったよ。三部作はそれぞれ独立した話だというから、順番はあまり関係ないかもしれないけれど。
 これまで読んだことのないタイプの小説で衝撃的だった。どこでもない場所、誰でもないひとの、アイデンティティクライシス。

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2022年11月20日

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主人公の内面的な葛藤や思考の変遷が描かれ続けますが、飽きさせないで読ませる文章はさすがポールオースター。短いのですぐ読めます。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ブルーはホワイトの依頼でブラックを見張っている。何も起こらない。いい加減何かがおかしいと気づき始めるブルー。もしかすると、と想像していた通りの結末になった途端、ブルーが消えた。ブルー自体が消えたのである。そして私も迷子になった。
まるで合わせ鏡をしているような世界。その世界に迷い込んだら、他人を観察していたつもりが自分を観察していた。
ブラックって本当にいたのかな?

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2025年09月08日

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ちょっと一回読んだだけでは咀嚼が難しい。
途中までは理解してたはずが、どこからか置いてかれてしまったような感覚。

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2025年06月25日

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ブルーがだんだんわけがわからなくなっていったように、自分も「何を読んでいるんだ…?」と上手く頭が働かなくなってしまうような読書体験だった。『ガラスの街』でもそうだったけど、ニューヨーク三部作ってこんな「なんだかわけわからねえ靄に包まれた気分だぜ」っていうのが続くんですかね?『鍵のかかった部屋』を読むのが楽しみではあります。最後のブルーが旅立つところが好き。どこか分からないけど、とりあえずそういうことにしておこうかっていう姿勢が。

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2025年06月11日

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鈴木保奈美さんが大好きなオースターを初めて読んでみた。これは探偵小説なのか、それとも心理小説、哲学?なかなか難しい本のように感じる。少し村上春樹の作風に似てるように感じるのは私だけかな。一度読んだだけでは、私には理解、謎はまだまだ解けない。探偵ブルーのその後が気になる。

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2025年06月08日

Posted by ブクログ

初めてポール・オースターの作品を読む。題名が
読み終えるまで意味がわからなかった。幽霊がいつ出てくるのだろうと。現実だが抽象の世界。相手の行動を自己に投影する。そんな話。2025.3.29

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2025年03月29日

Posted by ブクログ

探偵業を営むブルーのところにホワイトという人物がやってきて、ブラックという男を監視するよう依頼してくる。
ブルーはブラックを毎日監査している内に、ブラックに興味を持つようになり、とうとうブラックに話しかけて、会話をするようになる、、、。

現代アメリカ文学の代表的作家ポール・オースターの「ニューヨーク三部作」と呼ばれる初期の代表作の中の一作。

ブルーやブラックという登場人物の名前も、探偵という職業も、この作品はいわゆる「物語」を語ろうとするよりも、「物語」という枠組みを使って、オースターが作品を書くという仕事を楽しんでいるように思える。

丁度大学生だった時にオースターの作品の翻訳が出始めて、自分も当時読んだ気がするのだが、印象的な作品というだけで、忘れてしまっていた。

今回、自分の参加する横浜読書会という場でこの本が課題本として取り上げられたので35年ぶりくらいで読んだのだが、感想としては、複雑。
この作品は一度読んでもわからない。再読が必要で、しかも一人で読んで考えるのではなく、読んだ後に読んだ人たちとあーだこーだと作品について話さないと、楽しめない気がした。

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2024年09月15日

Posted by ブクログ

いったい彼らが誰なのか?そもそもこの物語は何を描こうとしているのかすら分からないまま読み進める。

ブルー、ブラック、ホワイト。

登場人物たちのイメージはなんとも劇画チックで、アメコミのキャラクターを想像しながら読んでいました。
とても難解なことを平易な言葉で端正に語っている印象があり、どこか孤独な閉塞感が終始支配している。

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2022年11月23日

Posted by ブクログ

シンプルながらテーマ(アイデンティティとは?みたいな)がしっかりしていた。
けど、面白みは薄い。文章は読み易いし、読み心地はいいけど、これは翻訳者の力か?
原書を今度読んでみたい。

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2022年03月27日

Posted by ブクログ

正月に読もうと思って古本屋で買っててやっと読んだ。
ものすごく薄い本だからいつでも読めると思ってたのに大間違い。

私立探偵ブルーが変装した男ホワイトからブラックを見張るように依頼されるが、彼の日常には何の変化も起こらない。
ブルーは次第に不安と焦燥に駆られる…

読み始めたらなんだかどんどんはまっていく、不思議な話。
自分なりにいろいろ考えながら読むけど
とにかくブルーの不安感がものすごく伝染する。
なんだか落ち着かない、イライラしてくる。
ちょっとしたブラックの動きがブルーだけでなく読んでいるあたしまでうれしくなる。
読後はまた、少し考えてしまう。

この話って、「ニューヨーク3部作」の2作目らしく
まだ1作目の「シティ・オブ・グラス」も読んでないので、これらを読んだらまた感じが変わるかな。
それはそれで楽しみ。

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2022年02月03日

Posted by ブクログ

アメリカ文学に馴染みがなく、ポストモダンと言われても全くピンと来ない私。それ故に、難解なイメージが付き纏う「ムーン・パレス」以前の初期作品を敬遠していたが、<ニューヨーク三部作>の二作目にあたる本書は素直に楽しめた。終盤へ向かうに従い、不条理さを増す作風ではあるものの、読者を惹き付けるストーリーテリングの手法がこの頃から健在だったことが伺える。他者との関係性を以て、人は自身の実存性を認識するという件は後の「偶然の音楽」でもテーマになっていたが、個人のアイデンティティとは己が思う以上に脆弱で儚いものなのか。

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2022年01月27日

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