あらすじ
私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー……。'80年代アメリカ文学の代表的作品!(解説・伊井直行/三浦雅士)
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Posted by ブクログ
ポストモダニズムがどうとか、巻末にあった文章のようなことは難しくてわからない。作家たちの歴史を学ぶ必要がある。
ただ単純に、読んで、構造的な面白さが印象深かった。前衛アートのように構造を楽しむものなのかな、と思った。
主人公たる探偵ブルーは、ホワイトに「ブラックという男を監視してほしい」と依頼される。しかしブラックは日がな一日机に向かっていて、外出は散歩程度のものだ。依頼の意図も知らないブルーは焦れて、飽き、やがてホワイトとブラックについて物語を妄想したり、自己について深く考え込んだりする。ついにブラックと接触したブルーは、ブラックもまた誰かを監視するよう依頼された探偵だと知る。
監視する者と監視される者という立場があって、そして監視される者は監視する者でもある。この多層構造が面白い。読みながらここで「読者である私もまた、ブルーを監視している」と気づいた。そして私もまたブルーの小さな考えや変化について想像したり自分を顧みたりするのだ。
この本は章立てがなく、初めから終わりまでずっと続いていく。その作りも面白かった。それに登場人物の名前に個性がないから、私の頭の中の彼らはほとんど同じ顔だ。そういう奇妙さが楽しかった。
あとがき等を読むに、現在形で書くなど、原語では文章の作りも工夫してあるようだ。そのあたりは英語が苦手な自分としてはわからないので勿体無い。それにこれはニューヨーク三部作の2冊目らしく、他を読むと受け取り方が少し変わるらしい。機会があれば読んでみたい。
Posted by ブクログ
結末はあっけなく、とても不明瞭なものだった。
なのになぜこんなに満ち足りた読後感なのだろうか。
結末に至るまでの空想にふける時間がとても濃密で、思考するブルーを観測することを楽しんでいたからだ。
そしてブルーと同じくブラックとホワイトについて推理をする。文章から得られる情報を整理し余白に想い馳せることを繰り返す状態はブルーと同じ感覚だったし、ブルーが様々な変装でブラックに近づく場面でブラックが発した「幽霊たち」の状態そのものだろう。
ブルーと意識が近くなるにつれて、ブラックに少しでも動きがあると嬉しくなったりしていた。
ホワイト(ブラック)が書いた物語がブルーのことだとすれば、その正体はオースターだと仮定することもできる。そしてブルーは誰にもわからない場所へと向かう。ブルーもまた、我々自身と仮定することができるだろう。行き先は、誰にもわからない。