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Posted by ブクログ
読み終わった!なんじゃこりゃ。世にも奇妙な物語。整理するために感想を書く。
ポール・オースター名義の一作目『ガラスの街』に続いて二作目。
私立探偵のブルーは、ホワイトからの依頼で向かいの部屋からブラックの監視をする。ブラックは毎日本を読み、何かを書くだけの変わらない日常を続けている。それでも報告書を毎週送り続けるブルーだったが、だんだんと変化を欲する衝動と空想が拡がっていく。
またしても探偵小説風の始まり方で、前作『ガラスの街』と似たところもあるが、本作はさらに内省的で透明度も増している。前作の偏執な妄想を更に推し進めたような(まさに幽霊のような)掴みどころのない小説だった。それこそが狙いであると思う。
出版社も不安があったのか、あとがきには訳者の柴田元幸に加え、小説家の伊井直行、文芸評論家の三浦雅士の豪華三名が並んでいる。
しかし、あまり構える必要はない。難解な文章では全くない。語り口は心地よいのであまりストーリーを追おうとせずに、騙し絵を眺めるようにまずは楽しむのが正しい姿勢だと思う。ポール・オースターのユーモアは決して大きな声ではないが、耳を傾ける人を笑わせてくれる。
さて問題のストーリーだが、解釈は無限にできそうだ。オースター自身も、読者が楽しむための余白のある小説が好きだと語っている。
主人公のブルーは探偵としてブラックを見張っているうちに、自らの妄想に囚われていく。出来事は疑念を呼び、謎は晴らされることはない。更には疑念が現実を捻じ曲げるという逆転現象が起こる。
エッシャーの騙し絵に、二組のペンを持った手が、お互いを描きあっているというウロボロス的構図の絵がある。まさに本作ではブルーとブラックは循環構造となっている。
更に虚構と現実は「合わせ鏡」のように反射し合い、奥に行くにつれて像が濁り歪められ、幽霊のように朧げな存在となっていく。どちらかが去れば、どちらも居なくなる。
その歪み方の素晴らしさ。何よりもやはり文章が良い!上手いというより、味わい深い。ポール・オースターの派手さはないがドライブしながらじわじわ効いてくる文章は、好きな人は凄くハマるタイプな気がする。たまらん。
本作は前作『ガラスの街』のアイデアを更に推し進めたかなり野心的な作品で、そのうえで成功させているのは本当に素晴らしい。たまらん!
Posted by ブクログ
ニューヨークに住む若き探偵ブルーはとある人物の監視を依頼される。監視対象は毎日部屋で物を書いて過ごしている男で、いっこうに正体が判明しないのだが…という探偵小説風な始まり方をする観念的な物語。文章を書くということと書かれた文章を読むということ、あるいはシニフィアンとシニフィエ、書物・文章・作家・作品にまつわる抽象的な思索がそのままドライかつ叙情的な物語になっている。相変わらず腹が立つほど都会的でかっこいい。
ブルーがブラックを監視する様子は淡々としている一方で、合間合間にはさみこまれる思い出や、作家たちのエピソードがやたらと濃い。ホイットマンの脳みそとおまるの話やブルーと父親の思い出などがブルーとブラックの無味感想な生活にはめこまれて、宝石のように光っていた。それらが書かれた内容であり、ブルーたちは印刷された文字そのものなんだろうか。ただ、黄昏時の道端で、変装したブルーとブラックが仲良く座って語り合う場面だけは不思議と古い写真のように心に残る。ポール・オースター作品には大抵こうした強烈に視覚的な場面がある。
最後の暴力は男性小説家の手癖のように感じ、やや着いてゆけなかったが、もしかして文字や書物という死んだ物から生きた想像力を解き放つということなのか。だとするとかなりメタな物語だ。
ところでソローの『森の生活』はアメリカ人ですら挫折しやすいというのは少しホッとしたし、ブルーのつっこみも良かった。自分も正味2回くらい挫折しており、まだいちども最後まで読んだことがない。ブラックがブルーを必要とし、待っていたように、『森の生活』も我が本棚の奥で読まれるのを待っているのかもしれない。
Posted by ブクログ
「孤独の発明」は別として。ニューヨーク三部作を「孤独」というテーマで括るにはこの作品で。狭い世界で、登場人物の少ないところがうってつけかもしれない。
オースターの著作を発見したのは「孤独の発明」だった、それからは底に流れるテーマを読み続けてきたが、著作順でなく、この「幽霊たち」を自分なりに初期作品の区切りとして最後に持ってきたことを、自分で誉めたい気分になった。これはどの作品にも流れている「孤独」というテーマの究極の姿を著したものだと感じたからで。
解説で伊井直行さんは、
三部作はそれぞれ単独で読んでもなんら支障のない作品群なのだが、他の二編をあわせて読むと、一作だけ読んだときとは随分印象が違ってくる「幽霊たち」は特にそうだろう。だから却って、真っ先のこれを読んで、奇妙な小説世界を堪能してみる手がある ---といっては強引に過ぎるだろうか。
全く、私と同じ読後感をもつ人だと、僭越ながらひそかに喜んだ、先に読んで、スタイルのヒントにするのは勿論いい、そして「幽霊たち」を最後に読んで、初期からの作品と三部作はこうしてテーマで繋がっている、と感じることも、オースターの作品を読む楽しみ方のひとつであってもいいのではないだろうか。
「幽霊たち」は奇妙な話で、世界がごく狭い。色の名前のついた人物たちが登場する。まず探偵のブルー、その師匠のブラウン。仕事として見張るように言われた対象のブラック、最初は謎の人物として現れるホワイト。脇役のレッドとゴールドもちょっとした彩を添えている。
ブルーはブラックを見張り続けている。定期的に報告書を送ればいい楽な仕事で、真向かいのマンションの部屋から見ていると、ブラックは一日机の前で何か書いている、作家らしい。
ブラックの生活パターンは見張る必要もない単調なもので、ブルーは変化のない時間に倦んで疲れて、次第に見張っている自分について考えるようになる。そしてついにたまりかねてブラックに接触を試みる。
彼と四方山話をするが、なかでも彼の作家の孤独についての話に心を引かれる。
会うことが重なってくると、ブルーはブラックの窓越しに感じる孤独が自分のものと同化してくるのを感じる。
お互いに身分が同化しお互いが裏表のように分かちがたくなったと感じ始めた朝、彼はブラックの部屋に入っていく。
長く見張るだけの生活はブルーの精神を現実生活から遠ざけ、存在の曖昧な時間を作り出していた。
こうして、奇妙な二人の人間が出会って別れる。ブルーはブラックを打ち倒し、現実であって非現実な感じのまま生活の中に戻ったが、いつか彼はブラックの世界に入ってしまっている。
色の名前のついた人たちは、ある意味人間の最大公約数であって裏返せば最小公倍数でもある。数字というものの意味を生物に置き替えれば、目にする複雑な色は突き詰めれば単純ないくつかの混色であり、違ったように見えても非現実的な世界でそれを見たり感じるとすれば、共通する感情や数字に変換されたものが絡み合っていることに過ぎず、いつか全ての根はゼロが虚数になるかも知れない、などと思いながらこの三部作を締める自分なりの感想にした。
Posted by ブクログ
探偵ブルーはホワイトから、ブラックを見張ってほしいという依頼を受ける。
ブルーはブラックの真向かいの部屋に住み観察を始めるが、彼の行動はといえば、何か書きものをしているか、散歩しているかのどちらか。
事件らしい事件も起こらず、ただブラックを見張り続けるほか何もすることのない日々に、ブルーはじりじりと焦燥感を募らせる。
無機質なニューヨークの街の中で、物語は色彩を失っていく――。
『書くというのは孤独な作業だ。それは生活をおおいつくしてしまう。ある意味で、作家には自分の人生がないとも言える。そこにいるときでも、本当はそこにいないんだ。』
『また幽霊ですね。』
『その通り。』
『何だか神秘的だ。』(引用)
書くということとアイデンティティをテーマに据えた、煙に巻かれるようなお話。
柴田元幸氏の訳が大変素晴らしく、何度も読み返したい。
Posted by ブクログ
1947年ニューヨーク、私立探偵ブルーは、ホワイトという男からブラックという男を見張り、報告書を送るよう依頼される
ブルーはブラックの部屋の向かいにあるアパートに住み、見張り始めるが、何も起こらない。監視を始めて1年が過ぎた頃ブルーは見張られているのはむしろ自分なのではないか、という疑念を抱き始める
よく理解できなかったのでまた時間をおいて読み直したいと思う。そしたらまた違う解釈がでてくるかもしれない。
私には難解でした。
〈考察〉
ブラックについて⋯
ブラックは自分を見ているブルーを必要としていた。自分が生きているあかしとして。自分が何をしていることになっているか、自分自身が忘れないため、ブルーはブラックを見張り、決して目を離さずその視線を食い込ませた。自分の存在証明をさせるためにブルーが必要だった。
そしてブルーがいたから、なすべき仕事をやり遂げられた。ブラックが書いていたのは、ブルーの報告書をもとにしてかいたブルーの物語。
ブルーについて⋯
ブルーは反対に何ひとつ成し遂げていない、ブラックを見張ったその日からずっと失われたままの状態。いつも一人で、自由ではなく、束縛された状態で。
自分の人生を築きあげてもいない。現実を生きていない。そのかわりにブラックを見張り、観察し、ブラック自身が存在していることを証明していた。
ブルーは自分がブラックの存在証明させられていたことに、そのことに怒りに駆られてブラックを叩きのめしたのだろうか?
自己のアイデンティティを喪失しかけたことに腹を立てたのだろうか?
自分がブラックと一体化しているように思えたり、反対に切り離されていると思えたりして、自分が誰なのかもわからなくなってきてた
孤独を感じ恐怖を感じ、なぜこんなに目まぐるしく、両極端の心理を行ったり来たりするのか、わからなくなってた
自分が現実世界で何も無く、ブラックの書いた小説の中でしか生きていないことに怒り、失望したのだろうか?
最後ブルーは現実の世界を生きることを、選び飛び出して行く⋯。
相手のアイデンティティの証明のために自分がいるのではなく、自分が自分の現実を生きるために。
ということなのだろうか?
厚みの薄い本なのに、私には読み込むことがとても難しかった⋯。
また読み返したい。その時には新たな解釈が生まれるかもしれない。
Posted by ブクログ
私立探偵ブルーは、明らかに変装しているホワイトという男から、ブラックという男を見張るよう、依頼を受ける。
最近ブラウンから探偵事務所を受け継いだばかりのブルーは、張り切って見張るのだが……。
依頼人が用意した見張るための部屋は、ちょうどブラックの部屋が正面から見張れるような位置にあった。
充分に報酬が支払われ、見張り部屋の家賃も支払うって、どれだけ重要なミッションなんだよ!
ところがブラックときたら、毎日窓辺のデスクで何かを書き、本を読み、買い物に出、たまに映画を観たり、飲みに行ったり。
こんな生活が1年以上続く。
一体ブラックは何者で、何のために彼を見張らなければならないのか。
登場人物の名前が全て色の名前であることからわかるように、人物はつまり人格ではなく、記号的存在なのである。
なのに、なんとしたことだろう。
ブラックの日々の生活(読む、書く、たまに映画と酒)は、まるで私の生活ではないか。
短い小説ですが、読み落としの内容にじっくり読んだら、結構時間がかかりました。
そのうえで感想はというと、『ゲド戦記』みたいだなあ、と。
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