柴田元幸のレビュー一覧

  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    1947年ニューヨーク、私立探偵ブルーは、ホワイトという男からブラックという男を見張り、報告書を送るよう依頼される
    ブルーはブラックの部屋の向かいにあるアパートに住み、見張り始めるが、何も起こらない。監視を始めて1年が過ぎた頃ブルーは見張られているのはむしろ自分なのではないか、という疑念を抱き始める


    よく理解できなかったのでまた時間をおいて読み直したいと思う。そしたらまた違う解釈がでてくるかもしれない。
    私には難解でした。


    〈考察〉
    ブラックについて⋯
    ブラックは自分を見ているブルーを必要としていた。自分が生きているあかしとして。自分が何をしていることになっているか、自分自身が忘れないため、ブルーはブラックを見張り、決して目を離さずその視線を食い込ませた。自分の存在証明をさせるためにブルーが必要だった。
    そしてブルーがいたから、なすべき仕事をやり遂げられた。ブラックが書いていたのは、ブルーの報告書をもとにしてかいたブルーの物語。

    ブルーについて⋯
    ブルーは反対に何ひとつ成し遂げていない、ブラックを見張ったその日からずっと失われたままの状態。いつも一人で、自由ではなく、束縛された状態で。
    自分の人生を築きあげてもいない。現実を生きていない。そのかわりにブラックを見張り、観察し、ブラック自身が存在していることを証明していた。

    ブルーは自分がブラックの存在証明させられていたことに、そのことに怒りに駆られてブラックを叩きのめしたのだろうか?
    自己のアイデンティティを喪失しかけたことに腹を立てたのだろうか?
    自分がブラックと一体化しているように思えたり、反対に切り離されていると思えたりして、自分が誰なのかもわからなくなってきてた
    孤独を感じ恐怖を感じ、なぜこんなに目まぐるしく、両極端の心理を行ったり来たりするのか、わからなくなってた

    自分が現実世界で何も無く、ブラックの書いた小説の中でしか生きていないことに怒り、失望したのだろうか?


    最後ブルーは現実の世界を生きることを、選び飛び出して行く⋯。
    相手のアイデンティティの証明のために自分がいるのではなく、自分が自分の現実を生きるために。

    ということなのだろうか?

    厚みの薄い本なのに、私には読み込むことがとても難しかった⋯。
    また読み返したい。その時には新たな解釈が生まれるかもしれない。

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    2026年07月03日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    NYタイムズ「21世紀名著 100選」に入らないわけがない。
    間違い電話をきっかけに探偵を名乗ることになった推理作家が、NYの街を行く迷宮ミステリー。

    ザ・ポストモダン。反推理小説にあたるでしょうか。探偵行動を続けるほどに哲学的要素が積み重なり、言葉やアイデンティティが壊れてゆく。
    不条理がオモロ怖くなりつつ…なんというかオースターのペンがノっているような、キャラが縦横無尽に動いているような感覚も。

    ガラスのように脆いのは常識や自我や概念か。セオリーをあえて外すところも含め、オースターによる小説独自のアソビがただただ見事でした。

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    2026年06月19日
  • バウムガートナー

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    晩年の作品には、正しく晩年であることを表して(オースター作品らしからず)穏やかな場面が多いが、通底して、「人から見える世界は全てその個人の脳内にある」という世界観なので助かる。
    誰かから見える世界は、親しい人の死や社会を揺るがす事件と同様に、それに対して反応する個人の脳内のイベントに支配される。
    内面に閉じた世界観を描くということについて圧倒的な信頼があるため、オースターを好きで居続けてきた。
    そしてここまで期待を裏切らずに居続けてくれた作家は他にいなかった。

    本作でも、バウムガートナー氏の他に登場する人物はいるが、全て氏の脳のフィルターを通した描写のみで進む。
    重要に見えない細かい風景描写が何ページも続いたり、重要そうな事件の描写が一行で終わるのも、個人毎にフィルターを通した物事の見え方がそれだけ異なる事を意味する。
    読んでいると、人が脳内で孤独である事を肯定されているような静かな気分になれる。

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    2026年06月16日
  • バウムガートナー

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    アメリカの70歳の大学教授が主人公。
    妻を亡くした喪失感の中、身体も精神も衰えてくる。
    悲しみに沈んでばかりもいられず、日々の暮らしを送っていると、希望の光も見えてくる。
    若い頃のキラキラな回想や自分のルーツを巡る話も展開される。
    少し混沌としてるけど、これが生きてきた証のようだ。

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    2026年06月07日
  • 囚人のジレンマ 下

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    ネタバレ

    W・ディズニーが作った虚構の町ワールド・ワールドで17歳の父エディは、ミッキーの助言を受けながら1939年13歳からの人生を1945年までたどる。1945年現実と思われる世界線ではアラモゴード基地におり、原爆実験の光を浴びたときに世界線は交わる。そこで現実の世界線に収斂したようだが、今度はエディは虚構の町ホブズタウンをテープに吹き込み始める。
    1978年エディは病院を抜け出しアラモゴードを目指す。そこで世界線は再び融合したようで、エディは現実の世界線から消える。

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    2026年06月03日
  • 囚人のジレンマ 上

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    ネタバレ

    1978年のシカゴ近郊から始まり、高校の歴史教師の父の1939年NY万博の記憶から飛び飛びに記憶が挟まる。父は、1939年万博と1945年にW.ディズニー(この世界線では日本人の血を引く)が日系人収容者を活用してつくる映画のセットの町にインスパイヤされた虚構の世界にも生きているよう。徐々に謎が見え始める。
    知識とクイズと文字遊びとゲームが満載。

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    2026年06月10日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    一人の老人の、生の記録
    といっても寂しさとは無縁の、にぎやかさに満ちたもの
    登場人物の誰もが生き生きとしていて、ブルックリンという街の息遣いも感じられた
    もう少し、歳を取ったら再読したい
    また違った感想を持てると思う

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    2026年05月29日
  • サンセット・パーク(新潮文庫)

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    それぞれの事情を持った4人がサンセット・パークで過ごす数ヶ月間の物語。
    学生の頃から、ポール・オースターが好きで、久しぶりに読みたくなり購読。

    “青春群像劇”とは銘を打っているが、いままで読んできた青春小説とはだいぶ趣がことなる。それもそのはず、この小説の名は『サンセット・パーク』、つまり日が沈みゆくような仄暗い背景を舞台にした物語なのだ。

    この本が書かれた当時、世界金融危機が起きた直後だった。先行きが不透明な社会情勢と、自分が何者になれるのか、あるいはなれないのかという将来への不安と希望を抱く若者達の心の葛藤が、同じような色調で物語に彩りを与えている。

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    2026年05月25日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    最初は一本の間違い電話から。小説の最後まで、「間違い」「選択」というキーワードがあったように思います。少し難解でしたが、三部作ということでゆっくりと他の二作も読んでみたいと思います。

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    2026年05月20日
  • バウムガートナー

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    なかなか読む覚悟を決められずに購入して5ヶ月くらい積読していたけれども意を決して読みました。

    第1章は読むのに少し根気を要したけれども、その後バウムガートナーとアンナそれぞれの過去や家族のルーツを遡っていく様はまさに自分が好きななオースターでした。



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    2026年05月19日
  • バウムガートナー

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    これが最後の長編小説という先入観があるせいか、喪失の悲しみと、老いやその先にある死への諦念が色濃く感じられました。再生とか、ここからもう一花、みたいな明るさを見出した人もいるようなのだけれど、わたしには人生の最終章という印象のほうが強かった。なんかずっと寂しかったです。たとえば秋の景色に対して、きらきらと日の光を受けて輝く紅葉や落ち葉のじゅうたんが美しくて好ましいと感じる人がいる一方で、冷たい風を受けて散っていく葉や道路をカラカラと駆けてゆく枯葉に心がざわついてうら寂しさを感じる人もいますよね。この本はわたしにとっては後者の景色。オースターはどんな思いで書いていたのだろう。

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    2026年05月07日
  • バウムガートナー

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    笑えるのに笑えない。泣けるのに泣けない。
    枯淡の境地なんてどこ吹く風の、初老の男を巡る物語。

    思い通りにいかない老いた体への諧謔と、縦横無尽に展開される思考の渦と、あたふたとした日常の瑣末時のごった煮の中に、失った人生の伴侶への愛、若き日々の一コマ、奇跡のような喜びの瞬間が、突然一筋の光として差し込まれる。

    そして、オースターが最後の一行に込めた力強い宣言は、逃れがたい現実に満ちた人生を、煌めくジョークとスリリングな冒険へと変えてくれる。


     “生きるとは痛みを感じることであり、痛みを恐れて生きるのは生きるのを拒むことなのだ。”

     “ある出来事が真実として受け容れられるためには、それが真実でなければならないだろうか、それとも真実だと信じる気持ちがあれば、たとえ起きたとされることが本当には起きていなくても、それだけで真実になるものだろうか”

    引用した二つの文章があらわすとおり、リアルな痛みに目を凝らすこと、そしてリアルを超えた真実に目を向けることのどちらをも、オースターはいつだって飄々と自在に行ききする。
    老いも、病も、死の予感も、自由な精神を阻むことはない。

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    2026年05月03日
  • デカルトからベイトソンへ――世界の再魔術化

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    解かれた魔術と再びかけられるもの。

    個人としてではなく社会として、共有不能な神秘体験ではなく科学的手法の更新により、事実と価値とを再統合する。
    今の時代に、グレゴリー・ベイトソンを学ぶ。

    ・情感もまた理性と同様に厳密な演算規則(アルゴリズム)に基づいている

    ・違いを生む違い

    ・学習Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ

    ・全体論はただし危ない論理に陥り易い

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    2026年05月24日
  • トム・ソーヤーの冒険

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    子ども時に読んだ記憶はありますが、ふと手に取り読みました。
    今の時代ではコンプラだらけの内容ですが、子供の頃この冒険を読んで胸が躍った記憶が蘇りました。
    大人の目線と子供の目線では捉え方が変わる本ですが、どの世代が読んでも楽しめる一冊だと思いました。

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    2026年04月24日
  • トム・ソーヤーの冒険

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    初めて読んだ。軽快でテンポがいい部分と、何この話!?という部分とが入り混じって不思議な読書体験。キャラクターを好きにもなれないし嫌いにもなれないし、距離感が絶妙な話でした

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    2026年04月22日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    私立探偵ブルーは、明らかに変装しているホワイトという男から、ブラックという男を見張るよう、依頼を受ける。
    最近ブラウンから探偵事務所を受け継いだばかりのブルーは、張り切って見張るのだが……。

    依頼人が用意した見張るための部屋は、ちょうどブラックの部屋が正面から見張れるような位置にあった。
    充分に報酬が支払われ、見張り部屋の家賃も支払うって、どれだけ重要なミッションなんだよ!
    ところがブラックときたら、毎日窓辺のデスクで何かを書き、本を読み、買い物に出、たまに映画を観たり、飲みに行ったり。

    こんな生活が1年以上続く。
    一体ブラックは何者で、何のために彼を見張らなければならないのか。

    登場人物の名前が全て色の名前であることからわかるように、人物はつまり人格ではなく、記号的存在なのである。
    なのに、なんとしたことだろう。
    ブラックの日々の生活(読む、書く、たまに映画と酒)は、まるで私の生活ではないか。

    短い小説ですが、読み落としの内容にじっくり読んだら、結構時間がかかりました。
    そのうえで感想はというと、『ゲド戦記』みたいだなあ、と。

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    2026年04月08日
  • ガラスの街(新潮文庫)

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    一本の間違い電話をキッカケに自分がポール・オースターという名の探偵となる作家ダニエル・クイン

    自分の気配を消し、探偵のふりをするうちに、自分という個の意識から自由になるかわりに自分を見失っていく話

    探偵となった主人公が何かを解決することもなく⋯うっすら根底に不穏な雰囲気を醸し出している

    「何者でもない自分」を演じ、そのように振る舞い、それが継続されていくと自己は自分を認識できずに混乱していくのか?、と思い至った

    ほの暗い色彩のないグレーな印象で少々気分が下がるけど
    なぜかこの著者の本を他にも読んでみたいと思った
    あと柴田元幸さんの翻訳がうまいと思う

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    2026年04月07日
  • トム・ソーヤーの冒険

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    積読状態にある「ジェイムズ」……。
    何となく「ハックルベリイ・フィンの冒険」を読んでから手に取ろうと思っていたが、どうせならトム・ソーヤーも読んでおこう、と。
    多分、子供の頃に児童書で触れたような気も……でも、内容はよく覚えていなかったので。

    改めて読むと、ポリー伯母さんの髪が真っ白になるのもよくわかる(笑)
    牧歌的な時代の、トム・ソーヤーの冒険譚、単なる童話というだけに収まらない。少年の自尊心や畏れ、悪に憧れはあるが、本当の悪には決して染まらず、いい意味でのスラップスティック的要素と、根底にあるキリスト教的信仰、それをも超越するハックの目線。
    事件も上手くハメ込まれ、こんな話だったっけ……と、読みながらにして思う。
    大人になってしまったからこそ、また童心に戻れ、楽しめたような気もする。

    さて、次は「ハック」の物語を読んで、それから「ジェイムズ」へ。
    いつになるかは分からないけれど(笑)

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    2026年03月30日
  • オズの魔法使い

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    ウィキッドを見たこともあり読んだ。
    作者が最初に述べているように、辛い場面がなくトントンと物語が進んでいく。
    特にメッセージや教訓を込めていないと言っているが、だからこそ不思議な魅力を感じる話であった。

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    2026年03月28日
  • プロット・アゲンスト・アメリカ

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    わりと困惑させられる「だーいどーーーんでーーーんがえしーーー!!!」みたいのがあって、おいおいそれでええんか?『夜と霧』みたいなシリアスさの偽史ものとして読んでいたのに。終盤で『アフリカンカンフーナチス』みたいになっちゃう(というのはさすがにいいすぎ、でもいいたかった)のはつっこまれるべきだろう。
    民族差別が、全面的な抑圧ではなくて分断と懐柔により達成される、というのは極めて今日的。フルコース食べてる時にワインのグラスを倒してシルクのクロスとメインディッシュがびちゃびちゃになるみたいなイヤァ〜な怖さでよかった。
    市井の人の意地や信念みたいなのを描くのが上手な人。登場人物の内心でなく言動を描写して思想的変遷や敗北を示すあたり、アメリカっぽい。

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    2026年03月19日