あらすじ
ピーター・バラカン
「持ち寄ったレコードを黙って聞き、意見を一切言わない。この極度のオタク行為に潜む意義はあるのか、答えはまだ出ませんが、一気に読んでしまいました」
直枝政広(カーネーション)
「明かされるタイトルだけを頼りに、読みながらプレイリストを作った。音楽の迷路に迷い込む気持ち良さを存分に味わった。答え合わせは後のお楽しみだ」
月曜の夜、パブの小部屋に3枚のレコード盤を持ち寄り、厳格なルールのもとにただ黙って聴く──ストイックな倶楽部は順調に育っていくかに見えたが、やがてライバルが出現し、分裂の危機に揺さぶられる……トマス・ピンチョンがデビュー作を賞賛、イギリスならではの乾いたユーモアの名手が送る現代社会の寓話。
作中には60年代以降のロック、ポップスのタイトルが無数に登場するが、ミュージシャンやバンド名はいっさいナシ。そんな意地の悪い小説だが、作者本人がSpotifyに“The Official Forensic Records Society Playlist by Magnus Mills”と題したプレイリストを公開中!
訳者・柴田元幸によるあとがき、注解とマグナス・ミルズの著作ガイドとともにお楽しみ下さい。
訳者あとがきより───
人物の過去も背景も示さず、ほかに何をやっているかも伝えず、ひたすらひとつの営みに携わるさまを、比喩などのレトリックにも頼らず描く。そうやって自主的に素材を貧しくすることを通して、この作家ならではの、オフビートな可笑し味が生まれてくる。無表情で可笑しいことを言ったりすることを英語ではdeadpanと呼ぶが、マグナス・ミルズほどdeadpan humourに長けた書き手もそうザラにいない。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
作品紹介・あらすじ
「俱楽部を作るんだよ。レコードをじっくり、
綿密に聴くことだけを目的にした俱楽部を。
いわば鑑識的に、いっさいの邪魔を排して聴くんだ」
月曜の夜、パブの小部屋に3枚のレコード盤を持ち寄り、厳格なルールのもとにただ黙って聴く──ストイックな倶楽部は順調に育っていくかに見えたが、やがてライバルが出現し、分裂の危機に揺さぶられる……トマス・ピンチョンがデビュー作を賞賛、イギリスならではの乾いたユーモアの名手が送る現代社会の寓話。
作中には60年代以降のロック、ポップスのタイトルが無数に登場するが、ミュージシャンやバンド名はいっさいナシ。そんな意地の悪い小説だが、作者本人が“The Official Forensic Records Society Playlist by Magnus Mills”と題したプレイリストをSpotifyで公開中!
*****
パブの奥にある部屋で、各自が持ち寄ったレコード(シングルに限る)をコメントも感想も一切なしにただただ聴く。何か感想を言ったり、蘊蓄を垂れたり、ワイワイガヤガヤと曲について語り合うことは一切禁じられている。これが本書の舞台になっている鑑識レコード倶楽部のルール。持ち寄られるレコードはロック関係が多く、本書の語り手は1枚のレコードを選ぶのにかなり逡巡する。それだけ真剣な倶楽部なのだけれど、このルールに息苦しさを感じ、反旗を翻そうとするメンバーも出現。また対抗するような倶楽部(これが新興宗教みたいになっていく)も登場。といった展開が描かれている。
レコードに関する小説、ということで、僕は音楽、特にロックをベースに話が進むのかと思っていたのだけれど、そうではなかった。もちろん、小説内には様々な楽曲が登場するが、歌詞の内容は記されているけれど、それが誰の何という曲なのか、という表記はほとんどなし。あとがきで柴田元幸さん調べによるリストがあるので、それを参考にすれば判明はするのだけれど。ちなみに僕は上の「作品紹介・あらすじ」で紹介されているSpotifyのプレイリストを聴きながら読み進めていった。ちなみにSpotifyのプレイリストには再生不可な楽曲を含めて148曲が登録されている。
音楽、特にロックに関する小説かと思って買ったのに、そうではなかったので、では面白くなかったのか、というとこれがとても面白かった。章立ても登場人物の詳細な描写も、気の利いた比喩もまったくなし。レコードを聴いて、独裁的なリーダーに反発し、語り手に反抗的な女性バーメイドがいて、敵対する倶楽部が登場し、それでも最後は落ち着くところに落ち着く、そんな感じ。シンプルに物事が語られ、語り手の心情の変化や苦悩、葛藤なども冷めた調子で表現されている。それなのに、どうしてこんなに面白いのだろう、と疑問に思うくらいに面白く読み進められた。
最後に。もし僕がこの「鑑識レコード倶楽部」に参加しませんか、と誘われたら、「月に1回なら」と答えると思う。月に1回くらいなら、ものすごく真剣に、それこそ1枚のレコードを選ぶのに大変な思いをしてもいいかな、と思う。でもやはりレコード(音楽)は肩ひじ張らずに気軽に聴きたいし、その曲に対してああだ、こうだと蘊蓄や感想を語り合いたいと思う。
Posted by ブクログ
とにかく一人称の語りで物語が淡々と進む。過去の回想シーンなど一切なく、1〜3章のような仕切りもない。比喩的な表現もなく、余計なものを削ぎ落とした文体がなぜか心地いい。
その文体だからか、何度も同じ箇所を読み返すようなこともなく、1日で読み終えた。
「登場人物を回想しないから感情移入がしづらい」、「比喩表現がないから物語に広がりがない」、のにめちゃくちゃ面白い。オフビート映画に出逢ったときのような静かな余韻を感じる。
Posted by ブクログ
パブの奥の部屋で、持ち寄ったレコードを一切のコメントも感想もなしでただ聴く倶楽部。この設定だけで既にクスクス笑ってしまう。
何かの比喩なのかなと思うと、そうでもなくて。でもどこか不条理の匂いもあって。
あとがきでトービー・リット氏による書評に触れられていて、そこに「人が何らかの『私たち』を築くとたん、それに応えて『彼ら』が形成されることをミルズは示唆している。」とあり、そんな大仰な意図あるかな?とも思いながら、でも読みながら感じた可笑しさと不条理感は、確かにそれに由来するのかもと思う。