柴田元幸のレビュー一覧

  • ガリバー旅行記

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    朝日新聞で連載されていた翻訳の単行本化。連載で読むのはもったいなくて、書籍になるのを待っていた。

    注釈が多いので、読むのが大変だなと連載時には思ったが、世相や権力への皮肉が込められている内容が多く、注釈がなければ意味が分からないところも多い。この本には、青空文庫では得られない喜びがある。

    ガリバーはどの国に行っても王、帝から寵愛を受ける。まあ、そうしないと生き抜いていけないわけで、ストーリー上困るからだろうが。

    しかし、何度も難破したりして訳の分からないところに流れ着いて、その度えらい目にあうのに、まったく家に居つけないガリバーは異常だ。こんな亭主を持ったら、大変である。

    最後は嘘をつ

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    2022年10月30日
  • 鑑識レコード倶楽部

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    パブの奥の部屋で、持ち寄ったレコードを一切のコメントも感想もなしでただ聴く倶楽部。この設定だけで既にクスクス笑ってしまう。
    何かの比喩なのかなと思うと、そうでもなくて。でもどこか不条理の匂いもあって。

    あとがきでトービー・リット氏による書評に触れられていて、そこに「人が何らかの『私たち』を築くとたん、それに応えて『彼ら』が形成されることをミルズは示唆している。」とあり、そんな大仰な意図あるかな?とも思いながら、でも読みながら感じた可笑しさと不条理感は、確かにそれに由来するのかもと思う。

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    2022年10月10日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    いままでに読んだポール・オースター作品で、いちばんサクサク読めた。役者あとがきにある通り、軽いというか。
    帯には奇跡の物語とかなんとか書いており、まぁ間違ってはないのだが、しかしその言葉からイメージするような大感動の物語ではなく、やはりポール・オースターらしい奇妙な偶然の連続のお話。

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    2022年10月09日
  • 写字室の旅/闇の中の男(新潮文庫)

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    160「写字室の旅」
    もう時期死ぬと思っている人間は、書くことを許されたとたんにむねのうちを紙にさらけ出すものだ。

    204「闇の中の男」
    書物は読み手に、何かを返すこと、自分の知能と想像力を使うことを強いるが、映画はまったく受身の状態でも観ることがー愉しむことすらーできる。

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    2022年09月28日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    ブルックリンを終の住処にしようとする50代の男の主人公とその甥、その甥の妹の娘の3人で始まる奇妙な関係と暮らしと、詐欺まがいの事を企む古書店主…色んな話が絡んでくるけど、田舎のホテルに滞在するエピソードと、アクセサリーを作るとても美しい女性のエピソードが好き。

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    2022年08月28日
  • 鑑識レコード倶楽部

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    「レコードを聴くこと」が主要なテーマ (というよりそれしかない)作品なので、作中に出てくる曲を聴きながら読むと作品世界に入り込んだような錯覚にも浸れて面白さが何倍にも膨らみます。

    自分は普段漫画や小説が映画化されたりすることに特別興味を持っているわけではないのですが、この作品に関しては生身の人間が演じる芝居として観たらものすごく面白いんじゃないかと思います。

    しかも、映画じゃなくて舞台演劇で観たい。
    絶対ありえない妄想として書くなら、鑑識レコード倶楽部を主宰するジェームズは山下達郎さんに演じてほしい。そんなの面白くないわけがない。

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    2022年08月10日
  • 幽霊たち(新潮文庫)

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    事件らしい事件は最後まで全く起こらない。主観と客観がグチャグチャしててブルーとブラックがだんだん一体化していくような不思議な感覚になった。

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    2022年08月04日
  • 小説の読み方、書き方、訳し方

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    翻訳家・柴田元幸さんと作家・高橋源一郎さんの対談本です。

    柴田元幸さんの翻訳のお仕事に触れたのは、オースターのニューヨーク三部作とミルハウザーをひとつ、といったくらいです。印象としては、「透明な触媒」としての翻訳、です。翻訳者の癖というか、翻訳者自体の声や匂い色、もっというと人となりって、どうしても翻訳された作品からかすかにではあっても感じられがちだと僕は思っていて。それが柴田さんの翻訳だと、翻訳者は薄いフィルターとしてだけあって、外国人の作者のほうを大きく、そして近く感じるんです。翻訳者の存在が、無色無臭っぽい。

    柴田さんは翻訳を、原文が自分の中を通り抜けていく通過時間がゼロに近ければ近

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    2022年05月17日
  • 舞踏会へ向かう三人の農夫 下

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    題名と表紙に釣られてジャケ買い。
    1914年に撮影された一枚の写真を元に、往時と現在(しかも現在の登場人物は二人)を話が錯綜する。
    話の終着点が見えず、手探りで読み進める感覚は久しぶりであった。
    作者のある種衒学的なところが多分に含まれているが、語られる、人から人へ伝えられる「物語」とはどのようにして成り立つのかを考えさせられる作品。

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    2022年04月13日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    様々な人生が凝縮されたような濃い一冊。

    六十歳を前に、妻と離婚して静かに人生の結末を迎えようとブルックリンに帰ってきた主人公ネイサン。
    街のの古本屋で甥のトムと再会してから、運命の歯車が回り始めます・・。
    アメリカらしい皮肉のきいた文章で繰り広げられる悲喜こもごも。
    タイトルの“フォリーズ”=愚行という事で、皆何かとやらかしています。
    ネイサンをはじめ、甥のトム、姪のオーロラ、古本屋のオーナー・ハリー等々・・。
    読みながら、“あぁ、アメリカの人も色々しんどいんだなー・・。”と胸に刺さるものがありました。
    内容的にヘビーな部分もあるのですが、ウィットに富んだ文体のおかげで重くならずにすんでいる

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    2022年02月27日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    ハリーの人物像は、とにかく魅力的で、大好きだった。危なっかしいところもあるが、こんな友人がいたらなあ、と思う。映画を観ているような気分になり、ハラハラしたりしながらも楽しい。ただ、9.11の陰が。実は深刻な背景があることを、知って驚いた。

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    2021年12月02日
  • ロード・ジム

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    雑誌BRUTUSの村上春樹特集で、本人が選んだ51冊のブックガイドの中でまだ未読だったものの1冊。コンラッドの名作『闇の奥』は読んでいたのだが、同じ語り手マーロウが登場する他作品ある、というのはそもそも知らなかった。

    コンラッドの作品は、基本的に植民地支配がテーマであり、本書ではインドネシアのスマトラ島が舞台となる。主人公は、多くのイスラム教巡礼者を乗せた客船が沈没寸前となったことから客船を見捨ててボートで逃げ出したイギリス人航海士のジムという男である。彼が自らの名誉を回復せんがごとく、スマトラ島の未開の地を開拓し、現地人のリーダーとしてコミュニティを作っていく・・・というのが大まかなあらす

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    2021年10月24日
  • ロード・ジム

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    ノルウェイの森の永沢が敬愛する作家の一人として挙げていたジョゼフ・コンラッド。漠然とした興味で手に取ったのが本作。既訳が何個か出ているが柴田訳を見つけるまでに何度も挫折。最初から柴田訳を見つけておけばよかった。。
    訳文を読んだだけで原文のコンラッドの英語の硬質そうな感じが伝わってくる。感情の描写では一読しただけでは理解に苦しむ部分も多く、なかなか噛み砕けなかったが風景の描写自体はかなり克明というかリアルで海原を進む船の様子がはっきりとイメージできた。
    爆笑問題の太田が本作を「線路に倒れた人を助ける勇気がないのが人間だが自問自答を続けることで助けられるようになるのも人間なのだと教えてくれる作品」

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    2021年10月19日
  • 雲

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    ネタバレ

    ネットで見かけて。

    端的に言えば、一人の男の人生のお話。
    しかも若くして恋に破れ、それを引きずる男のお話。

    これだけだと全く面白そうなストーリーではないし、
    話の展開も何があるわけでもない。
    微妙に不思議な場所や、不思議な人たちが出てくるが、
    全くの異世界というわけでもない。

    幻想的な話は、えてして猟奇的であったり、
    怪奇的であったりと、不快な何かを伴う場合が多い気がする。
    このお話も決して気持ちの悪い場面もあるが、
    全体的にはふわふわとした心地よい感じで
    読み進めることができる。

    何と言って面白いわけではないし、
    「人生の軌道が丸ごと変わった忘れようない体験」も普通だし、
    「雲」を巡

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    2021年07月19日
  • 雲

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    柴田さんが訳なのと、ほんの分厚さに惹かれ手に取った。読み始めたらめちゃくちゃ面白い。村上春樹の長編好きは、絶対好きだと思う。

    でも、期間があいてしまったのが原因かもしれないけど、終盤がトーンダウンって感じで面白くなかった。序盤中盤と面白かっただけに残念だった。貸出期間内に読み切れなかった自分のせいなのかなー。そんなわけで−☆

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    2021年01月12日
  • 雲

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    エリマコはどれを読んでも面白いが、今回は「おいてけぼり度」「変態度」が低くて、自分的には肩すかし。じっくり読めるが、主人公がねー「自分がない」人間で、世話焼かれすぎ、流されすぎで、当然、何度もヤ○マンにひっかかるのよ。そのたんびに悲劇のヒロイン扱い、ク○ビ○チを聖女扱い、なんだこれ。○ッチとはそういう生き物。災害と一緒。かかわる方が駄目。多分皆さんには評判良さそうな本だけど、今までの「未完成な感じ」に惹かれてた自分には、ちょっと疲れる作品だった。「野生の王国」感はとても堪能した。

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    2020年10月30日
  • 雲

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    ネタバレ

    不思議な小説だなあと思いながら、ぐいぐい引き込まれてしまった。ところどころのグロテスクな描写やエピソードに「こういう風に表現する必然性はあるのか?」と首を傾げながら読み、印象的なエピソードにも「これがどんな風に発展していくのか?」と気にしたりしていたけれど、本書の紹介文の「ゴシック」という表現に納得。
    別に必然性もないけれど、そういうものなんだと。とにかく、全体を貫く印象は「不穏」。
    すっきりとした解決はないけれど、この雰囲気を楽しむ小説なのだと理解した。

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    2020年09月22日
  • インヴィジブル

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    1967年の春に文学部の学生の私は、コロンビア大学2年生の時にフランス人客員教授のルドフル・ボルンと、その同棲相手のマルゴに出会った。
    親族から遺産を継いだというボルンは、一度しか会っていない私に雑誌を作る支援を申し出てきた。
    ボルンはその時35歳、皮肉さと頭の良さは持っていたが、どこかしら人と違うおぞましさのようなものを感じさせた。しかし私は魅力的なマルゴと、雑誌援助の話を手放せずそのままボルンとの付き合いを続ける。
    破滅はすぐにやってきた。ある晩道で銃を持った男に脅されたボルンは、迷わずナイフで男を刺殺した。
    私が警察に言うか言わないかで悩んでいるうちにボルンはパリに姿を消す。

    そして4

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    2020年08月07日
  • 雲

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    メキシコの古本屋で見かけた古書「黒曜石雲」。それはスコットランドのダンケアン町に起きた不思議な気象状況に関する記述だった。
    ダンケアン。その名前に私の心は乱れる。それはまだ若かった頃の私が数ヶ月の間滞在し、情熱的な恋をして、そして酷く破れて去った炭鉱の町だった。

    ここから物語は、ハリー・ステーンという名前の”私”の人生の回想となる。
    ハリーは世界を回る生活だった。
    生まれたのはスコットランドの工場町のトールゲートというスラムだった。大学を出て教師になるために訪れたのがダンケアン、恋に敗れてどこかへ行こうと船乗りとして海に出る。しばらくアフリカに滞在して、カナダに家を持つが仕事でまた世界を回る

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    2020年08月04日
  • ハックルベリー・フィンの冒けん

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    数年前に同翻訳者のトムソーヤを読んで世界観に引き込まれ、かなり楽しかった思い出があった。ハックの話も読みたいと思いつつ、単行本でやや高めの値段設定なので躊躇していた。しかし夏はやっぱり少年の話が読みたくなるよなーと思い満を持して購入!内容は期待を裏切らず、楽しめた。ハックもジムも現代に生きる私からすると耐えられないって思うような立場に追い込まれたりしているのに、お互いの存在が支えになっているのか、次々と道を切り開いていって、かなり勇気がいる選択もしている。愛すべき2人のキャラクターに敬意を感じる。

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    2020年07月24日