柴田元幸のレビュー一覧

  • 写字室の旅/闇の中の男(新潮文庫)

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    1人の老年男性が主人公の中編2編からなる本作。
    いずれも静かな語り口で、著者独特の画中画のような構造は共通しているものの、物語の雰囲気は少し違います。
    とはいえ、いずれもどこか“不安”や“不穏”が付きまといつつ、どっぷりとその世界に浸って読書時間を堪能しました。
    ポール◦オースター的世界に浸れる良作だと思いますが、もう新作を読めないのかと思うと非常に残念でなりません。

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    2025年02月13日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    狂った若者とイカれた老人とのキテレツな関係も、読み進めるうちに頼もしいコンビのように思えてくる。
    主人公と関わる登場人物の多くは、割り切れない葛藤と独りよがりでもそれを打破する工夫や拘りが散りばめられている。狂っていてもイカれていても同じ人なんだと思えた。

    タイトルにある「ムーン」という言葉が、全編に渡って多くの描写に使われているのも読み終えて納得。
    これは読んで良かった。
    自分の人生の終盤にもう一度読むといいかもしれない。

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    2025年01月18日
  • 英日バイリンガル 現代ゴシック小説の書き方

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    なかなか興味深いエッセイだった。子供の頃に難解な本を読んで、分からない言葉があったり理解出来なくても、得るものは時にすごく大きかったりすること。これは本当にそう思う。今でも難解な読書体験をすることがあるけど、これがいつ深い理解や気づきに繋がるか分からない。英語も口語的で分かりやすいので、英語の勉強にもオススメ。

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    2025年01月16日
  • ムーン・パレス(新潮文庫)

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    最後の1章が良かった。
    最後の章の為に、それまでの複雑に絡み合ったストーリーを読んできた甲斐があったと思えた。

    最初から最後まで主人公には共感できず、途中で語られる砂漠での物語は正直つまらなかったが、この小説を貫く哀しい諦観のような空気感は楽しめた。その哀しさを最も感じられたのが最後の章であり、最後、主人公が到達した浜辺で見上げた月は、この物語中に一貫して存在する哀しさの象徴に思えた。

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    2025年01月15日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    ブルックリンって書いてあったからリサイクル本を購入。
    読み終わった後にポールオースターって見て納得。
    そして驚き。笑
    結構好きな作家だし作者見ずに読んでても無意識に好きなの選んでる…!

    割とリアルなニューヨーク(ブルックリン)の人たちって所が良かった。
    全然キラキラしてないの。
    みんな人生こんなもんじゃないかな。
    ハリーだけがある意味キラキラかな。

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    2025年01月13日
  • 4 3 2 1

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    遂に、読み終わった…
    1947年生まれのポール・オースターによる自伝的小説

    戦後史において恐らく最も激動だった60年代を若者として生きることは、自らの可能性が何通りにも分かれパラレルワールドの如く並行して存在するように感じるのかもしれない

    面白かった!

    自伝的小説というより、彼の世代の大河ドラマと言うべきか

    青春の戸惑いと喜びを書かせたら彼の右に出る者はいない
    身体と精神の変化、神との関わり、性愛、クィア、闘争、死…
    辟易しないのは、この小説のスタイルと、彼の「小説と思弁的な散文のあいだの微妙な線を歩く術」のおかげだ

    そして、
    今の制度がダメだからと革命を起こそうとして失敗したのが60-70年代なのであり
    現代は問題も多いが、革命的に根本から変えようとするのではなく、目の前のことにひとつひとつ取り組むしかないというエピソードが最後の方にあったのもよかった

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    2025年01月04日
  • 4 3 2 1

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    面白い!790ページの物語に一週間どっぷり浸かって、まずはそう言い切れる。が、いやー疲れたってのも本音。
    ひとたびファーガンソン君を好きになってしまえば、横溢する詩、書物、音楽、そして映画の固有名詞も、ファーガンソン君を形成していく重要なピースとして愉しく読める。
    しかし、教養といってしまえばそれまでだが、誰の本に感銘を受け、どの映画が最高かを論じるのが友情を築く土台だとすると、僕などは全く資格に値しないのは残念なところ。ファーガンソン君は1960年代アメリカの空気を胸いっぱいに吸いこんで青春を駆け抜けていく。

     “これまでファーガンソンはいつも、人生は一冊の本に似ているとあらゆる人から言われてきた。(中略)しかし、時間は前と後ろの両方に動くのだ。本の中の物語は前にしか動かないから、人生は本という比喩は当たらない。(中略)
    時間が双方向に動くのは、人は未来へ一歩踏み出すごとに過去の記憶も運んでいくからだ。まだ十五にもなっていないファーガンソンだが、自分の周りの世界は自分の中の世界によって絶えず形作られていると分かるくらいの記憶は既に蓄積していた。(中略)
    人間はみな同じ空間を共有することで互いにつながっているけれど、時を経てゆく一人ひとりの旅はみな違う。それぞれがみんな少しずつ違った世界に生きているのだ。
    そこで問うべきはーファーガンソンは、いまいかなる世界に棲んでいるのか、その世界は彼にとってどのように変わったのか?”

    ちょっと長いが、この引用箇所に本書の面白さが詰まっている。

    大きなストーリーやプロットというより、むしろファーガンソン君の経験した膨大なエピソードの集積によって本書は物語られてゆく。時代背景には忠実で、奇想天外や幻想的というよりも描写はリアリスティックに進んでいく(もちろんオースター的な仕掛けは施されている)。
    しかし、リアリズム小説らしく書かれていても、ご都合主義的な展開は山盛りで、それと同じくらい悲劇が不意打ちに現れるのも、実にオースター的。
    でもきっとオースターなら、リアルな人生ってのは、はそんな“偶然”に満ちているよなって言いそうだ。

    大事なのは人生の岐路を選択することにあるのではなく、あらゆる可能性と矛盾に満ちた人生を生きてゆくこと。本書でもオースターは、そんなことを思わせてくれる。

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    2025年01月04日
  • 英日バイリンガル 現代ゴシック小説の書き方

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    作品紹介・あらすじ

    エッセイで指南し、
    小説で実践してみせる。
    当代一の書き手によるゴシック入門。

    エドガー・アラン・ポー、ウィリアム・フォークナーから始まり、内田百閒、伊藤潤二、柴崎友香、『鬼滅の刃』までのゴシック、ホラーの作品世界を、現代アメリカの最重要ゴシック作家のひとりブライアン・エヴンソンが語り尽くす。書き下ろしを含むゴシック小説4編(うち3編は本邦初公開)と、柴田元幸との対談も収録。完全英日バイリンガル本。

    *****

    ブライアン・エヴンソンは大好きな作家の一人。今のところ翻訳されている彼の作品は「遁走状態」と「ウインドアイ」の二冊だけだけれど、僕は二冊ともに五つ星にしている。

    そんな彼の短編4本とエッセイ2本、そして柴田元幸との対談が収録されているのが本書。「英日バイリンガル」となっているのは左ページにブライアンによる英語、右ページに柴田元幸による日本語訳、両ページの下段に日本語による訳注が掲載されているため。英語の勉強にもなりますよ! ということになる。そして本の表紙には横尾忠則の「Y字路」という作品が使用されている。

    エッセイや対談も面白く、ブライアンの人柄なども窺い知ることができるのだけれど、やはり4本の短編が僕にとってはメイン。そのうちの1編「ザ・パニッシュ」は柴田元幸編集による文芸雑誌「Monkey Vol.2」に掲載済であるが、残りの3本は本書の為に書き下ろされたもの。「紫の野菜」は軽めでちょっとコミカルな印象の作品だったけれど、「痕跡を残さぬ顔」と「ぐっすりお休み」は僕にとって絶品。特に「ぐっすりお休み」は最後「おお、そうきたか」と思わせてくれた。ちなみに「ザ・パニッシュ」も嫌な感じがずっと残るような作品だった。

    調べてみるとブライアンはかなりの作品を出版している(短編集だけでなく長編やノンフィクション、他者との共著もある)。ざっと数えただけでも30冊を超えているのに、翻訳されたのはたった2冊というのはちょっと寂しい。僕にもっと英文読解の才能があれば洋書で読めるのにという気持ちもあるが、才能のない物ねだりをしても仕方ない(悲)。柴田さんに頑張ってもらって、もっと翻訳して欲しいなと願っている。

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    2024年11月20日
  • 冬の日誌/内面からの報告書(新潮文庫)

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    オースターの訃報に悲しみながらじっくりと。
    主語?を「君」にして幼い頃からを振り返るのと、もっと混乱に満ちた青春の日々を語る2篇の自伝。瑞々しく、ロマンチックで、かえすがえすももうほぼ新作が読めないのが寂しい。

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    2024年11月09日
  • 写字室の旅/闇の中の男(新潮文庫)

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    ネタバレ

    前回読んだ『幽霊たち』も、主人公が「自分が何者かわからない」状態から本当の自分に戻っていく話だったけどこういう作風なのか。
    オチが興奮するタイプのものじゃなくて静かに取り残されて終わっていくのだが、私は結構好み。

    まだ著者の作品は3作しか読んでいないが、主人公が自身の内面と対話している様子を俯瞰したり時には自分とリンクさせたりしながら本と精神的に繋がっているような感覚になる。

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    2024年10月01日
  • プロット・アゲンスト・アメリカ

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    直前に読んだアガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』が、”リンドバーグ誘拐殺人事件”を下地にして書かれていましたが、本作でも言及されていました。読書していると、不思議な繋がりって結構あるものですよね。

    小さな単葉機を操縦し、人類初のニューヨーク=パリ間の大西洋単独無着陸飛行を達成したリンドバーグ。アメリカ国民に絶大な人気のあった彼は、親ナチス的で反ユダヤ人主義の考えを持つという別の面も持っていました。本作は、そんな彼が世界大戦の嵐吹き荒れる1940年に、もしローズベルトの代わりに大統領になったら……という歴史改変小説。

    アメリカ国内に限れば、戦争に参戦せず、強制収容所もない平和な国を装っていますが、主人公一家のようなユダヤ人にとっては、国のトップが反ユダヤ人であれば、自ずと生きづらい風潮が周囲に浸透していきます。

    そうして徐々に地域社会が分断されたり、家族や近所の家庭が崩壊していく様子が、子供の視点からリアリティある描写で書かれており読み応えがありました(冷静に考えると、かなり怖いことが起きていることが分かります)。ワシントンへの家族旅行の話しや、戦争から帰ってきた従兄弟を伯父が叱責するところ、終盤での母親の変化など印象的なシーンも多かったですね。ただし、そんなに細かいことまで書かなくてもいいのに……と思う箇所も多々ありましたが。

    ところで、主人公の少年は切手収集が趣味で、作中に何種類か出てきました。自分も作中の”植樹の日”の2セント切手などを久しぶりに手元で眺めながらの読書は、主人公のように子供の頃を思い出して、いい読書体験ができました。

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    2024年09月05日
  • デカルトからベイトソンへ――世界の再魔術化

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    世界観と社会構造 こてまで哲学とは個人の生き方を追求していく思想と考えていたが、この本を読んで、哲学の世界観が科学の発達を含めて我々人間社会に多大な影響を与えていることを考えさせられた。
    筆者は、これまでの伝統的な西洋の世界観はいわゆるデカルト的思考体系であり、そこではものを知るには最小の単位にわけること(原子論)、世界は物体と運動の二者ですべて形作られている(宇宙像)とされてきた。ガリレオやニュートンの発見もこれらの世界観に基づいたものである。ただ、この考え方は「参加しない」意識が前提にあり、その為に最近ではいろいろなところで行き詰りが感じられつつある。これに対してペイトソンは自然を我々との関係の中で明らかにしていく世界観を提唱している。それは事実と価値は不可分(デカルト的には無関係)であり、循環的な世界観(デカルト的には直線的)である。
    本書はこのような新しい世界とのかかわり方、自他がどう?がるかを重んじる生き方へ移行すべきではないかと訴えている。

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    2025年12月16日
  • 雲

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    南米で『黒曜石雲』という古書を手に取った「私」は、そこにスコットランドのダンケアンという地名を発見して驚愕する。それはかつて「私」が逃げるように立ち去った場所だった。一人の男の半生記に奇妙で不条理なエピソードを散りばめた、著者の集大成的な長篇小説。


    マコーマックによる果てしない自己言及の物語。自作のパロディや再話がふんだんに入っていて、マッドサイエンティストがでてきたり南国に対するエロティックな妄想が爆発していたりと『パラダイス・モーテル』『隠し部屋を査察して』の要素が踏襲されていながらも、訳者あとがきで柴田さんが言うとおり、ビザールな悪趣味だけじゃない温かみを感じられるのが今までと違うなと思った。
    すでに成立している男女ペア+語り手(男)という三角関係が何度も繰り返されるのは、語り手が孤児になったことと関係があるのかな。「本当の愛」を問い続ける語り手はずっと精神的に幼く、二人組のなかに招かれながらもペアが抱える秘密は共有してもらえずに子どものような扱いを受ける。ダンケアンでの大失恋がかなりリアルな事情(「こいつは父の介護に耐えられない」という見切り)だったり、最後には「本当の愛」というロマンティシズムの裏の無責任さが暴かれたり、精神的に成熟できなかった男の話だと思う。
    でも語り手のパーソナリティなんか本当はどうでもよくて、ヒゲの先を二つに分けて鈴をぶら下げてる医者だの、全身植物の刺青が入っている女たちだの、挿絵をどこまで拡大しても細部が精緻に描かれている豆本だの、次から次へと開陳される奇想の連鎖に身を任せるのがマコーマックの楽しみ方だろう。この人は人類学者と作家とマッドサイエンティストを同類とみなしているんだと思う。観察し、分析し、書くことで対象から安全な距離を取る簒奪者たち。
    黒曜石雲と黒い雨は、インクによって書かれ、読者に覗き込まれている世界のメタファーなのではないか。私たちは自分が誰かの手で書かれた物語の登場人物なのではないかと空を見上げて悟る日がある。だが、すぐにそんなことは忘れて日常に戻っていく。『黒曜石雲』を起点として紡ぎだされる「私」の人生も、雲の形のように意味を見いだそうと思えば見いだせそうなそうでもないような、座りの悪いエピソードの連なりだが、その説明のつかなさこそが現実に似通ってみえるのだ。

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    2024年07月01日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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    人生には時おり、アルコールの方が食物より滋養に富む瞬間があるものだ。

    世界を変えるのは無理でも、せめて自分を変えようと試みることはできる。

    書くということが病だからです。

    物語が続くかぎり、現実はもはや存在しないんです。


    とてもよかった。アメリカ行きたいなぁ。

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    2024年06月16日
  • 翻訳夜話

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    ネタバレ

    この本のここがオススメ

    「とにかく、いくつも、いくつも、いくつも、いくつも翻訳をやるしかないと思うんです。その中で自然に出てきます。それしかないです。頭で自分のスタイルを作らなくちゃと思って考えても、それは無理です。積み重ねの中で出てくるものだから」

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    2024年06月07日
  • インヴィジブル

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    話し手がコロコロ変わる構成。最後まで誰が何をしてこうなってるのか分からず、先を知りたくて一気読み。
    伏線は回収されつつも、結局何が本当だったのか。
    しっくりこなくてイラつくというよりもその逆で、完全にやられたという感じ。
    最後まで読んだうえでもう一度読みたい小説。
    ひとりの女たらしで身勝手な男の生き方を書いてるけど、それに否が応でも惹かれてしまう周りの人間も全てクソやったという、、、

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    2024年06月01日
  • ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫)

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     自己紹介を兼ねた序章で、本書の主人公は3歳の時以来56年ぶりにブルックリンに戻ってきたと書かれている。肺癌を患い、目下のところ小康状態で、生まれ故郷のブルックリンで過ごすことにしたと。病気のためか明らかにしていないが、仕事はリタイアしたと。くしくも、日本でいう定年退職の年頃だ。

     定年退職者の日常となると、1か月前に定年退職を迎えたわが身としては他人ごとではないが、平穏なわが身と異なり、主人公はいろいろな人と関わり、周辺でいろいろな出来事が起こる。タイトルのフォリーズ( ”愚行” や”愚かな”) の意味の通り、客観的に見れば、些細で愚かなことかもしれないが、ご隠居の視点から見ると、関わる人々のなんと愛しいことか。愚かなことの積み重ねかもしれないが、人生は愛するべきもので、かけがえのなさが伝わってくる。

     ウイット、ユーモア、やさしさの普遍性が伝わってくる。ニューヨーク・ブルックリンであれ、日本の片田舎であれ、ご隠居の境地には通じるものがある。

     60歳で今更だが、小説や映画で ”米国人” が 『愛している』と言っている意味が分かったような気がする

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    2024年05月25日
  • プロット・アゲンスト・アメリカ

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    おそらく名著と呼ばれるであろう類の作品。
    なのだが、私にはだいぶしんどかった。ようやく読み終わった、というのが正直な感想。

    1940年前後の、本当にあった史実から、反ユダヤ思想をもった(これも史実である)チャールズ・リンドバーグが大統領になるというIFを乗せて物語がスタートする。
    アメリカは決して戦争に与しない。そのためであれば、ナチスとでも仲良くするし、そのおかげで我が国は戦争にも巻き込まれず平和ではないか、という主張で妄信的な支持を得る。
    その一方で、彼が発する様々なユダヤ人を圧迫する施策(これがタイトルの”Plot Against America”の由来となる)により、国内にユダヤ人差別がじわじわと、確実に広がっていく。
    その恐怖をユダヤ人の少年(著者の分身であるフィリップ・ロス)の視点で描くという構図。

    物語自体は決してつまらないわけではない。ただ、少年の語り口という設定を考慮に入れたとしても、若干メリハリを欠く冗長な記述が多い。
    ここまで説明しなくてもいいだろうに、という部分が随所に見られ、テンポの悪さを感じてしまう。

    そういう技巧的な部分はもとより、なにより辛かったのはこの「ユダヤ人差別」というテーマそれ自身。
    人間の認知的な欠陥、そして欠陥ゆえ避けられないどうしようもない愚かさが少年という純粋な存在によって観察される。
    しかもその少年自身ももちろん人間であり、その欠陥にくわえ、「幼さ」という欠陥(愚かさ)が見事に記述されている。
    ここは、作者の筆致の粋、技巧的には素晴らしい部分だと思うが、この部分が技巧によって際立つにつれ、読む方としては辛くなる。

    さらに私は声の大きい人間が大嫌いなので、この物語に出てくる数々のアジテーターと、それに扇動される民衆がきつくて仕方ない。

    ただ、こういう物語は、今でこそ読まれるべきだとも感じている。
    この物語で描かれている”IF”は、今、世界各地で現実になっている。
    余裕がなくなった人間は、簡単に人を区分けして、自分の側ではない人間を排除することで安寧を得ようとするのだ。
    だってそれが、一番認知的負荷がかからない楽な方法だから。
    人間の脳は、負荷がかかるのを避けるように出来ている。
    だから、見た目とか、ちょっとした考え方とか、目に見える単純なもので脳に楽なように区別する。
    これ以上機能的に進化しないと、なくならないんだよ。Discriminationって。
    こんな偉そうなこと言っている私だって、条件が揃ったら差別的思考に陥る。
    避けられない。

    そういう現実を改めて見せつけられるという意味でも、辛かった。
    ただ、何百万年後にちゃんと進化するためには、この現実を今、考える必要があるんだと思う。

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    2024年05月20日
  • 写字室の旅/闇の中の男(新潮文庫)

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    ニューヨーク3部作からオースターを読んでる身としては、
    この2作は本当にニューヨーク3部作との関係性で語りたくなる作品。
    というのはあの3部作はまさに「作家が小説を書くというのはどういうことか」をめぐる3作だったわけだし、
    もちろんその後の作品でもそういった問題意識を提示してきたけれど、
    この2作は本当にそこを前面に押し出して「書くものの責任」「書かれた世界への畏怖」みたいなものを強く感じます。

    「写字室」はコミカルであり、ファンサービス的な部分を感じたけれど、「闇の中の男」は後半の作家を殺さなきゃならないって部分で緊張感が高まるし、映画化もあるんじゃないかと感じました。
    スパイク・ジョーンズとかチャーリー・カウフマン辺りが映画化したらおもしろそう。

    ただ写字室は原書で10年以上前に読んでたけれど、闇の中男こそそのころに読んでおくべきだった。
    ブッシュ、イラクというワードが出てくる感じはやはり911以降のアメリカへの憂いが色濃く出てて、もちろん今も状況はちっともよくはなってないけれど、それでも10年前に読んでたらもっとぐっときたんじゃないかな。

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    2024年05月06日
  • 冬の日誌/内面からの報告書(新潮文庫)

    購入済み

    オースターファン向けです。
    『孤独の発明』を30代の頃に書いたオースターが歳をとり自分の身体史・精神史を振り返ります。個人的には「冬の日誌」の方が好きかな。
    ここから大作『4321』に繋がるわけですがこちらはまだ未訳…。

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    2024年08月17日