柴田元幸のレビュー一覧
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朝日新聞で連載されていた翻訳の単行本化。連載で読むのはもったいなくて、書籍になるのを待っていた。
注釈が多いので、読むのが大変だなと連載時には思ったが、世相や権力への皮肉が込められている内容が多く、注釈がなければ意味が分からないところも多い。この本には、青空文庫では得られない喜びがある。
ガリバーはどの国に行っても王、帝から寵愛を受ける。まあ、そうしないと生き抜いていけないわけで、ストーリー上困るからだろうが。
しかし、何度も難破したりして訳の分からないところに流れ着いて、その度えらい目にあうのに、まったく家に居つけないガリバーは異常だ。こんな亭主を持ったら、大変である。
最後は嘘をつ -
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翻訳家・柴田元幸さんと作家・高橋源一郎さんの対談本です。
柴田元幸さんの翻訳のお仕事に触れたのは、オースターのニューヨーク三部作とミルハウザーをひとつ、といったくらいです。印象としては、「透明な触媒」としての翻訳、です。翻訳者の癖というか、翻訳者自体の声や匂い色、もっというと人となりって、どうしても翻訳された作品からかすかにではあっても感じられがちだと僕は思っていて。それが柴田さんの翻訳だと、翻訳者は薄いフィルターとしてだけあって、外国人の作者のほうを大きく、そして近く感じるんです。翻訳者の存在が、無色無臭っぽい。
柴田さんは翻訳を、原文が自分の中を通り抜けていく通過時間がゼロに近ければ近 -
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様々な人生が凝縮されたような濃い一冊。
六十歳を前に、妻と離婚して静かに人生の結末を迎えようとブルックリンに帰ってきた主人公ネイサン。
街のの古本屋で甥のトムと再会してから、運命の歯車が回り始めます・・。
アメリカらしい皮肉のきいた文章で繰り広げられる悲喜こもごも。
タイトルの“フォリーズ”=愚行という事で、皆何かとやらかしています。
ネイサンをはじめ、甥のトム、姪のオーロラ、古本屋のオーナー・ハリー等々・・。
読みながら、“あぁ、アメリカの人も色々しんどいんだなー・・。”と胸に刺さるものがありました。
内容的にヘビーな部分もあるのですが、ウィットに富んだ文体のおかげで重くならずにすんでいる -
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雑誌BRUTUSの村上春樹特集で、本人が選んだ51冊のブックガイドの中でまだ未読だったものの1冊。コンラッドの名作『闇の奥』は読んでいたのだが、同じ語り手マーロウが登場する他作品ある、というのはそもそも知らなかった。
コンラッドの作品は、基本的に植民地支配がテーマであり、本書ではインドネシアのスマトラ島が舞台となる。主人公は、多くのイスラム教巡礼者を乗せた客船が沈没寸前となったことから客船を見捨ててボートで逃げ出したイギリス人航海士のジムという男である。彼が自らの名誉を回復せんがごとく、スマトラ島の未開の地を開拓し、現地人のリーダーとしてコミュニティを作っていく・・・というのが大まかなあらす -
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ノルウェイの森の永沢が敬愛する作家の一人として挙げていたジョゼフ・コンラッド。漠然とした興味で手に取ったのが本作。既訳が何個か出ているが柴田訳を見つけるまでに何度も挫折。最初から柴田訳を見つけておけばよかった。。
訳文を読んだだけで原文のコンラッドの英語の硬質そうな感じが伝わってくる。感情の描写では一読しただけでは理解に苦しむ部分も多く、なかなか噛み砕けなかったが風景の描写自体はかなり克明というかリアルで海原を進む船の様子がはっきりとイメージできた。
爆笑問題の太田が本作を「線路に倒れた人を助ける勇気がないのが人間だが自問自答を続けることで助けられるようになるのも人間なのだと教えてくれる作品」 -
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ネタバレネットで見かけて。
端的に言えば、一人の男の人生のお話。
しかも若くして恋に破れ、それを引きずる男のお話。
これだけだと全く面白そうなストーリーではないし、
話の展開も何があるわけでもない。
微妙に不思議な場所や、不思議な人たちが出てくるが、
全くの異世界というわけでもない。
幻想的な話は、えてして猟奇的であったり、
怪奇的であったりと、不快な何かを伴う場合が多い気がする。
このお話も決して気持ちの悪い場面もあるが、
全体的にはふわふわとした心地よい感じで
読み進めることができる。
何と言って面白いわけではないし、
「人生の軌道が丸ごと変わった忘れようない体験」も普通だし、
「雲」を巡 -
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1967年の春に文学部の学生の私は、コロンビア大学2年生の時にフランス人客員教授のルドフル・ボルンと、その同棲相手のマルゴに出会った。
親族から遺産を継いだというボルンは、一度しか会っていない私に雑誌を作る支援を申し出てきた。
ボルンはその時35歳、皮肉さと頭の良さは持っていたが、どこかしら人と違うおぞましさのようなものを感じさせた。しかし私は魅力的なマルゴと、雑誌援助の話を手放せずそのままボルンとの付き合いを続ける。
破滅はすぐにやってきた。ある晩道で銃を持った男に脅されたボルンは、迷わずナイフで男を刺殺した。
私が警察に言うか言わないかで悩んでいるうちにボルンはパリに姿を消す。
そして4 -
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メキシコの古本屋で見かけた古書「黒曜石雲」。それはスコットランドのダンケアン町に起きた不思議な気象状況に関する記述だった。
ダンケアン。その名前に私の心は乱れる。それはまだ若かった頃の私が数ヶ月の間滞在し、情熱的な恋をして、そして酷く破れて去った炭鉱の町だった。
ここから物語は、ハリー・ステーンという名前の”私”の人生の回想となる。
ハリーは世界を回る生活だった。
生まれたのはスコットランドの工場町のトールゲートというスラムだった。大学を出て教師になるために訪れたのがダンケアン、恋に敗れてどこかへ行こうと船乗りとして海に出る。しばらくアフリカに滞在して、カナダに家を持つが仕事でまた世界を回る