夏目漱石のレビュー一覧

  • 私の個人主義

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    明治44年に関西でおこなった講演4本プラスその3年後の学習院での講演となる表題作。

    どうでもいいと言えばいいのだが、一連の講演旅行であった関西での4本が、多少重なり合うとは言えそれぞれ別々のテーマとなっているのは面白い。聴衆は当然、毎回違うわけだから同じ話を4回すればよかろうという気もするが。新聞への掲載、または事後の出版を前提としていたのか。

    最初の4本がどちらかと言えば聞き手を面白がらせる軽妙洒脱さに重きをおいているのに対して、「私の個人主義」はこう生徒たちに訴えかけるような重さがある。中身には大きな違いがないがトーン&マナーにおいてちょっと違う感じ。脈絡ないのだがマックス・ウェーバー

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    2019年07月07日
  • 三四郎

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    水村美苗の「日本語が亡びるとき」でしきりに取り上げられていたので読んでみた。
    今の小説との決定的な違いを言葉にすることはできないが、独特の雰囲気や良さがあると思う。重さも軽さも混在している。

    三四郎の若い時代に何もできなかった苦い恋愛経験が描かれているので、なるべくなら若いときに読んでおきたい作品かな。

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    2024年10月28日
  • 明暗

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    夏目漱石の最後の作品にして、執筆途中で作者病没のため未完で終わった長編作品。
    188回、手元にある岩波文庫で「吾輩は猫である」を越える581ページありますが、最期の作品ということで文章もかなり熟れていて読みやすく、読み始めるまでは決心が入りましたが、読み始めると意外に早く読み終わりました。
    作中の文章のうち会話文が多くを占めていて、かつ本作中のキャラクターは曲者だらけなので、会話内容は苛烈なものが多く、登場人物による謀り、誤魔化しも多いため読み始めると区切りまで読まないと気が収まらないような内容になっているためかと思いました。
    また、一つの会話が終わると続いて次の役者が登場するような構成になっ

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    2019年04月28日
  • 行人(新潮文庫)

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    人の心が病んでいくのが顕在化されるのは近代になってからなんだろうか。

    寄り添える人がいることでまだ歩み続けられたら、その一方でこのまま静かに眠り続けられたら。

    どちらがよいのだろうか。

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    2019年04月02日
  • 硝子戸の中(新潮文庫)

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    ネタバレ

    夏目漱石の家を訪れた人、過去の友人や知人、家族などの思い出を淡々と書き連ねた作品。
    今風で言うところの"自分語り"と揶揄できるかもしれないが、読んでいると目の前で漱石が自分に語りかけているような感覚を覚える。
    この本を読めば、漱石の思想に直接的に触れることができる。
    圧倒的語彙力は同作でも健在で、夏目漱石は日本語の天才だと改めて思う。

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    2019年03月20日
  • 二百十日・野分(新潮文庫)

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    ネタバレ

    40代に迫ったころの夏目漱石が書いた、短編と中編の二篇。
    『吾輩は猫である』を書いていた漱石が、
    この作品では社会に挑むようなテーマを扱っています。

    「二百十日」はほぼ会話でできあがっている作品。
    阿蘇の山に登るための旅中の会話が主体なんですね。
    主人公の二人はところどころとぼけていて、
    まるで落語みたいだなあと思いながら、おもしろく読めていく。
    主人公の一人、圭さんが剛健な人物で、
    当時の金持ちや華族連中の存在がいけない、
    という持論を展開していきます。
    それでも、冗談を交えた日常会話文ですから、
    論理がむずかしいということもなく、
    読者の気持ちもそこに乗り移るように、
    男気ある好人物との

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    2019年03月01日
  • 行人

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    後期三部作の2作目。
    後期三部作は話としてつながるように意図された作品ではなく、各作品で方向性は違うのですが共通のテーマを持った作品となっています。
    彼岸過迄では、須永がその気もない女性であるはずの千代子に縁談が上がるや否や嫉妬の炎に身を燃やすというエゴイズムと、そんな己の感情に苦しめられる様が描かれていましたが、本作においても自分と外界のギャップを許容できず苦しむ男が描かれています。
    彼岸過迄では須永がコントロールできない感情からエゴにまみれた嫉妬をしてしまう話でしたが、本作は彼岸過迄よりテーマとしてはもう少し昇華していると感じました。
    主人公の兄・長野一郎は学者で、何事も深く考える性質があ

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    2019年01月27日
  • 道草(新潮文庫)

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    自伝要素のある漱石の小説のなかでは、あまり好きではない。
    学者として成功したものの、金をせびりにくる養父や、厚かましい親族、そして仮面夫婦のような細君との距離感。リアリティがありすぎて、逆に重い。

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    2018年12月31日
  • 門

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    夏目漱石の前期三部作の3作目。
    「三四郎」、「それから」に比較すると知名度が低く、三部作を上げたときに思い出せない作品だと個人的には思ってます。
    ストーリーも他の2作と比較すると地味で、カタルシスを感じるようなシーンなどもなく、平坦な日々を送る主人公「野中宗助」とその妻「御米」夫婦の苦悩を描いた作品となっています。
    三部作の他の2作同様、夏目漱石らしい直接的ではない表現が多々用いられており、それが返って情景描写を鮮やかにするのは変わらないのですが、本作はそもそも何が起きたのか、物語の核となるストーリーが深く語られないままとなっていて、人によってはよくわからない、面白くないと感じる可能性がありま

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    2019年01月03日
  • それから

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    主人公は数えで30になる青年「長井代助」。
    彼は裕福な家に生まれており、実家のお金で一人暮らしをして書生を置き、読書をしたり演奏会に行くなど、働かずに自由気ままに生きています。
    夏目漱石の作中でしばしば登場する高等遊民と呼ばれる人々の代表格として挙げられることが多い人物です。
    代助は作中、友人の平岡の「何故働かない」という問いに「日本対西洋の関係が駄目だから働かない」と答えます。
    曰く、「西洋の圧迫を受けている国民は、頭に余裕がなく碌な仕事ができない」、「悉く張り詰めた教育で目の廻るほどこき使われるから揃って神経衰弱になる」と、そして、「働くなら生活以上の働きでなくちゃ名誉にならない」とも述べ

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    2018年12月24日
  • 思い出す事など 私の個人主義 硝子戸の中

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    漱石の有名な大量吐血事件後に、漱石が感じた死生観などのエッセイでかなり深刻な内容かなーと思っていたら洒落がきいた漱石節の方が印象的でした。

    純文学ならではの少しムツカシイ言い回しの表現ですが、「俺の悩みなんてこの広い宇宙に比べたら…( ´-` )」なんて事を綴っていたので少しクスッとできました(笑)

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    2018年12月20日
  • それから(漱石コレクション)

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    漱石お得意の友情の絡む三角関係もの。主人公は秘めた思いに気がつかず友人に恋人を斡旋してしまうが、このシチュエーションは現代感覚では起こりにくそうです。恋愛感は例えばこの時代は親が結婚相手を決めるのが主流だっただろうし。
    主人公が親のスネをかじり続けつつ、お手伝いさんをおいて一人暮らしをしている状況、食うために働くのは負けと嘯き、周りの人々を見下す考えなどを読み手が許せるかで共感度が変わりそうです。自分は残念ながら共感度は低かったです。
    知的な文体は読みにくいけど味わい深いです。何度も読んで楽しむ一遍と感じました。

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    2018年12月16日
  • 三四郎

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    夏目漱石の前期三部作と呼ばれる3作(三四郎・それから・門)の一作目。
    この3作は独立していて主人公も別、世界観に繋がりもないのですが、なんとなく前の物語から次の物語に続くようになっていて、前作の主人公が成長すると次の作品の主人公のようになり得る、次の物語のようになっています。

    本作の主人公「小川三四郎」は九州の田舎から上京してきた大学生で、純朴さの残る素直で真っ直ぐな青年です。
    三四郎が東京でいろいろな人や考えに触れ、体験し学ぶ話なのですが、どのような物語であるかを説明しようとするとどうも難儀します。
    何を書き出そうとしても言葉にした途端に違うものになるというか、日本語って存外不自由なんだな

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    2018年12月15日
  • 硝子戸の中(新潮文庫)

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    夏目漱石が、主に生と死について書いた随筆集。夏目漱石が謙虚で誠実な人だったということが伝わってくる。読み物として普通に面白いからおすすめ。

    100年も昔の文章なのに、何の違和感もなく読めてすごいなあと思う。誰にでも読める文章で詩的に、生死というものを書き表している。

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    2018年12月04日
  • 彼岸過迄(新潮文庫)

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    さすがに濃厚な内容でした。読むのに骨を折ってしまい、時間がかかりました。
    が、さすが文豪、これぞ文学といった「構成」。
    難解ではありながら、読んでいると腑に落ちる「文体」。
    人物の細かな心情変化、とくに「男性の嫉妬心」「猜疑心」を絶妙に表現していました。

    夏目漱石の文学的知識が多少なりともあるからこそ、読み進めていけるけれど、現代小説に慣れきってしまうと、漢文の素養をいかんなく発揮した回りくどい漱石の言い回しは読みにくく感じてしまうかもしれません。
    が、夏目漱石の表現は、大げさに思える比喩の一つ一つを繋げていくことで「ああ、これしか表現のしようがない」と思えるようなもので、咀嚼して読んでいく

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    2018年10月30日
  • 吾輩は猫である

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    夏目漱石の処女作。小学生低学年のうちの子が知っていたこともあり、氏の著作で一番有名な作品だと思います。
    主人公は英語教師の苦沙弥先生にひょんなことから飼われることになった一匹のネコ。
    「吾輩は猫である。名前はまだ無い」という有名な書き出しの通り、吾輩などという不遜な一人称の妙に堂に入ったネコ君の目から、苦沙弥先生やその仲間たちの滑稽な会話や、ネコ同士の交流、そして不合理極まりない人々の生体をネコの視線から風刺した作品になっています。

    基本的に読みやすく、クスりとくるシーンもあったのですが、冗長なところもあり読みづらさを感じる時もあります。
    人々の日常の描写がネコの視点から語られており、物言わ

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    2018年10月07日
  • 道草(新潮文庫)

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    この作品に至るまでの多くに登場する苦悩する主人公がいます。「道草」は明確に自身の過去を下敷きにしているとのことですが、他の作品にもやはり作者自身の苦しみが投影されていたんだなと改めて思い至ります。

    先日、漱石山房記念館に行ってまいりました。周辺の路地を入ったあたりなどは、当時の香りがほんの少しだけ残っていて、また記念館て掲出されている夏目さんの生涯に触れ、なるほどこういう境遇から編み出された名作たちなんだ、と感じ入りました。

    苦悩の末、全くなにも解決しないままであったり、あるいはむしろ精神を分裂してしまった主人公たちがある中で、本作は僅かではありますが一件落着の感がないわけではありません。

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    2018年09月29日
  • 明暗(新潮文庫)

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    ネタバレ

    お延が悪いとは思えないので、お秀とやりあった後の夫婦2人のかわした微笑がとても良かったのに、話が思いもよらない方向に向かっていき怒りや苛立ちと共に引き込まれた。
    これまでお延やお秀や吉川夫人が所謂女の世界というものを表していたけど、本当は清子が一番厄介なのでは。既に清子のことばかり考えている津田が、この未完の先の結末を表している気がする。それを想像するのも良い。

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    2018年09月24日
  • それから

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    古典的名作という事に騙されてはいけない。内容はかなり先鋭的。今現在でも充分通用する主題を描いてます。もちろん時代が時代なので、それなりの古臭さや時代錯誤的なところはありますが。

    なにせ主人公の徹底したパラサイトぶりががすごい。プラス徹底したニート(高等遊民という便利な言葉はあるが)。しかも、姦通罪というおどろおどろしい法律があった時代の不倫なので、不倫に向き合う二人の深さがなんとも言えない。

    現代の薄っぺらい恋愛物とは一味も二味も違う。あらためて、古典の凄さを感じた次第です。若い人にぜひんで欲しい。

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    2018年08月29日
  • 坑夫(新潮文庫)

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    それなりの家に生まれて学問も修めていた青年が
    言い寄ってくる女と、許嫁との三角関係に苦しんだあげく
    死にたくなって、そこを逃げ出してしまう
    ところが死に場所を探すうちにだんだん死ぬ気も萎えてきた
    そんな折、ぽん引きのおっちゃんに引っ掛けられて
    鉱山労働者になる決心をする
    安易なわりにプライドの高い彼は
    何度も引き返すチャンスを与えられながら
    その誘惑をことごとく跳ね返し
    ついには居直り者のふてぶてしさを手に入れる

    「虞美人草」に続く、夏目漱石の新聞連載第二弾
    ただしこれは、「春」の執筆が進まない島崎藤村の穴埋めとして
    急遽書き下ろされたもの
    いちおう教養小説としての体裁をつけており
    また、前

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    2018年07月28日