夏目漱石のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
<女性というものに哲学的な懐疑をもつ一郎は、弟に対する妻の愛情を疑うあまり、弟に自分の妻と一と晩他所で泊ってくれと頼む。知に煩わされて、人を信ずる事の出来ない主人公の、苦悩と悲哀と、寂莫と、それにさいなまれる運命的生活が描かれる。漱石の実人生と作品との交渉が問題にされる作品。大正元―2年作。>一郎の友人のHさんの手紙にはかなり心を打たれた。Hさんの登場は物語の後半部分なので、そこを待つまでが長いなあと思ってしまうかもしれないけれど、ほんとそこまで頑張って読む価値がある。上のあらすじを読むといかにも難しそうでなかなか手が出しがたいかんじがするけれど、読んでみると全然そんなことはない。漱石さんの文
-
Posted by ブクログ
『それから』を再熟読したいがために『三四郎』、『門』を手にしたときと同質の動機で、『こころ』を味わいためにここから始めた。所謂後期三部作の一作目である。
ぼくが漱石の作品に寄りかかるときの最大の理由は「文章」が持つ可能性の最高到達点を確認するためである。物語に身をゆだねるというよりも言葉の力を体感したいからである。
この作品は「嫉妬」の心理状況をわれわれ読者に露呈してくれる。重厚かつ深遠な文章だけでは到達しえない嫉妬心のリアリティは、軽薄かつ浅薄な人間の性質を知り尽くした漱石の業によってのみ文章化可能である、と敢えて断言させていただく。