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いくつかの短篇を連ねることで一篇の長篇を構成するという漱石年来の方法を具体化した作。その中心をなすのは須永と千代子の物語だが、ライヴァルの高木に対する須永の嫉妬を漱石は比類ない深さにまで掘り下げることに成功している。この激しい情念こそは漱石文学にとっての新しい課題であった。 (解説・注 石崎 等)
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Posted by ブクログ
狂言回し的な主人公である敬太郎の周辺の人物たちを巡る作品。 同じ下宿の住人である森本、友人の須永、その叔父である、実業家の田川と、高等遊民の松本、そして、従妹の千代子。 話は、森本から始まり、田川と松本との接触、須永と千代子の関係、松本の話に終わる。 本作で最も中心を成すのは、須永と千代子の話、補...続きを読む足的にそれにまつわる松本の話である。 「行人」の一郎同様、須永の苦悩は根本的に、千代子(それに拡大解釈すれば彼の母)を含めた女を介した、他人に対する「不可解」なのではないかと思う。 同時に、「行人」のレビュー・感想に記したごとく、自らにとっても、この「不可解」や、他者との交感、他人を受け入れる苦悩が重要な命題でもある。 ただ、一郎とは異なり須永の場合は、その苦悩の原因が、女=他者ではなく、須永=自分自身である。 一郎は妻お直を含めた他者を理解できないことに悩まされたが、須永は従妹の千代子によって、自らの持つ苦悶に気付かされ、苛まれれている。 個人的には、本作や「行人」のみならず、他の漱石作品に数多みられるこれらの煩悶に、はたして他人も悩まされているのかどうかと、つくづく思う。 ただそれは決して他人を軽んずるような意味なのではなく、他人を「不可解」に感じている自分にとっての大きな疑問でもあり、他者を理解や受け入れるとのできない、自らにとっては永遠の謎のようなものなのだと思う。 他人も顔に出さぬだけで同様に悩み苦しんでいるものなのかどうか、精神的な意味で他人に近しく接することのできない自分にとっては、おそらく一生分からないのではないかとも思う。 一方で、必ずしも苦悩と感じているかどうかは定かではないものの、この「不可解」という命題は、敬太郎を除くそれぞれの登場人物にも端々に感じ取れもする。 風来坊的な森本、どこか他人に心を許さない感のある田川、高等遊民を称して世間と隔絶した風のある松本、自ら期せずしてか須永を翻弄する従妹の千代子。 みんな、どこか他者への理解を拒絶し、どこか他人と打ち解けようとしていない感じすらある。 案外、他人もそのようなものなのかもしれないとも思う。 ちなみに本作も、10年以上前の学生のころに一度読んだのだが、今回「行人」の読後、改めて青空文庫のものを読んでみた。 さらに余談ながら、以前、「行人」を読んだ友人に、一郎からお前を連想した、と言われたことがある。 ただ、一郎ほどの英才でもないし、本作を読み返してみて、自分自身は、一郎よりもむしろ須永に近いような気もした。
冒険などのロマンが好きな敬太郎。職を得るため探偵めいたことをしてのち、やがて彼は友人・須永の深い内面世界の傍観者となる―――ってこんな感じでいいんだろうか。前半はイラン&失敗&構成がなってないっていう意見が昔からあるらしいが退屈な日常に漠然とした不満を持って何か起こらないかなと敬太郎が思ってるのはい...続きを読むいなと思った。「雨の降る日」から急に面白くなり始めます。雨の降る日は漱石の実体験に基づいてるだけあってリアルで怖い。そのあとの「須永の話」須永と千代子の関係やエピソードに激しく燃えました、萌えました、悶えました。千代子可愛すぎる!!「嘘よ」のシーン可愛すぎる!ノックアウトされたあ!非常に密度の高い理詰めな文章がまたたまらんくってこれにも胸を締め付けられてました。はあ〜……後期三部作の幕開けですぞ!まだまだ内容的に暗くないから読むべき。
修善寺の大患の後、最初に書かれた小説。この後『行人』『こころ』と続く後期三部作の一作目。 七つの長短篇を連ねて、一つのストーリーを紡ぎ出していますが、全体を通すと話しに少し無理があったと思います。 しかし、違う漢字を当てた言葉遊びや、比喩の巧みな文章、探偵まがいの推理小説風の展開があるなど、読み手...続きを読むを飽きさせないです。後半の愛情の確執や嫉妬心にかられる描写など、読みどころがあり楽しめました。 それにしても、漱石の登場人物は仕事に縁のない人ばかりですね。それでも暮らせるのが羨ましいです。
オモシロイ。ほとんど、あだち充さんのマンガの世界です。後半は。 ほんっとにドキドキものの心理劇、恋愛劇、サスペンス。 「幼なじみ」、「いいなずけ」、「恋のライバル」、「出生の秘密」…。 後半は…、なんですけどね。 ### 「それから」に引き続いて、久々の、多分25年ぶりくらいの夏目漱石さん。 ...続きを読む夏目漱石さんの長編小説は、どれもこれも昔読んだ時から大好きで、本当に熱狂的に好きだったんです。 なんですが…。若い頃に読んだ時も、「面白かった順位」で言うと。 「坊ちゃん」 「それから」 「明暗」 「行人」 「こころ」 このあたりまでがトップクラスで。 「三四郎」 「道草」 「草枕」 そして 「彼岸過迄」 「虞美人草」 「吾輩は猫である」 あたりは若干、劣る。 そんな印象がありました。 なんとなく、そんなことを確認もしたくて、再読。 作者の漱石さん自身が冒頭で書いてますが、「短編がいくつも並んで長編となる」という作りになっています。 ①「風呂のあと」 ②「停留所」 ③「報告」 ④「雨の降る日」 ⑤「須永の話」 ⑥「松本の話」 ⑦「結末」 の、7章。そして、再読してみると。 簡単に言うと、①~③が面白くない。けっこう、面白くないです。 そして、④~⑦が面白い。特に、④⑤の2章はもう、キラキラ輝くくらいに面白い。 ④は、幼い子供が突然病死しちゃった、という家族の話です。 悲劇です。これを何と言うか、淡々と、という感じです。決して、お涙ちょうだい風になりません。なんだけど、この理不尽な出来事の痛みが、とっても伝わってきます。 ⑤は恋愛心理劇です。女に恋した男のどろどろした心理です。理性とプライドと恋心と矛盾と嫉妬にみじん切りに切り裂かれる若い男のみっともないココロの七転八倒です。 それが何とも科学的に解剖されるような語り口で綴られます。何とも深刻で難解で、同時に滑稽でスリリングでたまりません。 だからまあ…やっぱり前半が面白くないっていうのはケッコウ致命的ですね。 これはまあ、正直、面白くない。 やっぱり登場人物の心理に全然のめり込めない。 これは解説で評論家の人が、「前半が詰まらないと言われるけど、こういう角度で見ると興味深い」というようなことを一生懸命書いている。 そういうことを書くということは、要するにやっぱり面白くない。 ただ、文学研究者たるもの「前半は面白くない」ではアマチュアとおんなじだから色々な角度で解説を試みる。 その解説自体は成程面白いかも知れない。 しかし言えば言うほど、まあ、つまり前半が面白くないなあ、ということが炙り出てくる。 つまり、前半が面白くない。 でも、後半は面白い。だけど、やっぱり話はなんとなく繋がっているので、後半から読むわけにも行かない。しかし前半はなかなか苦痛である。 と、言う訳なので、やはり「彼岸過迄」を読むのなら、せめて「坊ちゃん」「それから」「行人」「こころ」あたりを読んで、夏目漱石さんの特色とか個性とか語り口に惚れてから、の方が良いんだろうな、と思いました…。 ############以下、備忘録############ ①「風呂のあと」 敬太郎、という、どうやらそこそこの学校を出て、就職口を探している若者がいる。なかなかうまくいかず、焦りながらもぼんやり暮らしている。 そんなに内向的な性格ではなく、冒険とかロマンを求めているけれど、とにかくまずは働き口がない。 日常は冒険もロマンもなく、下宿でぶらぶらして、風呂屋に行く。 風呂屋でいっしょになった、同じ下宿の森本という男とおしゃべりする。 森本という男は、色んな商売を経て、色んな冒険譚を持っている。 ところが、その森本はその後、下宿代を払わずにドロンする。 ②「停留所」 敬太郎の友達に、須永という男がいる。この須永という男は、まだ大学生である。この当時の大学生ということは、物凄く希少価値だし、今でいう大学院みたいな感じ。 この須永という男は、裕福な実家らしく、特段に働く気もなく暮らしている、非常に内向的だしブンガク的な気難しい若者である。 この須永の叔父に田口という中年男性がいて、いろいろ実業で活躍している紳士である。 敬太郎は就職口を探している。須永は敬太郎に、叔父の田口に頼んでみたら、と紹介する。敬太郎は田口を訪ねてお願いをする。 そんな敬太郎に、田口は依頼をする。 「とある日に、とある時間に、とある停留所で降りる、これこれな風体の紳士の後をつけて、探偵してほしい」と…。 で、敬太郎、それを実行する。 さて、その紳士を尾行すると、若い淑女と落ち合って、食事をして、帰って行った。 ③「報告」 結局で言うと。 敬太郎が尾行した紳士は、実業家の田口の義兄・松本だった。つまり、田口の親戚。ということはつまり、須永の親戚でもある。 松本と言うのは、中年のオッサンである。妻もいて子供もいる。そして資産があるのか、ぶらぶら暮らしている。「高等遊民」である。 そして、その松本と会食していた若い淑女は、実業家の田口の娘であった。 別段、そこにややこしいスキャンダルはなくって、単なる友好的な親戚の付き合いだった。 つまるところ、尾行を依頼したのは、実業家の田口の、暇つぶしのいたずらみたいなものだった。 そして、敬太郎はそんな田口のいたずらの犠牲者になった。その代りに、田口の家に出入りするようになった。そして、それなりの地位の就職口を得た。 ④「雨の降る日」 敬太郎は、田口の関係で職を得た。なので、田口の家に出入りしたり、その親戚でもともと友達の、須永の家にも出入りする。 一族からみのお友達になっていく。 そこで話をいろいろ聞いていく。そこで、「高等遊民」の中年男・松本のうわさ話を聞く。松本は、須永の叔父にあたる。 「松本は、かつて雨の日に接客中に、幼い児を突然死で亡くした」という話を聞く。 なので、松本はその後、雨の日の訪問者を嫌うという。 ⑤「須永の話」 須永の一人称。須永と、従姉妹にあたる千代子という女性との、恋愛譚。 須永は、母一人子一人である。いろいろ内面に鬱屈を抱えたインテリ青年である。 従姉妹の千代子という若い女性がいる。家族同様に付き合っている。 実は母は、子供の頃に、「将来、千代子と須永を夫婦に」と、千代子の両親と話した。 それを須永は知っている。恐らく千代子も知っている。千代子の親も知っている。 けれども誰も話さない。 千代子の親からすれば、須永はインテリだが、実業に野望も無い屈折した青年で、決して望ましくないのではないか。と、思っているのではないか。と、須永は思っている。 須永は、千代子のことは好きだけど、そんなに好きじゃないと思う。 面倒だから、俗だから、千代子とは結婚したくないと思う。親戚や母にもそういう。だが、千代子には言えない。 そうなのだけど、千代子の周りに若い男がいる。自分と違い非常に健全な世間性を持っている男がいる。 そうすると、何だか大変に面白くない。大変に不愉快である。自制心が薄くなる。 そして、「あなたは卑怯だ」と、とうとう千代子に言われる。千代子と対決する。 ⑥「松本の話」 須永と千代子の話・・・というか、須永の話の続きである。 語り部は、須永の叔父の「高等遊民」である、松本に移る。 要点で言うと、須永と、須永の母は、実の母子ではない。 須永の父が、別の女に生ませた子を、実子として育てた。 父が死に、須永と母は仲が良い。須永は母を大事にしている。 しかし、須永はあるとき、実子ではないことを知った。内心ぎくしゃくする。 そんなことが、須永の面倒な屈折の裏にはある。 須永は大学を卒業前に旅行に行く。行っていろいろ考える。母のことや千代子の事。 千代子と須永はどうなるのか、分からない。 ⑦「結末」 短いエピローグ。 特段のドラマチックなモノゴトは無い。
モザイクが細かくなっていき、だんだんはっきりと画像が見えてくる感じ。 主人公は狂言回しに過ぎず、本当の主人公は須永なのだろう。 好きなのに好きとは云えず、裏の裏まで読んだ気になってしまう須永。 須永と千代子の物語は三部作のなかで形を変えて出てくるのだろうか。
『それから』を再熟読したいがために『三四郎』、『門』を手にしたときと同質の動機で、『こころ』を味わいためにここから始めた。所謂後期三部作の一作目である。 ぼくが漱石の作品に寄りかかるときの最大の理由は「文章」が持つ可能性の最高到達点を確認するためである。物語に身をゆだねるというよりも言葉の力を体感し...続きを読むたいからである。 この作品は「嫉妬」の心理状況をわれわれ読者に露呈してくれる。重厚かつ深遠な文章だけでは到達しえない嫉妬心のリアリティは、軽薄かつ浅薄な人間の性質を知り尽くした漱石の業によってのみ文章化可能である、と敢えて断言させていただく。
短編が連なって長編をなすという形式の作品で、いわゆる新三部作の第一作目。 物語の視点が何度が変わるものの、基本的には須永君の恋愛物がメインにあります。 嫉妬に関する部分が個人的には印象に残っています。
タイトルの付け方が面白いですね。「彼岸」まで書きたいから「彼岸過迄」と。ちょっと参考にします。 それはさておき、主人公が小さな冒険をしていく話だと思ったのですが、結局は恋愛小説でしたね。作者が途中で方向性を変えた…訳ではなさそうですね。
読みにくかった。短編をつなげて長編のような物語にするって構想らしいけど、それぞれに繋がりがあんまり感じなかった。須永と千代子の恋模様のところが一番読み応えあったけどそこも須永の心の変化は読み取りにくかった。松本が雨の日に紹介状を持った人の面会を断るところは実際の漱石の経験に基づくものらしい。最初の森...続きを読む本の話いるのかな
いや〜長かった^^; でも時々没頭して読めた。 結局は恋愛小説で結果はやはり書かれてない。 消化不良だなぁ。。。
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