夏目漱石のレビュー一覧
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ネタバレ前期三部作の第三部。
宗助と御米は不倫の末結ばれた夫婦で、他人との交流を最小限に抑えてひっそりと慎ましく暮らしていた。彼らの不義は社会的な制裁のみならず、運命的な力も彼らを苦しめる。宗助は不安を解消するために宗教にすがるが、何も変わらないまま季節は移ろいでゆく。
宗助・御米夫婦は、互いを慈しみ支え合って生きている。きっと理想的な夫婦と言えると思う。しかし、「彼は門を通る人ではなかった。また門を通らないで済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ち竦んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった。」(P224)のイメージが示すように、悲哀や不幸、憂うつから逃れるすべをもたない。哀しくて切 -
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ネタバレ【概要・粗筋】
学者である一郎は、妻・直の本当の気持ちがわからず、信じることができず、夫婦の間は冷え切っていた。直はそのようなこと気にするそぶりもなく冷淡であった。しかし、一郎は妻の本心が知りたくてたまらない。そして、一郎は妻の貞操を試すために、弟である「自分」に嫂と二人きりになるよう依頼する。知識人の孤独と狂気を描いた小説。
【感想】
第一章「友達」から第三章「帰ってから」までと第四章「塵労」では作品の雰囲気ががらりと変わった。三章までは長男夫婦の不和に周りの家族が巻き込まれていくというある平凡な家族の姿を描いていたのに、四章からは一郎の内面が掘り下げられて家庭小説の枠をはみ出した。 -
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ネタバレ漱石前期三部作のトリを飾る作品『門』。
世間から冷たい目で見られる覚悟を互いにしてまで不倫関係となった代助と千代子。その二人は今後どう生きていき、どう世の中を渡り歩いていくのか。その答えが『門』にあると、『それから』の解説では述べられていた。
自分自身その事が気になっていただけあって、「門=不倫後の話」を頭の中で繰り返しつつ読み進めていった。けど、どこにも見当たらない。気付けば残るページは1/3。ここから先にようやく出てくるのかと思いきや、迫りくる事態に対処できる自信をつけるために参禅し、戻ってきたら無事暗雲は過ぎ去っていきましたとさ、めでたしめでたし。気付けば注訳のページになっていた。
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「山路を登りながら、こう考えた」と始まる非人情の旅物語。
非人情とは世間的な人情を放棄して住みにくいこの世を離れた気分になること。人間の感情で溢れかえる住みにくい都会を離れ、非人情を求めて田舎への旅に出た画工。
当時の西洋化の流れで登場した「芸術」という観念で括られるようになった様々な表現活動。絵画と詩の対比がよく登場する。はじめは手応えがなくとも休むことなく続けるものだという詩作りと葛湯作りの比較がいい。
「菓子箱の上に銭が散らばり、呼べど待たれど人は来ず」
田舎で垣間見られる20世紀らしからぬ非人情の世界。
おばあちゃんが店番したままうたた寝していた近所の駄菓子屋さんのようなシーン。
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一郎の妻、直のような女性が好きだ。そう思って最後まで読んでいたら、解説で酷くこきおろされていていらっとした。ただ、たしかにそういわれればそうだと納得もした。
晩年の漱石の小説は、執拗に孤独を、我執を主題として追い求めていく。ただ、それは紹介の帯がいうような「近代知識人の苦悩」に回収されてしまうのだろうか。仮にそうだとしたら、漱石の小説は過去の廃墟にすぎない。廃墟を好きなひとがいるように、それが過去であり、痕跡であるからこそ価値を持つような、そんな代物にすぎない。
ぼくが漱石を好きなのは、そのような懐古主義からではない。彼の魅力は、彼が本格的に小説を書き始めてから一貫して、三角関係のなかで人間を