夏目漱石のレビュー一覧
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『三四郎』『それから』を読んでからかなり時間を置いて読んだ。『門』というタイトルからしてなんだか地味だし、「横町の奥の崖下にある暗い家で世間に背をむけてひっそりと生きる宗助と御米」なんて紹介文を読むにつけてもあまり食指が動かなかったのだ。今にして思えば、読むのを先延ばしにしていたのが実に悔やまれる。
よかった。ひょっとしたら前二作よりもよかったかもしれない。
思うに、漱石の作品には独特の雰囲気が漂っている。匂い立つような明治の東京の空気が。それは鮮やかな風景の描写からも、活き活きとした登場人物たちの会話からも色濃く感じられる。漱石の小説を読むたびに、私はその空気の中に浸る。筋を追うというよ -
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ネタバレ前半部分の絢爛すぎる怒濤の描写についていけず,挫折しかけた.
登場人物の立ち位置も全く頭に入ってこなかった.
セリフが中性的で,さん付けで呼ばれていたことから,小野さんを
女性と判断して読み進めた.しかし,小野さんが女性だと
話のつじつまが合わなくなることに途中から気付いた.それは,そこまでに自分で描いていた『虞美人草』が誤っていたことを意味し,絶望した.
しかし,後半は会話が多くなり,ようやく話の概形がおぼろげながら浮かんできた.物語の本質である小野さんと藤尾の恋が,
多数の人物が互いに絡み合ってできた複雑な事情の上に成り立つ
ものであると知る.この仕組みを理解するためには,前半部分が
ど -
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夏目漱石未完の遺作。有名な本を今更読むと言うのが恥ずかしながら一度はやはり読んでおきたく。第一印象から文章や言葉選びが綺麗で、日常の言葉なのにあまりにクリアに伝わってくるのでどきっとしたりする事がしばしば。さすがでした。他の名著でもしばしば、読みながら何をぐだぐだしているんだろうこの本有名だけど面白いかなぁどうかなぁとか思いながら読み進めて行くのだけれど、後から思い返せばとても深遠で壮大で何日も、ずっと思い返してたりする。本の1つだった。未完なので結末ばかり気にされるけれど、良い物は個々の要素がどの全体とも綺麗に呼応する様に出来ているので、どこで切っても関係ないと思うんだよね。と言うのも良く言
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「二百十日」
会話が大部分を占めテンポ良く話しが進み、風通しの良い印象。金持ちへの痛烈な皮肉を含むものの人物造詣、思想ともに深みはこれといって無く、ただただ読んでて楽しい短編。
「野分」
その理想主義のために中学教師の生活に失敗し、東京で文筆家としての苦難の道を歩む白井道也と、大学で同窓の高柳と中野の三人の考え方・生き方を描く。
とのことですが、こちらはもう本当に好きです。わたしは最近、自意識と、他者との関わり、つまり内的生活と外的生活のバランスについてすごく悩んでいるのですが、この短編に出て来る主人公達もバランス取りにとても苦しんでいるという印象。それから経済的なこと、現実的生活の労苦にも -
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「死ぬか気違うか、そうでなければ宗教に入るか」
学問をやりすぎたために、人を信じられず、妻さえも自分を愛していないのでは無いかと疑い出した一郎。
その弟の二郎は兄や友人、下女など様々な人の使いとして結婚とは何か、愛とは何かの現実を見る。そんななか、どうしようもないほどに精神衰弱な兄の影響を受け、二郎も結婚について疑問を抱き始める。
この作品の底にあるテーマは結婚に関すること、人を信じること。明治以前の家が関わる旧式の結婚制度、恋愛結婚などなど様々な形で夫婦になり、こどもが生まれ、年をとる。
そうした、夫婦間の関係について、疑問を投げかける作品です。
漱石作品として相変わらず、登場人物に起 -
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ネタバレ「彼岸過迄」「行人」「こころ」の後期三部作や、それがさらに私小説的にドグマった「道草」より全然暗くない。複数の視点に立って、ありもしない「本当の自分探し」から進化したと言えば、言葉が軽すぎでしょうか?
結末の予想に関しては、おおむね日本文学畑の人は全てが未解決のまま終わり、海外文学系の人はドラマチックな結末を迎える、というような傾向に分かれるというようなことが書かれた研究書を読んだ記憶がありますが、「なるほど」という感じもします。日本文学派の中には、「明暗」の次には「猫」に戻ったような作品を書いていただろうという予測もあり、またまた「なるほど」と。「続明暗」がまさに、筆者が外国系だから、まさ -
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ネタバレ実家から出られず母親の古い古い本をあさり読んで。
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智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくかろう。
越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、くつろげて、束の間の命を、束の間でも住み -
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まず際立っているのが文章の難解さ。地の文が凄まじいまでの美文であり、知らない単語が怒涛のように押し寄せる(私が無知なだけですね)。漢文や故事の素養を下地にした表現も多用されており、ページを捲るたびに自分の無学をひしひしと感じる・・・。
でも、そこがよいのです。読み進むうちに絢爛豪華な文体を味わうのが癖になる。彫琢された文章ってこういうことを言うのね、と思う。
それになんといっても漱石作品は会話が面白い。藤尾と小野の恋の駆け引き、甲野と宗近の気心の知れた友人同士のおしゃべりなど、気の利いたやりとりが素敵。
さて、肝心の物語だが・・・
筋書きだけ見ると、まあ、メロドラマである。あらすじを言ってし -
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22歳にしてようやく「吾輩は猫である」を読んでみる。
漱石の本は「こころ」についで2作目。
レビューなんてのは全く自分の無知蒙昧を広めるだけのものであると思うけれども、せっかく読んでみていろいろ思うところがあるので書くことにする。
やはりまず第一に感じたのは、猫に語らせることの妙である。
人間ではなく、猫自身が語ることで、社会科学的に言えば、漱石自身の鋭い観察眼及び人間のバイアスをより鮮明に対象化することに成功していると思う。皮肉も人間が語るよりもずっと効いてくる。正直、ギャグ漫画を読んでいるような心持であった。
クライマックスで、人間どもに一種の漱石的講義(?)を語らせ始めたかに見え -
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漱石の小説の中では一番好きかもしれません。夫婦の距離感がなんか好き。
出だしから終わりまで、何も進まず、何も解決せずに終わる物語。
日常の断片なんですな。
罪悪感をせおう善良な夫婦のなにげない会話の数々が良かったです。
この小説の主人公は宗助といいますが、『崖の上のポニョ』の主人公と
同じ名前です。宮崎駿さんは、映画を作るときにこの「門」を読んでいた
といいます。それで、主人公が同じ名前になったんでしょう。
崖の上の坂井という人物も出てきます。タイトルもそこからとったのかもしれません。
この本の解説で柄谷行人さんが、欠陥のある小説だみたいに書かれていましたが、
そういうところがあったとしても