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Posted by ブクログ
二百十日
単純で剛健な豆腐屋の圭さんと金のある禄さんの阿蘇山登山を、ほとんどふたりの会話で描写する。
主題は華族、金持ちに対する庶民の批判。その批判を圭さんに言わせ、禄さんが軽くかわす。おそらく、この小説が書かれた時代は、格差社会の入り口でもあり、かつ人々が理想を持ち始めた時代。したがい、漱石も単純には新興の金持ちを批判はできなかったのではないか。禄さんの態度が漱石に近かったような気がする。
ユーモア小説としても抜群の出来。熊本の宿屋で半熟玉子をふたつ頼むと、ひとつは固ゆで玉子、もうひとつは生玉子が来る。くすぐりが効いている。
野分
正義や理想主義のために教師の職を辞し、雑誌記者として細々と暮らす白井道也先生、裕福な中野君、理想主義者であるが道也先生ほど徹底できない高柳君、三者三様の交流を通して当時の日本人の考え方を描写する。二百十日と同様、この作品でも漱石はどの生き方が正しいかという態度を取っていない。高柳君と中野君、中野君と道也先生、道也先生と高柳君の交流はあるが、3人が一堂に会する場面はない。これにより、それぞれの階級が別の階級をどう思っているかがわかる。漱石が言いたかったのは、明治時代の後期、日本が世界に向かっていくなかで、どんな階級であれ、内なる理想を持つべきということと思う。最後の道也先生の演説の場面で「すべての理想は自己の魂である」「西洋の理想に圧倒されて眼がくらむ日本人はある程度において皆奴隷である」。この演説から100年以上たった現在でも我々は、やはり理想を持つことを心に刻むべきである。
Posted by ブクログ
読めて良かったー。読み応えのある「野分」の方が好き。
金銭本位な世の中で学者という人間は窮屈だったろうと思う。それでも敢えて苦しい境遇に身を置いて、社会に屈せずに己の道を貫く道也先生の姿勢に背筋の伸びる思いがする。
人間としての「道」が、富や権力より大事だということをきっとわたしは頭では理解しているけれど、だからといってそれを堂々と口にするのはなんとなく気恥ずかしくて、結局は世俗の評価基準に甘んじてしまっている。でもそれではいけないと思わされる。どんなに世界が歪もうと正しいものは正しいと、信じ続ける勇気を与えてもらっているような気がして。
中間部分あたりで道也先生の語る「文学」の話と、最後の演説の場面は痛快です。本当に本当に素敵。
それから最後の場面の、呆気ないけど劇的な感じも好き。
学問の意味を見失い気味なひとに、納得いかない世界に悶々としているひとに、是非、この本を。
Posted by ブクログ
#899「二百十日・野分」
漱石の割と初期に当る中篇二篇です。
「二百十日」は、「剛健な趣味を養成する」ことを目的に、阿蘇へ温泉旅行へきた圭さんと碌さんの会話を中心に話がトントン進みます。一見のんきな落語風の会話で笑はせてくれますが、資本家嫌ひの圭さんが放つ一つ一つの発言が時代を抉ります。
「野分」では、文学者白井道也と、高柳君・中野君の二人の若者が中心人物。白井道也は地方で教師をしてゐたが、学生たちに追ひ出されること三度、つひに東京で妻と二人で引きこもる生活に。
「二百十日」のテエマを更に進化させ、終盤の道也の演説は本作の白眉であります。観念的にならず、物語としても興味深く、ラストの展開は中中ドラマティック。
漱石作品中でも地味な扱ひで知名度が低いかも知れませんが、漱石の文学者としての覚悟も窺へる貴重な一作ではないでせうか。でも道也の奥さんは可哀想でした。
Posted by ブクログ
学問に対する志は確かに大切だと思う。ただ金力を余りにも毛嫌いしすぎている印象はあった。ラストの展開、中野君は高柳君の作品見たさもあって金を融通したのではないか。もしそうなら高柳君の行動は中野君の見当違いになりはしないか?事象や主張が明確なだけに、疑問の多い作品だった。それだけに、反論やら別の展開を想像しやすいのは面白かった。あと、同意できる部分や上手い表現は他の作品に劣らず多かった。
結婚式で、立派な中野君と見窄らしい高柳君が出会った時、お互いがお互いを「これは」と思ったとあるが、この辺りは言葉の選び方が秀逸だと思う。「これは」と思うだけで、その先はお互いの友情やら思い遣りが考えるのを一歩留まらせるのだ。しかし、その先を考えさせざるおえないのだ。
Posted by ブクログ
『野分』について
小説の体を成していますが、思想的な主張の色彩が濃く表れています。
学問とはかくあるべしと主張をする者と、それに共鳴する者が主軸になりますが、彼らが最後に報われるというわけではありません。その点で、理想を宣言しつつ、理想主義者が肩身の狭い思いをする現実を批判した作品のように思います。
各々の言い分にうなずける部分があって、それぞれの主張の中間地点に、歩きやすい道があるんじゃないかと思ってしまいますが、その中途半端な考えは、彼らの方からするともっての他なのでしょう。
幕引きが突然に訪れる感があります。その分劇的ですが、もう少し先まで顛末を知りたいと思いました。
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