あらすじ
イギリス留学中に倫敦塔を訪れた漱石は、一目でその塔に魅せられてしまう。そして、彼の心のうちからは、しだいに二十世紀のロンドンは消え去り、幻のような過去の歴史が描き出されていく。イギリスの歴史を題材に幻想を繰りひろげる「倫敦塔」をはじめ、留学中の紀行文「カーライル博物館」、男女間における神秘的な恋愛の直観を描く「幻影の盾」など七編をおさめる。(解説・伊藤整)
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Posted by ブクログ
初めて読んだのは19歳(遠い目)あの時に読んだ、幻想がちで胃痛(真似した訳でなく、高校時代から胃カメラ飲んでた正味の胃炎持ちだった)持ちの私が、勝手に漱石に親近感を感じて読んで読んで読みまくった中で、特に共感してしまった作品。まぁ、ウルトラ有名作家の有名作なので細かい説明はしませんが、イギリス留学中にロンドン塔に行った漱石の旅幻想妄想エッセイのようなもんです。冒頭からロンドン塔の見物は一度に限ると思うと言い切ってしまったのは、なんでなのかというのが読み進めば理解できる。やっぱり漱石ってヲトメだなぁ、、と思いますねぇ。
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漱石は文豪なんだよ凄い人なんだってとわかっている筈なのに、どうも吾輩は猫なんて庶民的な作品のイメージからか侮りつつ読み始める感じなんですが、いきなり「倫敦塔」で度肝を抜かれ。
何これ、基本英国史、それにダンテにシェークスピアに仏教の無一物に終いには都々逸まで!何この人、本当に万能なんじゃないの。何でも知りすぎでしょうよ。
あと「一夜」がお気に入り。「草枕」や「虞美人草」に近いかなと。綺麗綺麗しい文章。艶やか。
でも「幻影の盾」と「かいろ行」はこの人こういうのは向かないんじゃ?と思っちゃったけど。日本の話に英文的雰囲気が有るのは良いけど逆はなんだかな。英国紳士に和傘持たせるような違和感。
でもなんだかんだで圧倒的なる筆力に畏まって読み進めていたのに、また「趣味の遺伝」で笑わされ。趣味の遺伝って結局一目惚れってこと?しかし一度合った美人が何処の誰だろうという問題を「そうだ、この問題は遺伝で解ける問題だ。遺伝で解けばきっと解ける」ってどんな思考回路だ!あと高跳びを応用したチラ見にも笑い。
うーん漱石。勿論凄いんだけれど、彼はちょっと高みに置くには面白すぎる。
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漱石初期作品集。『漾虚集』を中心に。
小説って何なのだろう。漱石の短編を読んでいるとわからなくなります。
とりえあず、作品のラストについてる漱石自身の解説的なところはどう扱えばよいのやら。
それも話の一部として読むべき? うーん!
あと、私が思っている以上に漱石作品の位置づけの中で『草枕』が重要なところに立っているのだなーということがわかりました。
比較対照として一番使われてますよねーなぜだー!
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ちょっと幻想文学っぽい感じの「倫敦塔」を見て、漱石はこういう作品も書いていたんだな、と思いました。「趣味の遺伝」はちょっとドグラマグラな気もした。
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幻影の盾はタイトルからして漱石らしからぬ雰囲気を感じたが、
やはり中身も漱石らしくなかった。頭ごなしに否定しているわけではない。
こころや坊っちゃんなどの代表作からはかけ離れた、普段
お目にかけられない作風に出会えた貴重な機会であった。
個人的には、倫敦塔でも幻影の盾でもなく、一番最後の趣味の遺伝が
一番気に入った。やはり漱石には漱石らしい作品がふさわしい。
Posted by ブクログ
また一冊の御伽噺読み終わったね。 この間鴎外先生の本も拝読してるので、少し妙な気もする。 漱石先生と鴎外先生、果たして真に火と水の如しかしら(笑) まあ、二人とも外国語堪能、哲学好み、自然主義に反対であったのは確実だけど。 今度も面白いこと満載、中世期のユーロストーリはいつもロマンチック染めた小舟のように心を揺らせる。 中にも「一夜」とゆ意識流の小品、訳分からない三人揃って、訳分からない言葉を交わして、幻か真実かともかく清美の上に一理ある。 それに「趣味の遺伝」も随分面白かった。 めちゃ変わった愛情観点を示しても、ただ諧謔で滑稽なんぞとは言えない程度、さすが漱石先生。 次は我輩は猫であるを買いましょう!
Posted by ブクログ
漱石が小説家として初期に発表した短編を集めたもの。
紀行文やイギリス的散文詩、近代小説と様々な性格の作品が、漱石に原石として記されている。
ここから伸びていって様々な名作を生む。
「趣味の遺伝」がおもしろかった。
「幻影の盾」と「かい露行」は正直何について描いてるのか未だに分からない。
ちと難しかったです。
08/12/28
Posted by ブクログ
とにかく読みにくい読みにくい。字はちっちゃいわ文体は難しいわ、はっきりいってとっつきにくい!でもでもでも、それを気にさせない(はずの)漱石の文章の面白さ!「カーライル博物館」は紀行文だけど、「倫敦塔」はちょいと違うかんじ。「幻影の盾」「薤露行」では他の作品では絶対に拝めない中世ヨーロッパファンタジーのような叙事詩的散文、「琴のそら音」「一夜」はこれからの漱石(三四郎とか)に繋がる文章、そしてラストの「趣味の遺伝」が一番おもしろかったりしましたよ。
これに収録されている短編はどれも漱石の初期のころなので、一度は読んでおきたい(はず)
Posted by ブクログ
アーサー王物語などに題材をとった短編集。幻想的な雰囲気の表題作「倫敦塔」が特に秀逸。倫敦塔を訪れる漱石の「現在」と、伝説当時の「過去」が違和感なく交錯する。丁寧な描写から生まれる悲壮で静謐な雰囲気は流石である。文体は比較的重厚で「猫」や「坊ちゃん」などから受けるような飄軽な印象はあまりない。
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明治38年から39年にかけて発表された漱石初期の作品七編。英国留学時の経験を題材に幻想を繰り広げる『倫敦塔』、トマス・カーライルの住居跡を巡る紀行文『カーライル博物館』、謎めいた盾に導かれた神秘的な恋愛『幻影の盾』、超自然現象を取り上げた『琴のそら音』、同宿した三人の禅的な語らいの『一夜』、アーサー王妃と円卓の騎士の禁断の愛『薤露行』、相愛関係にあった男女の子孫同士も相愛する不思議を描く『趣味の遺伝』。漢語調の壮麗な文体で紡がれる多彩な作品群には、ロマンチシズムとでも呼ぶべき滾るような情熱が溢れています。
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表題2作では、白昼夢のように伝奇的なエピソードが綴られる。夢十夜的な雰囲気もすこし感じました。文体は格調高い擬古文的な文で、ちょっとむずかしい。
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初期短編集(明治38〜39年)。言文一致の現代書き言葉ではない作品もあったりする。近代日本文学直前のプロトタイプ集とでも呼びたくなる。作品ごとに変化するチャレンジングな表現が面白い。個人的には「趣味の遺伝」のサイコパスすれすれのユーモアがツボだった。
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夏目漱石の短編集。
「幻影の盾」「薤露行」「一夜」はただただ美しさにうっとりする。
美文調は正直何を言っているのかわからない部分もあるが、短編なのでさほど苦痛にならず、美しい絵をただ眺めるような気持ちで読める。
漱石の戦争観を垣間見ることができる「趣味の遺伝」は面白い。
主人公は戦死した友人にたびたび思いを馳せる。戦死の場面(あくまで想像)は白黒のショートフィルムを見ているよう。「塹壕に入ったまま上がってこない」というシンプルな表現が繰り返されることで、明るく平和な日常生活の中、サブリミナルのように戦場と死がちらつく。
遺された者たちの思いが清らかで切ない。
畳みかけるようなラストひと段落も胸を打つ。
Posted by ブクログ
漱石初期の短編集
【倫敦塔】1905年
留学中の倫敦塔観光記
英国の歴史を塔の中に感じ、戯曲「リチャード3世」・絵画「ジェーングレー」などからの発想を ブラックファンタジー的に随所に表現。観光後、現在イギリス人(当時の)に現実に戻される。興醒めして(たぶん)もう二度と行かないとか言う。
観光記でも普通には書きません。
【カーライル博物館】1905年
留学中のカーライル博物館訪問記 備考によると、味の素の発明者・池田菊苗さんと訪問しているらしい。まだ、海外渡航は珍しいから、外国で会うと仲良くなるのかしら。
たぶん、漱石はカーライル大好きに思える。見学中の表現は、案内のおばさんをあんぱんみたいだとか、ベッドをたいしたことないような事言ったり、口が悪いけど、蔵書目録を発表したりね。
【幻影の盾】1905年
アーサー王物語・北欧神話を元に、「一心不乱」を書いたらしいのだけど、前説で上手くいかなかったみたいな言い訳している。
主人公ウィリアムは霊を宿す盾を持つ。戦闘中の相手の城に恋人がいる。いよいよ戦争が始まり、恋人を助け会いたいのだが、戦火が回る。
その後からは、幻かなと思う。馬が飛んできて、それに乗って南へ走る。女神が出てきて、盾に問えみたいなこと言われて、盾の中で恋人と会う。こんな感じ?元の話を知らないので難解でした。
【ことのそら音】1905年
異質の頑張った怪談風小説。
結婚間近な主人公の周辺に起こるちょっとした怪談風出来事。ラストでほぼ全部解決して、めでたしめでたし。
【一夜】1905年
難解。「吾輩は猫である」の作中で「一夜」の事を
誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないとか書いてあるらしい。やめてほしい、3回は読んだんですけど。人生を書いたので小説を書いたのではないと。
登場人物は、髭のある人、髭のない人、涼しき眼の女。三人で禅問答みたいな会話して、最後は、思い思いに一緒に寝ちゃう。
森鴎外の「寒山拾得」的。
【薤露行】1905年
アーサー王物語題材。擬古体。
○夢 アーサー王円卓の騎士らと試合に出発。
騎士ランスロットは仮病を使って王妃と密会
バレそうなので急いで試合に行く
○鏡 魔法の鏡に映るランスロット
それを見たシャロットの女。鏡は割れる。
ランスロットへの呪いをかける
○袖 古城に住まうエレーンは一夜泊めたランスロ
ットを好きになり袖を兜に付けさせる
○罪 試合は終わり皆帰るが、ランスロットは帰ら
ない。王妃は密通の糾弾を受ける。
○舟 エレーンはランスロット行方不明のショック
断食自殺
死体を乗せた舟は王妃のもとへ
ランスロット持てすぎ疑惑あり。
【趣味の遺伝】1906年 書いたのは1905年かな
これは、なかなか良いです。
主人公は一貫して、余。
日露戦争で亡くなった、尊敬していた先輩を思い出す。戦争で、目を引く活躍をしただろうと想像する。ここの表現が、生き生きとしすぎて物悲しい。
後半は、先輩の好きだった女性を探しだすという感じ。
だいぶ時間かけて読み切ろうとは思ったのだけど、英文学に無知で難解すぎました。
Posted by ブクログ
表題作「倫敦塔」「幻影の盾」を含む夏目漱石の初期の7小品を収める。
夏目漱石は明治38年1月に雑誌『ホトトギス』にて『吾輩は猫である』を連載開始。本書に収められた作品はその連載と並行して様々な雑誌に発表されたものである。
⑴「倫敦塔」 『帝国文学』明治38年1月号
⑵「カーライル博物館」 『学鐙』明治38年1月号
⑶「幻影の盾」 『ホトトギス』明治38年4月号
⑷「琴のそら音」 『七人』明治38年5月号
⑸「一夜」 『中央公論』明治38年9月号
⑹「薤露行」 『中央公論』明治38年11月号
⑺「趣味の遺伝」 『帝国文学』明治39年1月号
本書の表題作「倫敦塔」を読む前に、インターネットで「ロンドン塔」の歴史や逸話に触れておくことを強くお勧めする。実は私自身、本書は二回目の挑戦。数年前に手に取ったが、一作目「倫敦塔」の前半で挫折した。まったく何が何やらわからずお手上げ状態で眠らせていた。しかし今回は、何とも面白くて読む手が止まらなかった。「ロンドン塔」に関する有名な逸話を扱っているため、事前に調べた情報と結びつき、主人公の妄想が鮮やかに躍り出す。こんなに面白かったとは…。5番目に収められた「一夜」以外は面白く読むことが出来た。
これらの作品が一年の間に発表され、そして「猫」の連載が一貫して続く。「猫」とこれらの作品を比べても、方向性や執筆動機や目的が明らかに違うことがわかる。夏目漱石の中で、何か精神のバランスを取ろうともがいている?と感じてしまった。
Posted by ブクログ
夏目漱石の初期の短編集。イギリスが舞台になっていたり、イギリスの神話をもとにしていたり、イギリス留学の影響を強く感じる1冊です。
文体が古いものも多く、少し読みにくかったです…
Posted by ブクログ
明治33年10月より2年間漱石は英国に留学した。どこに行っても日本人がうようよ状態の現在と違って、当時は海外で生活する日本人は少なく、とても心細かっただろうと想像される。
元々神経質だった漱石は「英国人全体が莫迦にしている。そうして何かと自分一人をいじめる。これほど自分はおとなしくしているのに、これでもまだ足りないでいじめるのか」と思い詰めるほどの神経衰弱にかかってしまい、周囲の者に心配を掛けていたという。
しかし、この外国生活は作家としての漱石に大きな影響を与えたのは間違いない。 というのも、漱石は明治38年一月の「ホトトギス」に「吾輩は猫である」の第一編を発表して小説家としての第一歩を踏み出しているが、それと並行して「帝国文学」の一月号に発表したのがこの「倫敦塔」である。
さて、作品は『二年の留学中只一度倫敦塔を見物した事がある。その後再び行こうと思った日もあるが止めにした。人から誘われた事もあるが断った。一度で得た記憶を二辺目に打壊わすのは惜い、三たび目に拭い去るのは尤も残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う』という感想から始まる。
恐々ながら一枚の地図を案内として、漱石は倫敦を徘徊した『無論汽車へは乗らない、馬車へも乗れない、滅多な交通機関を利用仕ようとすると、どこへ連れて行かれるか分からない。(略)予は已むを得ないから四ツ角へ出る度に地図を披いて通行人に押し返されながら、足の向く方角を定める。地図で知れぬ時は人に聞く、人に聞いて知れぬ時は巡査を探す、巡査でゆかぬ時は又外の人に尋ねる』
もちろん、「夏目の語学は行く船の中からあちらの方に賞められたというくらいだからだいじょうぶでしょう」と夏目鏡子が「漱石の思いで」の中で書いているぐらいだから、会話には自身があったのだろう。
ダブルデッカー(二階建てバス)とアンダーグランド(地下鉄)を利用し、タワーヒル駅で降りる。地下から上がればすぐ目の前に『空は灰汁桶を掻き交ぜたよう様な色をして低く塔の上に垂れ懸っている。壁土を溶かし込んだ様に見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず無理矢理動いているかと思われる。(略)見渡したところ凡ての物が静かである。物憂げに見える、眠っている、皆過去の感じである。そうしてその中に冷然と二十世紀を軽蔑する様に立っているのが倫敦塔である』と書いている堀と城壁に囲まれた中世風の城と、その向こうにタワー・ブリッジが見える。
倫敦塔は、王室の居城としても使われたが、貴族や王室関係者の牢獄としての役割をしていた。しかも、死刑執行場ともなっていて、ここで処刑された囚人は数知れなく、権力争いで殺された、王子や妃も多く、暗いイメージが定着しているようだ。
ビーフイーター(衛兵)の案内で館内を見学する。リチャード二世が殺された白塔。作品中で、死刑執行人が斧を研ぎながら「切れぬ筈だよ女の頸は恋いの恨みで刃が折れる」と歌っていたボーシャン塔。エドワード王子(12才)とその弟が叔父に殺されたといわれている血染めの塔(ブラディタワー)を案内される。
帝王の歴史は悲惨の歴史であったと漱石は書いているが、まさに謀略のために血が流された歴史でもあったのだろう。
塔内見学途中で、気分が悪くなり早々に引き上げる。タワー・ブリッジに冷えた体でたどり着くと、風はますます強くなり、時折霙までが横殴りに吹き付けてきて、凍てつく気分になる。にぶく濁って波立ったテームズ川の向こうは、怨霊が倫敦塔を渦巻いて騒いでいるように強風が吹き荒れていた。
Posted by ブクログ
授業で用いた作品が入っていたため。
もともと「アーサー王物語」が好きだったので、登場人物などの予備知識は前もってあったものの・・・やはり文語は難しい!
しかし漱石持ち前の文章の流麗さはさすが輝きを失くさない。うつくしい日本語の流れが、そのままわたしの頭の中に流れ込みながら古の緑深いイングランド潤すせせらぎとなっていくように感じた。この漱石版と本場のアーサー物語は、なにか奥ゆかしさや古めかしさといった共通した雰囲気をまとっているように感じられてならない。