深緑野分のレビュー一覧
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人捜し×1945年7月のベルリン。殺害された人間の甥を探しながら、当時の様子がむざむざと伝わってきた。私は何も知らなかった。むしろ知らなかったことの罪悪感が大きい。そうか、ベルリンは連合国が分割して統治してたのか。戦争は女の顔どころか人間の顔をしてない。いや、、これが本当の人間の顔かもしれない。
ヒトラー率いるナチスによるユダヤ人の迫害は誰もが知っている。ナチスを支持するドイツ人もまたユダヤ人を迫害し、逆にナチスを支持しないドイツ人を非国民扱いしていた。そしてドイツ人にもユダヤ人にも密告者はいる。自分が信じたいものを信じられなくなる悲惨な時代だ。特に、本当はアーリア人なのにユダヤ人を演じていたジグの告白は強烈だった。生きるためにそうせざるを得ない。滑稽に語る口調からの痛々しさはこれまでに味わったことがないくらい、悲しいものだった。
あと、話の合間に出てくるワニのスープとペリカン。動物園を守ろうとしたヴィルマはかっこよかった。戦争を乗り越えたベルリン動物園はいまだ現役だ。この本を読み、ドイツ、特にベルリンに訪れてみたいと思った。
あとあと!深緑野分さんが描く少女は強い!「この本を盗む者は」に出てくる主人公もそうだし、17歳のアウグステもそうだし、バイタリティがすごい。やられたらやり返すくらいの気概を持ってないと。そう力強く思った。 -
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深緑先生のデビュー短編集。
まずそのバラエティ豊かさに驚かされる。第2次世界大戦下のフランス、ヴィクトリア朝時代のイギリス、昭和初期のの女学校の寄宿舎、中世北欧の辺境地と舞台も時代も自由自在だ。飽きることなく読ませていただきました。以下、特に印象に残った感想を
「オーブランの少女」
表題作。非常に映像喚起力の高い文章。
緑の庭園、白い館、マロニエ並木、キングサリの藤棚、白いスカート、青い瞳、赤いリボン、軋む歩行具。
なぜ海外が舞台?と思いましたが、なるほどこの残酷な世界はフランス郊外がしっくりきます。
そして残酷な世界には少女達がぴったりなのです。
「仮面」
本当に最終番になってから、ただ醜いとされてたアミラの秘密が記述されます。アミラとは決して分かり合えない隔たりを感じました。
「片想い」
昭和初期の女学校の寄宿舎が舞台。日本が舞台でも変わらず面白かったです。
「氷の皇国」
架空の国の辺境地。時代はわからないけど、多分中世の北欧がモデル(トナカイが住む、白夜と極夜が訪れる地)。最も読みごたえがありました。 -
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ネタバレ第二次世界大戦敗戦直後1945年7月のドイツ。
ヒトラーは自死を遂げ、英米仏露の連合軍に分割統治されるベリリン。
幼い頃から英語版『エーミールと探偵たち』を読み耽っていた主人公アウグステは、その英語力のおかげでアメリカ領のダイナーで職を得ることができ、なんとか食いつなぐ生活基盤を持つことができた。
くたくたに疲れて帰ったある夜中、ロシア軍管轄の警察に有無を言わさず連行され、NKVDの将校ドブリギンに告げられたのは、かつて世話になったクリストフの毒殺死。
クリストフは戦時中はその富を隠蓑に反ナチ地下活動を支持し、戦後は同志文化部のチェロ奏者としてロシア軍の庇護下にあった。
妻のフレデリカが疑わしい人物としてアウグステの名を挙げたこと、毒である青酸カリはアメリカからの配給品の歯磨き粉に混入されており、アウグステが数日前に支給された同一品を闇市で売っていたことから、アウグステは執拗な事情聴取を受ける。
確たる証拠がないため、ほどなく解放されたが、翌日ドブリギンからフレデリカの付き人の取り調べから、クリストフには生き別れた甥エーヒリがいるこが判明し、殺害に関わっている疑いがある、軍は人手が割けないので探し出してきて欲しいとかなりの無理難題をふっかけられる。
敗戦直後の関係性のなせるわざなのか、アウグステは断ることもできず、前日の取り調べの際に、偶然関わったコソ泥カフカと共にエーリヒ探しの旅が始まる。
戦前、戦後ドイツ国内の移ろいゆく描写に冒険ミステリ風味を混ぜ込むなんとも独特な読み応え。
そこまでどぎつい表現はないものの、共産主義からナチズムへの傾倒、優生思想や情報統制と生き抜くための盲目的な忠誠心、戦争へ導いたもの、結果として訪れたもの、繰り返される愚行、日本国内とはまた別の色合の”戦争”をとり巻く数多の理不尽が頭をぐるぐると行き交う。
ミステリー仕立てとやがて訪れるポツダム会議への機運がアクセントとなり物語へ引き込みつつ、その実”戦争”の残すものを考えさせられる一冊。 -
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『オーブランの少女』
オーブランの美しい庭園で、ここの女管理人の老婆が殺される。その死体の近くにいた犯人とおぼしき人物は、人というにはあまりにも朽ち果てた姿で立っていた。たまたま娘と二人でこの庭園を散歩している途中、その惨劇に遭遇した「わたし」は、とある事情で入手した昔の日記を読み、ここで当時起きた恐ろしい出来事と、それが引き起こしたこの殺人の真相を知る。
『仮面』
霧深く、凍えるような寒さのロンドンの深夜。
貧乏で冴えない風采の町医者が、患者である女性を殺害するシーンから始まる。その動機は、あどけなく可憐な幼い踊り子の少女を救うため。彼に人殺しを持ちかけた人物の本当の目的は。。。
『大雨とトマト』
外は大雨。お客は常連の男性ひとり。そろそろ店を閉めたいオーナーだが、そこに一人の若い女性が入ってくる。彼女が注文したものは、トマトだけのサラダ。なぜ彼女はこんな大雨の中、わざわざこの店に入り、そしてトマトだけをひたすら食べ続けているのか。
彼女の顔をどこかで見たことがあるように思えてきたオーナーは、若かりし頃、一度だけ関係を持った美しい女性にどことなく面影が似ていると感じ始める。
『片思い』
昭和の香りが色濃く漂う作品。
物語の舞台は女子学生寮。一方は美しくみんなの憧れのお嬢様、もう一方はがっしりした体格の活発な女の子。正反対の見た目と性格の二人は、そのおかげなのか仲良くやっていた。あることがきっかけで、お嬢様の秘密が露見するまでは。
クラシカルなタイトルがいい。恐らく誰しもが一度ならずとも抱くこの思いが甘酸っぱい香りを放つのは、少年と少女のときだけなのかもしれないなと思う。
『氷の皇国』
イメージとしては極寒のロシア(行ったことないけど)。
ユヌースクの皇帝は、自国の民に対して非常に冷徹で残酷だ。
あるとき、彼の跡継ぎである息子が城内で毒殺される。食事後にすぐに死んだため、配膳係の二人の少女が疑われ、無実の罪を着せられる。
二人を待つのは、公衆の眼にさらされての死刑だ。
皇帝の息子を殺害したのは誰なのか。
犯人だといきなり告白した、少女の父親が真犯人なのだろうか。それとも、賢く美しい皇帝の娘が弟を殺害したのであろうか。それとも犯行を否定している少女のうち、どちらかが犯行に及んだのか。
その動機は切な過ぎるほど自分勝手で許しがたいものだったのだが。。。
ファンタジーとミステリーがほどよく溶け合う、味わい深い物語となった。
短編にしては長いのかもしれないが、その長さがほどよくいい。
まるで海外の小説のような雰囲気を持つ5つの短編。本のタイトルにもなっている『オーブランの少女』に出てくるサナトリウムのような施設は、以前読んだカズオ•イシグロの『わたしを離さないで』を彷彿とさせた。
くすんだ鈍い色を放つ味わい深い陶器のような、そんな感じの本だと思った。
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料理をテーマにしたアンソロジー。
女性作家ばっかりかなと思ったけど、中村航さんは男性かな?色んなテイストの作品が詰まっていて、美味しくて嬉しいアンソロジーでした。
以下お気に入り作品。
柚木麻子「エルゴと不倫鮨」
不倫を嗜む男たちの隠れ家的鮨屋に、明らかに場違いなくたびれたおばさんが襲来する。そのおばさんはなぜかとても料理に詳しく、次々と美味しそうなオリジナル創作鮨をオーダーしはじめ…まさにタイトル通り注文の多い料理小説。ラストのオチも痛快でよい。
伊吹有喜「夏も近づく」
悠々自適な田舎暮らしをしている主人公が、兄から半ば押し付けられる形で甥っ子を預かることに。田舎の豊かな自然と触れ合うことにより2人が打ち解けていく様子が微笑ましい。伊吹有喜さんらしい、爽やかで優しいお話。
坂井希久子「色にいでにけり」
はじめましての作家さん。時代物で、美しい色彩と和菓子の融合。短編なのにキャラが立ってて、シリーズもので読みたいと思った。
中村航「味のわからない男」
岩上が脳内で原田○二に変換されて笑った。 -
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重厚なストーリーと、細部までこだわった緻密な描写で定評のある深緑野分さんのデビュー作品集。深緑さんというと長編のイメージがあるけれど、本書はタイトル作品をはじめとする5編の短編小説で構成される。共通項は「少女」である。
大人でもなく、子どもでもない、どこか不安定な存在である少女。そして、大人の狡知と、子どもの残酷さを兼ね備えた存在である少女。本書は、時代も国も、はたまた住む世界さえ違う少女たちを描き、そのどれも高い物語性を帯びている。さすが深緑さん、デビュー作からしてこれか!
深緑さんの作品は、不思議とどこか海外文学のような雰囲気が漂う。考証を重ねて構築された世界観がそう感じさせるのか、どこか突き放したような視点がそう感じさせるのか、最新作はこれまでとはまた違うテイストのようなので、読むのが今から楽しみで仕方がない。
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Posted by ブクログ
日本人が日本語で書いているはずなのに、
ディケンズの翻訳ものを読んでいるような
「高貴な」感じが漂っている。
舞台設定も、どことも分からぬ異国
(後に判明しますが)だったり、
大正時代(?)の女学校の寄宿舎だったりと、
今となっては誰も「正解」を知らない世界で...
中々の「異世界」感(^ ^;
でもその設定の中で、
揺れ動く登場人物の心象が丁寧に綴られており、
また日常の何気ない生活の一コマが
ありありと眼に浮かぶリアリティがあって(^ ^
ものすごい「名作感」がにじみ出ている(^ ^;
創元推理文庫だし、一応はミステリに分類しましたが、
「謎解き成分」は主ではない感じ。
何と言うか、もっと「純文学感」が前面に出てる(^ ^;
...やたらと「感」が多いですが(^ ^;
それほど、読んでて色々と感じるところがある、
と言うことで、一つ(^ ^;