帚木蓬生のレビュー一覧

  • ヒトラーの防具(上)

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    作品中にも出る「正義は弱者にある」そういう視点から書かれた小説です。
    相変わらず帚木さんらしい抑えたれた丁寧な文体で、ナチスによる迫害や戦争の悲惨さが次々と冷静に語られていきます。声高でも押し付けでもないヒューマニズムです。
    近年発見された日記という形式で語られるのも、リアリティを生み出すのに成功しています。そして、終わり方も上手く余韻を残しています。
    やや冗長な感もありますが、「三度の海峡」と並ぶ作品だと思います。

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    2017年11月16日
  • 逃亡(上)

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    読み始めは一寸違和感があった。
    平和な世界から見れば、異常行動と言える拷問や殺人を経験した主人公が、反省や後悔も無く自己弁護している姿は、これまで読んできた帚木さんの感じとどうも違う。有ってはならない悲惨さを読者に訴えるのではなくて、むしろそれを肯定してる感さえあるる。
    しかし、後半に進むにつれ、本当に徐々に、しかも自然の流れの中で、追い詰められた主人公の自己弁護が後悔や反省に変化していき、最後にはいつもの帚木さんである。
    加害者である日本の犯罪的行為とともに、戦勝国である米国の行為も随所で批判しながら、再び起こしてはならない悲劇を、いつもの如く淡々とした語り口で表現している。

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    2017年11月10日
  • 空山

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    同じ背景・登場人物の前作「空夜」が恋愛小説だったのに対し、この作品は「ごみ問題」を取り上げた社会小説です。
    さすがというか、帚木さんの筆力は素晴らしく、一気に読ませてもらえます。人物造形の上手さや、途中に盛り込まれる恋愛模様の面白さもあります。
    ただ、ごみ問題があまりに正論過ぎて、どうしても青臭い理想論のようにしか見えないのです。例えばごみを税金で処理するのではなく、製造会社が回収するべきという論理もその一つです。製造会社は営利団体です。でなければ、その会社の従業員の生活は成り立ちません。回収義務を与えれば、その費用は製品の価格に反映されます。結果的には税金を支払うのと大差は無くなります。

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    2017年11月10日
  • アフリカの蹄

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    帚木さんらしいヒューマニスティックな作品です。
    一般的にはミステリーに分類されるのかもしれませんが、私にはヒューマニズムの面から純文学のように見えます。
    やや、定型的過ぎるかもしれません。右翼白人は皆悪人ですし、黒人は皆善人のような書かれ方です。そういった面での深みを感じられないのは、少し減点です。
    しかし、読み始めると同時に、帚木さんの筆力に一気に引き寄せられます。そして感動の終末。お勧めの作品だと思います。

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    2017年11月08日
  • 空の色紙

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    最初の作品を読んで"やはり帚木さん!"次を読んで"エッ?"、最後で"アリャリャ”という感じ。
    空の色紙はなかなかです。第2次大戦が出てくるところも、ヒューマニスティックなところも、いかにも帚木さん。
    しかしあとの2作はね。「頭蓋に立つ旗」はデビュー作だそうですが、文章にやたらと力が入っている感じですし、何がテーマなのか判り難いし、最後に力尽きたようです。「墟の連続切片」はそこまででは有りませんが、やはり何か生硬な感じがします。
    とは言え、「空の色紙」の良さに免じてこの評価です。

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    2017年10月30日
  • 臓器農場

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    ネタバレ

    聖礼病院に就職した規子。ある日、無脳症の胎児を身ごもった母の会話を聞いてしまう。規子の病院で無脳症児からっ臓器移植が行われている事実を知ってしまう。そこから医師と規子の友人の看護師など口封じのために殺されてしまう。サスペンスの中に本格的な医療の知識、そしてラブストーリーが織り込まれている。どんどん読み進んでしまう作品。

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    2017年09月23日
  • インターセックス

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    2017.7.21完読

    これ読むの結構時間かかったわー
    だけど、なんだか面白かった

    岸川先生が本当はやってなくて
    誰かに仕組まれたことだったら良かったのにー
    って本当に思う
    でも、何よりの一番の衝撃は、直子さんとデキてたこと

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    2017年07月23日
  • 聖灰の暗号(上)

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    ネタバレ

    現代の謎解き部分よりも、カタリ派が弾圧されている時代の話の箇所のほうが引き込まれた。
    最後の犯人は、トカゲの尻尾切りだろうが、あまりに呆気ない感じがして、少し物足りなかった。もう少しひねりが欲しかった。
    総じて、宗教のあり方を私たちに問いかけている作品としては、すごく考えさせられるのではないかと思う。
    現在のテロ問題も、宗教問題と考えれば、相手を排除することでは絶対に解決できないことであり、相互理解は重要なテーマだと考えさせられた。

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    2017年08月04日
  • 風花病棟

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    帚木蓬生は短編でも引き込ませる。「日本では国民ひとりひとりがかけがえのない存在ではなく…」 国民性なんだろうな。

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    2017年07月03日
  • 賞の柩

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    イギリス人が受賞したノーベル賞の裏には、意外な過去があった。
    ノーベル賞を巡っていろんな人の死が関係していた。
    次々と真実を突き止める津田医師。
    医学ミステリーでは帚木氏の小説は面白いです。

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    2017年06月25日
  • 天に星 地に花 上

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    享保十三年(1728)~十八年
    百姓に対する増税、彼らの反発、そして大飢饉。
    お百姓らの働きはほとんど自分に返ってこない。藩の為 藩のため ‥‥ なんて辛い
    疱瘡を生き延びた大庄屋の次男庄十郎は医師を目指す。

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    2017年05月31日
  • アフリカの瞳

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    十人に一人がHIVに感染している国南アフリカ。かつて白人極右組織による黒人抹殺の陰謀を打ち砕いた日本人医師・作田信はいま、新たな敵エイズと戦っていた。民主化後も貧しい人々は満足な治療も受けられず、欧米の製薬会社による新薬開発の人体実験場と化していたのだ。命の重さを問う感動の長編小説。

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    2017年04月08日
  • エンブリオ 下

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    「男性の妊娠」研究を国際学会で発表し、各国の賞賛を浴びた岸川。彼の高度な医療水準に、アメリカで不妊治療をビジネス展開する大企業が目をつける。最先端の技術と情報を盗むため、巨大組織が仕掛けた卑劣な罠。そして、それに対して岸川がとった恐るべき反撃策とは。岸川の持つ闇が徐々に暴走し始める…。生殖医療の暗部を鋭くえぐり、進みすぎた生命科学が犯す罪を描き出した戦慄の長編小説。

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    2017年04月08日
  • エンブリオ 上

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    エンブリオ―それは受精後八週までの胎児。天才産婦人科医・岸川は、人為的に流産させたエンブリオを培養し臓器移植をするという、異常な「医療行為」に手を染めていた。優しい院長として患者に慕われる裏で、彼は法の盲点をつき、倫理を無視した試みを重ねる。彼が次に挑むのは、男性の妊娠実験…。神の領域に踏み込んだ先端医療はどこへ向かうのか。生命の尊厳を揺るがす衝撃の問題作。

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    2017年04月08日
  • 閉鎖病棟

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    ネタバレ

    とある精神科の病棟。
    過去に凶悪犯罪を犯してしまった患者たちを
    優しく暖かく描く物語。
    ラストのクライマックスでは思わず涙。
    しかし、忘れてならないのは彼らは重い罪を
    犯したということ。
    その前科さえ霞むくらいの純粋さが美しい。
    罪を犯し精神病院に入る=危険と
    簡単に認識してしまう自分と社会。
    改めるのは難しいが努力してみようと思う。

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    2023年01月03日
  • 賞の柩

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    ノーベル賞を受賞したイギリス医学界の重鎮
    彼の周りでは、ライバルたちの謎の死があった・・

    若い研究者の画期的な論文を
    潰したり、自分のものにしたり。
    こういうのって実際にあるのかもしれない

    サクサクと話が進んで読みやすい医療サスペンス

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    2016年12月15日
  • 三たびの海峡

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    ネタバレ

    日本の暗い歴史を考えさせられる作品。自分の故郷近くが舞台ということもあり身近に感じられる部分もあった。中盤までは過去と現在が入れ替わりが多いので、やや読み辛かったが終盤の展開は一気に読まされ、作者の力を感じた。

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    2016年11月24日
  • 三たびの海峡

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    「一度目」は戦時下の強制連行だった。朝鮮から九州の炭鉱に送られた私は、口では言えぬ暴力と辱めを受け続けた。「二度目」は愛する日本女性との祖国への旅。地獄を後にした二人はささやかな幸福を噛みしめたのだが…。戦後半世紀を経た今、私は「三度目の海峡」を越えねばならなかった。“海峡”を渡り、強く成長する男の姿と、日韓史の深部を誠実に重ねて描く山本賞作家の本格長編。吉川英治文学新人賞受賞作品。

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    2016年11月18日
  • 賞の柩

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    イギリス医学界の重鎮、アーサー・ヒルがノーベル賞を受賞した―。知らせを受けた青年医師の津田は、同じ分野で研究を続けながら惜しくもこの世を去った恩師、清原の死因を探るなかで、アーサーの周辺に不審な死が多いことに気付く。彼らを死へと追いやった見えざる凶器とは一体何か。真相を追ううちに津田は大きな陰謀に飲み込まれてゆく。ノーベル賞を題材にした本格医療サスペンス。

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    2016年10月21日
  • 空の色紙

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    精神科医の小野寺は、殺人容疑者の精神鑑定を依頼された。妻との関係を疑い、自分の息子を殺したというその男は、本当に狂気のさなかにあったのだろうか?小野寺は調査を進めながら心の動揺を覚える。実は彼自身も、ある事情のために妻への屈折した嫉妬の感情を抱きつつ生きてきたのだった―。表題作をはじめ、デビュー作「頭蓋に立つ旗」など初期の医学もの中編3編を収録。

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    2016年10月21日