帚木蓬生のレビュー一覧

  • 白い夏の墓標

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    大どんでん返しの結末。これには驚いた。
    けれども、文章をしっかりと読んでいれば、ある箇所でその違和感に気づき、この結末を予想できたかもしれない。

    ウィルス、そこからの細菌兵器開発へ。人のためになるはずの科学ではなく、”逆立ちした科学”。それに従事せざるを得ない科学者の苦しみ、葛藤。そして、そこからの逃亡。

    1人ではできない、立っていられない。誰かが必要。

    それにしても、見事などんでん返しだと思う。面白かった。

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    2025年10月26日
  • 白い夏の墓標

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    フランスで開催される肝炎ウイルス国際学会に出席した佐伯教授は米国陸軍微生物研究所のベルナールという人物からの訪問を受けた。かつて仙台で一緒に机を並べていた黒田がアメリカ留学時代に事故死したと思っていたが、ベルナールが言うにはフランスで自殺をしたという。そしてフランスの田舎に黒田の墓があるのでぜひ見舞ってほしいという…。思いもしない旧友の後を追うことになり、細菌兵器研究の闇を覗くことになった。

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    2025年10月09日
  • 臓器農場

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    人に勧めたい作品。長編だが文面は読みやすい。題名や表紙のイラストは不気味だが内容は普通のミステリー。面白かった。

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    2025年09月10日
  • 臓器農場

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    精神科医でもある著者。思ってたように暗い。
    体調が良くなってなかったら読めなかったかもというくらい、暗い。新生児の臓器のビジネス、もう聞くだけで暗い。

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    2025年09月08日
  • 白い夏の墓標

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    ウィルス研究は兵器製造にも繋がるという恐怖と、知らずにその罪に加担するおぞましさ。
    並行して黒田の死が二転三転するところにも引き込まれる。

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    2025年08月24日
  • 白い夏の墓標

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    この手の医療倫理モノって今となっては多数存在するのだけれど、40年以上前に発表され、今もってまったく古さを感じさせないというのは凄い。そして、書いたのが帚木さんというところに、本の説得力がある。
    センダイ・ヴァイラスを発見、研究していた黒田氏がアメリカにヘッドハンティングされ、そのままアメリカで亡くなったと聞かされていたにもかかわらずフランスに手がかりが……という国際色溢れる作品。さすが、医学は国境を越える。
    純粋なサスペンスとして、黒田の”死”の真相や、登場人物の関係性が徐々に明らかになっていくのは面白い。本当に、古さを感じない作品。
    あと、センダイウイルスが実在することにも驚いた。完全に創作だと思ってた。

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    2025年07月08日
  • ギャンブル脳(新潮新書)

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    大阪のIRが2030年秋に開業する予定だが、ギャンブル依存は医師もお手上げな病気らしい。
    というのも、一旦ギャンブル症になった人の脳は元に戻らない。西洋では「いったんピクルスになったギャンブル脳は、二度と元のキュウリの脳には戻りません。」と表現するらしい。治療や自助グループ活動により、ギャンブルをしない期間を1年、また1年と積み上げていくのが現状。
    日本人のギャンブル症有病率は世界3位だというのに、いいのか?

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    2025年07月07日
  • 薔薇窓の闇 下

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     舞台は1900年のパリ。1900年のパリ、と聞いても歴史に弱い私はそれがどういう時期だったのか、すぐに分かりませんでした。確かフランス革命って18世紀末だよな。じゃあそれから100年後くらいか。ふむふむ、パリ万博。おっ、これはなんか聞いたことあるぞ。ドレフュス事件……? うっ、こっちもなんか聞いたことはあるけど……、ほうほう、こんな事件だったのか。と正直そのくらいの知識で読みはじめたのですが、著者の紡ぐ丁寧な描写のおかげもあって、気付けば、心は1900年のパリにいました。

     日本の芸術品に強い興味を持つ精神科医のラゼーグを語り手に、謎めいた日本人女性である音奴との出会い、そしてラゼーグに会うまでの彼女に何があったのか、という秘密が事件の真相に深く関わっていく――。ラゼーグと音奴の関係はもちろんですが、徐々に心を開いていく音奴と彼女に協力的な態度を示してくれる脇を固める人物の姿も印象的でした。真相が明かされることで読者が知る、サスペンス的な恐怖と後に残るような嫌な感じも魅力的です。

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    2025年07月03日
  • ギャンブル依存国家・日本~パチンコからはじまる精神疾患~

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    先日、たまたま新聞のコラムで帚木蓬生さんの本が紹介されているのを目にして、ちょっと興味が湧いたので読んでみることにしました。
    パチンコはギャンブルだ、というのは以前から認識していましたし、パチンコ屋がより人をパチンコにハマるような仕掛けをしてきている、ということはある程度分かっているつもりでした。また、その他の公営ギャンブルも何故合法なのか不思議に思ってはいたのですが、それらの裏には巧妙な利権のシステムがあった、というのはちょっと意外、と言うか自分の物の見方が甘かったということを改めて認識させられました。
    本書を読む限り、日本という国のギャンブル依存は治りそうもないという絶望しかありませんね。

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    2025年07月01日
  • 逃亡(上)

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    戦争は終わった──。だが、彼の戦いは、そこから始まった。

    敗戦とともに価値観が反転した時代。
    かつて「国のため」と信じて従ったその道は、一夜にして「罪」へと変わる。
    追われる男と、彼を信じて待つ家族。寄せられる村の視線、心の中に生まれる疑いと迷い。

    逃げることは、罪なのか。
    生きることに、どれほどの勇気が要るのか。

    静かな田舎の風景の中で、声にならない問いが交錯する。
    正しさとは何か――。
    読む者の胸に静かに刺さる。
    下巻に続く

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    2025年06月24日
  • 閉鎖病棟

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    精神病患者の聖人君子すぎるキャラクターや、作品全体の謎として性加害が扱われることの危うさなど、気になるところはあるが、惹き込まれる文章。

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    2025年06月07日
  • 襲来 上

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    帚木蓬生は、精神科医としての知見を背景に人間の内面に深く迫る作品で知られ、また『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』という著書を持つ。
    この「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、「どうにも答えの出ない、対処しようのない事態に耐える能力」であり、「事実や理由を拙速に求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」を指します。それは何かを解決する能力ではなく、むしろ「そういうことをしない能力」とも表現されます。帚木氏は、この能力を知ってからご自身の人生や創作活動が随分楽になったと述べています。

    この「ネガティブ・ケイパビリティ」という視点から、『襲来』を読むと、作品の持つもう一つの層が見えてきます。本作は、鎌倉時代、蒙古襲来という未曽有の国難に立ち向かう人々、特に主人公の見助と、彼が深く関わることとなる日蓮を中心に描かれています。

    物語は、見助という赤子が壊れかけた舟の舳先で拾われるというシーンから始まります。彼は養父に育てられ、「いつか来る死の時に後悔のない人生を送るよう」諭されます。見助は若くして養父を亡くしますが、その葬儀に参列した清澄寺の若い僧侶、後の日蓮との出会いが彼の運命を大きく変えていきます。日蓮は見助に片海という生まれた土地から出るべきだと諭し、「見えるもの、聞こえるものの奥を見るべきだ」と教えます。

    日蓮は国の安泰と民衆の幸せを願い、法華経の中に民を救う方策を見出した人物です。彼は不正な行いを前に黙っている僧侶を批判し、やがて蓮長から日蓮と改名し、日蓮宗を旗揚げします。そして、間もなく国中に天変地異が起こり、その後に外敵が襲来するという予言を放つ。

    この「外敵の襲来」こそが、まさに「答えの出ない、対処しようのない事態」 です。高麗が既に蒙古に征服されている、済州島の三別抄の軍が敗れた後が襲来の時期だとされる など、情報は断片的に入ってくるものの、鎌倉は西国の情勢が分かっていない、対馬の守護や地頭代も新参者である など、事態への対応は遅々として進みません。
    人々の中には「起こって欲しくないものは、たぶん起こらないと思ってしまう」という心理も働きます。これは、まさに「不確実さや不思議さ、懐疑の中にはいられない」こと、つまりネガティブ・ケイパビリティの欠如が招く状況です。

    そんな中、主人公の見助は、富木から日蓮を支える手足となってほしいと頼まれ、波乱の人生を歩み始めます。彼は日蓮の佐渡流罪、念仏者との論争や新たな著作活動、そして日蓮の死 を見守りつつ、対馬での攻防、壱岐の壊滅、石築地の築造 などを経験していきます。
    見助の旅は長く、馬関から難波津までひと月かかるような道のりもあり、その肩にかかる笈は「経過した年月そのもの」 と感じられ、新しい宿に対して自分は古びてしまったと感じる描写は、彼が歴史の大波の中で多くの時間を耐え忍んできたことを示唆しています。

    見助の強さは単なる肉体的なものではありません。雪山の中に一人でいても「ひとりではなかった」と感じ、たとえ艱難辛苦にあっても「とことん自分の道を進んで行くとよい」という言葉は、「答えの出ない状況下でも自己を見失わず、耐え、進み続ける精神的な強さ」、すなわちネガティブ・ケイパビリティに通じるものと言えます。
    日蓮から受けた「見えるもの、聞こえるものの奥を、見て聞けるようにならないといけない」という教え は、不確実な状況を性急に判断せず、その奥にある真実を見ようとする、ネガティブ・ケイパビリティの精神と響き合います。

    日蓮自身は、非常に能動的な人物として描かれますが、周囲は必ずしも彼の訴えを受け入れられません。得宗家でさえ日蓮を恐れているふしがある ことは、彼の「杭」が大きすぎる、つまり彼のスケールに対して、事態に対処しようとする周囲の「木槌」があまりに小さい 状況を示しているとも解釈できます。
    「石と石の間には相性がある。相性が合わん石をくっつけても、すぐに崩れる」という比喩 は、人間関係や組織だけでなく、未曽有の事態に対して有効な対応ができない状況をも表している。

    『襲来』は、単に蒙古襲来という歴史的な出来事を描くにとどまらず、避けられない破局に向かって進む世界の中で、人間がいかに「答えの出ない事態」を生き、耐え忍ぶかを描いた作品です。主人公の見助の視点を通して、読者は不確実性の中を歩む個人の内面と、歴史の大きなうねり、そしてその中で説かれる日蓮様の教えを追体験します。

    「これしきのことが夢であれば、夢はずっとずっと続く」 という言葉が象徴するように、人生や歴史には避けられない苦難や不確実性が存在します。

    帚木氏は、『襲来』において、このどうにもならない事態を前にした人間の「耐える力」、すなわちネガティブ・ケイパビリティの有り様を、歴史上の人物と架空の人物を通して深く掘り下げています。
    これは、まさに著者自身が探求し、重要視している概念であり、本作を「ネガティブ・ケイパビリティ」という眼鏡を通して読むことで、歴史小説としての面白さに加えて、人間の内面的な強さや弱さ、そして困難な時代を生き抜くことの意味について、より深い洞察を得ることができるでしょう。

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    2025年05月18日
  • 白い夏の墓標

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    友人が間違って同じものを買ってしまったので、と言ってくれた本。帚木蓬生さんの本は、当初私が友人に勧めた。気に入ってくれたみたいで、今度は他に目移りしていた私に勧めてきた。久しぶりに読んだらやはり面白い。最初から「ミステリー」の体をなしている訳ではなく、徐々にじわじわと謎が染み出してくる。その上著者の本職である医学用語が物語の品と言うか、知的な読み応えも満足させてくれる。昭和58年発行で、令和5年27刷目!すごいなー

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    2025年05月05日
  • ギャンブル脳(新潮新書)

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    やや過激とも言える表現や下手すれば陰謀論ともとれる内容もありますが、ギャンブル(ひいては依存症)の怖さがはっきりと分かる一冊となっています。ややお仕事の知識から外れるところもありますが、普通に読み物として面白く感じました。依存症は自分でなんとかしようとせず、すぐに病院へ繋ぐことが大事だと感じます。

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    2025年04月29日
  • ほんとうの会議 ネガティブ・ケイパビリティ実践法

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    著者の専門である依存症の自助グループのミーティングについての特徴から、オープンダイアログの共通性に、著者が広めたネガティブケイパビリティと、その源流につながる話。おそらくすべてに通じた人でないと分かりにくい部分もある。「答えは質問の不幸である」といったブランショの言でビオンが「答えは質問を殺す」と言い、ネガティブケイパビリティの重要性を語ったが、本書の後半はブランショがその発想を得た「サン・ブノア通りの仲間たち」のデュラスの話が主となる。戦時中のレジスタンスから戦後のパリの知識人を生み出した中心にデュラスはおり、そこでの対話が豊かな発想を生んだ。デュラスは映画になった「愛人」で有名であるが、本書の後半はデュラスの自伝のような話であったが、彼女の自由な人生は今では当たり前になっているが(逆風もあるが)、そうした環境(心理的安全性)であるからこそ、豊かな発想が生まれるのだろうと感じた。

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    2025年04月23日
  • 白い夏の墓標

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    ネタバレ

    昭和54年刊行…が古くささを全く感じさせない。
    医学用語的なことも全くわからないのに、引き込まれた。

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    2025年04月22日
  • ヒトラーの防具(下)

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    しばらく読むのを中断していたが、読み終わった。戦争の悲惨さが心に重くのしかかっている。
    この作品で描かれたベルリン市街戦、総統ヒトラーの最期。
    胸に残って離れない。
    ささやかなものだったかもしれないが、それぞれにあったはずの未来を無惨に引き裂く戦争。
    そしてそれを引き起こす政治家。
    歴史に学ぶところは大であろう。
    登場人物のルントシュテット夫妻とヒャルマー爺さんが、ドイツの善意の象徴として描かれているのが救いだった。

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    2025年04月19日
  • ギャンブル脳(新潮新書)

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    徹底したギャンブル批判が綴られているのは、当事者やその家族、治療者や自助グループ、対策組織など関係者の考えとして至極当然とも言えるが、その論調が続いたあとでの、回復に向けた取り組みへの距離感と視線という点ではこの書籍ならではという味があった。

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    2025年04月12日
  • ほんとうの会議 ネガティブ・ケイパビリティ実践法

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    仕事柄、会議が多く、実のある議論、効率的な議論とするにはどうすべきかと悩んでいるところで、店頭で見かけて手にしてみました。
    序盤は、依存症の方から話を引き出す事例から入っており、ビジネス観点ではなかなか頭に入らない内容でした。
    本書では、会議の目的は答えを出すことをよりも、話を引き出すことであり、そのためには答えがでないことも許容する(ネガティブ・ケイパビリティ)ことの重要性を説いていました。
    テキパキと会議を進めることだけではなく、話を引き出す重要性を改めて感じました。心理的安全性にもつながる内容だとも感じました。


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    2025年03月26日
  • ギャンブル脳(新潮新書)

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    このところオンラインカジノが大きな話題となり、その利用者は国内337万人に推計されると報道されました。
    私自身、一番くじや宝くじは時々楽しみますが、オンラインカジノの広告なんて目にしたことはありません。損するとわかっているのに、なぜ手を出してしまうのか?
    そんなことを考えていた矢先に書店で本書を見つけ、興味深く読みました。

    幸いといっていいでしょうが、私の周りに「ギャンブル脳」はいません。
    ですので、本書で赤裸々に語られる患者とその家族の地獄の様相には言葉も出ませんでした。
    特に、ギャンブルをやめられない息子に悩む母親から「『ギャンブルをやめて』と遺書を書いて私が首を吊ったらやめてくれますか」と質問され、「いいえ、お母様の香典を盗んでギャンブルに行くだけです」と答えたエピソードには背筋が寒くなりました。
    アルコールや薬物など体外の物質から依存症状が起きるのと異なり、ギャンブルの場合は行為そのものによって脳内の化学物質(セロトニンやドーパミンなど)のバランスが崩れるのが原因とのこと。なので、薬物療法がなく、「意思の力」でやめるなどもってのほか、というのが厄介なんだそうです。

    中でも興味深かったのが第二章「ギャンブル症になりやすい人、なった人」でした。
    遺伝や生育環境による影響もあるものの、どんな人がギャンブルにハマりやすいのか。
    かんしゃく持ち、興奮を求めやすい、褒められたことがない――。
    こうして列挙される特徴の数々から、ソシャゲのガチャ結果をsnsにアップする人々が浮かんでしまいました。
    ”ゲームへの課金”もすっかりハードルが低くなりましたが、お目当てのアイテムが買えるもの以外はギャンブルに他なりません。
    周囲との安定した関係が築けなかったり、自らの力で何かを達成したり作り出したことがなかったり。それらの人生を豊かにする経験が乏しい人々にとって、ギャンブルというのはお金の力で易易と成功体験を得られるもの。だからこそ抜け出すのが難しいのかもしれません。

    中盤から筆者の思い入れが強すぎて話の脱線が増え、実際の治療経過などがあまり描写されないのは残念ですが、「ギャンブルはうかつに手を出してはいけない」という認識がますます強くなりました。
    ギャンブル症は完治することがなく、生涯付き合っていくしかありません。またそのための特効薬もなく、有効だとされるのは自助グループとのこと。
    自助グループで自分をさらけ出し、他者を受け入れ、思いやりや寛容といった精神を育んでいくこと。そうした生活を送りながら、「今日もギャンブルをしなかった」日々を積み重ねていくしかないのでしょうね。

    未知の、そして知らなくていい世界を教えてくれる、興味深い一冊でした。

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    2025年03月15日