帚木蓬生のレビュー一覧
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面白かった。オウム事件についての本は沢山読んできたけどこういった医者・学者の立場からの物はなかったので非常に楽しめた。ただ範囲サリンなどの化学兵器だけに収まらず一連の殺人事件などにも及んでいるので、事件の全体像についても描かれている。ただそれが主人公の衛生学者の視点なので、専門分野以外についても語っていたり公判をすべて傍聴したかのような書きっぷりがどうにもちぐはぐな印象は受けた。ほぼノンフィクションなんだけども、実際主人公の沢井のモデルになったのは井上尚英という学者らしく、作中に登場するこの人の著書も読んでみたい。しかしこういった有識者は警察からの照会、メディアの取材、裁判の証人など大変な責任
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人間の底力を再確認できた本。
以下読みながら思いを馳せた事
【子育てについて】
こどもが不登校になったとき、その子はネガティヴ・ケイパビリティを駆使している。容易に解決できない事態にジッと耐えているのだ。
つい親は、画一教育に適応してきた自分を基準に、子どもの落第を想像して、安易に解決させようとする。励ましや叱咤をするだろう。しかし、本当に必要なのは親も子どもへネガティヴ・ケイパビリティを駆使することだ。記憶も理解も欲望も発揮してはならない。神秘と不可思議さを持ちながら、ひたすらに見守るのだ。なぜなら、世の中には解決できない問題の方がずっと多い。こどもはまさにそういった現実を直感で感じとり、対 -
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問題解決ではなくそもそも問いを疑え,的な話はビジネス本でよく見かけるけど問題解決だけでなく発見(問い直し)すらもできない宙ぶらりんな状態の状態に身を置くことの価値,重要性を言語化し,ネガティブケイパビリティと定義をした(著者が再発見し現代に甦らせた)ことの価値は非常に大きいと思う.
反脆弱性にも通ずるものを感じる.
暗中模索,宙ぶらりんに耐えて,性急な結論や過激な意思決定に強く自戒し,一方でその場に背を向けることなく対峙し続ける姿勢.
現実にこの概念を当てはめ,眼前の苦境をメタ認知できるようになったことは今後の仕事や生活の中でも役に立つだろう.
あと現代の創作の源泉にもなっているシェイクス -
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一つで二度味わえる小説。紫式部物語を読む中で作中で書かれる源氏物語を読んでいることになる。香子(かおるこ)は父から「香子(きょうこ)、今日からそなたのことを、かおること呼ぶことに決めた」と言われた。女子にしておくのは惜しい。男子であればこの堤第を再興してくれるだろう。誰でもが認めるひとかどの人物になる、その資質が薫るからだ、と言われる。和歌と漢詩が作中にふんだんに出てくる。漢詩は漢字が難しく意味を取りがたいものも多いが、和歌は二度読んでみるとなんとなく雰囲気で分かってくるものが多い。源氏物語の桐壺、帚木、空蝉、夕顔、若紫、末摘花まで書かれた。
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1.著者;帚木氏は小説家。大学仏文科を卒業後、TBS勤務。2年後に退職し、医学部で学んだ。その後、精神科医に転身する一方で、執筆活動。「三たびの海峡」で吉川英治文学新人賞、「閉鎖病棟」で山本周五郎賞など、多数受賞。帚木氏は現役の精神科医であり、第一回医療小説大賞を受賞(医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰)。
2.本書;現役精神科医が、患者の視点から病院内部を赤裸々に描いた人間味ほとばしる物語。閉鎖病棟とは、精神科病院で、出入口が常時施錠され、自由に出入り出来ない病棟。ここを舞台に、患者が個別の事情を抱えながら、懸命に生きる姿を描く。死刑を免れた秀丸、性的虐待を受けて不登校になった島 -
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帚木蓬生著 白い夏の墓標
二、三年前古書店で比較的綺麗な形で並べられておいたので購入しておいた。最近書店で平積みで売られていたので読んでみた。40年以上前、著者は三十代に入った頃に書かれた本であるけれども、全く題材は陳腐化しておらず、今の時代にも十分通用する医学ミステリーであり、細菌兵器の開発をあつかったサスペンスです。
最近見た「オッペンハイマー」は核兵器開発の映画でノンフィクションですが、こちらはフィクションで細菌兵器をアメリカ政府機関での開発に関わった細菌医学者が最後良心に立ち返って、細菌をこの世から廃棄して上司の指示で殺し屋によってピレネー山脈の山深くで抹殺されてしまうストーリーで -
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淡々と話は進んでいくのだけど、キュウーッとゆっくりじわじわ胸を締め付けてくる話でした。
冒頭はこの物語の中心人物たちが、病棟に来る前の話をオムニバスみたいに語り、急に現在の話になっています。「チュウさん」「昭八ちゃん」など呼び名が病棟内でのニックネームに。
それがなんとなく気になるし、いちばん最初に書かれていた由紀の中絶も真相が気になりつつ、物語は患者らの過去を織り交ぜながらこれといった盛り上がりもなく、精神病棟の日常が過ぎているように感じました。
ところが一転!由紀が巻き込まれた事件で一気にいろんなことが加速し、読み手の私の感情もざわつきが収まらず、最後は一気に読みました。
もうこれ以上