帚木蓬生のレビュー一覧
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一つで二度味わえる小説。紫式部物語を読む中で作中で書かれる源氏物語を読んでいることになる。香子(かおるこ)は父から「香子(きょうこ)、今日からそなたのことを、かおること呼ぶことに決めた」と言われた。女子にしておくのは惜しい。男子であればこの堤第を再興してくれるだろう。誰でもが認めるひとかどの人物になる、その資質が薫るからだ、と言われる。和歌と漢詩が作中にふんだんに出てくる。漢詩は漢字が難しく意味を取りがたいものも多いが、和歌は二度読んでみるとなんとなく雰囲気で分かってくるものが多い。源氏物語の桐壺、帚木、空蝉、夕顔、若紫、末摘花まで書かれた。
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1.著者;帚木氏は小説家。大学仏文科を卒業後、TBS勤務。2年後に退職し、医学部で学んだ。その後、精神科医に転身する一方で、執筆活動。「三たびの海峡」で吉川英治文学新人賞、「閉鎖病棟」で山本周五郎賞など、多数受賞。帚木氏は現役の精神科医であり、第一回医療小説大賞を受賞(医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰)。
2.本書;現役精神科医が、患者の視点から病院内部を赤裸々に描いた人間味ほとばしる物語。閉鎖病棟とは、精神科病院で、出入口が常時施錠され、自由に出入り出来ない病棟。ここを舞台に、患者が個別の事情を抱えながら、懸命に生きる姿を描く。死刑を免れた秀丸、性的虐待を受けて不登校になった島崎、・・・。「感涙を誘う結末が絶賛を浴びた」と評価された。24項の構成。山本周五郎賞受賞。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『1項』から「(女医)堕ろす場合は相手の人かお母さんと一緒に来なさい」。「(母親と女教師)学校で何があったの?誰かが意地悪するの?」。「(母親)学級費も一体何に使ったの」 『20項』から「(島崎)こぼれる涙をふきもせず、義父との関係を告白しました」。「(チュウ)大抵の事には驚かない私も、背筋が凍る思いがしました」 『14項』から「(チュウ)島崎さんが重宗に辱めを受けた」 『24項』から「(島崎)医院に住まわせてもらって、昼はそこで働いているの。夜は医師会の看護学校」
●感想⇒読書嗜好からすれば、この類の本は苦手です。案の定、最初から中学生が望まぬ妊娠し、中絶するという内容です。最近マスコミでもこうした事件がよく報道されます。一言でいえば、義父は非道極まる人間です。女性の人格を無視した行為には反吐が出ます。相談相手たるべき母親は、子供に寄添うどころか、無視と非難「学級費も一体何に使ったの」。義父は言うまでもなく糾弾されるべきですが、母親こそ再婚相手よりも子供を大切に考え、普段からもっと関心を持つべきでしょう。彼女は、その後も患者から辱めを受け、精神的にはボロボロになりました。それでも、立直る姿に感動です。一般的な事しか言えませんが、子供達が悲惨な被害者とならないように、周囲の大人達が気を配る社会になる事を節に願います。さらには、被害者が、誰にも相談出来ない状況に追い込まれるのだけは避けたいものです。社会全体の課題だと思うのです。
(2)『10項』から「(秀丸)男ば作っておやじを死なせたのもあんた[母親]。死んだおやじの年金ば貰うてぬくぬくとしとるのもあんた」 『20項』から「戦争に傷ついて帰ってきた父親を裏切って、絶望させ、六歳も年下の、子持ちの男と暮らすという母親の生き方を、私[秀丸]が許せなかった」
●感想⇒「父親を裏切って、絶望させ、六歳も年下の、子持ちの男と暮らすという母親の生き方」は、いかなる事情があっても許しがたい行為です。夫が戦争に行って生死をさ迷っている中で、不倫にうつつをぬかすなど言語道断。人の道を外れた行為に弁解の余地はありません。結婚には、❝愛する人と人生を共に歩み、子供が出来れば、育てて社会に送り出す❞という義務があるのです。結婚してから、他の人を好きになったり、配偶者を一生を共にする人ではないと思う事もあるかも知れません。しかし、物事には順序があります。好きな人のもとにに行きたいのなら、離婚が先です。そして、子供がいれば、わが子の将来の幸せを考える事も重要です。
(3)『21項』から「(医師)人の幸せなど簡単に他人が決められるものでもありませんよ。本人が進みたい方向に進めるというのが幸福でしょう。現在の塚本さんが決めた道というのは、退院して自分で生活したいという事ですから、それを応援してやるのが幸せに通じると思いますよ」。「(主任)これまで本当に兄さんの幸せについて考えた事がありますか」
●感想⇒「人の幸せ・・・本人が進みたい方向に進めるというのが幸福」。人間は人生の節目(進学・就職・結婚・・・)でどの道に行くか選択しなければなりません。その際は、取分け親は、あれこれと自分の考えを押付けがちです。ぐっと我慢して進路については、人生の先輩として、アドバイスに留めるべきです。本人が助けを求める事がなければ、自分で決めさせる事が良いと思います。失敗しても、勉強代と考え、救いの手を差し伸べる事が良いでしょう。一度だけの人生なのですから、悔いのない方向に進むとよいですね。「応援してやるのが幸せに通じる」は、至言です。
4.まとめ;本書を読んだ動機は、山本周五郎賞受賞作のベストセラーであり、普段あまり関与しない世界を見たい、という事でした。精神病患者という言葉は差別用語に聞こえます。しかし、この本を読めば、そんな偏見を持ってはいけないと痛感します。島崎さんを凌辱した、重信(札付きの強盗殺人者)を殺害するという方法は良くないと思いつつ、「島崎さんがあんな風に元気に立ち直ったのは秀丸さんのお陰」を読むと、心のどこかで拍手する自分がいます。最後の文章「秀丸さん、決して死んじゃいかんよ、チュウさんは青い空を見上げて心の中で叫んだ」には不覚にも涙腺が緩みました。解説の「帚木作品は例外なく、弱い立場にある者やハンディを背負った者に対して、温かい眼差しを注ぐ」に納得です。(以上) -
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帚木蓬生著 白い夏の墓標
二、三年前古書店で比較的綺麗な形で並べられておいたので購入しておいた。最近書店で平積みで売られていたので読んでみた。40年以上前、著者は三十代に入った頃に書かれた本であるけれども、全く題材は陳腐化しておらず、今の時代にも十分通用する医学ミステリーであり、細菌兵器の開発をあつかったサスペンスです。
最近見た「オッペンハイマー」は核兵器開発の映画でノンフィクションですが、こちらはフィクションで細菌兵器をアメリカ政府機関での開発に関わった細菌医学者が最後良心に立ち返って、細菌をこの世から廃棄して上司の指示で殺し屋によってピレネー山脈の山深くで抹殺されてしまうストーリーです。スペインの国境の山間の地にある研究所と病院、そこからのフランスへの恋をした看護師との逃避行をみずみずしい文体も相まって非常に惹き付けられた一冊でした。 -
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淡々と話は進んでいくのだけど、キュウーッとゆっくりじわじわ胸を締め付けてくる話でした。
冒頭はこの物語の中心人物たちが、病棟に来る前の話をオムニバスみたいに語り、急に現在の話になっています。「チュウさん」「昭八ちゃん」など呼び名が病棟内でのニックネームに。
それがなんとなく気になるし、いちばん最初に書かれていた由紀の中絶も真相が気になりつつ、物語は患者らの過去を織り交ぜながらこれといった盛り上がりもなく、精神病棟の日常が過ぎているように感じました。
ところが一転!由紀が巻き込まれた事件で一気にいろんなことが加速し、読み手の私の感情もざわつきが収まらず、最後は一気に読みました。
もうこれ以上この人たちを辛くしないで終わってほしい...ッ
「秀丸さん、退院したよ」とチュウさんが叫ぶシーンに涙がほろり。過去の病気も事件もすべて受け入れ、仲間として一緒に生活してきた時間が走馬灯のように巡ってくる感覚です。最後もドアが力強く開くような明るいラストでした。
わりと最近映画化されたんだなーと思って予告編観ただけなのに涙腺崩壊しました。 -
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和歌山砒素カレー事件を題材にした『悲素』は18年に読んだ。本作も、語り手は九州大の沢井教授。冒頭は、『悲素』のサリン事件回想の場面とほぼ同じ展開。現実の事件を基にした物語とは言え、テーマが変わったからといって関連する場面を変えたりしない、作者の姿勢が見えた気がする。
インチキ宗教に、高等教育を受けた優秀な人材が嵌まり込み、大量殺人を起こしたこと。その、状況的に真っ黒な、しかも前代未聞の凶悪犯罪を起こしたと思われる組織の広報担当が連日TVに出て、空疎な反論を吐き散らしたこと。それを視聴率が稼げるからとTV局が連日放送し、我々もそれを半ば面白がって見ていたこと。オウムも十分に異常な組織だったが、それをここまでのさばらせた世相も、その中に生きていた我々もまたなんと異常だったのだろうか? 異常というなら、今現在のネット社会だって、数十年先、どんな目で見られることか、とか脱線気味に考えてしまった。