帚木蓬生のレビュー一覧
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圧巻のレイモン・マルティの手稿!!マルティは、14世紀、カタリ派を弾圧するローマ教会の審問官について記録するドミニコ会の修道士なのだが、カタリ派の指導者が聖書のイエスの言葉を引用して審問官を糾弾していく姿を見て、本当のキリスト者はカタリ派の人々ではなかったかと思い始めるのだ。マルティとカタリ派の指導者との心の交流は感動的である。イエスは罪と冒涜と腐敗を拒む人々は迫害されると言ったが、その迫害者こそローマ教会である。はっきり言って、ローマ教会は人殺し集団だ。この小説の現代の場面においても、この14世紀のマルティの手稿を抹殺しようと殺人を繰り返したり、誘拐事件を起こしたりするのは教会の手先たちなのだ。あとがきを書いている陣野氏が、フランス語に翻訳されるべきだと言っているが、難しいかもしれない。カトリックに対する明らかな糾弾であるから。問題作だ。排他的で好戦的な宗教に対する挑戦である。カタリ派の平和的で平等で敬虔な宗教観は見直されるべきかもしれない。
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日蓮の予言「外敵襲来」を確かめるために、千葉安房からはるばる九州西の島対馬まで旅をした見助。いよいよ対馬でその情報を見聞きしていくのが下巻。
「見助」というネーミングがうまい。侍でもない職人でもない、ただ海で舟をこぐのとタイ釣りがうまい漁師。だから西海に出て、果ての島に渡っていくのも得意である、まじめで勤勉な好青年、というのも見知らぬ土地での活動ができるということ。
そんな彼が「蒙古襲来」にまつわる事実関係を把握していく様は、一緒に歴史をひも解いて見ていくようだ。「元寇」が神風で終わったでは済まない、小さな島の逃げ道のなさは残酷な侵略と犠牲的な戦いの現実。その敵も味方もすさまじく容赦がないということをつぶさに見ていく見助。
7世紀前の出来事ではあり、小説という形ではあるけれども、現代にも通じるものがある。日蓮という思想家の宗教も絡んではいるが、日蓮宗の解釈は重要ではなくて、人間としての生き方のやさしい解き明かしになっているのが好感。 -
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ネタバレいわゆる医療サスペンスの系譜に分類される小説である。この分野の小説は、あまり読んだことがなかった。同系列のドラマもあまり得意ではない。手術の場面など、いわゆる臓器手術の場面(描写)の生々しさが苦手だからである。
本書の著者は現役の精神科医である。もちろん医学的な知識は豊富で、それがこの小説にリアリティと重厚感を与えている。恐る恐る手にした小説だったが、読んでよかったと感じている。ナースの日常、病院の院内描写、論文の内容の細部に至るまで、あたかもノンフィクションのごときリアリティである。しかし、小説が備えるべき物語性も十分に盛り込まれている。病院の闇を巡る物語にもかかわらず、ラブロマンスの要素も(決して甘くなり過ぎない程度に)入っているのだから、この小説だけで幾通りもの楽しみが詰め込まれているといっていい。
臓器移植を巡る倫理性を読者に突きつける話であり、「無脳症児」といういわば奇形の赤ん坊が登場する。寡聞にして、「無脳症児」なる症例は初見であり、医学的な知識が皆無な自分には医学百科的な楽しみもあった。何せ無脳症児の作り方まで書かれているのだ。
医療の世界が舞台ということで食わず嫌いになっていた時間がもったいないと思えるほど、引き込まれる作品である。丁寧で、奇を衒うことのない描写も好感が持てる。エキセントリックなタイトルも、読後には印象が変わっているだろう。 -
購入済み
とても面白く一気読みしましたが、読んでいて気持ち悪くなりました。
お金の為にここまでやるのかと衝撃を受け、
巻き込まれた方々が本当に気の毒で悲しくなりました。 -
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蠅の帝国の2冊目。
開戦時に「負けるね」という連隊長があんまりにインパクトがあって、現場はそんなもんだったかーと思った。
まぁそれが主題じゃない。
この本は、ジャングルの中を彷徨するイメージが強い。
阿部昭風に言えば、「戦中派の帰ってきた人たち」の声は、こうして話してくれれば掘り起こすことができるけれど、その背後には語ってくれない人々の無数の戦争が埋もれている。
そして帰ってこられなかった無数の人びとの声もまた、埋もれている。
これらは掘り起こす事も出きず、知らない私たちが想像すれば、変質し、化け物になる。
…形にしても化け物になるけれど。
こういう本は、何も考えず、何も探らず、そのまままっさらな気持ちで読むほうがいい。
自分は軍医で、手には薬も機材も何もなくて、でもけが人病人は目の前に横たわっている。
さぁ、どうする?
読み終えた私にあったのは、声なき慟哭だけだった…。 -
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ふと、本屋さんの本棚で見つけた。
最初見つけたときは、またどうせ、ありきたりの体験談手記じゃいやだなぁと思って手に取ることもせず。
これを世間では食わず嫌いという。
いやはやふと思い立って急に買って、でもしばらく放置。
そしてある日、急に読みたくなって読んだわけだが、よかった。読んでよかった、買ってよかった。
とても淡白、冷静。「私」になりきってしまって、通勤時間が広島だったり空襲後の東京だったり、朝の時間に読むには結構つらかった。帰りもなかなかつらいけど。
視点がいつも「私」なので、吉村昭より読みやすいかも。だけれど、感傷に浸る前に現実が押し寄せて来て、立ち止まりもできないし、泣いてもいられない。
生きよう、今できることをしよう、何ができるだろう、この何もない状況で。という思考が止まることがない。
読みえてとても疲れたけれど、また再読したい。
作家のライフワークだという作品って、こんなに重たいのだと、そして何度も読みたくなるものなんだと感じた。 -
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良い本を読んだ。久しぶりに電車の中で熱中の余り、降り損ねかけた。
帚木さんのミステリーっぽくない本を探していて見つけたのがこの本。あらすじを見て、テーマが戦時中の朝鮮人強制労働という政治・民族的なものなのでちょっと悩んだが、帚木さんなら冷静に扱うだろうと考え購入した。
前半は戦時下を中心に現代をフラッシュバックで扱いながら進行する。あまりに屈辱的な日本の朝鮮統治、その中で強制労働に徴集される17歳の主人公。連れて来られた日本の炭鉱での過酷な労働。そして搾取・拷問・・・。帚木さんの端正な文章で綴られるその悲惨さは、扇情的でないために却って胸に響いてくる。
一方で日本人炭鉱労働者が差し出す強制労働者への小さな救い。炭鉱を脱走後、逃げる主人公を救う同胞の友情。そして知り合った日本人女性との深い愛。これらが悲惨さの中に適度に入り混じる事により、この物語は救済されている。そして、その為に”決して繰り返してはならない歴史”を素直に認識し、受け止める事が出来るのだと思う。
唯一の不満は最終章の手記。過去の清算ではなく、未来に向けた希望という方向で物語を閉じる方法もあったように思うのだが。
いずれにせよ素晴らしい作品だと思います。
〔5/26追記〕試験が終わったばかりで退屈そうな娘に「読んでみたら」とこの本を渡した。すでに夕方だったが、一晩で読み終え、翌朝「面白かった」と言っていた。私が気になったエンディングも彼女には良かったみたいです。