帚木蓬生のレビュー一覧
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「日御子」というタイトルにも関わらず、上巻には卑弥呼さん出てきません。使えきという通訳の一族を中心に話が進んでいきます。
テキストや音源がたくさんある現代においても、語学の習得は難しい(少なくとも私には)のに、この当時、中国語をモノにするのは本当に大変だったろうなぁと当時の通訳さんの努力には頭が下がります。
うろ覚えですが、通訳一族の家訓で『毎日の習慣は才能に勝る』みたいな言葉があったので、私もコツコツ頑張ってみようかな、という気持ちになりました。
志賀島の金印についても、なぜあんなに貴重なものが忘れ去られていたのか、というのが書かれていて、作者さんの想像であることを理解していても、なかなか面 -
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20代前半の頃に読み「よい本だ、また読もう」と思い十数年。本棚の整理がてら再読。
内容を殆ど覚えておらず、こんな内容だったかと驚きながら、少しずつ思い出していった。
二次大戦中、日本の炭坑に無理矢理つれてこられ、労働を強いられた韓国人の主人公。時代は現代になり終戦後韓国に戻り経営者として成功した主人公が、三度海峡を渡り日本に来る、過去と現在を織り交ぜて話は進む。
戦争、終戦、六・二五動乱、済州島四・三事件など時代に翻弄される主人公を思うと大変な時代であったと思う。 未来に事実を残そうという意志はもっともだと思うが、成功してもなお、強烈な過去の怨みが消えない事の恐ろしさ、残念さを思う。 -
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ネタバレ2015年の51冊目です。
帚木蓬生氏の小説を初めて読みました。
2014年秋にリサイクル本として購入し、
積読状態だったのですがようやく読みました。
10作の短篇を集めた作品集です。
著者は精神科医だけあり、医療や病気に関する表現はリアリティーを感じました。
医療を通した人の生き様に対する真摯な視線を感じます。
健康や生死の問題は、否が応でも人の心に突き刺さります。
時に鋭い刃物の様に心を切り裂き、時に小骨がのどに引っかかるように、
断続的に気持ちを乱します。それらに向き合う人間の心情はとても弱く、
揺らいでいると思います。どうやって折り合いをつけるのかが綴られているように感じました。それを -
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『アフリカの蹄』の姉妹編。
白人極右組織による黒人抹殺の陰謀を書いている『アフリカの蹄』の後、南アフリカは黒人政権の国となったのだが、貧困は変わらず、そのうえエイズが国中に蔓延して、希望を失った人々はアルコールに依存したりするのだった。
出口の見えない南アフリカの現実。
白人は高価なエイズの治療薬を使うことができるが、黒人は病院にかかるお金も病院へ行く交通費もないのに、エイズの治療薬なんて買えるわけがない。
経済的に豊かな国が、企業が、個人が、ほんの少しのお金をエイズ撲滅のために使ってくれたら。
“要するに、アフリカの貧困とエイズから日本が学ぶことは多々あるのに、日本の眼はアフリカには向け -
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私は自分が生まれる前の出来事は書物に出てくる「歴史上の出来事」として一歩引いて見ているが、アパルトヘイトは紛れもなく私が生まれてからもしばらくは存在していて(中学生の時に文化祭の壁新聞でアパルトヘイトについて書いた覚えがある)、そういう意味では私にとってアパルトヘイトは歴史上の出来事ではなく、現実に認識できた出来事と言える。
にもかかわらず、中学生の頃、「名誉白人と呼ばれる日本人を私はちっとも名誉だとは思いません。」みたいなことを偉そうに壁新聞に書いた私は、アパルトヘイト撤廃のために何かした訳でもなく、その後は正直遠い国の話としてあまり考えたこともなかった。
今更ではあるが、この本を読んで -
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帚木さん、「全部同じような話でどれがどれかわからなくなってくる」なんて言ってごめんなさい。
全然違うお話も書かれるんですね。
しかし、重い。重すぎる。
そして、これが史実に近いかと思うと・・・。
日本に強制的に連れてこられ、強制労働を強いられた朝鮮の人々のお話。
人間でいることが嫌になる。
強制労働を強いる日本人のひどさ。
その手先となり、同胞を苦しめまくる人々のひどさ。
こういう時、一番残虐なことができるのは実は、敵より味方なのかもしれない。
鞭打たれる仲間たちと同等になるのであれば、忌み嫌っていたはずの日本人の手先となっても、鞭打つ立場でありたいと思うその気持ちを責めることはできないけれ -
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戦争が犯した罪の一つ。強者が弱者を対等な人として、認めてこなかった事。
帚木氏は戦争の罪を書きとどめてきている作家の一人だと思う。
この作品の凄さは、人さらいの様に連れて来られ、強制労働を強いられた韓国人を軸となっていること。あまり知ることのない、韓国人の習慣などを描き、民族の違いを浮き出さしている。でも本来だったら、もっと朝鮮民族の”恨”の感情が強いのではないのだろうか。
日本に残した子、そして孫までもが日本と韓国の橋となろうとしている展開。現実より、さらに一般に受け入れ易い様に、すこし柔らかいニュアンスにしているところ、そのもどかしさが、作品そのものを弱めてしまったのでは・・・