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Posted by ブクログ
帚木蓬生の初期中短編3作。全てが医学もので、医学界の暗部を抉る強烈なものがある。
表題作「空の色紙」は、嫉妬をめぐる夫婦群像とでもいうのだろうか。狂気とは誰の内にでも存在すること、狂気を治療する医者の内部にさえ巣食っている事実をまざまざと突きつけてくる。そこに、戦争を交えることで、昭和というマクロと夫婦というミクロが同時に描かれていて、その広さと深さが読後感を充実したものにしてくれる。しかし、特攻で死んだ兄の色紙が実は幻だった、という終局は、なんだか稚拙さすらも感じられてしまった。それが残念。
「墟の連続切片」は、荒々しさも感じられる筆致で、ある面で「失敗作」と評されたことに納得もできる。でも、私には、その荒々しい文章、全体としての脈絡を微妙に欠いたその一編、という存在にこそ、作者の描きたい心情が投影されているようで、ドキドキし、そして鬱々としながら読み進めた。ショックだったのは、東富士の実弾演習の振動や、学校の屋上スレスレを飛ぶ軍用機に怯えた経験を持つ私が、アメリカ、そして安保反対を叫ぶ若者に共感できなかったこと。いや、それ自体には共感できた。でも、それを無視して研究活動を続ける教授陣に「それでも人間か」と迫る学生や若い医師たちの姿には共感できなかった。今の私の立場とは、彼らに近しいものであるはずなのに。米軍問題と研究活動とを結びつけるものは私の中にはない。それが、学園紛争時代と今の学生との距離なのだろう。
「頭蓋に立つ旗」は、デビュー作であり、その点節々に稚拙さの目立つ作品。しかし、医学部内部のあり方と、戦時中の人体実験や障害に苦しむ一人の人間の心情を複雑に絡ませた意欲作だと思う。淡々とした語り口の中に、切々と訴えるものがあった。これが昭和か、と感じた。
Posted by ブクログ
帚木蓬生の初期作品3作を収めた本書は、時代背景もあり、鬱屈した、しかしなにか正義の上に立ち続けたいという複雑な意思を表明しつつ環境に流されてしまうもどかしさあるいは諦めが表現されている作品である。つまり、文学的であるというよりも著者の意図が前面に立ち、言いたいことは何かあることはわかるが、分かりにくいといったある意味それが若々しさなのかもしれん、と感じたのだ。(「つまり」になっていなようだが。)
表題作『空の色紙』は精神鑑定に携わる精神科医の視点から、精神鑑定の意義を問いかけていることとは別に精神的に病むほど思い込んでしまう男女関係の疑いの恐ろしさと、精神科医といえでもその状況にはまり込んでしまう危うさを描いている。題材としても独特で、その後に続く各著作の片りんを感じさせる。
『墟の連続切片』は当時の大学医学部における諸問題と学生運動を絡めた意欲作にも思えるが、いろいろな「書きたいことが」詰め込まされているようで、結局最も言いたいことは何だったのか?よくわからなかった。(作品名も自分ではタイプできなかった)
『頭蓋に立つ旗』は医師を育てる教官が、何故そのようなスタンスをとるのか過去や自身の経験を振り返っていく物語。学生運動との関係を混ぜつつ、真の思いが別のところにあることを文学的表現にチャレンジした作品という印象。チャレンジャブルな感じが好感を持てたが、多少最後はあっさりとしている。
いずれの作品もいわゆる帚木作品とは異なるものの、そこに至る道程を垣間見ることができてそれはそれで楽しめた。
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