あらすじ
パリで開かれた肝炎ウィルス国際会議に出席した佐伯教授は、アメリカ陸軍微生物研究所のベルナールと名乗る見知らぬ老紳士の訪問を受けた。かつて仙台で机を並べ、その後アメリカ留学中に事故死した親友黒田が、実はフランスで自殺したことを告げられたのだ。細菌学者の死の謎は真夏のパリから残雪のピレネーへ、そして二十数年前の仙台へと遡る。抒情と戦慄のサスペンス。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
「色褪せない」ってこういうことなのかと思った。
描写が美しくて、頭の中で情景がふぁ〜って広がって、映画を見ているみたいな感覚になった。
余白がたくさんで、すごく好き。
最近の本に多いようなスピード感があるからページを捲る手が止まらないのとは違った感覚で、どんどん読み進めて、終わるのが寂しいって思った…もう一回読みたい。
Posted by ブクログ
書店で帯に惹かれ購入。名作と言われるだけあって繊細で綺麗で切ない文章が読む手を止めなかった。
210頁「人は理由なしに生きることはできるけれども、十分な理由なしに死ぬことはできない。」本質的な素晴らしい一文だ
Posted by ブクログ
黒田という人間が尊く、その生に魅せられました。
本書には、細菌学全般の知識を全く持ち合わせずとも、そのテーマの中で描かれるキャラクターの心理描写や人間ドラマが数々あり、思わず涙するシーンもありました。
その主な要素となるのは、やはり本書の主人公である黒田武彦です。
恐らく、誰もが彼の光の当たらない暗い闇の中で生きる様に共感をした場面が少なからずあったのではないでしょうか。
彼の生はあまりにもリアルで酷いものでしたが、私はそこから生まれる黒田の人間らしさに共感し、より彼を好きになりました。
本書の狂言まわしである佐伯も語っていましたが、黒田には、いわゆる「知らない方が幸せ」とされる世の中の闇が見えすぎていました。
それを無視することができずに悟ってしまったことで、彼は自ら閉ざした一人ぼっちの世界で生きるしかなくなったのだと思います。
しかしその生き方の根本にあるのは、紛れもなく黒田の捨て切れなかった良心です。
その良心が黒田を苦しめたのだと思うと、彼の辛さが痛いほど心に伝わってきました。
最後に彼は、自分の心の奥底にある小さな小さな火種を見逃さずに現実に抗いました。
無惨にもその計画すら命もろとも幕を下ろすことになりますが、私は黒田の置かれた状況下で彼が自分の意志を貫いて生きていこうとする姿に励まされました。
黒田はいつ狂ってもおかしくない精神状態だったのだと推測されます。
私なら、いっそ狂ってしまった方が楽だと、そのまま身を任せてしまうかもしれません。
しかし彼は、精神を病めてしまった兄を間近に見ていたために、その恐ろしさを身をもって実感してか必死に抗っていました。
私はそんな黒田に感化され、黒田が生きようとするなら私もこの世にまだ希望を持って生きてみようと思うことができました。
読者は黒田武彦の人生をどう思うのでしょうか。
もしかしたら、「可哀想に」と思うだけの人も中にはいるのかもしれません。
しかし私は心から、彼の人生はかけがえのないものだと思います。
そんな彼自身を愛してあげたいと思いました。
Posted by ブクログ
この作家さんの話は専門的だけど好きなんです。今回もまるでコロナが以前から知っていたような感じをさせる物語であるともいえる。まぁ所々専門すぎて読み飛ばしたものはありますが(笑)
Posted by ブクログ
「この本、本当に凄いぞ!!」の帯に衝動買い。45年前とは思えない現代的内容の医学ミステリー。
アメリカで客死した学友の痕跡をおって行くうちに辿り着く細菌研究所。細菌兵器の研究に従事する医学者たち。逆立ちした科学。人体実験やウイルスなど、COVID19の出自を預言しているかのような内容。
書店員のオススメのとおり大当たりでした。
Posted by ブクログ
昭和50年代に出された作品なのに、今読んでも色褪せない。仙台ヴァイラスを持ってアメリカの研究所へ渡った同僚の事故死。でも、それが事故じゃないと聞かされてから始まる物語。
細菌の融合によって生物兵器をも作り出せてしまう。逆立ちの科学。人を救うためのものではないのか。そんな自問自答が苦しいほど伝わる。
同僚の墓参りをし、しかし死体がないと聞かされる。
ひとすじの光に導かれるようにページをめくると真実にたどり着く。
某書店のポップアップ【どうしても売りたい本】というのに深くうなずける。そのポップがきっかけで手に取ったようなものだった。
南フランスの牧歌的な情景と、ピレネー山脈の風景が目に浮かんだ。美しい話だった。
Posted by ブクログ
大どんでん返しの結末。これには驚いた。
けれども、文章をしっかりと読んでいれば、ある箇所でその違和感に気づき、この結末を予想できたかもしれない。
ウィルス、そこからの細菌兵器開発へ。人のためになるはずの科学ではなく、”逆立ちした科学”。それに従事せざるを得ない科学者の苦しみ、葛藤。そして、そこからの逃亡。
1人ではできない、立っていられない。誰かが必要。
それにしても、見事などんでん返しだと思う。面白かった。
Posted by ブクログ
フランスで開催される肝炎ウイルス国際学会に出席した佐伯教授は米国陸軍微生物研究所のベルナールという人物からの訪問を受けた。かつて仙台で一緒に机を並べていた黒田がアメリカ留学時代に事故死したと思っていたが、ベルナールが言うにはフランスで自殺をしたという。そしてフランスの田舎に黒田の墓があるのでぜひ見舞ってほしいという…。思いもしない旧友の後を追うことになり、細菌兵器研究の闇を覗くことになった。
Posted by ブクログ
この手の医療倫理モノって今となっては多数存在するのだけれど、40年以上前に発表され、今もってまったく古さを感じさせないというのは凄い。そして、書いたのが帚木さんというところに、本の説得力がある。
センダイ・ヴァイラスを発見、研究していた黒田氏がアメリカにヘッドハンティングされ、そのままアメリカで亡くなったと聞かされていたにもかかわらずフランスに手がかりが……という国際色溢れる作品。さすが、医学は国境を越える。
純粋なサスペンスとして、黒田の”死”の真相や、登場人物の関係性が徐々に明らかになっていくのは面白い。本当に、古さを感じない作品。
あと、センダイウイルスが実在することにも驚いた。完全に創作だと思ってた。
Posted by ブクログ
友人が間違って同じものを買ってしまったので、と言ってくれた本。帚木蓬生さんの本は、当初私が友人に勧めた。気に入ってくれたみたいで、今度は他に目移りしていた私に勧めてきた。久しぶりに読んだらやはり面白い。最初から「ミステリー」の体をなしている訳ではなく、徐々にじわじわと謎が染み出してくる。その上著者の本職である医学用語が物語の品と言うか、知的な読み応えも満足させてくれる。昭和58年発行で、令和5年27刷目!すごいなー
Posted by ブクログ
ウィルス研究者のかつての同僚の過去を知り、米国の細菌兵器の研究をしていたことを知る。どんでん返しはないが、同僚の生い立ちや心理描写が良かった。
Posted by ブクログ
科学は人を生かすことも殺すこともできる。研究を続けるためにアメリカへ飛んだ若き科学者は自分の信念を黙殺して組織に従うのか、それとも信念を貫いて組織に殺されるのか。
こういったジレンマは数多くの物語のテーマになっているけど、飽きもせずいつの時代も人々はその物語を読み、考え続ける。1983年にこの本が出版されてから、世代を超えて読み継がれ、今また注目を集めていることが素晴らしいと思う。
日々のニュースでは人間の嫌な部分ばかり強調されるけど、そんなに悲観する必要はないのかもしれない。
Posted by ブクログ
すごい 面白い
古さを感じない話題、作者の卓越な知識をもとにした文章、引き込まれる構成、全てが面白かった。
途中、黒田のことを考えて辛過ぎて心が沈んでしまった。それぐらい読んでて引き込まれたし、心が動かされた、
Posted by ブクログ
帚木蓬生著 白い夏の墓標
二、三年前古書店で比較的綺麗な形で並べられておいたので購入しておいた。最近書店で平積みで売られていたので読んでみた。40年以上前、著者は三十代に入った頃に書かれた本であるけれども、全く題材は陳腐化しておらず、今の時代にも十分通用する医学ミステリーであり、細菌兵器の開発をあつかったサスペンスです。
最近見た「オッペンハイマー」は核兵器開発の映画でノンフィクションですが、こちらはフィクションで細菌兵器をアメリカ政府機関での開発に関わった細菌医学者が最後良心に立ち返って、細菌をこの世から廃棄して上司の指示で殺し屋によってピレネー山脈の山深くで抹殺されてしまうストーリーです。スペインの国境の山間の地にある研究所と病院、そこからのフランスへの恋をした看護師との逃避行をみずみずしい文体も相まって非常に惹き付けられた一冊でした。
Posted by ブクログ
これはなんだ?というのが読み始めて正直な感想。
昭和58年(1983年)の医療をテーマにした小説。道にウィルスをテーマにヨーロッパで謎に向かって突き進む主人公。ウィルスという最近人類が苦しんだテーマに真正面から向き合った作品だ。ウィルスのメカニズムについて解説もされていて記憶に新しいことが40年前に描かれているのだ。
そしてフランスからピレネー山脈での出来事が深く面白い。
とても40年前の作品と思えない斬新さを楽しめた。
Posted by ブクログ
最後の最後でそういうことか
行ってよかった
わかってよかった
フォアに行きたくなった
40年以上前に書かれた本作が現代のcovid19に大きく関わりがあるように思える
昔から言われていたことが現実化。。?
なわけないか
Posted by ブクログ
孤独と言われる黒田にもジゼルや娘など一生涯想ってくれる存在はいるということが嬉しかった。黒田と佐伯は全てを語り合えるような関係ではないが、別々の場所に行ってもお互いのことを思い合えているのが不思議だった。ジゼルさんの人生を黒田が良い方向に変えてくれたのがわかった!
Posted by ブクログ
星3.5かな
黒田とジゼルが恋人になれたのは逃げている時だけだったので、それがやりきれないと思った。が、そうではなく、クレールは自分の父親を知ることができていた。礼拝堂でひっそり生きているのでもなく、救われたラストだった。
Posted by ブクログ
以前読んでるけど、随分前だったから内容は全く憶えてなかったので新鮮な気持ちで読めた。
でも、帯の文言に期待高まっちゃって。
個人的に帯とか疑いもせず期待を高めるタイプだから、帯の評価文が良いと読み終わって、なーんだ。ってなっちゃう。
そういう人少なくはないと思うから、本を売るためには良いのかも知れないけど、作家さんにはデメリットな気がする。
帯はあらすじ位がちょうどいい。
と思われ。
Posted by ブクログ
聞き慣れない、見慣れない単語、文字、文章で読むのに苦労した。けれど 時代背景も内容もスケールの大きい話で面白かった。
ウィルス兵器、闇深く実際にあることなんだろうとは思うけど 間違った方法で使用されないことを祈るしかない。怖い。
少し自分の知力が高まった感覚を味わえる。笑
Posted by ブクログ
佐伯
北東大学ウィルス学教室。
ラザール・ベルナール
アメリカ陸軍微生物研究所。
黒田武彦
二十四、五年前、ベルナールの部下。スペインとフランスの国境だ雪の日の自動車事故で亡くなる。
ジゼル・ヴィヴ
二十年来、武彦の墓の世話をしている。
リチャード
佐伯の旧友。十年前佐伯がロンドン医科大学にいた時の同僚。
仙台に駐留していた米軍北部兵站司令部の疫学部長。
市郎
黒田の兄。精神病院に入院している。
クレール
黒田の娘。
Posted by ブクログ
1979年第81回直木賞候補作
文庫化は1983年
コロナ禍で、ウィルス研究小説として再注目されたようです
「ウィルス」研究の成果を評価され、アメリカの研究施設へと乞われた一人の若き細菌学者
程なく、同じ細菌研究者の友人は、突然の彼の事故死の連絡を受けた
数十年後パリで死んだ男の元上司の訪問を受け、彼の墓がフランスの田舎にある事を知る
墓を訪れた友人は、死んだ男の元恋人と会い、彼の死の真相を知る事になる
ウィルス研究に没頭していた男の生い立ち、アメリカへ渡ってからの研究者としての葛藤が、徐々に明らかになっていく
研究が兵器として使われる事を拒んだ男の過酷な人生を友人がたどる
細菌研究について、詳細で さすがお医者様作家
フランスの山間の極秘研究所等魅力的な題材です
Posted by ブクログ
20年前アメリカ留学中に事故死した黒田の
死が自殺だと告げられた佐伯が墓石のあるピレネーへ向かい過去を振り返る話。
アメリカ留学の真実に黒田の過去、徐々に明かされながら緩やかに進むこの世界から逃れたくない。黒田が佐伯に抱いてた感情も良くて、それが死後に伝わる虚しさ。黒田が足掻いた生き様を忘れたくない。なんやろ、読み進めるにつれてゆっくりと心臓を鷲掴みにされてる感がある。
そして最後の光が柄にもなくホッとした。いやそんな期待してなかったからこそそうか、そうやったんや、って胸に落ちた。良かった。
Posted by ブクログ
この作品が45年も前に書かれたとは思えないほど、決して古びない科学の進歩と科学者の向き合い方の問題が描かれる。
貧しさと人間不信故にウイルス研究に憑かれた男の哀しい人生。死んだことにされ生涯を無名の科学者として国に奉仕することを強いられた男の行く末。
手記の形で描かれる黒田の生い立ちや、唯一の拠り所だった研究が「逆立ちした科学」であることへの疑問と絶望がヒリヒリと胸に迫る。
巻末の手紙が全ての謎を明らかにして、そこに一筋の希望が残されたことに安堵する。
科学の進歩も使い方次第。人を生かすも殺すも紙一重の医学の闇。
核兵器よりもはるかに安価で開発ができ、簡単に大量殺戮が可能な細菌兵器。あの国もまたあの国もきっと開発して備えているんだろうと思うと背筋が寒くなる思い。
Posted by ブクログ
「この本、本当に凄いぞ」との帯につられて、購入。
ハードルが上がりすぎていたせいで、期待はずれだった。
しかし、物語としては大変楽しかったです。
黒田という寡黙な研究科。
友達もいないので、過去も謎だが読み進めていくうちに、
どんどん人間味がでてきた。
コロナなどもあって、作者が詳しくかいているため、
人工ウイルスあるかもと思えた。
ふむふむ。。