あらすじ
パリで開かれた肝炎ウィルス国際会議に出席した佐伯教授は、アメリカ陸軍微生物研究所のベルナールと名乗る見知らぬ老紳士の訪問を受けた。かつて仙台で机を並べ、その後アメリカ留学中に事故死した親友黒田が、実はフランスで自殺したことを告げられたのだ。細菌学者の死の謎は真夏のパリから残雪のピレネーへ、そして二十数年前の仙台へと遡る。抒情と戦慄のサスペンス。
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Posted by ブクログ
黒田という人間が尊く、その生に魅せられました。
本書には、細菌学全般の知識を全く持ち合わせずとも、そのテーマの中で描かれるキャラクターの心理描写や人間ドラマが数々あり、思わず涙するシーンもありました。
その主な要素となるのは、やはり本書の主人公である黒田武彦です。
恐らく、誰もが彼の光の当たらない暗い闇の中で生きる様に共感をした場面が少なからずあったのではないでしょうか。
彼の生はあまりにもリアルで酷いものでしたが、私はそこから生まれる黒田の人間らしさに共感し、より彼を好きになりました。
本書の狂言まわしである佐伯も語っていましたが、黒田には、いわゆる「知らない方が幸せ」とされる世の中の闇が見えすぎていました。
それを無視することができずに悟ってしまったことで、彼は自ら閉ざした一人ぼっちの世界で生きるしかなくなったのだと思います。
しかしその生き方の根本にあるのは、紛れもなく黒田の捨て切れなかった良心です。
その良心が黒田を苦しめたのだと思うと、彼の辛さが痛いほど心に伝わってきました。
最後に彼は、自分の心の奥底にある小さな小さな火種を見逃さずに現実に抗いました。
無惨にもその計画すら命もろとも幕を下ろすことになりますが、私は黒田の置かれた状況下で彼が自分の意志を貫いて生きていこうとする姿に励まされました。
黒田はいつ狂ってもおかしくない精神状態だったのだと推測されます。
私なら、いっそ狂ってしまった方が楽だと、そのまま身を任せてしまうかもしれません。
しかし彼は、精神を病めてしまった兄を間近に見ていたために、その恐ろしさを身をもって実感してか必死に抗っていました。
私はそんな黒田に感化され、黒田が生きようとするなら私もこの世にまだ希望を持って生きてみようと思うことができました。
読者は黒田武彦の人生をどう思うのでしょうか。
もしかしたら、「可哀想に」と思うだけの人も中にはいるのかもしれません。
しかし私は心から、彼の人生はかけがえのないものだと思います。
そんな彼自身を愛してあげたいと思いました。
Posted by ブクログ
孤独と言われる黒田にもジゼルや娘など一生涯想ってくれる存在はいるということが嬉しかった。黒田と佐伯は全てを語り合えるような関係ではないが、別々の場所に行ってもお互いのことを思い合えているのが不思議だった。ジゼルさんの人生を黒田が良い方向に変えてくれたのがわかった!
Posted by ブクログ
星3.5かな
黒田とジゼルが恋人になれたのは逃げている時だけだったので、それがやりきれないと思った。が、そうではなく、クレールは自分の父親を知ることができていた。礼拝堂でひっそり生きているのでもなく、救われたラストだった。
Posted by ブクログ
佐伯
北東大学ウィルス学教室。
ラザール・ベルナール
アメリカ陸軍微生物研究所。
黒田武彦
二十四、五年前、ベルナールの部下。スペインとフランスの国境だ雪の日の自動車事故で亡くなる。
ジゼル・ヴィヴ
二十年来、武彦の墓の世話をしている。
リチャード
佐伯の旧友。十年前佐伯がロンドン医科大学にいた時の同僚。
仙台に駐留していた米軍北部兵站司令部の疫学部長。
市郎
黒田の兄。精神病院に入院している。
クレール
黒田の娘。