感情タグBEST3
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ふと、本屋さんの本棚で見つけた。
最初見つけたときは、またどうせ、ありきたりの体験談手記じゃいやだなぁと思って手に取ることもせず。
これを世間では食わず嫌いという。
いやはやふと思い立って急に買って、でもしばらく放置。
そしてある日、急に読みたくなって読んだわけだが、よかった。読んでよかった、買ってよかった。
とても淡白、冷静。「私」になりきってしまって、通勤時間が広島だったり空襲後の東京だったり、朝の時間に読むには結構つらかった。帰りもなかなかつらいけど。
視点がいつも「私」なので、吉村昭より読みやすいかも。だけれど、感傷に浸る前に現実が押し寄せて来て、立ち止まりもできないし、泣いてもいられない。
生きよう、今できることをしよう、何ができるだろう、この何もない状況で。という思考が止まることがない。
読みえてとても疲れたけれど、また再読したい。
作家のライフワークだという作品って、こんなに重たいのだと、そして何度も読みたくなるものなんだと感じた。
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本意なく従軍、あるいは被災地に赴き、充分な物資なくもどかしさを感じる。15の短編は全て「私」の一人称で冷静に語られ、ノンフィクションのような錯覚を覚える。14.7.19
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小説でありながら実録のような重みがあり、続けて二度読みしてしまうほど、記憶に留めておきたい作品となった。
一兵卒として軍に徴集される立場と違って、最初から恵まれた立場にあるが、終戦間近には国内の陸軍軍医学校でコウリャン飯が食べられていたなど、知らなかった事が多い。
戦地での食糧不足、医薬品不足、情報不足に苦しみながらも、常に目の前に自身を必要とされている人を優先とする医者という信念に感動する。戦死者より病死者の多さに対する苦悩。さらに戦時下の軍医としての重要な仕事は、死者の氏名を明らかにして戦死者名簿に載せること。これも初めて知った。
「戦犯」という作品で語られた、使役住民の何百人もの病死者と、部下の殴打による使役人の死亡の重みが同列だった裁判。国の一部としての自身、国を成立させているのもまた人で、こうした透徹した考えで罪を受ける軍医。国という枠組みを考えさせられる作者のメッセージが込められているように思う。
表題の蠅の帝国は広島原爆の記録であるとともに、その直後の自然災害にも触れた作品。
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第二次世界大戦(日中戦争・太平洋戦争)を題材とした戦記ものは多々あるが、軍医という視点からのものは珍しいように思う。
各編すべて一人称の「私」で記述されているためか、フィクションのはずなのにノンフィクションの手記を読んでいるかのようなリアリティがある。そこには、あの時代を確かに生き抜いた人の息吹が感じられる。
戦争というものの一面を知る上で貴重な一冊。
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戦火の中で非業の死を遂げた人々、絶望的状況の中でおのれの職務を全うした人々がいたことを改めて胸に刻むための一冊である。しかしながらユーモアやスリルもきちんと描かれていて小説としてたいへん面白いのだ。
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第二次大戦で軍医として関わった人たちの短編集。
内地勤務だった人もいれば前線に近い外地での救命活動に携わった人、のんびりとした環境で終戦を迎えた人もいれば、やっとの思いで内地に帰り着いた人もいる。
そして軍医ならではなのは、やはり命を救う、病気を治すことに使命感を感じ務めを全うする姿勢だと思う。
膨大な参考資料を読み取材した上で創作した話だと思うが嘘は言っていないだろう。
15篇もあるので途中で飽きるが、読む価値はあると思う。
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戦争とは、人が死ぬこと。人を殺すこと。
死というものと最も向き合わなければいけない軍医。
医師としての無力感と、駒として戦争という場面に巻き込まれてしまうことに対する不条理さ。
数々の軍医の物語は、個人という存在にとって戦争がどれだけ無意味かということを生々しくあぶりだす。
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参考図書に圧巻。
医者である著者にしか書けない小説の形をとった短編のノンフィクション作品。
本来は戦場に行かなくてもいいはずのエリートたる医者や医学生を動員をせざるをえない太平洋戦争が、総力戦だったのだと再確認。
見所は、376ページの出征する医学生に訓示をするシーン
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15人の軍医達の、軍医になるまで・軍医としての行動・軍医で無くなってからの事などなどが淡々と語られる。医学の道を志した彼らが図らずも或いは希望して軍医という道を歩き始めた時先が見えていた人は殆ど居なかったのではないか。その時々の状況に応じて精一杯の事をして行く彼らに人としての基本のようなものを感じる。軍医で無くなった彼らは今どんな医者を過ごしているのだろうか。
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東京、広島、沖縄、満州、シベリアなど戦地で生きた軍医たちの短編集。
敵国からの攻撃、それに恐怖する描写は顔をしかめてしまうほど。この感情のみで戦争に反対する理由が成り立つのではないかと思う。
興味が引かれたのは、徴兵試験を行う軍医の話。最初の短編が戦地での生き死にを描いていただけに、印象が強い。お国のためという大義が叫ばれていようと、選択の余地があるのなら身の安全を確保したいと考えるだろう。このご時世、明治以降の歴史を昔のお話として捉えるよりも今の感性のもと理解していく歴史認識の仕方も必要だろうと思う。
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副題の「軍医たちの黙示録 」が示すように第二次大戦中の様々な軍医たちを主人公にした短編集です。
私は『三たびの海峡』の様な帚木さんらしいヒューマニスティックな物語を期待していましたが、吉村昭さんの後期の記録文学に近く、それは巻末の膨大な参考文献の多くが日本医事新報への元軍医の投稿である事からも判ります。どちらかといえば私にとって苦手とする分野で、結構読むのに苦労しました。
しかし、そうしたノンフィクション色の強い作品だけに、いろいろ考えさせられることも多い作品でした。
戦争の悲惨さ、特に私の住む広島で起きた原爆の惨状、満州からの逃避行の悲惨さ。そして、終戦直後に様々な地域で起きた日本人への暴虐は、それまでの占領国での日本人の行為の裏返しなのでしょう。よく第二次大戦は植民地の解放に繋がったというような論理を聞きますが、この作品を読むとそんな論理も吹き飛んでしまいます。
たまにはこう言う読書も良いものです。