伊吹有喜のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
とても良い!
後半は涙を止められなかった。
舞台は林業を営む遠藤家の別宅、常夏荘。
父が亡くなり、母からは放棄された少女耀子は、遠藤家の林で働く祖父の元で暮らすことになる。
遠藤家の当主の息子立海は、体が弱く、療養もかねて家庭教師青井とともに常夏荘に預けられる。
遠藤家当主の息子の妻照子は、夫を亡くし、人付き合いが好きではないため、常夏荘で夫の思い出を抱きながら暮らしており、おあんさんと呼ばれ、常夏荘の周辺の人たちからは慕われている。
まず、照子と夫との思い出がとても美しい。
背が高い照子に対して、背が低く体の弱い夫。
セミの夫婦と呼ばれ、大木(照子)にとまるセミ(夫)と嘲笑されたふたり。
小さくちぢこまるように歩く照子に、ヒールのある美しい靴を履いて、堂々としていてくれと言う夫。
そんな夫に心を開いていく中で、セミは長く生きられない、と新婚旅行で告げられた照子の絶望を思う。撫子組の話にも涙。
夫の異母兄弟である立海に、夫のおもかげを見て、でも立海を救ってあげられない、これも悲しい。
この時代、この遠藤家で、決定権のないものたちの絶望を思った。
燿子が学校に行かなくなり、立海とともにお勉強をするようになってからの物語に、特に引き込まれる。
耀子は、その生育歴から、どうして嫌われるのだろう、どうして私のもとからいなくなるのだろう、という絶望を抱いている。
そんな耀子に、大人たちが伝える言葉たち。
自立(かおをあげて生きること)と自律(うつくしく生きること)。
どうして、ではなく、どうすれば、と考えること。
自分をきらいなら、好きな自分になるのだと、自分を律して自分が好きな自分、こうありたい自分でいるのだというのが、自律。
わたしは大人になっても、自分のことはまだよく分からない。わたしの中に、すごく嫌な自分がいる。
子どもの時、わがままなことをすると、大人たちからは呆れられ、怒鳴られ、無視されたりしていて、こういうことを教えてくれる人はいなかった。
当たり前のようなことだけど、恥ずかしながら初めて教えてもらえた気がした。
大人になったからこそ、青井の言葉を理解できるようになったけど、子どもの時ならわからなかったと思う。耀子も、全部は理解できてない。でも、変わりたい、理解したいと頑張っている。
そして立海の話し方が可愛い。
日系アメリカ人のシッターに育てられたために、立海は「〜なのよ」などの、小学生男子は使わないであろう妙に女性的に言葉を使う。
文章だけなのに、立海がとても可愛くて、愛しくなる。
立海と耀子の交流、友情。
ずっと孤独だったふたり、ずっと色んなことを諦めていたふたりが、はじめて互いを「この子に嫌われたくない、離れたくない」と思ったこと。
耀子のお誕生日をやらまいかと、約束した翌日に、立海は東京の親父様の元に連れ帰られ、引き離されてしまった運命。
これから先の2人の人生がどうなるのか気になるけど、きっとこの子たちなら逞しく生きていくはずだと思える。
著者の伊吹さんが、誰よりもこの登場人物たちを大切に、愛しているとわかるから、きっと不幸にはならないはずだと思えるのだ。 -
Posted by ブクログ
少し前に読んだ「雲を紡ぐ」の解説の中で、北上次郎氏が作者の作品でいちばん気になっていることとして「なでし子物語」に触れて『読みごたえ抜群の書だ』としてあったので、読んでみたいと思っていた。
最初は少しつかみどころのないお話に思えたが、ゆっくりと山間の里、峰生の、常夏荘での、耀子と立海の物語に惹き込まれた。
父を亡くし母には置き去りにされ祖父が仕える屋敷に引き取られた少女・耀子。庶子である生い立ちや病弱な体に苦しむ少年・立海。
互いに仲良しになりたいがそれぞれが持つコンプレックスや育ちの違いもあって接し方が分からず、だけどもおずおずと少しずつ距離を縮めていく様が好ましい。
「リウのひみつ」に書かれた子どもの遊びや六田家でのクリスマスパーティーなど時代を感じさせるほのぼのとしたエピソードと、大人の事情が生み出す理不尽で苛烈な出来事や過去の経緯が交互に語られていく構成が絶妙。
その中で子どもたちの心の持ちようや考え方の成長が感じられ、加えて耀子と常夏荘の女主人・照子の目線でこれまた交互に語られることで、親の立場・子の立場、それぞれの視点で受け止めることも出来る。
夫を亡くし、息子とも心が通わず、過去の思い出の中だけに生きる照子だが、立海の中に夫や息子の面影を見る彼女を通して女親の葛藤もよく描かれており、新婚旅行の逸話は女盛りだった頃の彼女を思わせて味わい深く、亡き夫がその時聞かせたという「星の娘っこ」の話が、これもまた綺麗。
立海の家庭教師の青井の、二人の子どもを子ども扱いをせず、その個性と人格を尊重してひとりの人間として接し、ひとつひとつ言い聞かせていく姿にも好感。不遇を乗り越えて来た彼女の凛とした言葉はフレーズにしっかりと留めておこう。
冒頭の解説はこう続く。『3作で十分に堪能できる。しかし個人的な願望にすぎないのだが、このシリーズをあと2作、書いてほしいとずっと熱望していた。…第四部は年内には刊行される予定というから愉しみだ。…まだその第四部を読んでもいないのに気が早いことだが、出来れば第五部も書いてほしい。そのときまで元気でいたい。それがただいまの私の目標である』
北上さん、あなたが続きを読めないのが残念です。そして、これからあなたの文章を読めないのが寂しいです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ女性が率先して活躍することに偏見が社会だったうえに、戦中という生きていくだけで大変だった時代。
主人公・波津子は貧弱な印象だったが、意外と度胸があるのと、有賀を筆頭に様々な人に揉まれながらも成長していく姿が頼もしかった。
「泣いてはいけませぬ」
どんなときでもその言葉と共に、歯を食いしばりながら立ち向かっていった波津子。その力強さ、たくましさ、ブレない信念、かっこいいなぁと思った。
「乙女の友」という1冊の雑誌を通じて、離れていても、顔が分からなくても繋がっている仲間がいる。読者のことを「友」と表現した伊吹さんの感性が素敵だなと思った。
そして外せないのが、波津子と有賀の恋模様。
自分の気持ちに鈍感な有賀に、想いを言葉にできない波津子にやきもきしたが、70年以上の時を経てようやく気持ちが通じ合えた。
「永遠なんてものはどこにもない」そう言っていた有賀が、波津子へ遺したあの言葉に涙がとまらなかった。
こんな時代に生まれてこなければ幸せになれていたのかな。切ないな。
確かに「永遠」なんてものはない。
だけど波津子と有賀はきっとまたどこかで巡り合って、恋に落ちるのだろう。
どれだけ時代が変わろうとも、再び会うことが叶わない運命だったとしても、遺せるものがある。ふたりがお互いを想う気持ちは永遠に生き続けていく。
ひとつだけ欲をいうとしたら、望月辰也とジェイドと波津子の母、父の関係性、有賀の任務は何だったのか、智樹の曾祖父は誰なのか...。伏線回収してほしかったことかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ最近とても好きな伊吹有喜さんの本。
立海と耀子の2人の子供たちが本当に可愛い。色々辛い環境だが、お互いにいい影響を与えあってかけがえの無い存在になってゆく。この2人がこれから共に幸せになってくれることを願ってしまう。
立海の家庭教師の青井先生がとても良い。自信の無い耀子に対して前向きに生きることを教えてくれる。
「どうして、と思ったら、どうしたら、と言い換えてみる」...私も実践してみようと思う。
あと龍一郎が、自分に自信の無い照子に「美しい靴は美しい場所に連れていってくれる」と言って綺麗な靴を送る所が、本当に素敵だった。そりゃ照子も忘れられなくなるよね。