あらすじ
男が運転する深夜バスに乗車してきたのは、16年前に別れた妻だった。
壊れた「家族」という時計は再び動き出すのか――
家族の再出発を描く感動長篇。
第151回直木賞候補作!
故郷に戻り、深夜バスの運転手として働く利一。
子供たちも独立し、恋人との将来を考え始めた矢先、バスに乗車してきたのは、16年前に別れた妻だった。
会社を辞めた長男、結婚と仕事の間で揺れる長女。
人生の岐路で、忘れていた傷と向き合う家族たち。
バスの乗客の人間模様を絡めながら、家族の再出発を描いた感動長篇。
解説・吉田伸子
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
高宮利一は新潟東京都間の長距離バスの運転手。東京には料理屋を営む志穂という恋人がいる。彼女と踏み込んだ関係になろうと決めると、間が悪いことに息子が新潟の家に帰って来た。とても具合が悪く、仕事も辞めたようだ。娘は結婚を考える相手がいるが、彼の母親がかなりの曲者。そして別れた妻の具合もよくないようだ・・・
この家族以外にも様々な人物が物語に入り込んできて、ミルフィーユのような多重な話になってゆく。
素晴らしく良かった。自分が完全に利一に同化して没入してしまった。渋い家族小説の傑作でもあり、恋愛小説でもあった。
Posted by ブクログ
めっちゃ読みやすくてよかった。
物語としては色々な人生の転換点にいる家族の内容なんだけど一人一人の家族の悩みがはっきりとは書かず、徐々に他の登場人物の視点も交えて描かれていて悩んでいる人の何処かもどかしい感じがすごい文章から伝わってきた。
不器用ながらに少しづつ前に進もうとする登場人物達に元気をかなりもらえたので別の作品も読んでみたい
Posted by ブクログ
映画を先に観てからの、読書。
随分前に観た映画だったので、主人公を原田泰造が演じた事しか覚えて居なかったが、読後感と映画鑑賞後の感じは同じく良いものだった。中高年男性だからこそ沁みる話だろう。
Posted by ブクログ
高宮利一
東京新潟を結ぶ定期高速バスの運転士。美越市に本社を置く白鳥交通。東京の大学を卒業して、不動産開発会社に就職した半年後の二十二歳の時に美雪と結婚した。母と美雪の不仲が原因で離婚。
加賀美雪
利一の元妻。利一の大学の後輩。再婚して加賀姓となる。乗車した夜行高速バスで利一に再会する。東京で夫と子供の三人暮らし。更年期障害。父の敬三の看護のため度々新潟に帰省する。
高宮彩菜
利一、美雪の娘。怜司の妹。交際相手の雅也とは結婚を控えている。副業で新潟市でゴシックロリータの服を販売している。絵里花、沙智子と「マジカルワンダー娘(ガールズ)」を結成。ウェブコンテンツとグッズショップを運営。
高宮怜司
利一、美雪の息子。彩菜の兄。大学院を出て、東京で就職している。父親に似て体格が良い。東京のインターネット関連の企業で営業をしていたが辞めて実家に戻ってきた。皮膚疾患に悩まされている。
古井志穂
利一の交際相手。三十代後半。小さな定食屋を営む。利一が不動産開発会社で働いていたときの上司や娘。離婚を機に実家に戻り、母親が営む自然食の店を継いだ。
志穂の父親
徹夜明けの社内で倒れて帰らぬ人となった。
佐藤孝弘
白鳥交通のバス運転士。五十五歳。趣味は手相と人相見。
長谷川巌
白鳥交通のバス運転士。六十前。女子校で国語の教師をしていたので、先生と呼ばれている。
大山
白鳥交通の路線バスを運行している運転士。
相川真由美
利一が運転する夜行バスに遅れてきた。女手ひとつで育てた息子が東京の大学に進学。息子の日用品を買い、部屋を調え、バスで新潟に帰る。
仁志
真由美の息子。東京の私立大学に進学。
植田絵里花
彩菜とシェアハウスに住んでいる。母親がアフリカ系フランス人。日本語しかしゃべれない。「マジカルワンダー娘(ガールズ)」のメンバー。こゆ日焼けをした褐色の肌を持つ。
クリエイター志望。普段の一人称は「ワシ」。
木村沙智子
彩菜とシェアハウスに住んでいる。「マジカルワンダー娘(ガールズ)」のメンバー。彩菜とは中学時代の同級生。実家は寺。
漫画家志望。
上島有里
彩菜とは美越の小学校で同級生だった。同じビルの貿易会社で働いている。
佐々木祐介
有里の彼。
大島雅也
彩菜の交際相手。税理士。二歳年上。
江崎大輔
三十二年前、超人気バンドのボーカルだった。現在はミュージックスクールでボイストレーニングを務めている。ソロ歌手として全国のカフェやフリースペースでライブを行う。本名は宮島治雄。
池上明江
江崎のデビュー当時からのファン。
美希
江崎の孫。
山辺敬三
美雪の父。怜司、彩菜らの祖父。一人暮らしをしていたが持ち家を手放し、マンションに移った直後に事故に遭い入院。
宇佐美
志穂の店に来る客。
菊井綾子
志穂がバスセンターで泣いているところに出会う。夫が鼻血を出し、手ぬぐいをもらう。
綾子の夫
颯太
美雪の息子。
Posted by ブクログ
壊れかけた家族の再生というか新たな局面を迎える物語。巻末の解説を読めば内容はすぐ思い出せそうだ。利一という中年の男に何故か惹かれる。深夜バスの運転手という地味目の職につきながら男手で子供を育てたというのも苦労が想像できる。そんな利一だから別れた元妻の父親のことも見過ごせないで援助することになり自分のことは後まわしになる。ラスト詩穂と京都で会ってどうなったかは語られてないけれどどうにか利一さんにも幸せになって欲しいな。
Posted by ブクログ
今まで読んだ作者の本の中で一番面白かった
物語にも入り込めた
繋がりもスムーズで、文章が上手いと思う
4冊だけど、今のとこハズレ本もない
今まで知らんかったけど、好みの作家さんだ
Posted by ブクログ
それぞれ年齢を重ねるに連れて感じる生きづらさをそれぞれの立場で表現してくれている。どの視点に感情移入できるかは自分の置かれている立場によって異なると思うが。
Posted by ブクログ
実は、自分の中で映画が先行しています。
でも、映画とは全く違った印象を持ちました。
リイチさん、新潟の人って感じがする。優しすぎる、待つことに慣れすぎている。でも、そこに人間味が溢れていて、たまらない。
「いこい」に行ってみたい。癒されたいなあ。
この本を読みながら、新潟市を訪れました。高速バスで。萬代橋やバスセンターの描写が素敵でした。実際に目にして、白鳥さんが来るような、そんな気さえしました。
またいつか、読み返したいです。
Posted by ブクログ
主人公が自分と歳が同じで境遇も似通っていたので、どっぷり感情移入してしまった。
五十歳を目前にしても惑ってばかり、離れた歳の恋人志穂のことも大事に想うばかりに傷つけてしまうも、やっぱり未練がましく思うあたりの心情が分かってしまう。
その辺が歳を重ねても成長できてないんだなあ。しかし最後はどうしても上手いこといって欲しいと願ってしまう。
四十五十は洟垂れ小僧、六十七十働き盛り…という引用されたものがズシンと響く。人間成長の先はまだまだで長いんだ。
最後の
もう一度人生を前に進ませよう。というリイチの想いに勇気を貰えた気がする。犯罪を冒したわけでもないけど、誰でも大なり小なりの挫折はある。再スタートは何歳からでも大丈夫だ、と。
Posted by ブクログ
子供達も成人し、これから人生を楽しもうと思っていた50歳目前の高速バス運転手。ある日、年下の彼女を自宅に連れ帰ると、東京で就職していたはずの長男が、準備していた食事も布団も勝手に使って寝ている。。。
彼女さんには気の毒だけど、そのあたりから息子、娘、別れた妻等々、いろいろ絡まって話が進む。
全てに共感はできないけど、こういう家族もあるかなぁと思いつつ読み進める。私は静かに淡々と進む、こういう雰囲気のお話か好き。
Posted by ブクログ
評価高いから気になって読んだけど納得。利一が内股膏薬的に揺れ動きまくってて離婚結婚が絡んで複雑で、もどかしい部分もあったけど、家族の気持ちも考えて温かい気分で再出発できた良い本。
家族って難しい。別れた妻との間にも愛情は残ってる(と信じたい)し、新たな生活を始めたいし、自分はよくても周りの義理の父と娘との関係や思いもあるし。その場しのぎの優しい言葉で流すんじゃなくてしっかり見つめ直して、葬式じゃない場で全員が納得して会うのって大事だよね。
Posted by ブクログ
家族の話は、本当に……やられます。
読み終わって真っ先に思うこと、これは、主人公利一の息子、怜司の物語だと。
怜司の、相手の先を読むような目つきと短い話し方、掻き毟った背中の痕、掃除したあとの窓ガラスの尋常ではない光り方。
何を隠してるのかわからないなか、怜司のことが心配で、心配で……途中で何か不幸があったらもうこの先読めないとまで感じていた。
ストレス性〇〇と診断されたときに、決して言われないけど感じる「自業自得」という文字。
「環境変えて」と言われて“やれればとっくにやってる”とくさり、その後は“そういわれるにきまってる”と感じて、「医者に行け」と言われても素直に従えない自分の心のもどかしさ……そんな時は、たぶん誰かにギュッと、抱きしめてほしい。
あと、最初の母子のエピソード!
乗車済みの人をかき分け、窓の外でいつまでも手を振る一人息子を見つめる母……心の揺れと夜行バス独特の寂莫の感が、短いフレーズの中で凝縮され映像化される。
読みだして100ページにも満たないのに涙が出るのは初めて(帰宅途中のバスの中で……あせった)。
彩菜のエピソードにはもうひとつついていけないし、利一と美雪・志穂の関係もありきたりの感があるけど、異なる街を夜の間に結んでいる「夜行バス」が、みんなひっくるめて、「明日」を感じさせる。
良かった。
Posted by ブクログ
あなたは、『夜行バス』を利用したことがありますか?
そんな質問に、元気よく“はい”と答える私。実際に大学時代、かなりの回数を利用した私。『深夜バスなら寝ている間に東京に着くよ』、『東京までの往復は一万円でおつりがくる』というように寝ている間に移動が済んでしまい、かつ安価という『夜行バス』はとても魅力的です。そんなバスの装備は運行会社によっても路線によってもマチマチです。『「三列シート」と呼ばれる、一人がけのシートが三列に並んだ車両』に当たるとホッとする一方で、『通路をはさんで二人がけのシートが横に並んだ「四列シート」』に当たると『ハズレ』だと感じます。初めてそんな『四列シート』に乗った時、隣に座ったおじさんが乗るや否や席を倒してしまったのを見てギョッとしたことを覚えています。なんて気がはやい人だろうと思いましたが、いざ走り出して寝ようとした時におじさんと同じ角度にリクライニングさせることができないことに気づきました。まさか知らないおじさんと三十センチの距離に顔を並べたくなどありません。結局中途半端にしか席を倒せなかった私。チクショー、このおじさん乗り慣れている、と後悔先に立たずな眠れぬ一夜を過ごしました。
さて、そんな『夜行バス』には私たちが寝ている間もバスを走らせてくださる運転手さんがいらっしゃいます。特に話をするでもないそんな運転手さんのことを深く考えたことはありません。しかし、乗客のそれぞれにそれぞれの暮らしがあるように、乗客のそれぞれが出発地、もしくは到着地に待つ『家族』がいるように、そんな運転手さんにだって暮らしがあり、『家族』がいるはずです。この作品は、そんな『夜行バス』の運転手さんの暮らしに光を当てる物語。『関越トンネルを越えると、あと半分って気分になる』と、東京〜新潟間を今日も多くの乗客を乗せて走る運転手さんの物語。そして、それは『トンネルを抜けると男で、戻ると父親』というその運転手が、自らの『家族』の『時計』が再び動き出すのを感じる物語です。
『午前五時三十二分。深夜便のすべての客を降ろした高速バス』の中で『運転士の制服の襟元をゆるめ』て、目を閉じるのは主人公の高宮利一(たかみや としかず)。そんな利一は『最近、明け方になると別れた妻の夢を見』ます。『別れたときは三十代だったが『出会った頃の姿』、『二十歳の美雪が泣いている』というその夢。しかし、目覚めると『離婚して十六年もた』ち、『自分がもう四十代の後半になって』いる『現実に気付』きます。『同居した姑との仲がこじれて出ていった』美雪。そして、『別れの理由にもなった母は五年前に亡くなった』という今。『東京新潟間を結ぶ』『定期高速バス』の運転手を続ける利一は、『二年前に理系の大学院を出て、東京で就職し』た息子の怜司と『一ヶ月前に、結婚を考えている人がいる』と話した娘の彩菜のことを思います。『彩菜の結婚が決まれば、自分の人生にも一区切りがつく』と思う利一は、『美越営業所のあかりが見えてきて』、『今夜も無事に戻ってきた』と仕事が終わり安堵します。そして、『彩菜と怜司から電話が』、『怜司からはメール』もあるのを確認し、『読もうとしたときに志穂から電話がかかってき』ました。『あと少しで、あがるから』と伝え『営業所を出』た利一は、志穂の元へと向かいます。利一が『東京の不動産開発会社で働いていたときの上司の娘だった』という志穂は、『西武新宿線の沿線で、小さな定食屋を営』んでいます。そんな志穂を初めて新潟の自宅へと招いた利一は、助手席に志穂を乗せ、家へと急ぎます。そして、玄関へと辿り着いた時『思わず足が止ま』りました。『玄関の引き戸が半分開いて』おり、『廊下に泥と足跡がついている』という状況に『泥棒?と志穂の声がし』ます。そして、『客間のふすまを開け』ると、『ああっ、まぶしいぃぃ』と声を出したのは『酒臭い息子』の怜司でした。『閉め出されるかと思った…ありがと』とよく分からないことを言う怜司に、メールをまだ見ていなかったことに気付く利一。『お前、なんで裸なんだ?』と、息子の姿をよく見ると『背中から腰にかけて肌が赤くただれてい』るのに気付き、志穂を連れて一旦家を出ました。そして、二週間後、東京からの夜行便の出発前に運転手として名簿を確認する利一の前に、『遅れて、ごめんなさい、加賀です』と一人の女性が遅れてやってきました。そんな女性の顔を見て息を呑む利一。それは十六年前に別れた元妻の『美雪』でした。『お母さん… 下に、荷物を入れといたからね』と後ろから少年の声もします。そして、出発した『夜行バス』。そんな『夜行バス』のドライバーとして東京と新潟を行き来する利一。そんな利一の”壊れた「家族」という時計は再び動き出すのか”という『家族』の物語が始まりました。
白いボディの『夜行バス』の表紙のイラストが独特な雰囲気感を醸し出すこの作品。書名にある通り『夜行バス』が全編に渡って登場し、物語を絶妙に演出していきます。そんな作品の主人公・高宮利一は『新潟市から離れた美越市に本社を置く白鳥交通』で、長距離区間を運行する高速バスの運転手として働いています。この作品は、そんな利一の『家族』の物語であり、宣伝文句に”壊れた「家族」という時計は再び動き出すのかー家族の再出発を描く感動長篇”と謳われる通り、『同居した姑との仲がこじれて』別れることになった妻の美雪、そして利一が育ててきた息子の怜司、娘の彩菜という『家族』の今を描いていきます。しかし、この作品はそんな『家族』の物語とは別に、利一とは全く関係のない人物の『家族』の物語が、それぞれの章に”サブストーリー”として描かれていくという凝った作りになっています。ただ、全く関係ない人物が唐突に登場するのではなく、それらの人物は利一が運転する『夜行バス』の乗客であるという接点があります。その各章の切り替えはとてもわかりやすく、『***』という記号が章の中に登場したところで視点の主が切り替わります。九つの章から構成されていますが、そんな中から特に印象に残った”サブストーリー”を三つほどご紹介したいと思います。
〈第一章〉: 『東京の大学へ入学する息子とともに新潟から上京し』た相川真由美が主人公。『もう…帰ってこないかもしれないな』と息子のことを思いながら一人、新潟への帰りのバスに乗り込みます。
〈第二章〉: 『東京の本社に』勤務する恋人の佐々木祐介との遠距離恋愛を続ける上島有里が主人公。『気持ちさえ決めてしまえば、きっとどこにだって行ける』と病に伏す東京の祐介の元へと東京行きのバスに一人乗り込みます。
〈第六章〉: 『仕事をリタイアした夫とのんびりと、日本の南へ向かう旅に出る』という菊井綾子が主人公。『これはきっと最後の大旅行』と、『再来月に手術を控え』た夫と、『あのときが一番輝いていた』とそんな夫がかつて営業で回った土地に夫婦で旅をするために、東京行きのバスに乗り込みます。
というように、バスを利用する乗客の人生の一幕に光を当てる物語が描かれていきます。そこで注目したいのは、そのそれぞれの主人公視点に切り替わった瞬間に本来の主人公である利一が高速バスの運転手の一人となってしまう、その視点の切り替えの絶妙さです。『前を見ると、背の高い運転手が客席を見て、人数を数えている』、『背の高い運転手が微笑み、うなずいた』、そして『背の高い運転士がうつむいている女性の前に立っていた』というそのそれぞれの場面。読者が感情移入する先の主人公・利一が全くの他人に切り替わってしまう不思議感。しかし、この描写によって利一視点でしか彼のことを見れなかった読者は第三者的に”高速バスの運転手・高宮利一”を俯瞰して見ることができるようになります。利一視点では決して見えない”背の高い”彼の姿、”微笑み”を見せる彼の優しい姿、そんな仕事人としての利一が見れることで、物語には深い奥行きが生まれていきます。そう、この作品はサイドストーリーを入れることで、物語の幅の広がりだけでなく、主人公の仕事人としての姿が物語に奥行きを生み出す、とても上手い作りがなされた作品だと思いました。
そんなこの作品の”メインストーリー”は利一を中心とした『家族』の物語です。『離婚して十六年もたっている』にもかかわらず、未だ『明け方になると別れた妻の夢を見る』という利一。それは、『どうして別れたんだろう。どうして離れてしまったんだろう』と元妻の美雪も思う通り、『同居した姑との仲がこじれて』しまったのが原因であり、そこには『憎み合って別れたわけではない利一と美雪』という関係性がありました。しかし、十六年という歳月は本人たちが思うよりも遥かに長い時間です。『子どもを置いて家を飛び出していった』というその子どもたちもすっかり大人になり、そんな母親への特別な感情を抱きながらもそれぞれの人生の中で苦悩しながら生きています。また、利一、そして美雪もそれぞれの人生の次の伴侶との関係にそれぞれ複雑な思いを抱きながらも生きています。この作品の宣伝文句には、”壊れた「家族」”という言葉が登場します。確かに『同居した姑との仲がこじれ』たことをきっかけとして美雪が家を後にするという出来事によって『家族』には大きな亀裂が走りました。しかし、上記の通りそんな『家族』にも十六年という歳月を経て新しい時間が流れ始めていたのは間違いありません。この作品で、作者の伊吹有喜さんは利一の言葉を通して『家族』についてこんなことをおっしゃっいます。
『家族というのは、ともに過ごした時間の記憶である』。
私たちはそれぞれに全く異なる『家族』の形の中で人生を生きています。『家族』の構成員が変わればまたそこから新たな『家族』がスタートする、そんな風に言ってもいいと思います。だからこそ、この作品の利一の『家族』、つまり『利一と怜司、彩菜、美雪という「家族」』の時間は『止まってしまっ』たという言い方は間違いないのだとは思います。そして、十六年前に時を止めてしまった『家族』の『時計』が、利一と美雪の偶然の再会を経て『再び回り始める』様が描かれていきます。『憎み合って別れたわけではない利一と美雪』。そして”置いていった”美雪と、”置いていかれた”怜司と彩菜。そこには、時を止めた過去に見やるプラスとマイナスの感情がそれぞれに露わになってもいきます。時を止めた後に違う『家族』の形がなければ物語はもっと単純なのだと思います。再び動き出した『家族』の時の流れに安堵する、そんなシンプルな結末があるのであればそれはそれで一つの物語です。しかし、上記した通り十六年という歳月の先には『家族』の構成員それぞれが新たに形作りはじめた『家族』の姿がありました。その両者が併存するということは当然にあり得ません。この作品が読者に突きつけるのはそんな中でこの両者の関係性をどう決着させていくのかという選択を構成員それぞれに問いかける物語でした。『もう一度、人生を前に進ませよう』、『恐れずに進めばいい』と前を向く『家族』たちの物語。それは、『ともに過ごす』『家族』のそれぞれがお互いのことを心から思いやる姿を見るものでもありました。
『夜明け前の薄闇を走っていると、これまでの人生を振り返ってしまう。そして選ばなかった道のことを考える』という『夜行バス』の運転手・利一。そんな利一が、元妻・美雪との再会によって十六年前に時を止めた『家族』の『時計』が『再び回り始める』のを見るこの作品。『深夜バスの話しを書くとき、いくつかの候補の土地があった。その中で新潟〜東京を結ぶ、長い関越トンネルが一つの鍵になった』と語る伊吹有喜さん。そんな伊吹さんが、『トンネルを超えると男、戻れば父親という二面性を描けるのではないかと思った』と続けられる通り、この作品では男と父親のそれぞれの姿を見せる主人公・利一の姿が描かれていました。そんな利一が、そして構成員のそれぞれが『家族』の今を考え、それぞれがそれぞれに思いやる様が描かれていくこの作品。どこかそれだけでドラマを感じさせる『夜行バス』が持つ独特な空気感を物語世界に上手く溶け込ませた、とても印象深い作品でした。
Posted by ブクログ
長距離バスの運転手が主人公
まぁ家族がばらばらで、お互いに何をやってるんだよ…と呟きたくなるような
でも、私の家族だってそんなに一致団結しているのかと聞かれればそうではないと思う
家族のことは、よく知っているようで、よく知らないもの
自分自身が、自分らしくいられる場所が家族であるなら素晴らしいと思うけれど、そうではないこともある
ちょっとその後が気になる終わり方でした
Posted by ブクログ
人生はドラマだ。人はそれぞれドラマを抱え、深夜バスは夜を走る。主人公の長距離バスの運転手は、別れた妻と新しい恋人、子供たちの父親としての自分、一人の男としての自分の間で想いが揺れる。それでも夜明けに向かってバスは走る。
「ミッドナイト·バス」(2016)伊吹有喜
#読書好きな人と繋がりたい
Posted by ブクログ
利一、美雪の元・夫婦と怜司、彩菜の兄妹。家族ってなんなんだろうね。彩菜ちゃんの「うちの家族、これでいいじゃないかって。人はどう思うか知らないけど…一生懸命だし。いいじゃないかって。」が印象的。
Posted by ブクログ
物静かであまり多くを語らない利一。
前妻と離婚して16年、子供達も独立してこれから恋人と第二の人生をというタイミングに、前妻も息子も娘も人生に行き詰まっていた。
そりゃ恋人どころじゃなくなるよね。志穂は何も悪くないんだけどね。
バスの乗客の話がたびたび織り込まれている。
高宮家と関わってきたりもするしそれぞれいい話なのだが、本編がなっかなか進まないので不要なのでは?と思うものもあった。主要人物たちがあんまり本音を話さないのよ。だから話が進んでいかない。
でも希望の見えるラストはよかった。
なんだかんだで結構泣けたな。
Posted by ブクログ
バラバラになった家族が再び集う時、それぞれの想いはさざめき揺れる。
16年前に子供2人を置いて出ていった妻が、利一の運転する深夜バスに乗車してきた。
子供たちも成人して、親も看取った利一は恋人と自分の人生を歩いて行く時期が来たと思っていた。
しかし、息子は突然帰ってくるし、娘も何やら始めた様子。
そして、元妻が現れて…
恋人との仲も危うくなる。
話の中の過去の後悔と未来への不安が、似ていないのに自分のことと重なり、涙腺が緩む。
家族の難しさと有りがたさとが交差して、寂しさも伴う。
そして、深夜バスに乗って遠くに行ってみたくなる。
2024.11.4
Posted by ブクログ
人って、人生って、うまくいかないなぁ。
でも人なりに年齢なりにいくつからでも前に進んでいける。と解釈したが、主人公の選択には納得出来ず、最後には都合いいなと思ってしまった。
サイドストーリーのような7章のロックンローラーが最高に粋でかっこ良かった!
Posted by ブクログ
本当の気持ちを話すのは親とも子とも難しいんだよね。実際。いろんな境遇に出会うからこそ考えることができるようになったり、ぶつかることができるからこそ理解点を見つけることができたり…
そう考えるとわたしはまだまだ成長しなければいけないのかも…と思った。
このお話の中では利一さんが一番若いかな…なんて思ったけど、いや、苦労なさってる…
Posted by ブクログ
家族や男女、社会がが抱える一筋縄ではいかない物語が深夜バスを舞台に進行されます。登場人物多め、かつ伏線回収されたっけ?と途中で戸惑ったので、長編ですが一気に読むのをおすすめします。
Posted by ブクログ
すれ違い、生き違った家族が会いまみえた時に、どうやって向き合い、どうやって再出発していくのか。家族とはとても近いため、時には支えに、時には脅威になる、そんなデリケートな関係なのかもしれない。それでも家族を紡ぐ物語が心引かれるのは、それをみんな求めているのだろう
Posted by ブクログ
「終わり良ければ」という言葉があるが、
そのような印象がややある作品。
終始起伏は少なく、それぞれが抱える問題(家族、仕事、恋愛、結婚、離婚)に対して向き合い、最後にはそれに対する答えを見つけ新たに歩みを始めるというストーリー。
この作品は、読者側の今の状況や精神状態によってハマる/ハマらないが大きく左右されると思うが、何かモヤモヤしている時に読んでみる一冊としては良いと思う。
Posted by ブクログ
独特の雰囲気だがこのトーンは嫌いではなくむしろ好み。ただ、登場人物が皆個性的というか支離滅裂で、こんな人たちでは穏やかな人生を送ることは無理だろうという感じ。特に元夫婦の2人は大嫌いなタイプで最後まで共感することは出来ず。子どもたちは早く経済的にも精神的にも自立しこんな親から卒業して、その呪縛から逃れるべき。
Posted by ブクログ
深夜高速バスの運転手と家族恋人たちの物語
各々の仕事や介護、人間関係、これからやこれまでを織り交ぜながら綴られていく
主人公の物語以外に深夜バスを利用した乗客の
物語もあり、私は往年のロック歌手の話しが素敵だと思えた
池袋→新潟の路線、私も利用した事もあり
見送った事も、迎えに行った事もある
新幹線とは少し違う独特な雰囲気が伝わる
主人公の利一の煮え切らなさにも共感できたり
朝に向かう深夜バス、登場人物達が朝に向かうであろう期待感が良い