北森鴻のレビュー一覧
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ネタバレデパートの屋上で発生する数々の事件を、「稲荷社の使い狐」、「観覧車」、「ベンチ」など無生物の視点から描いた連作短編集。救いのない話が並び、後味が悪く、忘れがたいインパクトを与える作品。ある短編の脇役が、次の短編で重要な役割を果たす構成は見事だが、全体的な構成は少し散漫に感じる。個々の短編の完成度は高く、どれも一定の面白さだが、香菜里屋シリーズほどの深みはない。裏京都シリーズよりは上だと感じる。北森鴻の短編作品としては及第点ギリギリの出来か。★3。
○ 始まりの物語
稲荷社の使い狐が語り手。デパートの女性店長の自殺、店長の子どもの万引き、いじめといったネガティブ要素が満載な作品。いじめられていた西尾隆一という少年の飼っていた子猫の命が助かることだけが救いだが…この少年の存在は、あとの話の伏線になっている。
○ 波紋のあとさき
観覧車が語り手。「始まりの物語」で黒幕だった警備員の中岡という男が殺害される。中岡と仲がよかったペットショップの「るみちゃん」という少女が、宗教にはまってしまうなど、この話もブラック要素満載。事件の真相は、中岡が自身の悪巧みを原因とする事故で死んでしまったというもの
○ SOS・SOS・PHS
「波紋のあとさき」で宗教にはまってしまったるみちゃんから、PHSを使ったSOSがあったが、宗教団体に殺害されてしまう。るみちゃんの活躍で、集団自殺を防ぐことはできたのだが…。るみちゃんの死が、この話のやるせなさを引き立てる。
○ 挑戦者の憂鬱
「SOS・SOS・PHS」で、るみちゃんの行方を探すために働いた佐古下という男が犯人である事件。語り手はピンボール。ピンボールにハマるタクという少年が、命を狙われる。ロクさんという男も登場する。ピンボールのハイスコアを出した佐古下が、ハイスコアがある事実を隠すためにピンボール台を破壊しようとするが、動機がばれないように、タクを狙ったと見せかけたというのが真相
○ 帰れない場所
バグパイプという楽器が語り手。『挑戦者の憂鬱』で怪我をしたロクさんという男が失踪したという事件。真相は、ロクさんは過去に人を殺害してしまったことがあり、バグパイプを演奏している姿を見て、そのことを思い出し、失踪してしまったというもの
○ その一日
『帰れない場所』で語り手だったバグパイプをめぐる話。語り手は地蔵。バグパイプを演奏していた男が楽器を忘れてしまう。バグパイプを演奏したのは地蔵に聴かせるためであったが、バグパイプの持ち主は、妻に殺害されており、妻は愛人と愛人の子をはめて、アリバイを作ろうとしたという話。こちらもかなりダークな話。楽器をロッカーに入れなかったのは、バーゲンの日だったから
○ 楽園の終わり
さくら婆さんのうどんの売店のスタンドが閉鎖されるという話。『始まりの物語』でいじめられていた西尾隆一という少年が体を鍛え強くなったが、少女を殺害してしまったという話。これも相当やるせない話である。最後に杜田がかつて、さくら婆さんの子どもが事故で死んだ原因を作ったことを伝える。
○ タクのいる風景
さくら婆さんも登場しない。盛岡のデパートの屋上に出かけたタクの話。デパートの売却のために工作をするタカさんという人が出てくる。タカさんの娘の大野昌子がひき逃げされてしまったことから、タクはタカさんが犯人と推理するが、真相は、大野昌子の自殺騒ぎは、爆弾の被害者を出さないための狂言であり、ひき逃げは全くの偶然だったというオチ。これもやるせない話である。 -
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ネタバレ叙述トリックが駆使された作品。読者を驚かせることを主眼として書かれており、まさに「驚愕の真相」と言える構成だが、その反面、リアリティに欠ける部分が目立つのは否めない。
「阿坂龍一郎という作家が女性である」という叙述トリックは、多くの読者が気付く可能性が高い。しかし、ほとんどの人は、小椋という音楽教師が阿坂龍一郎になったと考えるだろう。ところが、真相はその一歩先を行き、阿坂の正体は手紙で「キミ」と書かれている少年の母親だった。
烏丸芳江という人物こそが小椋という音楽教師で、手紙に書かれている「僕」という一人称の正体が「夏川麻美」である。夏川麻美は阿坂龍一郎に殺害され、埋められている。そして、時制のトリックも仕掛けられており、探偵に人探しを依頼したのは烏丸芳江=小椋であり、探偵が探していたのは阿坂龍一郎だった。
リアリティに欠ける部分が多い作品だが、読者サービスを重視して構成された驚愕の真相として、完成度は高いと言えるだろう。北森鴻の作品の中では売れ筋の作品であり、こういった作品を好む人も多いのだろうが、評論家受けは良くないだろう。個人的には非常に楽しめた作品で、★4をあげたい。
○ 阿阪龍一郎
小説家。正体は,「キミ」の母親。若狭妙子と烏丸芳江(小椋)を殺害する。
○ 野島克明
編集者。殺害される。
○ 若狭妙子
阿阪龍一郎の隣人。阿坂のファン。
○ 烏丸芳江
阿阪の秘書。正体は小椋。
○ 沢渡卓也
「キミ」の友人。
○ 四阿
刑事
○ 根岸
刑事
○ 若狭伊知郎
若狭妙子の夫。阿坂を殺害しようとする。
○ 小椋
音楽教師。
○ 小島正
「ぼく」に「キミ」の描いた絵の写真を贈る。殺害される。
○ 玉置朋生
探偵。人探しを依頼される。
○ 西村早苗
探偵。玉置と一緒に,人探しを依頼される。
○ 三島
体育教師
○ 夏川麻美
「キミ」にあこがれる少女。「僕」の正体。阿坂に殺害される。
○ 秋吉恵美
漫画家。若狭妙子に殺害される。 -
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ネタバレ〇 概要
これまで文庫未収録だった作品を集め、巻末にエッセイを収録した短編集。作品の出来は全体的に突出して高いわけではないが、北森鴻の初期作品やシリーズの原型となる短編が読める資料的価値がある一冊。エッセイも面白く、北森鴻ファンなら十分楽しめる内容。逆に、北森作品を読んだことがない人は無理に読む必要はないだろう。北森鴻ファンとして、おまけ込みで★3。
〇 仮面の遺書
暗号解読をテーマにした短編で、北森鴻の幻のデビュー作。主人公は暗号を解読するが、その結果、犯人自身の犯罪が露見してしまい、暗号を解いた人物まで殺害されるというオチ。暗号が「解けること」自体が犯人にとって致命傷になるという発想は意外性があり、本書では比較的印象に残った。
〇 踊る警官
「Y塚山御陵に死体を埋めた」と嘘の供述をして警察に一度捜索させ、その後、本当の埋葬場所に妻の死体を埋めるというトリック。一度調べた場所はもう調べないという心理だけで一本の短編を成立させている。アイデアは面白く、北森鴻の構成力は感じるが、作品としては及第点程度。
〇 無残絵の男
江戸から東京へ移り変わる時代を舞台にした作品。直助が元次を殺そうとし、市松を身代わりに立てた結果、元次は市松を殺害してしまう。ダイイングメッセージには月岡芳年の無残絵が使われ、最後に探偵助手が月岡芳年本人だったことが明かされる。歴史上の人物を取り入れた趣向が印象的
〇 ちあき電脳探てい社
『小学三年生』掲載作品。幽霊騒ぎの真相は、逃げたペンギンを世話していた同級生だったというもの。宝の地図も登場するが、実は校長先生が子どもの頃に描いたものだった。児童向け作品なので資料的価値はあるが、大人向けとしては物足りない。
〇 鬼子母神の選択肢
有馬次郎と折原けいが登場する、大悲閣千光寺を舞台にした作品で、「裏京都シリーズ」の原型とされる短編。N社の「爆弾」を盗み出して自殺した河北の事件を描く。真相は、「爆弾」と呼ばれていた情報が、ソノシート状のフロッピーとして電動茶筒の中に隠されていたというもの。シリーズ誕生前の雰囲気を味わえる。
〇 ランチタイムの小悪魔
『女性自身』掲載作品。占いを気にし過ぎる男性と、その恋人を描いた恋愛ミステリ。女性は新聞の占いを読ませないように奔走するという、たわいない日常の出来事を膨らませた作品。軽い読み物という印象。
〇 幇間二人羽織
久生十蘭『顎十郎捕物帳』シリーズのパスティーシュ。アリバイものの構成で、本当は双子が別々のトリックを使ったように見せかけ、その裏で本命の犯罪を実行していたという真相。趣向は悪くないが、この作風はあまり好みに合わず、北森鴻作品としても及第点以下という印象だった。 -
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ネタバレ雅蘭堂という骨董品屋を舞台とした連作短篇集。安積というアルバイトの女子高生と店主の越名が主要メンバー。さまざまな骨董品,ビスクドールなどをめぐるうんちくを語りつつ,骨太の話が多数ある。★3で。
○ ベトナム ジッポー・1967
「ベトナム ジッポー・1967」に思い出を持つ長坂健作という老人と,その孫の安積という少女が登場する。このライターの持ち主,「グエン」という大佐を知っていると語る老人。老人は自分が媒介となり,軍の機密が漏れたので,グエンが死んだと思っていたが,真相は,グエンこそが裏切り者であり,長坂健作は,煙幕として利用されていたという。ジッポーについてのウンチクもあり,やるせない読後感も合わさって,なかなかの作品
○ ジャンクカメラ・キッズ
竹島という古物商からジャンクカメラを譲り受ける。壊れたカメラを利用して保険金詐欺をする若い連中がいる,として保険会社の調査員から話を聞くが,その調査員が殺される。真相は,ジャンクカメラを利用したクスリの密売がされており,そのことに気付いた調査員を竹島が殺害していたというものだった。友人に裏切られるというやや,読後感が悪い作品ながら,話の作りはなかなかいい。
○ 古九谷焼幻化
兄から,「掘り出し物古九谷焼が本物かどうかを見極め,本物であれば買ってこい」と頼まれる。兄とは因縁がある犬塚という一癖も,二癖もある古物商と武藤という美術評論家。武藤は,古九谷焼を偽物と判断するが,雅蘭堂は,全てが犬塚の罠であり,本物を偽物と鑑定させるために仕向けたゲームだったと見抜く。古九谷焼についてのウンチクもあり,なかなかの作品。
○ 孔雀狂想曲
鉱物標本を買い損ねた男が出てくる。真相は,絵の贋作に鉱物を使っていたというもの。絵を盗み出したものとは別の者が贋作を作って流そうとしていたが,絵を盗んだ者も同じことを考えており,鉢合わせになったという話。イマイチ,ピンとこない話だった。標題作だが…。普通のデキか。
○ キリコ・キリコ
「形見の品」を預かった雅蘭堂が、切子の酒瓶を渡す。渡された女性は,十年も会っていなかった伯母からの形見の品について,思い出話をする。融資を断られた父と母と,親戚同士で行われていた宴席でのトラブルについての話だった。雅蘭堂の店主,越名は,送られた瓶は,酒瓶のフタの部分。フタとして隠されていたという真相を伝えるために形見として送ったのだと伝える。さらっとした話だが,良質な短篇。
○ 幻・風景
Fという小説家が残した絵画。《三鷹駅前暮色》。同じ構図の絵がもう一つあるはず…という。真相は,もともと《希望の街》として描かれた絵画が,色褪せ,夕暮れ時の街になってしまった。そのことを使って,もう一つ,贋作を作り,一儲けしようと考え,今回のペテンを考えた犬塚は,越名を仲間に入れようとして今回の企みを行っていた。犬塚の娘の恵子の裏切りにより,越名は,企みを暴くことができたという作品。読後感もよく,良作。
○ 根付け供養
島津という男が,根付の贋作を作り「英琳」という名を彫り,高沢という老人が買い取っていた。高沢は,越名に英琳の作品を鑑定させていた。安積が預かった英琳の根付の突起部分を破損させてしまう。越名は,英琳が現代の作家の作品であることを見抜く。高沢も,既に英琳が現代の作家の作品であることを見抜いていたという話。安積という少女の態度がなんとも腹がたつ作品だが,作品の出来としては及第点か。
○ 人形転生
ビスクドールをめぐる作品。《ミツコ》というビスクドールのサンプルを多数作り,サンプルを発注し,サンプルを売って儲けようという話を持ちかけ,本物は亡くなった方がサンプルの価値が高まるとして,火災で廃棄しようと持ちかけ,美輪という男が,宇崎と神谷という男を焼死させたという話。普通のデキか。 -
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ネタバレ共犯マジックは,フォーチュンブックというこの世に起こりうる全ての不幸と災いを予言するための本の存在がミッシングリングとなっている連作短編集である。
長野県松本市内の書店で売られていたフォーチュンブックを購入した6人の人間と,フォーチュンブックを手に入れたその書店の店員。これら7人の人間が複雑に絡み合う作品となっている。
6つの短編は,それぞれで事件が発生し,解決が存在している。それでいて,これらの短編には,主人公となる人物だけでなく脇役として,フォーチュンブックにまつわる人物が登場している。そして,これらの短編を時系列で並び替えると,一つの犯罪をめぐる物語が浮かび上がってくるのである。
フォーチュンブックを手に入れたことで,東京に出た書店の店員である蜷川鉄治。蜷川鉄治は,フォーチュンブックを手に入れることができなかった大学生風の男木津修平,フォーチュンブックを購入した中年男である乙黒嘉吉と三億円事件を起こす。この三億円事件の存在が,隠されたもう一つのミッシングリングとなっている。
フォーチュンブックと三億円事件の二つで,それぞれの短編は一つの作品として繋がり,あたかも一つの長編の一部でもあるかのように読むことができるのだ。
この部分が評価されているのか,共犯マジックは,玄人の評価が非常に高く,短編の名手である北森鴻の最高傑作とも言われている。
しかし,個人的には共犯マジックはそこまで好きな作品ではない。個々の短編の出来がイマイチだと感じる点と,北森鴻にしてはプロットがすっきりしていて,どこか物足りないのだ。北森鴻らしく,もっとサービス精神を発揮し,もうひとひねりしてほしかったのである。そういうわけで,★4に近いのだけど,★3としたい。 -
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ネタバレ『共犯マジック』は、フォーチュンブックという、この世に起こり得る全ての不幸と災いを予言する本の存在がミッシングリンクとなっている連作短編集である。
長野県松本市内の書店で売られていたフォーチュンブックを購入した六人の人間と、その本を手に入れた書店員。これら七人の人物が複雑に絡み合いながら物語は進んでいく。
六つの短編は、それぞれ独立した事件と解決を持っている。しかし、主人公だけでなく脇役としてもフォーチュンブックにまつわる人物たちが登場しており、時系列で並べ替えると、一つの犯罪をめぐる大きな物語が浮かび上がってくる。
フォーチュンブックを手に入れたことで東京に出た書店員・蜷川鉄治。蜷川鉄治は、フォーチュンブックを手に入れられなかった大学生風の男・木津修平、フォーチュンブックを購入した中年男・乙黒嘉吉とともに三億円事件を起こす。この三億円事件の存在が、隠されたもう一つのミッシングリンクとなっている。
フォーチュンブックと三億円事件。この二つによって、それぞれの短編は一つの作品として結び付けられ、あたかも一つの長編の一部であるかのように読むことができる。この構成が評価されているのか、『共犯マジック』は玄人筋からの評価が非常に高く、短編の名手である北森鴻の最高傑作とも言われている。
しかし、個人的にはそこまで好きな作品ではなかった。個々の短編の出来がやや物足りなく感じられたことに加え、北森鴻にしてはプロットがすっきりしすぎているように思えたからだ。『闇色のソプラノ』では、サービス精神旺盛なあまり詰め込みすぎてしまっていたが、本作では逆に整理されすぎていて、もうひとひねり欲しいと感じてしまった。
一般的な評価の高さは理解できるし、完成度も高い。しかし、北森鴻らしい過剰さやサービス精神を期待していた身としては、やや物足りなさが残った。★4に近いのだが、個人的には★3としたい。
【思い出し用メモ】
・★3(4に近い)
・フォーチュンブック=全ての不幸を予言する本
・六つの短編+七人の登場人物
・時系列で並べると一つの長編になる。
・蜷川鉄治、木津修平、乙黒嘉吉と三億円事件
・フォーチュンブックと三億円事件が二つのミッシングリンク
・玄人受けする名作
・個々の短編はイマイチ
・北森鴻らしい「詰め込み」が足りず、逆に物足りない。