北森鴻のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
読書録「ぶぶ漬け伝説の謎」3
著者 北森鴻
出版 光文社
p133より引用
“幽玄そのものといった光景なのだが、どうも
焚き火の向こう側にいる獣が、よろしくない。
おのが欲望に溺れ、いっときの侘び寂を楽し
もうとすらしない、目つきがさらによろしく
ない。ときおり唾を飲み込むごくりという物
欲しげな音が、さらにさらによろしくない。”
目次より抜粋引用
“狐狸夢
ぶぶ漬け伝説の謎
悪縁断ち
冬の刺客
白味噌伝説の謎”
寺男・地元新聞の記者・ミステリー作家の
三人を主人公とした、短編小説集。
寺の境内を掃除しながら、居候とじゃれあっ
ていた寺男の有馬二郎。そこにやってきたの
は…。(狐狸夢)
上記の引用は、「冬の刺客」と題された話の
冒頭の一節。焼き芋をしているのかなと思った
のですが、読み進めてみると…。なんとも風雅
な楽しみ方でした。
全編の会話が京言葉でかわされているよう
です。はんなりとした穏やかな感じの響きが、
なんともいい塩梅です。
作中に出てくる料理や食材も、京都ならでは
のものが描かれているようで、京都らしさを
全面に押し出した作品だと思います。
ーーーーー -
Posted by ブクログ
あらすじ:
男子高校生が焼死した。謎が残るものの事件は自殺として扱われていた。しかしその数年後、作家・阿坂龍一郎は不可解な手紙を受け取る。内容は――焼死事件の真相に迫る「過去からの手紙」だった。次々に届けられる手紙に恐怖する阿坂は、秘書の眼を盗み、読み進める。それ以外にも、編集者の死、近所の女のストーカー行為に悩まさる。魔の手は阿坂を絡め取ろうとしているのか――。
「犯人」が「誰」かを当てるのは難しいだろうが、素直に読み進めれば「犯人」の目星は結構簡単につくだろう。真相までの幾層にも折り重なるウウェハースのような仕掛けの数々は、さすが北森鴻といったところだ。
結構素直に書いてあるから、阿坂の隠したがっている謎とそのための措置、そして「手紙」についても全く驚かなかったんだけど、解説を見ると、当時の編集さんはかなり敏感になっていた模様。個人的には問題なく本格なんだけどナ。おそらく後者が問題になったんだと思うけど、全く問題ないですよね文学的に。ええと納得いかない人はセンター試験の国語の過去問題をあさってみようか。
このタイプの仕掛けはそもそも何作か読んでいれば、めったなことでは読者をだませない。数をこなせばすぐにピーンとくる。だからこそ「めったなこと」を起こすには、作者の文章力が重要だ。面白ければ面白いほど読者は夢中になって読み進め、ページを捲る手が止まらず、推理よりも物語を楽しむことに専念するんだから。
その点、この作品は惜しいんだよなあ。でもここから、あの「狐闇」なんかを生み出すくらいの巧さを身に付けるんだから北森鴻は只者じゃない。ええと好きな作家の成長を垣間見るのはファンにとってはマニアックな楽しみです(笑)。
近所の奥さんの描写は凄い。好きなアイドルやタレントのまねをする人って実際にいるし、行き過ぎると第三者から見ると不気味に映る。その描写が見事なの! ああ、こういう人いるよきっといるよ、と怖くなってしまった。部屋の趣味まで徹底していて、文面から迫力や執着が伝わった。
ちょっと得心がいかないのが、阿坂とあの人の「秘密」。いくらあんなことがあったとはいえここまでしてしまう程になるのだろうか? それも何年も。もう少し説得力がある何かが欲しかった。