北森鴻のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
出会ったときから気づいていたが,能海は肩から掛けた頭陀袋をひとときたりとも手放そうとはしない。船室から出るときはいうに及ばず,用便所で苦しんでいた最中にあってさえも,それを我が身から離すことはしなかった。はじめのうちこそ,よほど大切なものが入っているのだろう,ぐらいにしか思わなかったが,あまりの執着ぶりが揚用には奇異なものに思えてきた。むろん,旅とは危険との背中合わせである。盗人,追いはぎ,なにが襲いかかってくるかわからないのが旅であることを,揚用はよく知っている。それでなくとも旅人は,少なからぬ資金を所持している。金は絶対に肌身から離してはならないのが鉄則でもある。だが,能海の頭陀袋の中身