Posted by ブクログ
2011年03月31日
全体的には暗い雰囲気で伝奇やホラーの匂いが漂うし心理的にもくる。実はこういうものには弱い。基本的に怖がりなので、なかなか先に進めなくなってしまう。(あるいは逆に筋追いでかっとばしてラストまで読んでしまうか。でもそれはもったいない。)
北森氏の長編は狐シリーズにしろこの作品にしろそういうものが多いのが...続きを読むつらいといえばつらい。伏線がきちんと張られているし、読み応えがあるので、言葉を大切に読んでいきたいのだけれども…怖い。
冒頭は一人の青年が登場する。影があり何らかの事情を抱えていそうなのだがはっきりしない。彼が主人公なのかと思えば場面は変わり、基本的には卒論に取り組む女子大生・真夜子を中心に物語は進む。彼女が選んだ卒論のテーマ、夭折した天才詩人・樹来たか子が謎の中心となる。彼女の詩にひきよせられるように、謎に近づいていく者たちに悲劇が訪れる。どこか影のある登場人物たちもいい。
語り手が(つまり視点が)二転三転し、(多少混乱はさせられるが)謎が部分的に解けていき、それが絡み合って遂には意味をなす。その面白さはミステリファンにはこたえられない。 伝奇的な雰囲気を漂わせつつ、骨格はしっかりとした本格推理小説で、その辺りが好感。
ただし、若干気になったのは、いくら伝奇的な雰囲気を盛り上げてそこが不思議な町だと言われても、そう都合よく事件の関係者が十何年後にご近所さんに集まってくるかね…というのが正直なところ。 ついでにいうと、樹来たか子さんの詩が私の心には響いてくれなかったので、事件の吸引力としてはふーんという感じ。そんなに夢中になるほど魅力的かしら…というのは野暮な話だけれど。
最後に明らかになる事実は、実は途中で登場人物の頭数を考えてもしかしたらそうかな…と思ってたんだけど、その後すっかり忘れていたらやっぱりそうだった…という。謎解きとしてはそれほど意味はないんだけど、物語の発端としてそれは必然だったんだな、というところか。(2006-03-07)