ハルチカシリーズ5作目。これもでも十二分に青春ミステリをしていたシリーズだけど、この『惑星カロン』でよりハルチカが、青春ミステリの“決定版”と言われるに足る作品になってきたと感じます。
イントロダクションから始まり、短編4つが収録されています。このイントロダクションから、ちょっといつもと雰囲気が違
...続きを読むう感じがする。ところどころの言い回しはチカらしい、ユーモアの含まれる話し言葉なのだけど、一方で過ぎ去っていく青春への郷愁と、伝えたい想いというものがあふれている。まあ、ここでしんみりしていると次に収録されている短編「チェリーニの祝宴」の冒頭でズッコケてしまうのだけど(笑)
呪いのフルートの謎をめぐる「チェリーニの祝宴」
音楽暗号の解読に挑む「ヴァルプルギスの夜」
朝、学校に来てみると部室棟の部屋の扉がすべて開けられていた謎に挑む「理由(わけ)ありの旧校舎」
ネット上で語られる人間消失の謎が描かれる表題作「惑星カロン」と今回も謎は様々。そして今回の謎はいずれも、青春の要素がより濃くなっているように思います。
「チェリーニの祝宴」では自分のフルートの実力に限界を感じ始めたチカの心情が、物語中で描かれ「ヴァルプルギスの夜」では、部活における練習風景の今昔、そして部員間での部活に対する温度差が物語のキーワードとして作用する。
「理由(わけ)ありの旧校舎」は学生だからこそのノリや楽しみみたいなものも感じられ、そして「惑星カロン」では、これまで突っ走ってきたチカが、知り合った中学生とのやり取りを通して部活の引退や、次の世代のことにも想いをめぐらせる。
「惑星カロン」は特にシリーズとしても重要な短編になってきそう。チカの心情の変化ももちろんですが、これまで謎に包まれていた吹奏楽部の顧問、草壁先生の謎も少しずつ明らかになっていきます。そしてこの短編集を結ぶトリの短編としても良くできています。
「惑星カロン」のテーマの一つが、会えない人への想いだと思うのですが、それが「惑星カロン」の前に収録されていた三つの短編のエピソードを拾い集めることで、テーマ対する感動をより深めていく。とにかく伏線の回収が、本当に鮮やかでそれを感動につなげる手腕は、本当にすごかった。
ハルチカたちのコメディ的なやりとりと、感動や切なさ。読み終えてみると、毎回この二つを両立させるハルチカシリーズのすごさと特異さを感じます。ミステリとしてはもちろん、チカの心情の変化、そして草壁先生の過去とシリーズ全体の行方も気になってくる作品でした。