司馬遼太郎大ファンとしてはもっと早く読むべきであったと後悔の書。伊勢新九郎/北条早雲の生涯の物語。戦国期の作品については国盗り物語から読めば良いと認識していたが、道三、信長、秀吉、家康の前に絶対読むべし。鎌倉幕府成立の意味を、南北朝室町幕府の意味、応仁の乱、その衰退と戦国時代へと変遷の必然をの司馬氏得意の経済変化と民情の変節から明解に説明し切ります。
後北条家にこれまでは思い入れを持って見た事がなかった。この一冊で最も尊敬できる歴史上の人物の一人となりました。司馬遼太郎氏も早雲は手放しで好きのようです。早雲、その人こそが戦国時代の幕を切って落とした人。
公家化、古い権威への執着、政治機関としてあまりに無能の足利幕府。地方農業の生産性の向上と国人、地侍の力の蓄積と広い連合、国人一揆。最も早く、この経済変化を捉え、かつ次の時代の形を具体的に示し得た思想と実践が一体化した人。
歴史教科書として、中国哲学の日本への影響(孔子と孟子、仁と義)、政治の重心の変化、それに対応する仏教の拡大浸透の歴史(公家:天台/真言、武士:臨済/曹洞、農村、民衆:時宗/一向=浄土真宗)、典礼(伊勢流、小笠原流、今川流)、戦国時代前の守護の家系、源平藤橘の氏の系譜、まあ良くここまで明解に、かつこの物語に即して説明してくれるものです。
前半生を描く上巻当たりでは、何となく物語の進行とそのリズムが緩慢でダレる。何となく司馬さんらしくないと感じた。北条早雲その人の前半生については本当に謎だらけであり、本当に記録がないのだという。司馬流を発揮するべき材料がなく、司馬遼太郎氏自身が後書きで、可能な限りの断片から、こうであろうという考えがまとまるまで時を待って"造形した"と解説している。
バサラの気風などではない。明確な時代把握と新たな政治への信条を持って、それでも究極の勇気を必要とした、古い権威、封建制度の破壊。本当の下克上。本当の乱世、戦国時代への変換点を通過する勇気。その越え難い峠への長い坂、箱根の坂を越えて行く早雲の姿の美しさに感動出来る。