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関東制覇を目指して、先ず伊豆を切り取った早雲は、越えがたい箱根の坂を越えて、ついに小田原攻略に成功した。まさにその時、戦国の幕が切って落とされたのである。伝統的教養と近代的領国経営法で関東の覇者となり、治世の理想を実現させ、歴史を変えていった男、北条早雲の一生を描いた傑作長編小説完結。
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Posted by ブクログ
この小説は、北条早雲が箱根の坂を越えて関東を制覇する話のはず。 しかし上巻中巻ときて、未だ箱根の坂を越えない。 下巻の400ページで本当に関東を制圧できるのか? 北条早雲、50歳を超えているぞ。 自分たちの欲得のための戦いをするだけで、何ら生産性のない守護や地頭などの武士階級。 貴族化しつつある彼...続きを読むらは、農民が作る米や野菜を、国人たちの労力をただただ消費するのみで、疲弊しきった農民や国人には何の見返りも与えない。 鎌倉時代に比べて農業生産性が格段に上がった室町時代。 農民や国人たちから搾取するだけの守護や地頭を無視し、早雲は直接彼らと語らい、破格の低税率で領地の経営を行っている。 しかし、たった伊豆だけの領地では、大勢の足軽たちを養っていけないのも事実。 早雲の目は小田原、そして三浦半島へとむけられる。 がしかし、200ページを過ぎても、早雲はまだ箱根を治める大森氏呼びつけられる身分である。 300ページに至っては、関東管領である扇谷上杉家と山内上杉家の争いに巻き込まれ、敗走中だ。 大丈夫か? 「南総里見八犬伝」のように下巻の一、下巻の二と続いていくのか? 「いくさに勝つには、潮がある。わしはそれを待っている」 といった早雲が、ようやく小田原城と西相模を手に入れたのは64歳の時。 箱根を打ち破ったのは81歳! ここぞという機会が来るまで早雲はずっと待ち続けたのだけど、戦はしていた。 早雲の主である今川氏真が兵を出せと言えば、すぐさま駆け付ける。 そういった意味では、早雲は下剋上を当たり前とした戦国武将とはちょっと違う。 最後まで氏真を立てた。 そのために伊豆に基盤を置き、主に迷惑をかけないように自分の力だけで領地を広げていったのだから。 ”孟子がもっともいやしんだのは、武力で天下を切りとろうとする覇である。孟子における覇の価値は、ほとんど盗賊というほどに低い。ところが、覇も仁を仮にとなえる。仁を布(し)くために武をおこなうのだ、という。孟子は、覇のそういう性根をいやしむのだが、早雲の書生じみたおかしさは、この期になってそういう倫理観にこだわっているのである。” 仁を布き、義を尊んだ、礼の人北条早雲。 日本の歴史の中で唯一無二の存在ではないだろうか。
・時代が必要とした人物 ・受動的 革命家 ・聖(ひじり) が早雲に対する印象である。 出自が不明であり、司馬遼太郎の空想も含まれるが、神格的印象が強い。 社会制度が形骸化した時代だからこそ、早雲のような人材を歴史が求めたと言える。 武家貴族が衰退し、足利家を含め上級武家が私闘に明け暮れる中、生産能力...続きを読むの向上により力を持った農民階級が現場を熟知した衆導者を求めた理想像に早雲があると感じた。 滅私の傾向が非常に顕著な人物。 時代が100年早ければ、おそらく馬の鞍作りとして生涯を終えていたと思われる。 ・(敵に対して)村を焼き払うな。こちらも焼かぬ。 ・(関東管領 扇谷上杉に対して)早雲は憤りもせず、かといって自分の功を取り立てて言うつもりもなかった。 なんて言動が好きだ。 これからの自分の行動の道標としたい。
日本の戦国時代、そのスタートを切った北条早雲の戦国大名になるまでがついに描かれます。京都から始まったこの物語は、序盤が長過ぎるように感じますが、時代の先駆者である早雲を鮮やかに描き出すために必要であったことがわかります。早雲とともに旅をしてきた長い物語は、ついに箱根の坂を超えます。当時、駿河、伊豆ま...続きを読むでが京都の力の及ぶところであり、箱根の坂を超えた関東は別の領域であったと司馬遼太郎先生は記載します。とても良い読書体験となりました。
日本史で北条早雲の名前は知ってはいたが、それ以上はいったいどういう人物なのかまったく知らなかったので興味深く読むことができた。 北条早雲はその前半生に関して資料が少なく、どうやら本書でも伊勢新九郎と名乗っていた北条早雲の前半生はこうであったろうという司馬遼太郎氏の創作になっているようである。 ...続きを読む本書を読んで、北条早雲は中年以降になってやっと歴史に登場してきた大器晩成型の人物だということがわかった。婚姻も遅い。城持ちとなっても驕ることがなかったことや、これまでにないほど租税を減免し領国経営に手腕を発揮したことなどその先駆性に驚かされた。 そのため、日本史上最初の戦国大名と呼べる人物が北条早雲だったということも初めて知ることだった。 北条早雲のようにその前半生を名も無き貧しい者として一生を終えるかと思われた人物が突如として歴史の表舞台に登場し大名として画期的な革命ともいえることを成し遂げたというのは、自分と引き比べて心強いものを感じさせてくれるものがある。
司馬遼太郎大ファンとしてはもっと早く読むべきであったと後悔の書。伊勢新九郎/北条早雲の生涯の物語。戦国期の作品については国盗り物語から読めば良いと認識していたが、道三、信長、秀吉、家康の前に絶対読むべし。鎌倉幕府成立の意味を、南北朝室町幕府の意味、応仁の乱、その衰退と戦国時代へと変遷の必然をの司馬氏...続きを読む得意の経済変化と民情の変節から明解に説明し切ります。 後北条家にこれまでは思い入れを持って見た事がなかった。この一冊で最も尊敬できる歴史上の人物の一人となりました。司馬遼太郎氏も早雲は手放しで好きのようです。早雲、その人こそが戦国時代の幕を切って落とした人。 公家化、古い権威への執着、政治機関としてあまりに無能の足利幕府。地方農業の生産性の向上と国人、地侍の力の蓄積と広い連合、国人一揆。最も早く、この経済変化を捉え、かつ次の時代の形を具体的に示し得た思想と実践が一体化した人。 歴史教科書として、中国哲学の日本への影響(孔子と孟子、仁と義)、政治の重心の変化、それに対応する仏教の拡大浸透の歴史(公家:天台/真言、武士:臨済/曹洞、農村、民衆:時宗/一向=浄土真宗)、典礼(伊勢流、小笠原流、今川流)、戦国時代前の守護の家系、源平藤橘の氏の系譜、まあ良くここまで明解に、かつこの物語に即して説明してくれるものです。 前半生を描く上巻当たりでは、何となく物語の進行とそのリズムが緩慢でダレる。何となく司馬さんらしくないと感じた。北条早雲その人の前半生については本当に謎だらけであり、本当に記録がないのだという。司馬流を発揮するべき材料がなく、司馬遼太郎氏自身が後書きで、可能な限りの断片から、こうであろうという考えがまとまるまで時を待って"造形した"と解説している。 バサラの気風などではない。明確な時代把握と新たな政治への信条を持って、それでも究極の勇気を必要とした、古い権威、封建制度の破壊。本当の下克上。本当の乱世、戦国時代への変換点を通過する勇気。その越え難い峠への長い坂、箱根の坂を越えて行く早雲の姿の美しさに感動出来る。
最終巻。北条早雲が伊豆に入り、小田原を手中に収めるまでを描く。最終巻では、関東での三浦氏、大森氏等との争いが舞台となり、読んでいても小気味よい。 早雲は時間をかけてでも自分の目指すところを実現し、その実現の過程で軸(「義」なのであろう)を貫き通す。 「あとがき」にもあるように、早雲が「領国制」とい...続きを読むう戦国時代に先駆けての新たな行政区を作ったことが歴史的にも意義のあることであり、その意味でも歴史上、押さえておくべき人物なのであろう。 以下引用~ ・早雲は、やれようがやれまいが、四公六民ばかりはつらぬかねばならないと思っていた。 ・戦国とは、百姓をじかに支配しない守護が消え、代わって大名とよばれる者が、農村を直接支配した時代ともいえる。 ・平家政権の平清盛が、日本国最初の貿易主義の政治家で、さかんに対宋貿易をおこなった。決済商品として、金が必要になった。当時、奥州平泉の藤原氏がにわかに繁栄したのは、北上川の砂金の採取権をもっていたためで、この砂金が清盛の貿易につかわれ、宋に流れた。 ・国内での海賊行為をやった集団で、上陸した土地の大名になった者もある。古い例としては鎌倉の世の承久元年十二月、甲斐の武田氏の一族73人が、大いなる船にのって奥州八戸に上陸して土地を支配したのが南部氏のおこりだということが「奥南旧指禄」に書かれている。 ・自分の施政について直接農民と約束するというやり方も、減税という布告の内容も、日本国はじまって以来のことではなかったか。 ・日本の地名につく小(お)は、物の大小をあらわすよりも、その地へのいとおしさをこめた場合が多い。 ・義は人が、いわば私情を殺して意志力で外からひきよせ、行動目標もしくは、ばねとするもので、義をおこなうのは情としてはつらく、しばしばわが身を危うくもする。しかしながら、義がなければ国家にも個人にも美しさがない、と氏綱はいう。さらに、美しさがなくて繁栄をえたところで仕方がないものだ、と氏綱は痛烈にいうのである。
司馬遼太郎といえば一番好きなのはやはり『燃えよ剣』。司馬遼は古い文献から破片を集めそこから人となりやストーリーを想像し気持ちが盛り上がったところで一気に書くそうだ。あとがきにそんなことが書いてある。そして謎に包まれた北条早雲の人生を取り上げた。人生40年の時代に早雲が歴史に現れるのは応仁の乱後の45...続きを読む歳。そして88歳まで駆け抜ける。早雲の凄さは農民の幸せを考えて統治した初めての政治家ということ。室町末期の公家崩れや田舎侍を倒しまくるのは正直迫力がない。そして人生の全盛期が50歳以降だから戦に燃える若き血も恋も冒険もあまりない。本当はもっと弾けて欲しいのだが司馬遼太郎はいつものように抑えて書く。それでも面白いのは早雲が足利将軍家側近の名門家にありながら、義を尊び、守護大名制度をぶち壊し下克上も辞さない戦国時代の幕を開けた当事者だからだろう。
室町時代(応仁の乱)から戦国時代の幕開けまでを生き切った北条早雲について焦点を当てた小説です。時代の移り変わりにいち早く対応する姿は今読んでも参考になるなと思いました。 上巻の感想にも書きましたが、応仁の乱後の京都・関東の流れを手軽に知りたいひとにお勧めできます。 信長の野望等の戦国時代にフォー...続きを読むカスしたゲームで早雲の名前は後北条家の説明に多く出てきます。しかし、ゲーム内では既に死去していて謎の多い人物という印象でした。 伊勢家の末流であった伊勢新九郎が歴史の舞台に駆け上がるまでとその背景がわかり、新しく感じ面白い作品でした。
久し振りに読んだ司馬遼太郎。 北条早雲はどうやらすごい人らしい、ということで以前から読んでみたかったので。 伊勢家の末流として京の中枢近くで応仁の乱を経験した新九郎(早雲)は、足利政権や支配層に対し、諦めと絶望感を抱いていた。 その早雲が目指した国の形とは――。 最近、読みやすいイマドキ歴史小説...続きを読むを読むことが多かったので、ちょいちょい差し挟んでくる時代背景の説明が、まだるっこしい。 全3巻あるこの小説も、解説部分を切り詰めれば、きっと上下2巻くらいでおさまるのではないかと思われます。 が、結局、それらの背景説明が、読み手の想像力の助けとなり、物語に厚みと説得力を持たせるということがわかっているので、あせらず読む。 そして、登場人物の性格分析と内面描写の丁寧さが司馬作品の持味でもあり、さらに作品世界に読者を深くつなぎとめてくれる。 うーん、さすがだな、と思いつつ、やはり冗長である事は否めない。後半に進むにつれて勢いが弱まっていくような気がしました。 今回は地元周辺の歴史ということもあり、いつもと違う面白さがありました。 今度は富樫倫太郎の早雲を読んでみたい。
描写が優れている
いつもながら、司馬遼太郎の歴史的背景、人物観察の描写が極めて優れていると思います 。
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