上橋菜穂子のレビュー一覧
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「鹿の王」のスピンオフで、主人公はオタワル医術師のホッサルと彼の恋人で助手でもあるミラウ。
医術の2つの流派をめぐる政争や、治療の是非、生きるとは何かということが書かれていて、いつもながらいろいろ考えさせられながら読みました。
この作品は上橋氏には珍しく恋愛部分の比重が大きくて、こんなのも書くんだと驚かされました。最後は氏の粋な計らいがあって思わずニンマリ。
私は上橋氏の自然描写が好きで、特に好きな一節がこちら。
「屋敷の中は静かで、ただ屋根を打つ小雨の音だけが聞こえている。」
これを読んだとき、屋根を打つ雨音だけでなく、雨と草の匂い、部屋の暗さなどが急に私の周りを取り囲み、一瞬にして別世界に連れて行かれました。
やっぱり上橋氏の作品はいいですね。 -
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ネタバレ好きだった言葉は、「人にどう思われるか気にしていると、発想も縮こまるんだな。」と、「この世に生きる、たくさんの生き物たちの営みの不思議さを感じてほしい。学ぶということの、ふるえるような興奮を感じとってほしい。」の2つである。1つ目は、普段私は周りの目を気にして生きているからドキッとさせられた。知らないうちに発想が縮こまって損してたかもと思うと、今後はあまり周りの目を気にせず自分らしく生きていきたいと思った。2つ目は、成功する人は学ぶときにふるえるような興奮を感じ取っているよねと思った。何かで成功した人の話を聞くときよく感じるのは、この人はこれが本当に大好きで取り組んでいるんだなってことだ。私はスポーツではそういう経験をしたことがあるが、勉強においてはまだ中途半端なので、何か1つの分野で興奮しながら勉強したい笑
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人は同じ過ちを繰り返す。多くの命が失われてもなお、無くなることはない戦争。その愚かさを心に刻みながらも、その概念が人の記憶から消されることは無い。しかし、結果が同じ過ちであったとしても、その後が同じであるとは限らない。一度目の過ちは、過ちであるかもわからぬままに犯してしまう。しかし、二度目は過ちであると知りながら犯したのだ。己の信じる未来のために、希望と共に暮らすことができる世界のために。エリンはその選択をしてみせた。かつて災いを起こし、二度と同じことを起こさぬようにしてきたジェの意思は、既にあった小さな綻びを突いてみせたエリンの手によって崩された。しかし、そのエリンによって、かつて起きた災いの全てを人々の耳に届かせ、真に同じ過ちを繰り返さぬ世界が作られた。新たな世界は、一つの綻びさえ許されず、精巧でいて、堅牢であった。
人と獣。同じ世界で暮らしながらも、決して交わることのない、二種の生き物。互いの尊厳を、生活を、未来を守るために生きてきたエリン。それは苦しく、辛い道のりであった。そんな中で彼女は一際輝く幸せを胸に、これほどのことを成し遂げた。自らを産み、育ててくれた母。命を救われ、身体も心も恩人であるジョウン。知識を求める彼女を受け入れてくれた恩師と、そばで支えてくれた友人。そして、彼女が何よりも大切に思い、長く短い時を共に過ごしてきた夫と息子。多くの点が一本の線として繋がり、この物語は幕を閉じた。しかし彼女が繋いだ確かな線はまだまだ先へと伸びていく。それはジェシの手によって。さらに向こうの知られざる誰かの手によって。
この物語を最後まで見届けることができて良かった。もしかすると、遠い未来にも同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。しかしながらそんな未来は来ないと心から信じられる。それほどまでにエリンが残し、繋げたものは大きいものであり、人々の胸に深く刻まれた。 -
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苦しい。
思えばエリンの周りには敵が多かった。祖父から始まり、闘蛇衆や、霧の民、そして王獣規範など。全ての事の始まりは、彼女の芯から溢れ出る知識欲とそれに伴う行動力だった。「私も母のようになりたい」「蜂の生態について知りたい」「野生の王獣のように、リランを育てたい」その結果彼女はかつてない偉業を成し遂げてみせた。しかし、その術は禁忌であり、歴史上に留めておかねばならなかった。
人は武力を求め続ける。地位のため、名誉のため、誇りのため。自らとはかけ離れた生態を持つ王獣。その力を我がものとするために、獣としての本能をも縛ってみせた。エリンはそれが許せなかっただけ。人は知識を探求するものを淘汰し、今に変化をもたらさない。これまでも歴史をなぞり、ただ安寧を求める。
同じようなことは高山羽根子著「首里の馬」でも描かれた。自らのため、または他者のために知識を蓄えようとするものを、嘲笑い、非難する。その結果、求める者が追放され、目の届かぬ位置への移動を余儀なくされる。本作品が現代の日本と全く違う世界であることを念頭に置いた上で、どの世界でも人は同じことを繰り返す。私はエリンに対して何もしてあげられない。無力である。それでも彼女の選択を尊重し、彼女の人生を見守ることはできる。そうしたいと思わせるモノを彼女は多く持っている。
苦しいことが多い本巻ではあるが、心温まる描写も少なくない。ユーヤンとの間で育まれる友情は心温まるし、リランの初飛翔の場面には驚き共に溢れる成長の喜びや、世界の美しさに感動した。