上橋菜穂子のレビュー一覧
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ネタバレ一度は静まったはずの天炉のバッタ。
けれど物語は、まるで風が巻き戻るように、
再び羽音が空を覆うところから始まりました。
この巻があるということは、きっとまだ世界には揺らぎが残っている――
そんな予感を胸の奥で鳴らしながら、私はページを開きました。
バッタたちは、生き抜くために、より大きく、より強く変わっていた。
その変化を知ったアイシャは、御前会議で
「国中のオアレ稲を焼くべきだ」と進言します。
それを実行できるのは、皇帝か香君の言葉だけ。
オリエとマシュウは策をめぐらせ、
香君としての言葉が民に届く場を用意しようとします。
しかしその思いを察したイール・カシュガは、
オリエに毒を盛ると -
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ネタバレ「なにか呼んでいる、遥か遠いものを」
その帯を目にした瞬間、胸の奥で小さな気配が動きました。
――呼ばれてはならないものが、呼び出されてしまうのだ、と。
ミリアに攫われたアイシャたちが見た、
海辺で風に揺れるオアレ稲。
本来そこにあるはずのない生命の姿。
そして、〈絶対の下限〉を越えて育てられた稲が放つ、
「来て」と囁くような気配。
応じる生き物のいないその声は、
ひどく静かで、どこか不吉でした。
やがて見えてきた“救いの稲”という名。
政治のために掲げられた旗のようなその言葉の下、
遠い異郷からマシュウの父が戻る知らせが届きます。
そこで出会ったのは、マシュウに似た男と、
空気をざわめか -
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その壮大にして芳醇な世界観に、まさにこれが小説と評すべき一冊であろう。
例えば「東乎瑠(ツオル)」「飛鹿(ピユイカ)」などなど、この呼び方からして何処からその発想を得たのか、これほどの世界観を創り出せることに驚嘆の一言である。
著者の上橋菜穂子さんは文化人類学専攻で、アボリジニーの研究者とのことなので、そういった民族的な言語を活かし物語に深みを出しているのかなど、勝手な想像をしてしまう。
岩塩鉱で奴隷となっていた主人公ヴァンに対して、まるで意思があり、動物の如く襲来した「黒狼熱(ミツツアル)」という感染病に次々と人々が死にゆく姿は、まるで少し下火とはなったものの、今でも脅威でもあるコロ -
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ネタバレ「香君は、③と④は違うサブタイトルなのに、どうして①と②はどちらも『西から来た少女』なのだろう。」
そんな小さな疑問を胸に、私は本を手に取った。
読めばきっとわかるのだろうと、想いを馳せながらページをめくる。
物語は、オリエが本当の香君ではないことをアイシャが知る場面から始まる。
マシュウの計画、オアレ稲の秘密、香りを感じる力――
その一つひとつが、アイシャの出自の謎へと繋がっていく。
やがて彼女は、初代香君もまた西から来たのだと知り、
その血の流れと、自らの歩む道とが交差していることを悟る。
マシュウたちとともに、人々を飢えから救うために動き出したアイシャは、
祈願の鳩の占い師として、山 -
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ネタバレこの本を初めて手に取ったのは、まだ単行本で出版されたばかりの頃だった。
けれど、そのとき私は買わなかった。
当時の私は「本を買う」という行為に満足してしまっていて、
その先にある「読む喜び」を見失っていたからだ。
だからこそ、上橋菜穂子さんの本をそんな自分の手で扱うことが、
どこか申し訳なく思えたのだと思う。
あれから数年がたち、
もう一度「物語」に触れたいという想いが静かに胸に芽生えた。
そのとき自然と思い出したのが、この『香君』だった。
――物語の幕開けは、追われる少女の姿から始まる。
アイシャ。旧藩王の血筋を理由に命を狙われ、捕らえられた少女。
彼女を救ったのは、利用価値を見出した男 -
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兄にとってのベストオブ・ファンタジーが「2分間の冒険」なら私にとってのベストはこの本「狐笛のかなた」
繰り返し読んできたお気に入りの一冊だ。
世界観の描写が自然の細部まで繊細に表現され、呪いと憎しみが渦巻く物語なのに、出てくる風景はどこか柔らかく、美しい。
命を救われた時小夜の温かさを胸に、一途に小夜を見守り続けてきた野火と、その想いに触れ、野火を守りたい小夜。
見返りも求めずに、ただ小夜を守りたいと命をかける野火の姿に本当に切なくなる。
そして覚悟を決め、迷いが消えたの野火の端々に出てくる、小夜と居る時だけの年齢相応の表情や所作にキュンとくる。
誰しもにとって完璧なハッピーエンドではな -
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圧倒的に上質なファンタジーを読んだ、読ませていただきました。最高...。
生きること、生かすこと、病の不条理、生命の神秘を、ときに国と国、民族と民族の対立や共生として壮大に、ときに細胞一つひとつの働きとして緻密に描いた物語。
4巻目の解説にもあるが、本書の1番の魅力は、ファンタジーといっても根本的解決の手段を魔法や超常現象に頼らない点。人々や動物が懸命に生きようともがく姿が、または上橋さんが丁寧に描き出す湿った草木の匂いや、部屋に差し込む光の淡い色などの風景が、何か現実世界の延長のような感覚で自身を異世界に投影してくれる。
生きることだけでなく、死ぬこともまた、生き物の身体には、その生のは -
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