上橋菜穂子のレビュー一覧
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ネタバレ元が児童書だと思えない大人でも楽しめる呪いに纏わる少女「小夜」が生まれゆえに巻き込まれた人生劇。12歳の時犬に追われる子狐を助けたことにより運命が変わり始めるその子狐はこの世と神の世のあわいに棲む霊狐「野火」だったそうしてお屋敷に閉じ込められている少年小春丸との交流。果たして小夜はどのような結末を迎えるか。自分の出自を知り小春丸を助けたいと思った小夜。だけど敵組織に使役されている小夜に惚れている野火がいてという恋愛模様だがあらすじを全く読んでいなかったためてっきり小春丸とくっつくと思っていたら最初から結ばれぬ恋見ているだけでいいと言っていた野火が大活躍を繰り広げ自分の命がどうなってもいいと野火は小夜を守り通し最終的に小夜が人間をやめ人外となり異種族婚の話として終わる。呪術と政敵争いの政治や少女の淡い恋や野火による異種族からの恋心だが敵通しであったというみんなが好きな物詰め合わせセットで最終的に綺麗によく終わらせられたなと感心するレベルでありこの大がかりなテーマを上手くまとめたこの物語に賞賛を送りたい。そうして児童書の賞を当時見事に取っているからみんな楽しんでいる物を私も楽しめた喜びがある
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ネタバレ一度は静まったはずの天炉のバッタ。
けれど物語は、まるで風が巻き戻るように、
再び羽音が空を覆うところから始まりました。
この巻があるということは、きっとまだ世界には揺らぎが残っている――
そんな予感を胸の奥で鳴らしながら、私はページを開きました。
バッタたちは、生き抜くために、より大きく、より強く変わっていた。
その変化を知ったアイシャは、御前会議で
「国中のオアレ稲を焼くべきだ」と進言します。
それを実行できるのは、皇帝か香君の言葉だけ。
オリエとマシュウは策をめぐらせ、
香君としての言葉が民に届く場を用意しようとします。
しかしその思いを察したイール・カシュガは、
オリエに毒を盛るという残酷な手を選びました。
満身創痍の体で、それでもオリエは香君として、
国の民が自ら選び取るための場をつくろうとします。
けれど、その道半ばで倒れてしまう――。
オリエの意志を継いだアイシャは、
香りで見通す力を示しながら、
香君としての言葉を人々の心へ送り届けます。
はじめは拒んでいた民も、やがてその香りで見通す力を目の前にし、
“決断には、自分たちが向き合わなければならないものがある”
と気づいていく。
そして、皇帝オードセンは覚悟を定め、
オアレ稲の焼却が行われました。
天炉のバッタの脅威は、再び燃え尽きてゆきます。
――物語の中で、私の心に深く残ったのは、
オリエがアイシャに告げたこの言葉でした。
「生き物はどんな存在に生まれるのか選ぶことはできない。
望む力を持って生まれてくるわけでもない。
それでも、それぞれが己の持つ力を活かし、
あるときは他者を助け、あるときは他者を害して生きていく。」
香君の力を持たず、けれど香君として生きてきたオリエだからこそ、
この言葉には静かな重みが宿っているように感じます。
苦しみを知り、役割の痛みを知り、
それでも前に進もうとしてきた人の声。
私は、自分のことを「平均的な人間」と思っています。
特別に秀でたものがあるわけではなく、
時に誰かを傷つけてしまう自分に
胸がきゅっとなることもあります。
でも――オリエの言葉は、
そんな自分をそっと包み込むように感じられました。
「それでも、生き物は生きていくのだ」と。
ありのままの力で、ありのままの役割を担いながら。
この物語を閉じたあと、
私の胸には小さな灯のような願いが残りました。
自分の持つ力を、静かに活かしていきたい。
与えられた役割を、自分なりに全うしていきたい。
そう思わせてくれる一冊でした。 -
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ネタバレ「なにか呼んでいる、遥か遠いものを」
その帯を目にした瞬間、胸の奥で小さな気配が動きました。
――呼ばれてはならないものが、呼び出されてしまうのだ、と。
ミリアに攫われたアイシャたちが見た、
海辺で風に揺れるオアレ稲。
本来そこにあるはずのない生命の姿。
そして、〈絶対の下限〉を越えて育てられた稲が放つ、
「来て」と囁くような気配。
応じる生き物のいないその声は、
ひどく静かで、どこか不吉でした。
やがて見えてきた“救いの稲”という名。
政治のために掲げられた旗のようなその言葉の下、
遠い異郷からマシュウの父が戻る知らせが届きます。
そこで出会ったのは、マシュウに似た男と、
空気をざわめかせるほどのバッタの群れでした。
その瞬間、私は自分の大きな勘違いに気づきました。
ずっと“虫害”は“蝗害”のことだと思い込んでいたのです。
オオヨマがそのままバッタなのだと、
何の疑いもなく読み進めていました。
けれど、マシュウの父とバッタの描写が現れたとき、
胸の内を冷たい風が抜けていきました。
――今まで描かれていたのは、あくまで“虫害”だったのだ、と。
別の作品で蝗害の恐ろしさを読んだ記憶があり、
大地を飲みこむような、雲のようなその気配を思い出すと、
物語がこれからあの惨禍へ向かうのだと想像して、
背筋がすっと冷えました。
実際の描写は悲惨さをあまり帯びていませんでしたが、
“鈍い雲”のように現れる天炉のバッタの群れを思うだけで、
心がわずかに凍りつくようでした。
オオヨマを食べて増え、産み落とされた若虫が
次のオアレ稲へと飛んでいく。
その繰り返しの中で広がっていく気配を前に、
自分ならきっと無力感に押しつぶされてしまう――
そんな想いも、静かに胸に落ちました。
それでも、広がりがなんとか抑えられたとき、
深いところからふっと息が抜けるような安堵がありました。
そして今、最終巻へ向かう道の先で思います。
バッタよりも大きなものが現れるのか、
それとも物語は異郷へ向かうのか。
その行方を思うだけで、
まだ見ぬ遠い景色が、そっと呼んでいるようです。 -
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ネタバレ「香君は、③と④は違うサブタイトルなのに、どうして①と②は『西から来た少女』なのだろう。」
そんな小さな疑問を胸に、私は本を手に取った。
読めばきっとわかるのだろうと、想いを馳せながらページをめくる。
物語は、オリエが本当の香君ではないことをアイシャが知る場面から始まる。
マシュウの計画、オアレ稲の秘密、香りを感じる力――
その一つひとつが、アイシャの出自の謎へと繋がっていく。
やがて彼女は、初代香君もまた西から来たのだと知り、
その血の流れと、自らの歩む道とが交差していることを悟る。
マシュウたちとともに、人々を飢えから救うために動き出したアイシャは、
祈願の鳩の占い師として、山間の村をめぐり、麦や蕎麦を育てる手助けをする。
けれど、その隠し畑を偶然見つけてしまった同僚のオラムが攫われ、
アイシャは自分の行いを悔いて彼を追う。
そして、オゴダの暁に捕らわれた彼女の前に現れたミリアが見せた光景を残して、
物語は次巻へと託される。
読み終えたとき、最初の疑問の答えが胸に落ちた。
①の「西から来た少女」はアイシャを、
②のそれは、初代香君を示していたのだ。
二人、そしてマシュウに共通するのは、香りを感じ取る力。
彼らは同じルーツを持つのかもしれない――そう思った瞬間、胸の奥が震えた。
皇帝がウマールの帝都からではなく、大崩渓谷から来たという描写。
言葉や葬儀の文言に潜む共通点を手がかりに世界をつなぐ筆致は、
まさに上橋菜穂子さんらしい、世界の深呼吸のような描き方だと感じた。
なかでも心に残ったのは、オリエに促されて、
自分の感じていることを言葉にしていくアイシャの姿だった。
彼女は、難しい言葉ではなく、
自分と相手が分かり合えそうな言葉を選び、
そこに“感じること”の輪郭を描いていく。
私はここ数年、「感じる力」が少し弱まっていると感じていた。
心の奥のさざ波を、うまく言葉にできなくなっていたのかもしれない。
けれど、アイシャを見て思った。
感じることは、失われるものではなく、育てていくものなのだと。
音楽を聴いたとき、絵を見たとき、風に香りを感じたとき――
その小さな“気づき”を言葉にしていく練習をしてみたい。
それが、再び「感じる力」を取り戻す道になる気がする。
自分の中に眠る感覚を少しずつ呼び覚ましながら、
世界ともう一度、やさしくつながっていけたらいい。 -
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ネタバレこの本を初めて手に取ったのは、まだ単行本で出版されたばかりの頃だった。
けれど、そのとき私は買わなかった。
当時の私は「本を買う」という行為に満足してしまっていて、
その先にある「読む喜び」を見失っていたからだ。
だからこそ、上橋菜穂子さんの本をそんな自分の手で扱うことが、
どこか申し訳なく思えたのだと思う。
あれから数年がたち、
もう一度「物語」に触れたいという想いが静かに胸に芽生えた。
そのとき自然と思い出したのが、この『香君』だった。
――物語の幕開けは、追われる少女の姿から始まる。
アイシャ。旧藩王の血筋を理由に命を狙われ、捕らえられた少女。
彼女を救ったのは、利用価値を見出した男マシュウだった。
マシュウの親族を名乗り、庭園に身を寄せたアイシャは、
そこで現香君・オリエと出会う。
やがて心を許し、庭園での苦しみを打ち明け、
オリエと共に山荘で日々を過ごすことになる。
一方で、オアレ稲の問題が動き出す。
初代香君の思想を探るカシュガ家の姿が描かれ、
物語は少しずつ、香君という名の重さを浮かび上がらせていく。
その中で、心に深く残った言葉がある。
草木の植え替えをしたアイシャに向けて、オリエが言う。
「ここで暮らすことは、草木にとってだけでなく、あなたにも残酷なことね。」
その一言に、私は胸を打たれた。
「感じる力があるということは、苦しさとも共に生きること」――
そう思っていたアイシャに、
オリエはそっと「生きやすい場所を選んでもいい」と伝える。
その言葉の中に、柔らかな優しさと、生き方の自由が感じられた。
けれど同時に、私は思う。
その優しさは、オリエ自身が“香君”という重い立場から逃れ、
穏やかな時間を与えられていることと無縁ではないのではないか、と。
オリエはアイシャが本当の香君であると知っていたのか。
それとも、マシュウの面影を重ねていたのか。
時間が彼女たちの想いを引き継いでいるのかもしれない。
今の私は、オリエの優しさをただの「優しさ」として受け取れない。
どこかで疑い、ためらう自分がいる。
それはきっと、私自身が人の心を疑うことを覚えてしまったからだろう。
それでも、オリエの言葉が純粋な慈しみであることを信じたい。
その思いを胸に、
私は次の巻へと静かにページをめくっていこうと思う。 -
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兄にとってのベストオブ・ファンタジーが「2分間の冒険」なら私にとってのベストはこの本「狐笛のかなた」
繰り返し読んできたお気に入りの一冊だ。
世界観の描写が自然の細部まで繊細に表現され、呪いと憎しみが渦巻く物語なのに、出てくる風景はどこか柔らかく、美しい。
命を救われた時小夜の温かさを胸に、一途に小夜を見守り続けてきた野火と、その想いに触れ、野火を守りたい小夜。
見返りも求めずに、ただ小夜を守りたいと命をかける野火の姿に本当に切なくなる。
そして覚悟を決め、迷いが消えたの野火の端々に出てくる、小夜と居る時だけの年齢相応の表情や所作にキュンとくる。
誰しもにとって完璧なハッピーエンドではないが、「共に生きる」二人だけの道を見つけた野火と小夜が長く幸せに生きていければいいと思う。
愛し、慈しむことの美しさと切なさに溢れる、この本が大好きだ。