上橋菜穂子のレビュー一覧
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【あらすじ】
名著『鹿の王』に続くシリーズ第二作。黒狼熱(ミッツァル)に端を発する動乱が終息した後、オタワル深学院の天才・ホッサルは、清心教祭事医・真那(まな)の誘いを受け、清心教医術発祥の地である安房那(あわな)に赴く。領主の娘が患う奇病の治療法を求め、花部山地へと足を踏み入れたホッサルは、清心教医術の起源に触れる。かかるなか、次期皇帝の選定に纏わる陰謀が、彼とその伴侶であるミラルの関係にも変化を齎すことになりーー。
【短評】
前作『鹿の王』の記憶が色褪せないうちに次作に挑戦である。私が前作を読んで気になっていたのは「ヴァンとユナのその後」と「オタワル医術と清心教医術の和合」であったため、後者を主たるテーマに据えた本作は非常に興味深く読ませて貰った。
体だけを救えば良いのか。魂だけを救えば良いのか。本作で呈示される問いは、現代医学にも通ずるところがあり、私個人の見解として、その答えは未だ呈示されていない。詰まることろ、医療とは何のために存在しているのか、である。
前作では、劣後した概念といった印象の強かった清心教医術の在り方が示されていて良かった。「安らかな死」を希求することは悪いことなのだろうか。私はそれもまた重要な要素だと思うのだ。ホッサルを応援しつつも、考えてしまう自分が常に居た。
遠い異世界のお話ではあるのだが、非常に身近な問いとして受け取ることが出来た。
恋愛物としても良く出来ていると思う。ホッサルとミラルの身分違いの恋が遠からず破綻を来すことは、前作でも予見されていたが、本作では一旦脇に置いていた「現実」が否応無く突き付けられる。何かお似合いっぽい人たちが双方の前に現れたりして、どうなってしまうのだろうとヤキモキさせられた。
甘味を好む私としては、ここで訳知り顔で簡単に身を引くような展開は望まなかったが、なかなか良い感じで着地してくれて良かった。希望があるって良いね。
専門用語や人名の難解さだったり、とっつきにくい所もあるのだが、気がつくとのめり込んで読み進めている。それをして、多分「面白い」というのだろう。瑕疵無く、満点評価とさせて頂いた。
【気に入った点】
●前作でも感じたが、本シリーズはテーマが非常に明瞭。科学としての医術の体現者であるホッサルが、倫理としての医学である清心教医術に対峙する構造が良かった。どちらが正しいという回答の無い問いに対し、妙に変節したり、納得したりすることなく、己が道を信じるホッサルの強さが爽快だった。時に意固地になりそうなところに、そっと寄り添うミラルという構図も良いではないか。
●今作でも彩り豊かに様々な風土を描いている。緑に溢れ、鳥の鳴き声が響く美しい安房那の景色も、原始的牧歌的な花部の景色も活き活きとしていて、存分に旅をした気分にさせてくれる。作者の頭のなかに、一つの世界がきちんと成立している凄味を感じさせる。
【気になった点】
●特に無し。全編通じてすっと頭に入ってきた。
やっぱり続きが読みたい。ヴァンとユナはどうなったのか、気になるのである。
上橋先生には是非とも続きを描いて頂きたい。五体投地して待っております。 -
Posted by ブクログ
ネタバレオタワルの天才医師・ホッサルは、祭司医・真那に誘われた安房那にミラルと共に訪れる。東乎瑠帝国の次代皇帝の座を巡る政争に根深く絡むオタワル医術と清心教医術の確執。異国の地でホッサルが遭遇する事件とは…。「鹿の王」の続編。
ホッサル推しへの供給本。
これはまさにホッサルファンブックです、本当にありがとうございます。「鹿の王」の続編で、ヴァンとユナのその後ではなく、ホッサルとミラルのその後を描いてくれて本当に嬉しかった。冒頭のミラルと真那の親密そうな様子に嫉妬して拗ねるホッサルに、にやにやが止まらなかった。それをまた母のように見守るマコウカンもまた良し。ああ、本当に供給過多。感謝の意で溺れそう。
いつもレビューは、意図的に段落を分けて、良いことも悪いことも様々な内容を書こうと思っているのだが、思い浮かぶのはホッサルの小話ばかり。むしろ、この段落の内容でレビューそのものが埋め尽くされてしまう程に、心に残ったホッサルのシーンしか語りたいことがない。脳内は、ホッサルの写真集状態。
とはいえ、さすがの世界観。
ファンタジー世界の中での医療を見事に描ききっている。今回は、そこに白い巨塔もかくやという医療抗争も加わって、より深みのある構造となっている。地名、人名、決してシンプルでないのに、全く置いていかれない。どことは特定できないが、随所に細やかな配慮があるのだろう。「鹿の王」より、気持ちルビが多いかも。
ホッサルとミラルの結婚式くらいまでやるかと思った。
それは期待しすぎか。ミラルが乎来那学堂に進んだという。本当に芯の強いしっかりした女性だ。ホッサルによりかかることなく、我が道を邁進し続ける。二人のゴールインをちゃんと見届けたかったが、ほのめかしはあったので、あとはホッサルの決心に期待だ。がんばれホッサル。 -
Posted by ブクログ
ネタバレおもしろすぎて3日で全巻読破した!
神郷オアレマヅラが謎に包まれたまま終わってしまい、まあそうだよね〜と思いつつ、同じ世界線ではなく異世界の扉が開かれて、香君やオアレ稲はもたらされたのではないか…と妄想が止まらない。
香りから自然の摂理を色々知れるのも面白いし、政治的な側面も読み応えがある。
そして一つのことに依存する恐ろしさも改めて感じた。
人間が自分たちの力で道を切り拓いていく大切さも。
そして何より登場人物がみんな良い。
それぞれの思惑があって対立することがあっても、どちらか一方が悪者には見えない。
それぞれの信念が理解できる。
アイシャ、オリエ、マシュウにもまた会いたい。 -
Posted by ブクログ
名作『鹿の王』の後日譚。
ただし、ヴァンとユナはいっさい登場しない。『鹿の王』のもう一人の主人公のような立ち位置のホッサルの物語であり、わたしにとっては気になる存在だったミラルの物語だ。
とにかくミラルがかっこいい。今回は、少し情けないホッサルとの対比も鮮やかで、ミラルの魅力が全面に出ている。むしろ、本作の主役はミラルと言ってもいいかもそれない。
副題の「水底の橋」も秀逸。『鹿の王』は、そのいわれを作品中で語られ、作品の内容をストレートに表現していたけど、これと比べると「水底の橋」は少しわかりづらいかも?
水底の橋とは、今でも高知辺りでよく見かける沈下橋のこと。大水に流されない頑丈な橋……ではなく、言ってみれば大水を「やり過ごす」ことで被害を最小限にとどめようという知恵から生まれた橋だ。作品自体は災害の話ではない。それでも、この副題の意味するところを考えると、作者の考えの深さに思わずうなる。
ヴァンとユナの後日譚も知りたい!
けれど、この作品を読むことができて良かった。 -
Posted by ブクログ
久しぶりにファンタジーでも読むかと思い、上巻を購入したのが15年くらい前。そのまま本棚に突っ込んでいたのを、急に読もうかという気になって引っ張り出して来ましたが、この年でいまさらファンタジーというのもあれかなと思いましたが、面白かったです。
まず章立てがちょうどいい長さにまとめられていて、入浴中に読むとちょうどアニメ1話分くらいの読後感で、読みやすかったです。またファンタジーとはいえ、いろんな要素が現実世界のリアリティラインから外さず、その辺も読みやすさの一因なのかなと思いました。
闘蛇と王獣、真王と大公の関係が、ちょうど日本とアメリカ、または国内の天皇制、核の問題などが読み取れて、その辺はちょっと大人向きを感じる要素かなと思いました。
ただ、あとがきを読んでみると、王獣編までをわずか3か月で書ききったとのことで、そういう要素を織り込もうとして織り込んだわけでなく、手近にあるテーマを引っ張ってきたらたまたまそうなったのかなという印象でした。
エリン中心に物語を引っ張っていくので分かりやすいのですが、ジョウンやユーヤン、イアルなどがあっさり退場していったのがちょっと物足りなかったかなと思いました。続刊で、その辺が深堀されることを期待してもいいのでしょうか?