森沢明夫のレビュー一覧
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仕事もお金も居場所も失った主人公のエミリが、15年ぶりに再会した祖父との暮らしを通して心の再生をしていく物語。
エミリと大三おじいちゃんが自然と距離を縮めていく姿がとても素敵でした。口数は少ないけど大きな愛を持ったおじいちゃんは広い海のような人。おじいちゃん自身の経験から紡ぎ出された「自分の存在価値と人生の価値は他人に判断させてはダメ」、「自分自身を自由に動かせるのは、唯一、自分だけ」という言葉は、心に響きました。
森沢明夫さんの作品は初めて読みましたが、海辺の田舎の情景や登場人物の心情が丁寧に描かれてていて、物語の世界に没入してしまいました。別の作品も読んでみたいです。
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幼稚園教諭の夏美と、写真家志望の大学生慎吾。
恋人同士の二人がツーリング途中で立ち寄った山奥の懐かしい造りの店「たけ屋」には、”ヤスばあちゃん" "地蔵さん”と呼ばれる母子が、ひっそりと暮らしていました。
夏休み、慎吾の卒業制作を撮るために二人は「たけ屋」の離れに泊まり込み、村人たちと親交を深めていきます。
川で見る無数の蛍の幻想的な美しさに圧倒されて、次々とシャッターを切る慎吾。
地蔵さんが教えてくれた川遊びのシーンが清らかで美しく、心に残ります。
物語中に何度も出てくる風鈴の鳴る音に、「凛」という文字が使われていました。
凛、凛……。
まるで本の間からほんとうに聞 -
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タイトル通り、一冊の本がつなぐ五つの物語。
誰一人決定的な悪人はいないのになぜか上手くいかない人達(最近このパターン多い気が、、、)が一冊の本と巡り合い、関わりあった事で人生に前向きに向き合っていきます。唯一感じが悪いのは主人公の一人、作家の涼元先生ですが、彼も心を入れ替えたのか、作品を書き上げた三話目からは余裕のあるイケおじに変貌します。彼が書いた「さよならドグマ」についてはあらすじもほとんど紹介されず、一部をチラ見せする程度なのですが、きっと本編と同じようにハートフルな物語なんでしょう。でももうちょっと良いタイトルなかったのかなぁ。
冷静に見ると、筆を折りかけた作家とダメ編集者、書店員とお -
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読みはじめ、いきなりガクッと来ます。
頑張って書いたのであろう文章がなんとも空々しい。なにせ直前に読んだのが名文家-松家仁之の『沈むフランシス』ですからね、比較しちゃうと歯が立たない。
もっとも森沢さんの持ち味は、そんなところじゃ無いですからね。相変わらずやり過ぎレベルの「いい話」にページをめくる手がどんどん止まらなくなります。
キャラの濃い5人の大学生の物語。ちょっと意外だったのは、誰にでも愛されるまっすぐで可愛い女の子ではなく、少し口の悪くて派手めの女の子がヒロインだったこと。
とはいえ、いつも通りの、読んでいてかなり照れるほどの森沢節でした。 -
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「幽寂とした闇」
森沢明夫さんのこんな表現を待っていた。
この小説のベースに鳴り響いているのは
種田山頭火の言葉
「風鈴の鳴るさへ死のしのびよる」
森沢さんの凛とも洋子の死とも重なる。
「うれしいこともかなしいことも草しげる」
森沢さんの言う通り、一人旅も、人生も、二つの側面を持つ。淋しいと言えば淋しくなるし、自由だと言えば自由になれる。どちらの側面も真実であり、どちらに寄り添うかで気持ちが変わる。いずれにしても痛みは伴う。
倉島英二は、妻からの二通目の手紙を受け取って、本当の一歩めを踏み出せると思う。
残りの時間を、妻への感謝を胸に大切にしていくだろう。
でも、やっぱり淋しいよな。
夕方 -
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私は『おいしくて泣くとき』を先に読んでからの本作でした。読み進めるうちに「高梨?」「龍浦漁港?」と『おいしくて〜』を思い出すワードが次々と…。『おいしくて〜』で夕花たちが雨宿りしていた時に響いたカン、カンという音は、エミリのじいちゃんが風鈴を作っていた音なんですね。お互い気付いてはいないけど、あの時、あの場所で2つの物語が同時に流れていたと思うと、なんだか糾える縄の如しというか(ちと違うか 笑)、不思議な気持ちになりました。そういえば、リアルでもそうですよね。自分が気付いていないだけで、人の数だけその人の生活が、同時に流れているんですよね。本作を越えたところにある伏線を楽しめた作品でした。次に