井上荒野のレビュー一覧
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著者初のエッセイ集。
最初の荒野さんのご家庭は一家に小説家が二人いるご家族ですが、お父様の決まり文句は「うちでは文学の話なんか一切しませんよ」だったそうですが、それでも、そういうご家庭ならではのお話もあり大変面白かったです。
荒野さんが書けなかったときに、お父様に薦められた小説だというトルーマン・カポーティの『夜の樹』は私も積んでいるのでそのうち読みたいと思いました。
直木賞受賞作の『切羽へ』の「切羽」というのが妹さんの名前でもあったというのは初耳でした。
「日本女性の美しさ」が依頼されたテーマだったエッセイに、お母様のことを書かれたのは、読んでいて大変頷ける話だと思いました。
そして後半は入籍後のご家族のお話が中心で、ご主人は荒野さんより10歳年上で、お子さんはいないそうです。
荒野さんの人生に必要な三つのものが、
1男
2健康な胃袋
3物語(あえて本ではなく物語だそうです)
というのは、荒野さんの作品や、このエッセイにも反映されていると思いました。
香水は敷居が高くてつけられないとか、きらいなことばとか、「迷っているなら捨てるべし」など、荒野さんの美意識や信条に関する話。
妹さんの出産の話。
猫のことにはかなりページ数がさかれていて、かなりの猫好きであられるのはよくわかりました。
食べ物の話はタイトルが『夢の中の魚屋の地図』ですが魚系の話が多く、ご主人が手作りのドーナツを揚げてくれる話は「うらやましい!」と思いました。他にもアイリッシュシチューやロシアのコロッケなどや、ごく普通の玉子料理やお味噌汁でさえもの凄く美味しそうに見えました。食べたり作ったりされるのがお好きなんですね。
毎週1回1360字を埋める話を考えるのはなかなか難行だったとおっしゃっておられますが、小説家の日常を読むのは面白くて、さくさくあっという間の読書でした。 -
Posted by ブクログ
「アモーレ」という目黒にある小さなリストランテ。
そこのシェフである杏二と偲の姉弟。
女たらしの杏二目当てにやってくる客たち。
本日のメニュー1から11まで美味しそうな料理と客たちのおりなすお喋り。
沙世ちゃんという、杏二に積極的にアピールをしながら、会社の上司や同僚の男性を連れてくるちょっとわがままな子。
いつも、一人できて、杏二に話しかけられるのを待っている初子ちゃんというおとなしい子。
偲が想っているのが、公然の秘密となっている杏二の元先輩シェフの松崎さん。
姉弟の母親は亡くなっていますが、時々現れる二人の父親。
後に松崎さんと婚約したリコという陽気な青山のセレクトショップで働く女性も訪れるようになります。
あと、お客ではありませんが、杏二と時々電話で逢引きをする謎の女性M。
出てくる女性の性格が様々で、杏二の女たらしぶりも、それぞれに応じて対応しているのでそれほど非人情には思えません。愛すべき女たらしというところでしょうか。
情の深い偲が松崎さんの結婚式に呼ばれるつもりになっていて、パーティに着ていく高価なドレスを選ぶところはちょっと泣けます。
本日のメニューが変わるたびに、語り手が変わるのですが、リコのパートは結構口が悪く、驚きでした。
以下ネタバレですが、
P189ではやっぱりストーリーはなるようになるのだという展開になり、快哉を叫びたくなりました。
最後には謎の女性Mの素性も判明します。
さらっとよめるコース料理のあとのデザートのソルベかムースのような口どけのお話だと思いました。 -
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第139回直木賞受賞作。
離島の小学校の養護教諭の麻生セイ31歳がみた、1年間の島の様々な人間模様。
セイは島の診療所の医者だった父の娘で、一度は東京に出たこともありますが、今は両親は亡くなって、画家である幼ななじみの三歳年上の夫の陽介と二人で暮らしています。
島で一つきりの学校である小学校に勤めています。
同僚の教師月江は、生まれも育ちも東京ですが、五年前から島にいます。月江は独身ですが、妻のある愛人が本土にいて、本土さんと呼ばれるその人は時々、島に月江に会いにやってきます。そのロマンスは島民、全部が知っています。
小学校の生徒は9人で、教師は他に校長先生と教頭先生だけです。
そこへ、新任の音楽教師、石和聡が赴任してきて、セイも心がざわついてきます。
90才の島の老嬢、しずかさんにはセイの心の内を見透かされたようなことを言われて落ち着きません。
小さな島の何事もない日常だけれど、石和が現れて少しずつ変化していく様子が描かれていきます。
島ののんびりとした空気、小学校の生徒たちが石和のピアノに合わせて歌っている場面など情景が鮮やかに浮かんできました。
しずかや、夫の陽介も存在感があり淡々とした一連の出来事もはっきりとその空気感がみえてくるようなしみじみとした作品でした。
大きな事件もありませんが、平易な文章で情感がありました。 -
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今までに読んだ、井上荒野さんの作品とはガラッと違った雰囲気の、カラッとした明るい作品です。
タイトル通り淡々とした75歳の宇陀川静子の日常が、日毎の季節を拾いながら、スケッチのように描かれています。
静子は夫の十三に先立たれて、息子の愛一郎、嫁の薫子、孫の高校一年生のるかの四人家族です。
週に2回フィットネスクラブのスイミングスクールに通っています。
そこでの、人間関係は、孤立して仲間がいないわけではありませんが、皆とくっついて噂話に、乗っていったりは、決してしません。
家庭では、息子の浮気をかぎつけて、嫁との仲を修復するために、パソコンを習いに行き、こっそり作戦を立てたりします。(ここは、ユーモアが垣間見られる面白い場面です)
そして、夫の生前は夫の小さな浮気を許しつつ、自身もひそかに想っていた人がいました。
夫が亡くなってけじめがついてから、会いに行きますが…。
75歳をしっかり生きて自分というものを持っている、静子のような生きかたは理想的で、憧れました。 -
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お得意の不倫ものだけれど、今回はちょっと趣向が違った。
主役は不倫をしている男女それぞれの子供、駿と夏。
大人が秘密の時間を持つ間一緒に過ごした二人。
ほんの小さな子供だった二人は人生の時折ふと交わる。
それは愛なんかじゃない、情でもない。
共犯者に近いと思う。
そんな二人の関係性が妙にリアルだった。
親のしていたことが何だったのか理解する年頃になっても、親を責めたり反抗したりしない二人の姿が痛々しかった。
どうしようもない親をじっと見てきた二人は、どうしようもない大人になる。
人生の道々で時折交わる二人は因縁から抜け出せないようにも見えるし、それが必然のようにも思える。
いい人ばかり出てくる小説はどうも好きになれない。
空々しくて。
むしろこの作品のように欠陥を抱えているけれどなんだか憎めない人達にどうしても共感してしまう。
よくよく考えてみるとまともな人が誰一人出てこない。
それぞれの親も、恋人も、その子供たちも。
だめな人間だからこそ愛おしいんだと思う。
井上さんの作品は好き嫌いが分かれそうであまり勧められないが、この小説はよかった。お勧めできるかも。
独特のざらざらした感覚を残しつつ、サラッと読める。
そして何といっても最後の最後が切なくて。
余韻がじわーっと残る作品だった。 -
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この物語は嫌いと答えるひとのが多いと思う。けど、わたしは始めから吸い込まれ、終わった時には好きだなって思った。
なにもかもがスッキリしない物語。曖昧な。肝心な描写を避けていて、で、結局どうなったの? の連鎖的な。5歳のときに駿は母親に連れられ線路を超えた先にある夏の家を度々訪れることになる。駿の母は夏の父に猛烈に恋をしていた。夏の母は他界しており、駿の父は外科医だった。
それから場面は小学生中学年になり、夏はすでに不良と呼ばれ大学生の彼氏がいた。駿はガリ勉的な子。
さらに中学年になり、高校、大学、結婚…と進んで行くのだけど、どうもすべてが釈然としないのだ。それが嫌な感じではなく妙な心地よさがあるからまた厄介で。断言的なことがない。
たとえば夏が小学生のときから付き合っていて、愛し合う行為をしていた相手の大学生との別れまでの詳細とか、処女喪失を捧げ愛しくてしかたなかった千秋に他ならぬ駿とセックスをしたと嘘を吐いてわざと恨まれるような別れ方をしたくせに、偶然、や、必然かもしれない再開時に婚約者を棄てて千秋にアプローチしたところ、そこから場面は一気に飛び結婚までこぎつけたその空白。さらには結婚生活を飛ばして娘がいてさらには千秋には他の女がいること、とか。
その微妙に曖昧で、けど計算しつくされた完璧な曖昧加減が実にわたし好み。
駿と夏の決して愛ではない、むしろ怯むくらいの繋がりが物悲しかったな。