新田次郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
2026.01.06記
有名な上杉謙信(まだ長尾景虎だが)の登場。三国同盟。剃髪して晴信から信玄へ。桶狭間の戦い、川中島の戦い。武田信繁の死。長男、裏切りの下準備。
武田信玄ファンであれば、こうしたバラバラとした事件は耳にしたことがあるだろうが、どこがどう時系列と原因・結果で繋がっていくという感じが、とても心地よかった。
また、実際には長尾景虎が登場していないにも関わらず、山本勘助からのセリフから推測させる長尾景虎の頭の良さと、信玄との違いを感じさせる記述が上手い。
全く異なる場所で活躍していた信長との接点を、山本勘助を使って描き出す表現力。
歴史書ではなく、あくまでも小説であるということを活かした大胆な展開には、小説家、新田次郎氏の筆がノリにノッている感じを与える。
有名な「川中島の戦い」では、川中島の戦い前夜としてのキーワード「霧」をいかに掴むか?に、その文才は発揮された。
その一方で「川中島の戦い」そのものは、意外なほどあっさりとしており、有名なキツツキ戦法など、もっと詳しく書かれるかと思っていれば、そうではなかった。
個人的には謙信が信玄に斬りかかり、信玄が軍配でそれを受け止めるシーンを期待していたが、あまりにあっさりしていたため 読み飛ばしてしまったのかと疑い読み、返したほどだ。
しかしながら、小説『天と地と』にて、海音寺潮五郎氏が、ほとんど川中島の戦いに焦点を当てて、詳しく書いているため、あえて自分がわざわざ書く必要もないと、このようにとらえたのかもしれない。
そして、その筆力を、むしろ「戦後処理の義信との確執」に移していくところが、とても見事であると思った。
個人的には、武田信繁が好きだったため、お館様の長男を守るために犠牲になっていく姿には、涙を禁じえなかった。
信玄のその悲しみと、長男の身勝手ぶりが、徐々に読者に入ってくるようだった。
いつの間にか自分が武田信玄のような気持ちになって、父として息子を可愛がりたい気持ちと、主君として規律を乱さず、正しくあらねばならないという葛藤の気持ちを、小説を読みながら共に味わうことができた。
ストーリー展開は知っているはずではあるのに改めて、その一つ一つの事件の彩りの展開に、著者新田次郎氏への深い感嘆と感謝を感じる。
日本人の誇るべき素晴らしい小説であると言えよう。 -
Posted by ブクログ
2026.01.05記
これを読まずして武田信玄は語れない。
武田信玄の理解の傑作!
武田信玄の生涯は大きく分けることができる。
①父、信虎を追い出し、砥石崩れまで。
②山本勘助の活躍する川中島の戦い。
③長男、義信の裏切りと後継者勝頼まで。
④病気を押して戦をする三方原の戦い。
この絶妙な流れを風林火山として四冊にまとめ上げ、天才的文章で、今まさに同時代に生きているかのような錯覚に陥らせるほどの内容となっている。
小説家井上靖氏も、 武田信玄を書くことに試みているが、どうもそちらは単なる恋物語にしていて、歴史的深みのような重みを 感じさせなかった。
新田次郎氏は、まさしく、この『武田信玄』を書くためだけに生まれ、そのために死していったのではないかというほど、生涯を掛けた魂の結晶化したものに感じさせる。
個人的には「あとがき」での著者の感想がとても面白かった。
小説に出した登場人物の子孫から、批判を浴びたり、もっといいようにかけと言われたりもしていた。
「もし、武田信玄が生き残っていたらどうなったか?というようなものを書いて欲しい」など、めちゃくちゃな要求もされていたようだ。
初めのうちは、人物名、地名なのに読めないというところが多いかもしれない。
その場合、今一つ没入感のようなものが得られないが、配下の名前や地名の場所などが認識できてくると、徐々にタイムスリップしたような感覚になる。
読み終えた後の聖地巡礼は、とても感慨深いものになった。
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Posted by ブクログ
宮城の裕福な家庭に生まれながら、家庭の事情で不遇な生活を送ることとなり、一念発起して渡米した安田恭輔。北極警備の船員として生活の糧を得るが、人種差別にあい、遭難しかけた船から追い出されるように救助に向かう。奇跡的に救助は成功するが、船には戻らず、現地のエスキモーと生活することを選択する。その後は、エスキモーの1人として、頑なに部族に貢献し、絶滅しかけた一族を内部へ移住させることに成功し、エスキモーのモーゼと称される。日本人でこれほど現地に影響を与えた人はいないと思えるほどだが、ほとんど知られていないのは残念。旅行記というには重たい物語だが、カナダや北極圏に旅したくなる一冊。
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Posted by ブクログ
ネタバレ西上の夢を追いかける信玄の最期を見届けていたら、涙が止まらなくなってしまった。いつのまにか私も信玄公の虜になっていたようだ。
信玄があと10年早く武田家の長になっていたら、どんな歴史になっていたんだろうって思いを巡らざるを得ないなぁ。
家康陣営があれほど怯える騎馬隊も、張り巡らされた策略も、敵を感嘆させるほどの隊列も、すべて西上のため。信長からしたらマジか、あっぶねー...セーフ...って感じだろうけど、やっぱり真正面から戦ってほしかった気持ちはある。
これ以降衰退の一途を辿る勝頼時代を見届けるのはあまりに辛すぎたので、正直ここで終わってくれて助かりました。記憶に残る本だった!読んでよかった! -
Posted by ブクログ
映画に感化されて八甲田山観光、その前に予習。
よかった!おそろしかった!
映画を見ているので、雪地獄がビジュアルで浮かぶ。
映画と違い、徳島隊が三本木にたどり着くまでの過酷な道のりを示し、神田隊が来ていないことを知りぞっとする。そして死へ行進が幕を開ける…素晴らしい構成で、青森隊出立からは最後まで止まらない勢い。
1番のハイライトはさわの道案内。吹雪にもかかわらず、ワクワクするような爽やかで明るい行軍となった。
日露戦争に向けた、当時の空気をひしひしと感じる。たかだか数十年前に誕生し、急速に力を持った支配階級・軍人を、市井の人々はどう見ていたのか。
最後の立川中将の「軍兵増強と知名度を勝ち得た五連隊の勝ち」判定には甚だ遺憾ではあるが、「両方が勝つ戦争というのはがあるのですか」は日露戦争を思わせて興味深い。日本は勝ったが得るものがなく、好戦の道へ突き進んだ。ロシアは負けたが、この戦争はむしろ革命を後押ししたかもしれない。
最もこれだけの犠牲を出して雪山の恐ろしさを知り、せっかく生存した頑健で有能な将兵たちを失なってまで臨んだのだから勝てないと報われなかったが…
映画ならではのドラマチックな脚色も良かったと振り返って思う。
筆者の思惑通り健さんを通した『徳島大尉』は極限まで美化され、第三十一連隊ここにありと八甲田踏破をアピール。小難しくなる銃の話など後日談はカット。可哀想だけど案内人の受難もカット。神田大尉は若く立場の弱さを強調し、顔を観るだけで苦味がするような三國の山田大佐とキャラクターの凹凸をはっきり。田茂木野での、遺体となった神田大尉との再会。厳冬の雪地獄の合間に、幻覚として美しく優しい秋までの八甲田をはさむ。
というか1世紀前にはこんな過酷な行軍をやってのける軍隊という組織があったなんて。現代、同じような環境に置かれてどれだけの人がチーム行動を保てるのか…?無謀と盲信ではあるけれど、軍という不思議な強制力と信頼を生む組織への興味が湧く。 -
Posted by ブクログ
小説を本格的に書き出したのは39歳。それから現在(63歳)までの、個々の作品執筆をめぐる自伝。昼間は藤原寛人として気象庁に勤務し、夜は新田次郎として小説を書く。二足の草鞋。
小説を書くのがおもしろくてたまらない。それなりにお金も入る。しかし、賞をとるごとに、職場でのまわりの目が気になる。焦燥や苛立ちや怒りも描かれている。でも、実務的な仕事をしていなければ、あのような作品群(とくに山岳や気象の関係する作品)は書けなかった、と私は思う。しかも退職時には、富士山頂に気象レーダーを設置するという大仕事もなしとげた。二足の草鞋というよりは、車の両輪だったのかも。
文庫版の付録、妻・藤原ていが書いている新婚の頃のエピソードがおもしろい。ある朝広い露場で目撃したのは、白衣姿で風船を揚げている夫の姿。「まるで子供」。科学者だと思っていたのに。 -
Posted by ブクログ
読み応えたっぷり楽しめた。
三部からなる。
富士山への気象観測レーダー建設着信前の気象庁での話、建設途中での出来事、完成後の諸問題などとわかれる。
現場は山岳だが、内容は国家予算による一大プロジェクトを成し遂げた省庁でのお仕事ドラマだろうか。
仕事を受けたくでドロドロした対立関係になる会社は分割発注なのかシングルなのかで建設期間も限られた中での指示系統をも鑑みた、統括のとても難しい中での人間ドラマ。
現場監督のことば、建設に関わった者の名をプレートで残すことで、この仕事の真意は人の数、技術、金、ではなく人の気持ちだ、という最後は人、その人を奮い立たす誠意と覚悟。
完成を祝う乾杯の席でも葛木に本心を語る所員の言葉を過酷さをわかるが故に静かに聞き入る。
喜怒哀楽、人の想いがびしびし伝わってくる小説であった。自身の体験を俯瞰して書かれていて素晴らしい。改めて知ることばかりですごい経歴の作者だ!