新田次郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
引き締り緊張感のある文体。まるで目の前で事が展開されているような緊迫感。
まさしくこれはよく出来た短編ハードボイルド小説集。
直木賞を取った「強力伝」も良いが、思わぬ事で落とし穴に落ち、狼と相対する事になった男を描いた「おとし穴」が秀逸。二進も三進も行かない状況でも、お金の事を考える人間の性と狼との対決の緊迫感はただものではない。また、そのラストにも衝撃を受ける。
今まで新田次郎の長編作品は何作か読んできたが、短編集は初めて。もしかしたら氏の本分は短編にあるかもしれないと感じさせる作品集であった。氏の気象官としての経験も存分に発揮されている。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『単独行の加藤文太郎』と呼ばれる登山家が、どのようにして山に導かれ進んでいくのかを追った物語。
序盤の神港造船所の技術研修所に、研修生として五年間在籍している間の話は非常に面白かった。木村敏夫は影村一夫からの嫌がらせや罵倒に嫌気が差し出ていく。地図の読み方などを教えてくれた新納友明は肺結核にかかり死に、金川義助は主義者として逮捕され…。彼と共に過ごす人達は何らかの形で不幸な道を辿ってしまい、加藤は俺といない方がいいと考え、孤独に生きていく。
冒頭からずっと彼を気にかけている外山三郎の存在も大きいと思う。山岳会に入らないかと仕切りに勧めるが、加藤はそれを拒絶する。しかし、外山から本を借り