新田次郎のレビュー一覧
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再読中。武田勝頼の人生を描いた小説である。著者は『武田信玄』を前に上梓している。他にも『武田三代』などの著書もあり相当な研究を著者はされている。武田勝頼の人物像は一般的には長篠の合戦で信長と対比される非合理で猪突猛進的な武将であることが多い。
しかし、本書を読むとそのイメージはいい意味で打破される。勝頼は信玄の正嫡ではない(諏訪四郎勝頼という)ビハインドを抱えながら、信玄死後の武田の混乱に臨み、苦悩しながらも領国経営と他国との戦略に臨んだ大名であった。信玄の遺臣たちの対応(彼らの気持ちは常に信玄に向いている)に追われ、その中で自らの支配基盤を確立しようと必死にもがくその姿と、勝頼の与えられ -
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感動の野武士伝説
富士山頂への気象レーダー建設物語。
作家でもある気象庁課長が通信メーカーと一緒に一大事業を成し遂げる。名誉のため採算度外視で受注活動を繰り広げるメーカー各社。
事業は一社でやるべきと主張する気象庁課長の主人公。ドラマがそこに生まれる。
主人公の政治的圧力をも跳ね返す意志力。圧力でどうしてもメーカーに分割発注しないといけなくなったときの心、さらに逆転でそれを跳ね返して一社で工事をやり遂げた達成感。
建設会社の現場監督の言葉もいい。
工事の完成は人の数でも技術でも金の力でもなく、人の気持ちだ
完成後のパーティーで、機械予算は取ってそこで働くことになる人の -
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御館様・信玄公の突然の死により、28歳の若さで武田家の指揮をとることとなった勝頼。信玄時代の老臣たちとのジェネレーションギャップに苦しみながら、偉大な父を超え、自分の思いを遂げようとして進んでいく勝頼の姿が好意的に描かれていています。
戦国最強軍団が、脆くも内部から崩れ去っていく様子が、それぞれの心情とともに鮮明に表現されていています。老臣の意見に心ならずも流されていく勝頼に歯痒く思う場面も多いですが、勝頼の無念さが伝わってきて心が打たれます。
「なぜ、武田家は滅ばなければならなかったのか」と改めて考えさせられます。
章末には「信玄公記」や「甲陽軍艦」の引用が掲載されています。原書ではほんの -
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ネタバレ全巻のラストで文太郎が突っ伏しているシーンがあったので、新田次郎の「孤高の人」と同じく、そこで終わるのかと思いきや、再度の登攀へ向かう。やはり、そうこなくっちゃ。そして、そこから始まる登攀の描写がすごい。
カバーの折返にある作者の言葉で、
『僕は擬音を信用しなくなった。』
という記述がある。これを読んでから本巻を読むと、本当に作者が絵と、コマで音を出そうとしているのがわかる。
実際、わたしの頭にはシューベルトの『魔王』が浮かんできた。まあ、文字で書かれているし、コマのテンポはなしにして、絵を見れば誰でも連想するとは思うのだけど。